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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第二章 高橋 まこちゃん
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1 おじさん

「大丈夫?」


 僕は、それが夢から覚ましてくれる天使の声だと思った。聞き覚えがあるようで無いように何故だか感じた。元々が子供っぽい声なのに、それをより強調的に幼い感度を高めた心証を受けたからだ。


「きららちゃん」


 頭の芯が重い。僕は開かない瞼を無理矢理に抉じ開けて、彼女の顔を見ようとした。


「無事だったんだね、きららちゃん」


 照手神社の拝殿の裏から運び出される担架を思い出した。あの時の衝撃と悲哀が今の僕に障害を与えている。そのせいで心配されているのに、なかなか倒れている姿勢を起こせずにいた。


「お水、持って来る?」

「大丈夫だよ、きららちゃん。少し休んでいれば、すぐに回復するよ」


 僕が手を差し出すと、小さな掌が包み込むように握ってくれた。だからとても安心できた。震えながらもしっかりと握ってくれている。人の肌の温もりは大いなる癒しなのだ。


 漸く視覚が戻りつつある。電灯に照らし出された白い光の中で、優しい顔が見詰め返していた。


「良かったね、おじさん。まこは安心したよ」


 おじさん?

 まこ?


「うぎゃぁっ!」


 小学生の女の子が間近で僕の顔を覗いていたので、僕は驚愕のあまりにとんでもない悲鳴を上げてしまった。この女の子を彼女と勘違いして話し掛けていたのだろうか。僕は子供相手にそんなことをしてしまって恥ずかしくなった。


「キミは?」

「まこ。まこちゃんだよ。でも、きららちゃんも可愛いから、それでいいよ」

「・・・そうだね」


 僕はまこちゃんに見惚れてしまっていた。何処となく彼女に似ている気がしたからだった。しかし、幼い女の子の表情は、大人になれば変わってしまうので判断できない。


「どうしてきららちゃんなの?」


 つぶらな瞳でまだ僕の手を握ってくれている。


「あぁ、それはだね」

「もしかすると、私がきらきらしているから」


 さも嬉しそうにまこちゃんは笑った。よほど自分に自信があるからなのか、僕が答える前に即座に受け入れていた。だから彼女と間違ったからなんてとても言えなくなった。


「おじさんはどうしてここで寝ていたの?」


 僕ははっとした。彼女を乗せていた担架は何処へ行ってしまったのか無くなっている。それどころか騒々しかった警察の気配さえもない。静かな神社の境内で、まこちゃんだけがそこにいた。


「警察がいたよね」

「警察?」


 おじさんは何を言っているの、という表情をまこちゃんはした。


「いや、いいんだ。有り難う、もう大丈夫だから」

「うん。それじゃあ、バイバイ、おじさん」

「暗いから、気を付けて帰るんだよ」

「うん、分かった」


 日が暮れた神社から出て行くのを見送った。腕時計を見ると六時半だ。僕はそれほど長い間、眠っていたわけではなかった。それならばこの一変してしまった状況は何なのだろうか。夢でも見ていたとしか思えない。


 とにかくまた彼女を探さなければならない。立ち上がった僕は、ずっと握り締めていた掌に異物を感じた。あのまこちゃんが握ってくれていた手だ。


「そんなの有り得ない」


 僕は掌の中の物を見詰めて目を疑った。有り得ないだけでは済まされない。有る筈がない。否、有ってはならないものだった。

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