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ゼリービーンズをあげる  作者: Bunjin
第一章 武鎧 摩唯伽
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1 強そうな名前

 日本を代表する企業に菩提樹グループがある。重工業・商業・銀行を主幹として、傘下に多数の企業が続く。それを表しているのが商標で、三つの木が融合し太い幹を形成して、そこから大きく伸びる枝に多数の葉が繁茂するというものである。その勢力が日本の国内総生産の一割を占める強大さには驚愕させられる。


 菩提樹重工業株式会社。通称、菩提重工。本社は東京丸の内で、職種はエネルギー、航空、宇宙開発、船舶、海洋交通システム、物流・運搬、環境装置、自動車、産業機械、インフラ設備、生活・レジャー、防衛とありとあらゆる分野に広がる。



 僕、佐藤博基【さとう ひろき】は、社会人五年目の二十六才。一人暮らしの独身。京大工学部で物理工学を学んだ。成績はあまり自慢するものではなかったが、この菩提重工に就職できたのは唯一の自慢になった。しかも、航空・宇宙開発製造部門の所属だ。愛知県春日井市の名古屋空港に隣接する本工場で、日々航空機開発の製造と組立業務に勤しんでいた。


 工作機械の操作には漸く慣れた。ターニングセンタやマシニングセンタを操って、試作の航空機部品を製作するのが目下のところ僕の業務だった。それが終わればロケット開発が待っている。これでも頼りにされているようで充実した毎日を送っていた。


「園田課長、例の部品は今日中に仕上がりそうです。フランジの耐圧性も基準値以上あります」


 上司への報連相は極めて重要だ。納期は明日だったが、早く出来てしまって予定が狂うこともある。そんなことも心得ていなければ、この巨大企業では生き残れない。


「そうか。佐藤君は優秀だな」


 上司に褒められるのは悪くない。僕は胸を張りながらやる気を見せる。成績が上がれば昇給も期待できるだろう。


「あぁ、丁度良い。紹介しておこう」


 園田課長は背後に従えていた女性社員に視線を向けた。それに応じて彼女は俯き加減に僕との面識を得る。


「先程、人事部の教育期間を終えて配属された新入社員だ」


 怯えた目をする子犬のようだ。髪をハーフアップにして束ねているだけで、化粧っ気もない。まるで田舎から出てきた高校生の印象を持った。


「ぶがいまいかです」


 ぺこりとお辞儀をしてくれたが、僕にはそれが自己紹介だとは気付かなかった。意味が分からずにキョトンとしていると、園田課長が横槍を入れた。


「おいおい、君も自己紹介しろよ。明日から彼女の教育担当者として宜しく頼む」

「えっ、教育?」

「そうだ。佐藤君は優秀だから、やってくれるよな」


 園田課長がばしりと僕の肩を叩いた。これは命令だということだ。


「えーっと、佐藤です」


 突然の事態に眉間に皺を寄せている僕に、彼女は身を固くしている様子だった。


「武鎧 摩唯伽【ぶがい まいか】です。どうぞ宜しくご指導ください」


 彼女は改めて自己紹介をしてくれた。僕が彼女の名前を認識していないと見透かしていたのかもしれない。けれども僕は二度も聞いていて、まだ認識なんてできていない。


「えーっと、ぶがいまいか?」

「はい」


 僕のような反応をする人間には慣れているのだろう。彼女は名札を示して、もう一度言った。


「武鎧摩唯伽です」


 僕は強そうな名前だなって叫びそうになった。何と珍しい名前なのだろうか。


 武鎧?

 摩唯伽?


 それに引き換え、僕は佐藤博基。何とありふれているのだろうか。嫌になるくらいだ。


「明日の朝礼で課員らに紹介する。君も明日は予定が空いたわけだし、何でも教えてやってくれ」


 がははと豪快に笑いながら、園田課長は彼女を連れて事務室に戻って行った。

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