魔女裁判
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魔女裁判。
魔女狩り。
とても恐ろしいものです。
ある日突然異端審問官がやって来て、連れ去られた後は拷問にかけられ無理やり魔女であると自白させられる。
一度疑われたら逃れる術はなく、拷問で死ぬか死刑になるか。
けれども、魔女狩りの本当の恐ろしさは、国とか教会とかが何らかの根拠や目的を持った上で魔女と決めつけて特定個人を捕まえるのではなく、民衆の側からとにかく誰でもいいから魔女を捕まえて殺せというパニック状態になることだと思うのです。
国や教会と言った権力を持った存在が凶行に出る場合は、目を付けられないように目立った行動を控えていればやり過ごせる可能性はあります。
しかし、無理やりにでも悪人を作り出して裁こうとする民衆の暴走状態では何が起こるか分かったものではありません。
私は魔女狩りの恐怖は、吸血鬼の恐怖と似ているのではないかと思うのです。
吸血鬼は伝染病の恐怖から生まれた怪物だと思います。
血を吸う化け物の伝承は、洋の東西を問わずそれほど珍しいものではありません。
吸血鬼の特徴は、吸血鬼に血を吸われた者もまた吸血鬼になるという、感染性にあります。
伝染病、特に致死率の高い感染症が大流行すると、小さな村落は消滅する恐れがあります。
村人全員が病死しなくても、働き手の多くが病に倒れたりその介護に手を取られ足りすれば、村を維持することも難しくなります。
だから、恐ろしい伝染病は、普段馴染みのないものなのです。
その馴染みのない伝染病が入って来ると、見たことのない不思議な症状を発して死ぬことになります。
この時点でかなり不気味なわけですが、それだけでは終わりません。
同じ症状で病死する人が次々と現れることになります。
それはまるで最初に病死した人が次々と仲間を増やしているかのようです。
病死した人は血の気を失ったように青白い顔をしていることもあるでしょう。
血を吸い仲間を増やす吸血鬼伝説の出来上がりです。
吸血鬼の弱点には伝染病の予防に関連しそうなものがあります。
太陽光……強力な殺菌作用があります。
ニンニク……これも殺菌・抗菌作用があります。
流れる水……淀んだ水は雑菌の温床ですが、流れる水は汚れや細菌を洗い流し清潔に保つ効果があります。
十字架等はキリスト教の影響でしょう。聖なるシンボルが土着の邪悪な存在を祓うという後付けの弱点だと思います。
もしくは、小説や映画によって吸血鬼を有名にしたドラキュラ伯爵の功績でしょう。
ドラキュラ伯爵は吸血鬼の伝承をベースに、串刺し公と呼ばれたヴラド3世をモデルに作られた小説のキャラクターです。
この「ドラキュラ」という名前はドラゴンに由来します。
ヴラド3世の父親、ヴラド2世は竜騎士団に所属していたためドラクル(ドラゴン公)と呼ばれていました。
ドラゴン公の子供という意味でヴラド3世はドラキュラ公と呼ばれていたそうです。これが吸血鬼ドラキュラの名前の由来でしょう。
しかし、キリスト教ではドラゴンは悪魔と同一視することが多く、「ドラゴン公の子」が「悪魔の子」扱いになってしまったようです。
その流れで悪魔扱いされることになったドラキュラ伯爵は、悪魔祓いのように十字架や聖書の言葉でもって撃退されることになったのでしょう。
さて、伝染病は患者と接触のある人間に感染して行きます。
このため、吸血鬼が生前親しかった家族や友人を次々と仲間に引き入れているように見えるのです。
同じようなことが、魔女狩りでも起こります。
魔女裁判は容疑者を自白に追い込んでそれで終わりではありません。
自白によって魔女であることを認めさせた後は、仲間の魔女の存在を告発させます。
もちろん自分が魔女であるという自白も拷問で強制された嘘であり、仲間の魔女などいませんが、言わなければ拷問が続行されます。
嘘の自白をするくらいの心が折れていて、庇うべき仲間など最初からいないのだから遠慮する必要はありません。
しかし、嘘の告発をするにしても、知らない人の名前を挙げることはできません。
必然的に、交流のある身近な人が魔女の仲間として名前が上がることになります。
