DXってなあに?
最近、DX(Digital Transformation)とかデジタル化とか言った言葉をよく聞きます。政府にもデジタル庁ができて、日本もこれからどんどんデジタル化とかDXとかを推進すると言っています。
しかしDXとかデジタル化と言った言葉を、本当に意味が解って使っているのかと思うことがあります。
例えば、新しくて便利で良いものを「デジタル」、古くて不便で悪いものを「アナログ」みたいなニュアンスで使っている人、たまにいませんか?
アナログとアナクロを混同して、アナクロ(時代錯誤)の逆くらいの意味で「デジタル」を使っていたりしませんか?
そもそも、「デジタル」「アナログ」と言う言葉で一般の人になじみが深かったのは時計の表示だったはずです。針の位置から時刻を読み取るのが「アナログ」、時刻が直接数字で表示されるのが「デジタル」です。
同じように考えると、各種グラフ表示を駆使して分かり易くまとめた資料は「アナログ」表示、大量のデータを数値としてそのまま表にまとめた資料は「デジタル」表示と言うことができます。
細かい数値が大量に並んでいて分かり難い資料に対して「こんなアナログな資料を作るんじゃない!」とか、カラフルなグラフ表示を駆使した資料を見て「これがデジタルだ!」とか言い出す人がいるんじゃないかとちょっと心配です。
この手の用語はよく分からないまま周りが使っているからこんな意味だろう、で使い続けていると全然別の意味に変化してしまうこともあるので注意が必要です。
正直私はこの「デジタル化」という用語はあまり上手い言葉ではないと思っています。デジタルデータを活用することは確かなのですが、デジタルであることは本質でも目的でもありません。
デジタルとは、整数などのように一つ一つ区別して数えることのできる離散的な数値で表現されることを示します。
アナログは、離散していない連続的な量で表現することを示します。
デジタルとアナログの違いは、離散値か連続量かの違いでしかありません。
ただ、現在デジタルコンピュータが発達しているため、コンピュータで情報処理をしようと思ったらアナログデータもデジタルデータに変換して取り込む必要があります。
言葉の意味だけから言えば、この「アナログ量」を「デジタル値」に変換する操作をデジタル化と言うことができます。
しかし、例えば紙の書類をスキャンしてPDFにしたり、音声や音楽をMP3で記録したりして、これで「デジタル化した!」とか言ったらバカにされることでしょう。逆に、「よし、よくやった。これでわが社のデジタル化もばっちりだ!」とか言われたらその人はデジタル化を分かっていないし、そんなことがまかり通る会社は危ないと思います。
本当に重要なことは、デジタル化したデータをどう活用し、何を為すかということです。
その下準備というか前提条件でしかない「デジタル化」という言葉で、その後の重要な部分までまとめて表現してしまうのは凄く紛らわしいと思うのです。
まあ、だからと言って何と言えばいいのか、良い言葉が思いつかないのですが。
誰かデジタル化に代わるピッタリな用語を思いついたら広めてみませんか?
実のところ、単純にデジタルが優れていてアナログが劣っているというわけではないのです。それぞれに特徴があって、向き不向きがあります。
情報量で言えば、デジタルよりもアナログの方が多いのです。アナログ量をデジタル値に変換する際には必ず情報の欠落が発生します。
NHKの4K8Kを強調する番組の中で、幕末から明治頃に撮影された写真のガラス湿板を8Kモニターで細部まで拡大して表示するというものがありました。
いくら高精細な4K8Kでも、元の写真に写っていないものは表示できません。つまり、150年前の銀塩写真というアナログで記録されたガラス原板には、最新の8Kモニターと同等以上の情報量を持っていたのです。
一時期デジタルカメラでは画素数を増加させる競争が行われていましたが、数十万画素程度のデジタルカメラでは、使い捨てのおもちゃのようなフィルムカメラよりも画質で劣っていました。
また状況にもよりますが、アナログの方がデジタルよりも処理が速いことが多いのです。
コンピューターというとデジタルコンピューターを思い浮かべることがほとんどでしょうが、実はアナログコンピューターというものも存在しました。
電子部品に詳しい人ならばオペアンプというものを聞いたことがあるでしょう。オペアンプ(operational amplifier)というものは演算を行うことのできる増幅器です。回路を組むことで加減算だけでなく微分積分なども計算できます。
アナログコンピューターは電子回路の物理的な特性を利用して計算しているので、信号を入力すれば即答えが出ます。ハードウエアで計算するため、デジタルコンピュータよりも速いのです。
地上波デジタル放送が始まった時、アナログ放送に比べてデジタル放送がワンテンポ遅れて表示される様子を見たことのある人もいると思います。同じ地上波なのに差が出るのは、受信後にデジタルで計算するのに時間がかかるためです。
一方で、デジタルが強い分野は、まず元から整数のような離散値に対する計算を行う場合です。
