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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第二章 高橋 まこちゃん
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2 衝撃

「ゼリービーンズ」


 革ジャンを着た無精髭の刑事から奪い取った彼女のゼリービーンズだ。これがあるということは、僕は夢を見ていたわけではないということだ。


 慌てて人形浄瑠璃が行われていた物部神社に行った。しかし、賑やかだった三味線の演奏も聞こえない。誰もいない境内で、人形舞台は闇の中にあった。すっかりと静寂に包まれている。あれほど多くの参拝者がいたのに、僕は異次元に来たような気分がした。


「場所を間違えたのか」


 電灯でしか見えないが、彼女と見た神社とは雰囲気が違っていた。それは間違いないことだ。


「こんなに古い神社じゃない。去年建て替えられたピカピカの朱塗りだった」


 ここではない。そう判断した僕は、あの神社を探す為に、もう一度照手神社に戻った。鳥居に掲げられている神額には確かに照手神社と書かれていた。


「間違いない筈なんだがな」


 土地勘はないが町をうろついていたので、この辺りに他の神社はない筈だった。それだけは確実なのが分かる。それならばこれ以上どうやって探せば良いのか。ゼリービーンズを見詰めて、僕は警察に行方不明者の捜査をしてもらおうと本気で考え始めていた。


 スマホでもう一度彼女に電話してみる。


「ネットワークが利用できません?」


 画面にそんな表示がされた。


「圏外? いやいや、ここは町の中だし、さっきも掛けていた」


 電話回線もネット回線も切れていた。SIMフリースマホを使用しているから何度かそんな経験があった。そんなときは再起動すれば復帰してくれる。


 ガタン、ゴトン、ガタン、ゴトン―――


 唐突に電車の音が聞こえた。僕は通りの正面に建つ駅に視線を向けた。もう電車に乗るつもりはない。そうするよりも車で移動するほうが利便性が高い。ローカル鉄道では運行本数が少ないので、それは仕方なく思った。


 だが、僕は衝撃を受けた。彼女がいなくなった衝撃とはまるで違う性質のもの。


「どうして駅が木造になっているんだ!」


 僕は駆け寄ってその木の壁を拳で叩いていた。彼女が鼻歌を歌っていた時、この壁はコンクリートだったのを確かに見ている。綺麗な外壁だと感じたからだった。


「駅も物部神社も何故変わってしまっているのだ」


 疑問を口にした時、僕はまたもや衝撃を受ける。


「車が・・・ない」


 駅とは道路を挟んで向かい側に駐車場があった筈だ。それが無くなっている。否、無くなっているのではなく、別のものがあった。


「いらっしゃいませ」


 ふらふらと僕が近付くとそんな言葉を掛けられた。


「まもなく閉店しますからお急ぎくださいね」


 看板が錆びて傾いている。トタン屋根も一部分穴が開いているようで廃業間近の田舎のスーパーマーケットという感じなのだろうか。そんなものが駐車場の代わりに建っていた。


「ここに駐車場が―――」


 あった筈だと店員に言いそうになった。そんな馬鹿な話が出来るものではない。常識的ではない話だ。


「あら、お客さんは知っているんですか。誰から聞いたんです。もしかしたら爺さんですかね。まったくお喋りなんだからね。まだ来年か再来年の話ですよ」


 ほほほと笑ってその人は店に引っ込んでいった。


「来年か再来年? それじゃあ、僕の車は何処に行った」


 駐車場がないのに、そこに止めた車がある筈がない。大掛かりな手品を見せられているのだろうか。僕は頭が混乱して何も思考出来なくなっている。


 用もなく店内をうろついた。何をしたら良いのか分からないから取り敢えずしているだけなのかもしれない。自分がしなくてはならないことも分からなくなっていた。


「はぁ、二〇〇八年?」


 カレンダーが店の壁に貼られていた。何故十二年も前のものを貼っているのだろうか。いきなり僕ははっとして、腕時計を必死になって操作した。


 電波時計のそいつは、液晶パネルに年月日を表示した。


 2008‐02‐14


 何ということだ。僕は十二年前にタイムスリップしていた。


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