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駄文庫  作者: 水無月 黒
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略し過ぎ

「いいね」ありがとうございました。

 世の中には、たくさんの略語があります。

 新しい商品の名前を考える際に、「アルファベット三文字以下の名前は商標登録で弾かれるから使えない」と聞いたことがあります。

 アルファベット三文字くらいの略称は世に溢れています。

 それも、国際機関の名称とか、何らかの規格とか、商品名として一企業が独占するのが憚られるようなものがたくさんあります。

 Twitterが「X」に名前が変わったと聞いた時には、個人的には「アルファベット一文字の名称が許されるのか!?」と、そこに一番驚きました。


 数多くの略語略称が作られると、そこに問題が発生することもあります。

 例えば、「マクドナルド」の略称として、「マック」と「マクド」の二種類あります。

 関東と関西でどちらを使うかが分かれると聞きましたが、公式の略称が決められている場合でなければ正解はありません。

 略語の作り方には幾つか種類があります。

 オーソドックスなのは、長い名称の先頭の何文字かを取って残りを切り捨てる。

 単語毎に頭の一~二文字を取って繋げる。

 先頭と終わりの何文字かを取って繋げる。

 ゴロの良い言葉になるように、文字を選んで拾い上げる。

 同じ対象でも複数の略し方があるので、知らなければ分からないこともあります。

 自然発生的に生まれた略語ならそこまで分かり難いことはあまりないのですが、一部のコミュニティーで爆発的に広まった奇妙な略語のような場合は、説明されなければ分からないこともあります。

 最近のやたらと長い小説のタイトルに対して略称が用意されていることがよくありますが、略称から元のタイトルが想像もつかないことも多いです。

「まおゆう」が『魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」』の略称だって知らなければ分からないでしょう。


 余談ですが、ネットスラングで「お前が言うな」を略して「おまゆう」という表現があります。

 私は一瞬「おまゆう」が「まおゆう」に見えて、「え、何か関係あるの?」と思ったことがあります。


 また、「その略し方はどうか?」と思うような略語も存在します。

 昔、作家の京極夏彦さんが「携帯電話」を「ケータイ」と略すことに憤慨していました。

 携帯電話は電話を携帯できることが新規性であり重要な特徴だったことは間違いありません。

 けれども、いくら携帯性が重要だからと言って、電話機能の部分を落としてしまったら何も残りません。

 携帯できる物は他にもいくらでもあります。

 その点、「スマホ」は電話を表す「ホン(phone)」の部分がギリギリ残っているのでセーフでしょう。

 しかし、このような重要な部分を省く表現は今に始まったことではありません。

 懐中時計を「懐中」と呼んでいた時代がありました。

 昔の時計は基本的に据え置き型です。大きさの問題だけでなく、機械式時計を動作させたまま移動できるように作ることが難しかったのだと思います。

 有線が基本で固定するしかなかった電話を持ち運べるようにした「携帯電話」と同様に、懐に入れて持ち運べる「懐中時計」は画期的だったのでしょう。

 懐中に忍ばせて持ち運べる物は色々とあるのに、「懐中」と言えば懐中時計を指す言葉になりました。

 その後、さらに小型化した腕時計が普及したために略語としての「懐中」も廃れたのでしょう。

 また、「ソーイングマシン」の「マシン」の部分がなまって「ミシン」という名称が出来上がりました。

 略称ではありませんが、語源となる言葉の一部が抜き出されて名称として定着しています。

 しかし、よりによって「裁縫(ソーイング)」の部分を落として、「機械(マシン)」の部分を名前としてしまいました。

 これでは何の機械だか分かりません。

 昔の人は英語をよく理解していなかったのでしょうが、誰か指摘する人はいなかったのでしょうか?

 他には、懐石料理を「懐石」と略す……これは「懐に温かい石を抱えることで空腹を紛らわした」という語源から考えると「懐石」で正しいようです。


 最近の例では、「ギガが減る」みたいな表現が凄く変で気になります。

 ここで言う「ギガ」は、データ通信におけるデータ量を示す「ギガバイト(GB)」の略でしょう。

「ギガ(G)」は単位の前に付ける接頭語で、10の9乗、10億を表します。

 接頭語だけで肝心の単位を省くのはちょっと変な感じですが、この略し方は割と一般的に使われています。

「体重が○○キロ(キログラムの略)」「時速××キロ(キロメートルの略)」のように、文脈から対象がはっきりしている場合は単位を省くことはよくあります。

 日本でお金の話をする際に「100万」と書けば百万円の事と通じるようなものです。

 ただし、「ギガが減る」「ギガ無制限」といった表現は、単位を略しただけでは説明のつかないおかしな言い回しなのです。

 これが、「月10ギガまで定額」だったら「時速30キロ」等と同じ言い回しですが、「ギガ」そのものをデータ容量の意味で使うのは明らかに変です。体重が増えることを「キロが増える」とか、速度を落とすことを「キロを落とす」と表現するようなものです。