お金の計算などでは、メーターを見てだいたいいくらくらいという結果では駄目で、一円単位で正確な金額を出す必要がある場合が多いです。
また、汎用性の高さもデジタルの優位となりました。アナログコンピューターの場合、処理の内容は回路で決まってしまいます。言ってみれば配線がプログラムであり、物理的に配線を変えなければ別の処理はできません。
対してデジタルコンピューターではプログラムもまたデジタルデータで記述することができるようになりました。このためデジタルコンピューターは物理的には同じ回路のままで異なる処理を行えるようになりました。
全く同じ装置でありながら、全く異なる計算、データ処理に利用できるという利便性がデジタルの利用を推し進めました。同じ回路を複数の用途で利用できるということは、量産して単価を下げることができます。
そして、アナログと比べても誤差の範囲で済ませられるほどにデジタルの情報量を増やし、また処理速度が非常に高速化されたことでそれまでのアナログで行われてきたことをデジタルで置き換えるようになりました。
ところで、デジタル化とかDXとか言っていますが、細かく見ると似ているようで微妙に違う言葉が存在しているようです。
・デジタイゼーション(dagitization)
デジタル技術を使用して既存の業務を効率化する。
・デジタライゼーション(dagitalization)
デジタル技術を使用して、製品やサービスの付加価値を高める。
・デジタルトランスフォーメーション(DX:digital transformation)
デジタル技術を使用して、業務のやり方や会社組織まで含めて抜本的に改革する。
適当に検索した結果から独断と偏見で一言にまとめたので、あまり正確な定義とは言えないかもしれません。人によって言うことが違う可能性もあります。
似たような言葉の上に、ちゃんと考えて訳語を作らないと日本語では全部「デジタル化」になってしまいそうなところが悩ましいところです。
例えば、小さな会社が「わが社もデジタル化をやるぞ!」と言い出した場合、IT系の企業でもない限りは、まずは既存の業務を効率化するデジタイゼーションを試すことになるでしょう。
特に企業のデジタル化に補助金を出すような制度ができると、とりあえず補助金をもらってちょっとITで効率化をやってみてそれで終わり、という事例が山ほどできるのではないかと思います。
しかし、ちょっと考えてみてください。デジタル技術を利用して業務を効率化すること自体はずっと前から行われてきていることです。
OAとはOffice Automation。主に電子機器を使用して事務作業を効率化することです。アナログ技術を用いた物もありましたが、パソコンが職場に入るようになったのは前世紀のことです。
デジタルによる業務の効率化は、軽く三十年以上の歴史があるのです。
いまさらデジタル技術で業務の効率化などと言い出すのは、これまでどれだけさぼっていたのか? という話になります。
もちろん技術の進歩によってできることが増えた面もありますが、業務の効率化というものは継続的に検討を続けるものです。世間のはやりの乗って安易に最新機器を導入してもあまり上手くいかないのではないかと思います。
次のデジタライゼーションですが、商品にデジタル技術を使用する試みも前世紀から行われています。
例えば、CDが発売されたのは1982年のことです。音声をデジタルで記録するCDは単にレコードを小さくしただけではなく、取り扱いを簡単にして利便性を大きく向上し、またレコードでは考えられなかった持ち歩きながらの再生やカーステレオでの使用など利用方法を広げました。その結果アナログのレコードを駆逐しています。
デジタルカメラが発売されたのは1986年、電子炊飯器にマイコンを搭載したのが1979年だそうです。
こちらも軽く三十年以上の歴史があります。デジタル技術を組み込んだ製品は既にありふれています。
炊飯器なんてもう「マイコン搭載」は当たり前になって売り文句にさえなっていません。自動車も半導体部品が不足して作れなくなるくらいに電子化されています。
実は商品にデジタル技術を組み合わせたと言うだけでは、今ではもう新しくもなんともないのです。
昨今デジタル化が叫ばれ、結構歴史があるはずのデジタイゼーション・デジタライゼーションも見直されるようになった背景には、デジタル機器が小型化高性能化したことと、ネットワーク環境の普及と発展があったからでしょう。
クラウドを利用すれば専用のサーバーを購入する必要が無いから初期費用が安くなり、小さな企業でも社内システムを導入することができます。
自社内のシステムだけではなく、取引先の他社ともネットワークで直接連携できれば事務作業の効率はさらに上がります。
製品単体にデジタル機器を埋め込むだけでなく、デジタル機器を組み込んだ家電製品をネットワークに繋げるIoTによってできることの幅が広がりました。
IT業界などは、物を売る、ソフトウエアやシステムを売る、サービスを売る、ソリューション(問題解決)を提供する等主力となる商品を変遷させて行っています。
しかし、使用する技術や製品が変わっても基本的な仕事の仕方はそれほど変わりません。
