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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第二章 高橋 まこちゃん
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3 髪の長い女の子

 ウインズ名古屋で僕は万馬券を当てていた。否、当てたわけではない。初めからそうなると分かっている馬券を買っただけだった。僕は過去の総てのレース結果を知っている。スマホの中にはそのリストが入っていた。だからそのリスト通りにすれば、僕の所持金はこの世界で何百倍にもなった。


 次は身分を何とかしなければならない。十二年前の僕はこの世界で高校生として存在している。実際にその姿をこの目で確認している。しかし、それを使うには年を取っている僕には無理だ。どう見ても僕が高校生に見える筈がない。このままでは銀行口座も作れないし、借家契約も出来ない。生きていくにはあまりにも不便だった。


 ローカル鉄道の終着駅。そこの村の旅館に僕は滞在することにした。勿論彼女を探しているからだ。ここでは小学五年生の筈。村には武鎧家の旧家があって、彼女はそこの娘だろうと予測していた。


 朝靄が深い山中の村に立ち込めている。細かい水蒸気が浮かんでいるのが見える。淡い朝日が白く霞んで柔らかく辺りを包んだ。


 髪の長い女の子が広い庭の大きな槇の木の横を駆けて来る。大きな黒い門からは正面の屋敷のほかに三つの建物が見えている。いったいどれほどの敷地なのだろうかと僕は圧倒されていた。まるで武家屋敷を思わせるその門構えに続く分厚い石垣に沿って、女の子は元気良く登校して行った。


「きららちゃんの実家は随分とお金持ちだったんだなぁ」


 実家の話をしなかった彼女のことを少し知って、僕は嬉しくなった。小さな女の子は髪を両側の耳の上から毛束を作ってクリップでまとめていた。ハーフアップの髪形はこの頃からずっとしていたのだと、僕は彼女の一面を垣間見た。


『岐阜に行きたい』

『今日、神社で人形浄瑠璃をしているんですよ』

『私なんて、物心がつく前から毎年なのに』


 この世界に来る直前に彼女が言っていたこと。伝統を重んじる奥ゆかしさを僕は思い返す。なるほど彼女っぽい。こんなにも幼い頃から彼女は彼女らしくあったのだと妙に納得していた。


 小学校から下校してくる彼女を待ち伏せた。僕はこれでけりをつけるつもりでいた。


「きららちゃんと一緒に元の世界に戻ろう」


 ゼリービーンズを入れた小瓶をポケットから取り出して、僕はそれに誓った。彼女の手から貰う筈だった大切なもの。そして、僕の十二年前の記憶を証明するものだ。


 通学路で幾人もの小学生たちが通り過ぎて行く。戯れ合って走り回っている二人の男の子。手を繋いで仲良しな三人の女の子。どの顔も屈託のない笑顔が溢れている。田舎っぽく感じた彼女の原点がここにあった。


「来た!」


 赤いランドセルを背負った四人の女の子たち。一列に綺麗に並んで歩く中に、低学年も混じっていた。彼女はその先頭にいる。


「真面目なんだなぁ、きららちゃんは」


 成人しても変わらない彼女だ。人の性格なんてそうそう変わるものではない。小学生でもしっかりとした性格が嬉しく思えた。


 近付いて来る彼女。僕は道路に躍り出て待ち構えた。視線が一瞬合う僕と彼女。


「きららちゃん」


 思わず僕の声が漏れる。

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