27 部屋
「ええよ、ええよ。佐藤さんはまだ食べといてぇや。ここは女同士に任せといて」
そんなことを言われては彼女を運べない。男が酔った女性の体に触れるのは公序良俗に反する。
「じゃあ、任せるよ」
僕がそう頼むと、何故か阿部さんと香織さんは互いの顔を見合わせて失笑していた。何故だろうか。この場は笑うところではない。僕は何か失言したのかな。
「佐藤、まだ食うだろう。ホタテが焼けたぞ」
山藤も永野も笑っている。これで良いのだろうと思うことにする。心配するほどでもないのだ。明日には元気な彼女にまた会えるのだから。
それから一時間しても女性たちは戻ってこなかった。どうやらもう御馳走様なのだろう。
「俺たちも部屋に戻るか。香織が寂しがって待っているからな」
「おっ、惚気るとは癪な奴だな。僕はそれよりも、もう一度露天風呂に入りたい。バーベキューの煙で燻され過ぎた。山藤、一緒に行こうぜ」
「俺は部屋の風呂でいいや。二人で入っても結構広いぞ」
「何で僕が一緒に入らなければならない」
「ひひひっ、部屋の風呂が広いって教えてやったんだよ」
「あっそう、それはご親切に。でも、僕は露天風呂のほうがいい」
「それがそうとも限らないって。なぁ、永野」
山藤が断言して笑った。永野もにやけている。僕だけが手を振って否定していた。
「それじゃあな、佐藤」
部屋の前で山藤が言った。永野は知らん顔で香織さんとの部屋に入った。
「何処へ行く。そっちは女部屋だぞ」
「ちょっとな。お前は先に部屋に入っていてくれ」
僕も酔っ払った彼女の様子を見に行くべきか迷った。しかし、彼女がそんな姿を見られたいのかと自問する。
「そうか。あまり邪魔をするなよ」
結局は僕に勇気がないのかもしれない。彼女にどうしてあげたら良いのか分からない。だから手っ取り早く会わないという選択肢を選んだ。
山藤が女部屋に入ったのを見届けて、僕は部屋の鍵を開ける。ガチャリと重い音がする。電子ロックではない時代遅れの扉。ノスタルジックな思いが馳せた。重い扉を開けると、消して出た筈の電灯が煌々と燈っている。
!
「何故、きららちゃんがここにいるんだ」
彼女がソファーに座っている。僕は女部屋に入ったのかと一瞬戸惑う。
「頼まれていましたから、山藤さんに部屋を代わって欲しいって」
「ちょっと、それって、きららちゃん」
何を言うべきなのか、僕は頭を強打された気がした。
「この部屋にいるってことは、僕と一緒になるとは考えなかったのか」
「そっか、そうですね。そうなりますよね」
「暢気なことを言っているなよ。きららちゃんと一緒の部屋で―――」
「私は、・・・ 佐藤さんは嫌なんですか?」