 CMでは視聴者の印象に残るようにあえて変な言い回しをすることがありますが、それを一般的な表現にしてしまうのは問題があると思います。

 技術が進歩してデータ容量がテラバイト(TB)が当たり前になったら、「テラが減る」と言うのでしょうか? それとも「ギガを無制限」と言い続けるのでしょうか?


 さて、略語・略称でもう一つ問題になることは、略した言葉が重複する(ダブる)ことです。

 例えば「WBC」と書くと何のことだと思いますか?

 今なら多くの人が野球(World Baseball Classic)を思い浮かべるでしょう。

 けれど、ボクシングの組織にもWBC(World Boxing Council)が存在します。

 同じスポーツジャンルでも被るのです。

 また、仮面ライダーオーズが放送されていた当時、Twitterにハッシュタグ「#OOO」をつけてつぶやくことを推奨していたそうですが、そのずっと以前から「#ooo」をOpenOffice.orgの話題を示すものとして利用していたそうです。

 Twitterのハッシュタグはアルファベットの大文字と小文字を区別しないので両者は同じハッシュタグとして扱われます。

 海外でOpenOffice(ExcelとかWordのデータを扱うオープンソースのソフトウエア)について語り合っているところに、突然日本の特撮ファンのツイートが乱入して少なからず混乱したそうです。

 他にも、USBメモリーのことを「USB」と略す人がいます。USB(Universal Serial Bus)はシリアルバスの規格の一つで、USBで接続する機器はメモリー以外にもたくさんあります。

 また、ハードディスクを「ハード」と略す人もいました。「ハード」はIT業界ではハードウエアの略として「ソフト」と対で使われてきました。

 知らない略語や別の言葉と音が重なってしまう略語でも、文脈から意味が通じる場合は多いです。

 野球の話をしている最中に「WBC」をボクシングの組織と受け取る人はまずいないでしょう。

 しかし、略称が通じないこと、別の意味で受け取られる可能性があることは頭の隅にでも入れておいて欲しいのです。

 コンピューター関連の話題の中で「ハードが壊れた」「ハードを買い替える」などと言った場合、私なら「ハードディスク」ではなく「ハードウエア」の意味で受け取ります。

 ハードディスクの本体は「ディスク」の部分にあると言う意味も含めて、「ハード」と略すのはやめて欲しいところです。

 文脈のできる前の話の冒頭や、文脈とあまり関係の無いところで出てきた略語等は意味が分からなかったり、どちらの意味か判別できなかったりすることもあります。

 世の中には「自分がこう思って言っているのだから、同じように受け取らない相手がおかしい」みたいな発想をする人もいます。

 また、狭い範囲でしか交流を持たないような人の場合、普段自分の使っている言葉が通じない場合があることに気付かないこともあります。

 これは略語に限らず、方言、業界用語、専門用語、流行語(地域や世代限定のものも結構ある)など意外と通じない場合のある言葉は存在します。

 たまには普段使っている言葉が何の略かとか、知らない人に対してどう説明すれば分かってもらえるかなど考えてみると良いと思うのです。

 私は小説を書くようになってから、「この言葉の正確な意味は何か」「この言い回しをこの場面で使って問題ないか」等、気になって調べることが増えました。

 語源とか、本来の意味合いとか、普段何気なく使っていても意外と分かっていなかったことがあったりして面白いです。


 略したことが問題というわけではないのですが、何の略かを勘違いしている場合もあります。

 昔、「FAQ」を「F&Q」と書いている人を見たことがあります。

 たぶん、「Q&A」とごっちゃになったのだと思いますが、「FAQ」の「A」は「AND」ではありません。

「Frequently Asked Question」が「FAQ」の語源で「繰り返し尋ねられる質問」という意味です。

 他にも、メールの返信などの件名の部分に着く「Re:」を「レスポンス(response)」の略として「レス」と読んでいる人はいませんか?

