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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第一章 武鎧 摩唯伽
11/95

11 コーヒー

「おはようございます」


 ハーフアップの髪形は昨日と変わらない。黄色調の肌に幼顔が、無垢な女子高生そのものだ。作業服を着ていなければ、誰かの家族が来ているのかと間違われていただろう。


「おはよう、きららちゃん」


 朝食を予約した食堂で、僕は皿のハムエッグを突いていた。大盛御飯が丼鉢のような茶碗で艶々と輝いて食欲をそそる。


「トレイにおかずの皿を押せて、御飯と味噌汁は自分で好きなだけ盛ってといいよ」


 彼女は他の従業員がしている行動を観察して、口を丸く尖らせた。少し不細工な顔になったが、僕は敢えて無視することにした。


「御飯ですね」


 不満そうな顔になっている。


「もしかして朝はパン派?」


 そういえばと僕は思い出した。昨日の昼食でも、コンビニでも、彼女はコーヒーを選んでいた。しかもブラックだった。変な取り合わせだ。女子高生とブラックコーヒー。


「いいえ、私の朝はいつも和食ですよ」


 何かと僕の予想を裏切ってくれている。わざと彼女はそうしているのだろうか。それはやはり嫌われているからなのか。僕はまたもや不安になった。


 考えまい、考えまい。


「そうかそうか。でも、きららちゃんはブラックコーヒーが好きみたいだから、僕はてっきりね」


 彼女は突然大きな口を開けて、それを両手で隠した。すぐに困った表情に変えて狼狽えている。


「そうですよね。女の子ならカフェオレだろうってことですよね」

「いやいや、そうじゃなくて」


 彼女がそういうことで狼狽していたのかと楽しくなった。そんな些細なことを気にしているのかと可愛く思えた。嗜好なんて人それぞれだ。気にする必要なんてないのにと慰めてあげようか。


「食後のコーヒーなら飲めるからね」


 何の慰めにもなっていないなと、僕は自分の薄情さを呪った。


 漸く彼女はトレイに朝食を載せて、僕の前の席に落ち着いた。ハムエッグと野菜サラダ。豆腐とわかめの味噌汁。納豆のパック。そして、大きな茶碗の御飯。彼女は口角を上げて、いただきますと両手を合わせた。


「あれ?」

「何ですか?」

「御飯はそれだけでいいの?」


 あっ、ハラスメントだったかな。学習能力がない僕。いつか訴えられるかもしれない。


「これでも多いくらいですよ。佐藤さんはさすが男の人だって量ですね」


 わははっと彼女は豪快に笑った。どうやら彼女には不快感はなかったらしい。しかし、僕は彼女がそんな笑い方もするのかと不思議な気分になった。


「ちょっと食べ過ぎだよね。でも今日と明日は泊りになるから、ずっとここの食事だけで間食はしない」

「えっ、明日もですか」

「昨日そう言ったでしょ」

「聞いてませんよ」

「あれ?」

「何ですか?」

「言ってなかったっけ」

「はい、一言も言ってませんでしたよ」


 特に気にする様子もなく、彼女は食事を始めた。どうやら僕という人間を理解したのだろう。いい加減な男だと思われている。しかし、それは僕の自業自得だ。


「美味しいですね。私って、御飯だけでも食べられるんですよ。でも、おかずがいっぱいあるから嬉しいです。朝から栄養満点!」


 首をすくめて笑う。いろいろな表情を見せてくれる。僕はその一割でも感情表現が出来ているのだろうか。親からは何を考えているのか分からない息子だと言われて育ってきた。男だから仕方がないものなのかと呆れられていて、僕はそれを大して考えずにこの歳まで生きてきた。


 彼女は背筋を伸ばして茶碗を掌いっぱいに持っている。女性用が必要なんだと、この時になって初めて気付く僕は気が利かない男と言うことなのだ。


「佐藤さん。これからの予定って、どうなっているんですか?」


 言っていないと指摘されても、まだ伝えようとしない僕に痺れを切らせたのだろう。彼女は質問をした。僕は隠しているわけではない。食事中の彼女に気を遣ってしまっていたからだ。仕事の話をするのは控えていた。しかし、それは余計なことでしかなかった。


「昼までに機械をばらした後、使えそうなものを仕分けたいと思っているけれど、全部交換かもしれないね。明日中に新しい部品を組み立てて機械に取り付ける。明後日には動作確認をして終了かな」

「うぅ」


 聞いている間、彼女は食事を止めていた。口元を固く結んで、僕には彼女が何を考えているのか想像できなかった。硬い表情は他人に気持ちが伝わらない。僕は自分のことを差し置いて、彼女にそんなことを感じてしまっていた。


 二人とも食事を終えて、コーヒーを飲んでくつろいでいる。彼女も仕事に行く準備は出来ていて、部屋に戻る必要もないらしい。時折携えているノートを開ていては何かを書き込んでいた。

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