24 ヤバい写真
宿泊は敦賀市街地の民宿を予約していた。夕刻前にチェックインを済ませ、それぞれの部屋に荷物を運ぶ。部屋は二人部屋の三室。部屋割りは永野夫婦と、残り四人は男女別に分かれる。どこも海が見渡せて開放的だが、落ち着いた雰囲気がある室内だった。
夕飯前に、この宿自慢の露天風呂にゆっくりと浸かることにした。僕は肩を焼き過ぎて湯に浸かるどころではなかったが、気分は極楽そのものだった。そのせいなのか、男同士での語らいはいつもよりも口が軽くなっていて、何時しか上司への愚痴とか会社のことになっていた。
「どうしてさぁ、実験センターってあんな山奥に建てたか知ってるか?」
体を洗いながら山藤が言った。
「騒音問題解消の為だろう」
僕は永野の答えに頷いた。
「甘いなぁ、お前らは。音だけだったらあんなに離れる必要ない。真相は開発部だけの極秘なんだよ」
「何だ、それ。設計部の俺でも知らないぞ」
「開発部で何かしているのか」
「極秘実験だ」
「ほっ、そりゃあ凄い。それをお前はここで暴露しようとしている」
「誰にも言うなよ」
「お前と違って、俺たちの口は堅いぞ」
「確かにね。僕もそう断言する」
「超燃料の開発をしている。その為にあそこが建てられた」
「えっ、それじゃあ」
「そうだ。二十年前から続けられている事業だ。常に爆発の危険がある燃料開発だからな」
「おいおい、爆発を前提にしているのか」
「そういうことだな」
「菩提重工、恐るべしってことか」
のぼせないうちに僕たちは風呂を出た。しかし、女性陣は予想通り長湯で、いつになったら出て来るのか分からない。食事は個室で用意してもらっている。時間は一応伝えてあるので、それは守ってくれるだろう。
部屋に戻って連絡を待つ間、僕はスマホで競馬結果を確認した。馬券の購入はしていないが、野山係長に予想を教えていたので気になっていた。
「当たりだな。係長の奴、幾ら賭けていたのかな。三連単で配当は三万円」
早速、野山係長に電話してみる。今頃は祝い酒を飲んでいることだろう。分け前を少しせびってやろうと考えていた。
「もしもし、佐藤か」
どうしたことか係長の声に張りがなかった。
「百万は儲かったでしょう。おめでとうございます」
僕は一割は分けてやろうと言い出す言葉を今かと待った。
「済まん」
「はぁ?」
「お前の予想に掛けなかった」
「はぁ!」
「急に気が変わって、俺の予想に掛けちまった」
「馬鹿か、あんた。何度それで失敗している」
「済まん」
事切れるように電話が切れた。信じていれば今頃は億万長者になっている。そうなっていないのは、いつも野山係長が勝手なことをするからだ。だからと言って自分で賭けても、無心でなければ上手くいかないものだ。それを僕はよく知っていた。
取り敢えず競馬結果をスマホに記録する。過去からの記録を分析する為に蓄積した資料は膨大だ。これが僕の唯一の趣味だった。
ラインの受信の通知が鳴った。確認すると彼女がアルバムを作成していた。約束していた通りカメラで撮った写真を送ってくれたのだ。
「ヤバイ写真入りかな」
彼女が厭らしいと言っていた写真が気掛かりだ。拡散されるととんでもないことになる。僕は少し震える手でアルバムを確認した。