 この「Re: ~~」は「~~について」という意味の言葉で、件名で示される内容に関連していることを表しています。responseでもreplyでもrefrainでもありませんし、略語でもありません。

 電子メールの他にもNetNewsや電子掲示板(BBS)などでも、返信に対してデフォルトで件名に「Re:」が付くことが多いです。

 そこに、返信のことを「レス」と呼ぶ風潮が合わさって「Re:」を「レス」と読む人が現れたのだと思います。

 ところで、なぜ返信のことを「レス」と呼ぶようになったのでしょうか?

 返信は英語でreplyです。responseは反応とか応答の意味で、ちょっとニュアンスが違います。

 少し気になっていたのですが、その理由らしきものを見つけました。

 インターネットが普及する前、パソコン通信が主流だった時代がありました。

 パソコン通信では文字の送受信しかできません。

 GUI環境もないので、ホスト(サーバー)を操作するためにコマンドを入力します。

 そのパソコン通信で使われていたコマンドの一覧を見たことがあります。

 BBSやフォーラムにメッセージを登録するときに使用するコマンドが「send」、省略形で「se」でもOK。

 登録されたメッセージに対して返信やコメントを付ける時のコマンドが「resend」、省略形が「res」でした。

(ホスト側のシステムによってコマンドは変わりますが、当時最大手の一角だったNifty-Serveのコマンドなので一般的と言えるでしょう)

 つまり、パソコン通信で返信するコマンドが「res」だから返信することを「resする」と言うようになった。

 そして、返信のことを「レス」と言う呼び方が定着し、パソコン通信が下火になった後も残ったのではないかと思うのです。

 本来の意味が失われた後に「レス」という言葉だけが残ると、手持ちの知識だけでその意味を考えます。

 すると、「response」というちょうど手頃な単語があります。音と意味が合っていれば、英語ネイティブでない者に多少のニュアンスの違いは分かりません。

 こうして新たに「response」の略としての「レス」が、「reply」が納まるべき場所に居座ることになったのではないでしょうか。


 最後に、私がこれまで意味が分からなかった印象深い略語を二つ上げます。


・KY

 この言葉の流行り始めた最初の頃には私は触れる機会が無かったのだと思います。

 いつの間にか流行っていて、私が最初に目にした時には、

「私はいわゆるKYですが……」

 といった感じで枕詞のように使われ、本文に何の影響も与えない言葉でした。

 これでは文脈から判断することは不可能です。

 それでも流行っているようだからそのうち意味の分かる文章を見にすることもあるだろう、と思っていたのですがなかなか文脈にかかわる「KY」に巡り会いませんでした。

 仕方がないので、調べてみました。

「空気を読めない」または「空気を読め」


 そんなの、分かるか!!


 誤変換系のネットスラング「空気嫁」の方がまだ分かります。

 そう言えば「KY」に関してはこんな陰謀論(たぶん冗談)を見かけたことがあります。


「KY」と言う言葉が流行るよりも前に話題になったやらせ報道事件――

 南の海で珊瑚に落書きされていたという報道記事がスタッフによる捏造だったという事件。

 その時珊瑚に彫られていた落書きの文字が「K・Y」だった。

――を世間が忘れ去るように、別の「KY」を流行らせて印象を上書きしようとした。


 何となく説得力を感じてしまいました。

 まあ、捏造事件が発生したのが1989年で、「KY」の流行が2007年あたりらしいのでちょっと間が空き過ぎていますが。

 なお、今「KY」を検索すると、「危険予知活動」として「KY活動」が出てきます。


・インスコ

 インストールの事です。

 調べるまでも無く、文脈から分かります。

 でも納得していません。


「コ」はどこから出てきたんだよ!!


 語源も調べてみましたけれど、諸説あってはっきりしません。

・インストール→インストロール→インストコール→インスコ

 インストロールまでは「コントロール」と混じったのかな、と思うのですが、「ロ」を「コ」と見間違えたり書き間違えたりするのは不自然に思えます。

・インストール→インストゥール→インストコール→インスコ

 これは、「ゥ」をローマ字入力する時の「lu」を打ち間違えて「ko」になったという話です。

 確かに「l」と「k」はキーボード上で隣ですが、「u」と「o」は間に「i」を挟み、しかもずれる方向ぎ逆です。たぶん、後付けで作られた説明でしょう。

・インストール→インスコール→インスコ

 だから、「コ」はどこから出てきた!


 正解を聞いても、たぶん他の俗説と区別できません。

 おそらく言葉遊びから生まれた、略語というよりも造語なのでしょう。

 語源を知っても意味は無いのかもしれません。

 ただ、元の言葉を知っているとどうにも気になってしまうのです。


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