名前の挙がった人間は、当然魔女の疑いで捕まり、拷問を受けた上でまた別の人間を魔女として告発することになります。
一人の人間が複数の名前を挙げれば、ネズミ算式に魔女の人数が増えて行くことになるのです。
吸血鬼が近親者を襲って次々と仲間を増やすのと同じように、魔女も交流のある者を次々と魔女の仲間に引き込んで行くのです。
魔女狩りで魔女として槍玉に挙げられるのは社会的弱者だといいます。
昔は女性の社会的地位は低く、その中でも特に社会的に弱い立場の者――例えば身寄りのない老婆とか――が魔女に仕立て上げられます。
しかし、一度魔女狩りが始まると、始めた人々の思惑を越えて犠牲者が広がっていくこともあるのです。
魔女と言いつつも、男性が魔女として処刑されることもありますし、地位や身分の高い人物でも魔女扱いされて掴まることもあります。
気に食わない相手を魔女に仕立て上げたら、廻り廻って自分も魔女として火炙りにされたなどと言うことも起こりえるのです。
魔女狩りというと、教会が主導して異端の魔女を狩り尽すイメージがあるかもしれませんが、必ずしも教会が積極的に魔女狩りを行ったとは限りません。
吸血鬼を恐れて墓を掘り起こして遺体に杭を打ち込んで行くように、魔女を恐れて少しでも疑わしい人間は片端から捕まえて行く状況はある種の社会的なパニック状態です。
教会でも政府でも、支配者側の人間は制御不能な社会的混乱を望みません。
魔女狩りの極端な騒動は閉鎖的な地域社会で起こることが多く、教会の上の方や政府が介入して騒動を鎮静化させることもあったようです。
もちろん、教会の中にも積極的に魔女狩りを行おうという思想を持った者もいます。
15世紀頃に異端審問官のハインリヒ・クラーマーという人がいて、「魔女に与える鉄槌」という本を書いたのだそうです。
この本がその後の魔女狩りのテキストになっているそうで、特に女性に的を絞って異端や悪徳に堕ちやすいとする女性蔑視の強い内容だそうです。
この話を聞いて、私はふと思いました。
この人、絶対にむっつりスケベだ!
たぶん、すごく真面目な人なのでしょう。
聖職者として清く正しいあろうとしているのに、女性を見ると心を乱される。
正しい自分の心が掻き乱されるのは、女性が誘惑しているからであり、聖職者を誘惑する女性は悪魔の手先である。
そんな感じに思い込んでしまったのではないでしょうか。
日本語で、「魔女」と訳されるほどに、異端の怪しげな魔術の使い手と女性が結びついたのはこの人が始まりでしょう。
それほど徹底的に女性を悪しざまに扱うのは、それだけ女性に感心があることの裏返しでしょう。
しかし、押し隠したスケベ心はどこかに噴出するものです。
ある意味、魔女裁判はエロいのです。
例えば、魔女には体のどこかに悪魔との契約のしるしがあるとされています。
つまり、美女(とは限らないけど)を素っ裸にひん剥いて体の隅から隅まで舐め回すように調べるのです。
エロいでしょ?
元々女性の地位の低い時代のことだし、別室で女性だけで体を確認するといった配慮は行われなかっただろうと思うのですよ。
他にもエロい要素は幾つもあります。
日本のエロゲーで鍛えられた紳士諸兄ならば理解できるはず!
まず、魔女は悪魔と性的な儀式を行うことでなると云われています。
はい、性的な儀式という時点でいきなりエロです。
本来善良な一般人であるはずの美女(もきっといる)を性行為で支配して悪魔に従う魔女にする。つまり、これはNTRです。
悪魔は山羊の頭や蝙蝠の翼を持っていたりと異形の姿で描かれます。つまり、獣姦あるいは異種姦です。
悪魔の集会で複数の魔女が誕生するということは、乱交でもあります。
一方、捕まえた魔女を拷問して自白させる行為は、悪魔に支配された美女(だったらいいな)をこちら側に取り戻す行為として解釈されます。
つまり、悪魔からのNTRです。
ついでに、SM要素もあります。
エロい視点で見れば、魔女裁判だってとてもエロいのです。
「本当はエロかった魔女裁判」
実際に無実の罪で拷問を受けたり処刑された人がいることを考えると少々不謹慎ではありますが、そんなタイトルの本があっても不思議はない気がします。




