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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第一章 武鎧 摩唯伽
28/95

28 二人で

 私は何だと言おうとしたのか気になった。そうしたいとでも言うつもりだったのか。そんなことを言うのは、僕が知っている彼女ではない。


「嫌とかそんなんじゃなくて、僕は男できららちゃんは女ってこと」

「そんなの当り前じゃないですか。佐藤さんは男で、私は女です」

「あのね、酔ってるよね、きららちゃんは」

「大丈夫です。私は佐藤さんを信頼してるんです。ただそれだけです」

「信頼? 僕を信用しているから?」

「はい。佐藤さんを信用していますから、私は今夜を信頼します」


 やはり彼女は彼女だった。間違いなく彼女は、しっかりと僕を見てくれている。それならば裏切りは許されない。僕は一旦落ち着こうとベッドに腰を下ろした。


 必ずこの噂は広がる筈だ。僕が本当に何もしなくても、誰がそれを信じてくれるのか。純真な彼女を誹謗中傷からは守らなければならない。


「なるほど。だから山藤はベッドを使わなかったのか」


 彼女と交代するからベッドを荒らさなかったのだ。山藤なりに気を使っていたわけだ。


「何ですか?」

「いや、いつから仕組まれていたのかなって」


 彼女はそれを知っているのか言い難そうに口籠った。


「こっちにおいで、きららちゃん。ちゃんと話そうか」


 僕は対面のベッドを指差した。彼女は素直に従ってソファーから移動する。膝を突き合わせて話をするのは職場でもしているが、宿の部屋でベッドの上となると雰囲気が違った。


 彼女の顔が赤い。それは酔っているからでもあるが、先程よりも明らかに紅潮していた。それが僕にも伝染するのを感じた。


「えーっと、きららちゃんはもしかすると共謀しているの?」

「・・・共謀」


 その言葉は悪い意味でしかない。他の四人と合意して悪事を企んだのかと、僕は尋ねる。恐らく彼女にはそのつもりはないだろうが、このことは明確にする必要がある。


「あの、この旅行はカップルで参加っていうのはお話ししましたよね」

「うん、きららちゃんはそれが旅行に参加する条件だって言った」

「実は、もう一つあって―――」


 また口籠る。それを言えば僕が怒ると思っているのだろうか。


「言ってごらん。僕はきららちゃんがすることには責任を持たなければならない」

「それは私が新入社員で、佐藤さんが教育担当者っていう立場だから」

「きららちゃんは試用期間を終えて本採用になった。だから立場は対等だよ」

「それならしっかりと叱ってくださいね。佐藤さんが努力をして一緒にやって行こうと仰ったことに、私は甘えています。だからこんなことをしてしまっても、何も反省していない」


 彼女はベッドの上で膝を抱えた。首を大きく傾げて今にも倒れ込んでしまいそうだ。


「分かった、これからはちゃんと叱ろう。僕は自分が力不足だから、きららちゃんを叱れないでいた。でも、それは違っていたんだなぁ」


 不満、動揺、後悔、反省。どのような感情が現れたのか、彼女は下唇を噛んだ。


「もう一つの条件はですね」


 彼女は僕の目を盗み見た。まるで脅える子供のような表情をする。僕はそんなに怖い顔をしているのだろうか。


「二人で同じ部屋に泊ることです」


 耳の先まで紅潮する彼女。僕には既に合点がいっている。途中で山藤に部屋を代わってくれと頼まれても、おいそれと応じるような彼女ではない筈だ。だとしたらこの四人を口封じするのは簡単だ。それで噂が立つことはない。


「しょうがない女の子だな」

「ごめんなさい」

「仕方ない。きららちゃんがそういうことなら、―――」


 僕は部屋の奥に視線を向けた。彼女も釣られてそちらを見る。何となくからかってみたくなった。


「一緒に風呂に入ろう」

「えっ!」


 思わず彼女は両手で胸元を押さえた。

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