青春は青い春ではない
「いいね」ありがとうございました。
昔、こんなことを言う人がいました。
「だって俺達青春時代なんだから云々」とグダグタ言う若者に対して、
「青春がどうした! 青い春の次には本当の春が来るんだぞ」と一喝してやった。
細かいことは憶えていませんが、だいたいこんな感じの話でした。
年寄の昔話(自慢話)にも聞こえますが、良い話ではあった思います。
良い話だとは思うのですが、これ、間違っています。
青春は青い春ではないし、青春の後に本当の春など来ません。
青と言う色には「若い」「幼い」と言うイメージがあります。
「尻が青い」と言うと蒙古斑の事だと思いますが、それ以外でも「若い」「幼い」転じて「未熟」であることを表すときに「青い」と表現します。
たぶん中国辺りで発祥したイメージだと思うのですが、全世界共通ではありません。
英語でblueは「愁い」とか「陰鬱」になります。
余談ですが、本来は日本で「若い」ことを表す色は「緑」だったのではないかと思うのです。
「若葉萌ゆる新緑」の「緑」です。
そこに中国から「若い」ことをイメージする色として「青」が入って来たことで「青」と「緑」が同一視されるようになったのではないでしょうか?
日本では「青」と「緑」を区別していません。緑色を含めて「青」と表現します。
明らかに違う色なのに不思議に思ったことはありませんか? 「青信号」はどう見ても緑色です。
その理由として、「若い」と言うイメージを通して「緑」が「青」に吸収されてしまったのではないかと考えました。
裏は取っていないので単なる妄想ですが。
「青春」と言う言葉は五行説に由来します。
五行説とは古代中国の思想で、日本にも入ってきています。
安倍晴明で有名な「陰陽師」はこの五行説と、同じく古代中国の思想である易経の陰陽説を合体させた「陰陽五行説」を基本思想とします。
五行説は、様々なものを五つに分類する考え方です。
赤青黄色の三原色に白と黒を合わせた五色を五行の色。
東西南北の四方に中央を加えた五行の方位。
他にも、甘い、辛い、酸っぱい、しょっぱい、苦い、の五味。
五臓六腑の五臓(心臓、肺臓、肝臓、腎臓、脾臓)。
五感とか五徳とか五穀とか、昔から様々なものを五つに分けて並べています。
中でも有名なのが五行の元素でしょう。
一週間の日月を除いた五つの曜日、火、水、木、金、土を五行の元素と呼びます。
なお、日(太陽)は陽の象徴、月(太陰)は陰の象徴であり、合わせて陰陽五行が完成します。
元々暦には六曜を用いていた日本が、西洋の暦に合わせて七日で一週間を表すためにこの七曜を当てはめたのでしょう。
日本では色々と工夫していましたが、中国では安直に星期一~星期七と番号で表しています(日曜日だけ星期日とも書きます)。
五行の元素は西洋的な四大元素とは異なり、相生相克と言った面白い性質があります。
最近ではゲームや物語の設定などに使われることもあり、聞いたことのある人も多いでしょう。
様々なものを五つに分類する五行ですが、分けて終わりではありません。それぞれがグループを作ります。
・方位は東、色は青、元素は木
これらは一つのグループになります。同様に、
・方位は南、色は赤、元素は火
・方位は西、色は白、元素は金
・方位は北、色は黒、元素は水
・方位は中央、色は黄、元素は土
こんな感じで、五つのグループに分類した様々なものをまとめます。
四神と呼ばれる四方を守護する霊獣も、その色と方位が五行説に対応しています。
東の青竜。
南の朱雀。(朱は赤の事です)
西の白虎。
北の玄武。(玄は黒の事です)
四神の守護する中央に座するのは、中国の伝説上の君主である黄帝でしょう。
この五行の分類に季節も含まれます。
・方位は東、色は青、元素は木、季節は春
・方位は南、色は赤、元素は火、季節は夏
・方位は西、色は白、元素は金、季節は秋
・方位は北、色は黒、元素は水、季節は冬
四季は四つしかないので一つ足りないように思いますが、五つ目の季節は四季の各季節に分散して配置されています。
その五つ目の季節が、「土用」です。
・方位は中央、色は黄、元素は土、季節は土用
平賀源内の作ったとされるキャッチコピーによって、丑の日にウナギを食べることで有名になった「土用」ですが、土用は夏だけでなく春夏秋冬全ての季節にあります。
ここで注意して欲しいのは、季節の春と色の青が同じグループにいることです。
これが「青春」の語源です。
青春は「青い春」、春の中の青い(若い)部分ではありません。
春は青であり、青は春なのです。
「青春」の次に来るのは「朱夏」であり、その次は「白秋」、その次は「玄冬」と続きます。
さて、人の人生を季節で例えることがあります。
生まれてから子供の時分を「春」。
成人して若さと体力でガンガン働く頃を「夏」。
体力よりも技術と経験で働く中堅どころを「秋」。
第一線を退き後進の育成をしたり隠居したりする「冬」。
一つの季節は十五年です。
昔十五歳で元服したのはこれが理由です。十五年経つと子供時代である春が終わって成人します。
六十歳で季節が一巡して還暦となり、もう一度春に戻ります。
青春が終わった後に本当の春がやって来るとすれば、それは還暦を過ぎた後の第二の春と言うことになります。
まあ、二度目の春でも春である以上は青春なのですけど。
春は命の芽吹く季節です。
冬の間に休眠状態だった生命が活動を再開し、新たな命が誕生します。
人生の始まりを春で例えるのは妥当でしょう。
青春とは、未成年の事です。
十五歳で成人なので、今よりも若い範囲でしょう。
「青」の持つ「若い」「幼い」と言うイメージは、本来「春」の持つイメージだったはずてす。
それが五行説の中で「春」と「青」がセットになったために「春」の持つイメージが「青」に移ったのだと思います。
つまり、「青」→「青春」→「春」→「若い」という連想です。
だから、「青春」を「青い春」と解釈するのは、「春の春」と言っているようなものなのです。
「青」=「若い」のイメージが「尻が青い」の蒙古斑から来ているのならば、「春」とは独立して「青」に「若い」という意味がついて、「青春」=「若い春」解釈ができなくもない気がします。
しかし、人生における「春」は十五歳までです。本来の意味で言えば、高校生はもう「青春」が終わった後なのです。
十五歳までの「春」のさらに若い部分となると、小学生以下、下手をすれば幼稚園児以下です。
「青春時代だから云々」とか言い出すのは、第二反抗期――思春期以降でしょう。つまり、中学生か高校生当たり。
「若い春」と言える時期はもう終わっていて、「本当の春」の既に後半か、「夏」に突入している可能性があります。
冒頭の話で言う「本当の春」とは「夏」と勘違いしているのか、それともやっぱり「第二の春」のことを指しているのかもしれません。
昔、陰陽師の活躍するアニメを見たことがあります。
夢枕獏さんではなく、「妖怪退治を生業とする現代の陰陽師」みたいな話だったと思います。
その作中、陰陽師の総本山的な場所だったと思うのですが、火水木金土の五行の元素の文字が五角形の角に配置する形で書かれていた図がありました。
それは良いのですが、問題は各文字の背景に塗られていた色。
「水」のところには水色、「金」には黄色(たぶん金色)。
五行の色ではなく、漢字から連想する色を塗ってしまったようです。
「五行説を勉強してから出直して来い!」と内心つっこんでしまいました。
「水」は黒で、「金」は白です。
「火」が赤はまず間違えないのですがね。




