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駄文庫  作者: 水無月 黒
9/57

フラグの話

 「この戦いが終わったら結婚するんだ。」

 この台詞が「死亡フラグ」と呼ばれるようになって久しいです。

 ところで、何故「死亡フラグ」と呼ぶのか、ご存じでしょうか?


 「死亡フラグ」のような呼び方が始まったのは、おそらくはパソコン上のゲームからです。裏は取っていませんが。

 アドベンチャーゲームなど、シナリオ重視でマルチシナリオのゲームでは、特定の条件を満たした場合にのみ見られるストーリーというものが存在します。

 ゲームの場合、条件というのはプレイヤーが操作するキャラクターが特定の行動を行った場合、あるいはパラメータ等が一定の値に達した場合などになります。

 その特定の条件を満たした時、あるいは特別なシナリオが始まった時に、「フラグが立った」のように表現していたのです。

 そこから転じて、ストーリーが固定の創作物に対しても、登場人物がその先の展開が予測できるよくあるパターンの行動を取った時に、「○○フラグ」のように呼ぶようになりました。


 ここで使用される「フラグ」という言葉は、プログラミングの用語です。プログラムを作る際、何かの状態を表す変数を「フラグ」と呼びます。

 パソコンの黎明期において、パソコンを購入する人はほぼ全員自分でプログラムを組んでいました。市販されているソフトは少なく、インターネットも普及していない時代ではフリーソフトの入手も限られていました。まだそれなりに高価だったパソコンは、プログラムを自作する気のない人には手を出し難いもので手した。

 パソコン上でゲームを作る人と、ゲームをプレイする人は近い関係にありました。つまり、ゲームをしていてもその裏で動いているプログラムについて多少は見当が付いたのです。だから、ゲーム内で特定の条件が整った=プログラム内のどこかで「フラグが立った」と表現したのです。

 この、プログラム用語としてのフラグという言葉の歴史は古いです。状態を表すフラグと呼ばれる変数を用いてプログラムの処理の流れを制御するという考え方は、プログラム言語に依存しない汎用的な手法です。

 プログラム言語だけではなく、CPU自体にもフラグレジスタというものが存在しています。コンピューターのマシン語レベルで状態を表すフラグを参照してプログラムを制御しているのです。


 さて、プログラミングの用語にもなっているフラグですが、何故フラグ=旗が状態を表す用語になっているのでしょうか?

 答えは簡単で、元々(フラグ)は情報を伝達したり状況を周知したりするために使用されていたからです。

 無線通信のような便利な通信手段がない時代には、離れた場所に素早く情報を送ることは困難でした。

 近い距離ならば音を使用することができます。声が届くなら直接言葉で伝えることもできますし、大きな音の出る楽器の類で合図を送る場合もあります。

 しかし、ある程度距離が離れて来ると音よりも光、つまり視覚を利用した通信手段の方が有利になります。狼煙(のろし)等が有名ですが、遠距離に合図を送るには、遠くからでも見て分かるものを利用するのが一番だったのです。

 (フラグ)もまた、視覚を使用して情報を発信する手段の一つです。障害物があったり、暗い夜には見えないという弱点がありますが、高く掲げた(フラグ)はかなり遠くからでも目視することができます。

 特に(フラグ)が威力を発揮するのは、洋上でしょう。海の上は障害物がないので、遠くからでも船影は確認できます。船の一番高いマストの天辺に旗を掲げてどこの船なのかを示すのです。

 他にも、戦争で攻め落とした城や砦に自国の(フラグ)を立てるのは、戦いに勝利しその場所を占領したことを周囲に示す為です。まさに勝利フラグなのです。


 話を最初に戻します。「この戦いが終わったら結婚するんだ。」が何故死亡フラグになるのか?

 結婚することと死亡することに因果関係はありません。あったら人類滅びます。

 つまるところ、物語を作る上で定番の流れになっているから、その台詞が出た時点で先の展開が読めるということなのです。

 この死亡フラグについては、何故多用されてきたのかは見当が付きます。

 物語の中では、話を盛り上げるために人が死ぬ演出をすることがよくあります。上手く話を作れば、戦争の悲惨さ、敵の強大さ、あるいは冷酷無慈悲な様を強調することができます。

 しかし、名もない一兵卒が戦死してもインパクトに欠ける可能性があります。下手をするとその他大勢の戦死者の一人になってしまい、「戦争で敵味方大勢死んでいるのに、何故主人公はたまたま目の前で死んだ味方一人にこだわるのか?」みたいなことになってしまいます。

 かといって、物語や主人公に深くかかわる重要人物を殺してしまうことも難しいのです。確かに死ぬことのインパクトは大きいでしょうが、その後のストーリーに対する影響も大きくなります。「この部分を少し盛り上げたいから」というだけの理由で殺すわけにもいきません。

 そこでよく使用される手法が、死ぬ少し前に主人公と知り合い、仲良くなるというものです。

 唐突に登場し、なんとなく仲良くなって、いきなり死ぬ。短期間とは言え主人公と仲良くなっているのでその他大勢の一人ではなく、登場する期間が短いので物語全体に与える影響も最小で済みます。

 そして、「結婚する」という台詞は、順当にいけば幸せになれるはずだったということで、その死の悲劇性を強調することができます。

 このように、「結婚」という分かり易い幸せな未来を提示しておいて、戦死という最悪の結果に突き落とす。この落差によって迂闊に感情移入していた読者の心を揺さぶるのです。

 それなり効果があって、しかも単品のエピソードとして気軽に挿入できる、ということでこの手法はよく使われるのでしょう。

 だから、この死亡フラグで死ぬ人は、突然登場した名もなき一兵卒や一般人のはずです。少なくとも物語的には重要でない人物が対象です。

 まあ、最近は死亡フラグの話が一般化し過ぎて、わざと主要な人物に言わせたり、パターンを外してみたりすることも多いようですが。


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