例えば、営業が契約書類を持って自社と取引先の会社を往復していたものが、タブレットPCを持ち歩いてその場で契約内容を入力して本社に送信して契約成立となったとします。
仕事の効率は上がったでしょうが、取引先に行って商談を取って来るという営業の仕事の本質は変わっていません。
このあたり、劇的に変わるのは次のDXになります。
DXでは仕事のやり方、組織の在り方、ビジネスモデル、ひいては消費者側のライフスタイルまで抜本的に変わる可能性があります。
例えば、DXの例としてよく挙げられるものにUberがあります。
日本ではUber Eatsの方が有名かも知れませんが、Uberは最初は配車サービスから始まっています。
アメリカでタクシー会社を倒産に追い込んだと言われるUberですが、Uber自身はタクシー会社ではありません。
Uberがやっていることは、言ってみれば有料ヒッチハイクのマッチングサービスです。
利用者はスマホのアプリでどこからどこまで行きたいかを指定して配車を依頼します。するとUberに登録しているドライバーにその情報が伝わり、その依頼を引き受けたドライバーが車でその客の元に向かいます。
ポイントは、ドライバーはUberの社員ではないし、人を乗せる車両もUberの資産ではありません。独立請負事業者としてのドライバーに車で移動したい客を斡旋して手数料を取る部分がUberの事業内容です。
なお、Uberのドライバーは運転免許と車を持っている(車はレンタカーもあり)一般人なので、日本でやると白タク行為となって違法です。このため日本ではUberの配車サービスは行われていません。
Uberのシステムは、利用者からの配車の依頼をドライバーに伝え、決済を行う。また、ドライバーや利用者の評価を蓄積し、問題のあるドライバーや乗客を排除する事も行っています。
これらの業務のほとんどをインターネットを介したデジタル処理で行い、Uber自身は配送用の車両を持たずに配車業務を行い、タクシー会社を倒産させるほどの実績を上げたわけです。
デジタル技術を駆使して、それまでのタクシー業界とは全く異なるビジネスモデルを確立したからこそUberはDXの成功例とみなされます。
しかし、Uberはデジタル技術を売りにしたわけでも、デジタルに拘って意地でも全部デジタルにしたから成功したわけではありません。
駅や空港のタクシー乗り場で並ばなくても、いつでもどこでもスマホ一つで車を呼べ、持ち合わせが無くても電子決済で済ませられる利用者にとっての利便性。タクシー会社に勤めてタクシーの運転手を専業で行うつもりはないけれども、ちょっとくらい副業をしたいと考えているドライバー側の要望。
それぞれのニーズが上手いことマッチした結果の成功です。デジタル技術を利用したのは、目的を達するためにちょうどいいツールがそこにあったからにすぎません。
そもそも何のためにDXが必要なのか?
経済産業省の「DX推進ガイドライン」ではDXを次のように定義しています。
「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
私の独断と偏見で短くまとめると、DXの目的は「世の中の変化が激しいから、売れそうな新商品や新しい商売を急いでジャンジャン作って行こう」と言ったところです。
今あるニーズに十年二十年とかけて凄い技術を開発していたら間に合わないから、売れそうならばさっさと新製品や新サービスを作れ、儲かりそうならば前例のない商売もどんどん始めろ。そういう企業の風土や体制を作れ。さもないと時代に取り残されて他国の企業との競争に勝てないぞ!
みたいな感じでしょうか。
何故デジタル技術なのかというと、現在ちょっと組み合わせるだけで新しい製品やサービス、ビジネスモデルを作れるような素材があちこちに転がっているからです。
Uberの例で考えてみましょう。
もしもUberがスマホで呼べるだけの普通のタクシー会社として起業したならば、まず客を乗せる車両と運転するドライバーを確保する必要があります。サービスエリアを広げ、先行する他社との競争に勝つには相当な資本を投入する必要があるでしょう。
しかし、実際にUberが投資したのは利用者とドライバーを結び付けるシステムの開発です。
Uberが行っていることは、ちょっと見方を変えるとネットオークションなどの個人間の売買を仲介するシステムと大差ありません。
出品者の代わりに車で移動したい利用者がいて、購入者の代わりに乗客を乗せても良いドライバーがいます。お金の流れは逆ですが。
利用者とドライバーの合意が取れてサービスの提供が終わったら(利用者を目的地まで送り届けたら)代金の支払いも仲介して手数料を徴収する。
利用者とドライバーの評価を入力して、問題のある利用者やドライバーが分かるようにする。
これらの機能もネットオークションとかフリーマーケット等のシステムでもあるでしょう。
Uber独自の部分はアプリで現在位置と目的地を入力する部分でしょうが、これも地図アプリやカーナビなどで行われていることです。
結局は既存の技術やシステムを流用し少し手直しするだけで、Uberのシステムは作れるのです。
DXがもてはやされる理由は、このように既存の技術やサービスを組み合わせたり流用したりちょっと修正して使うだけで新しい製品やサービスが出来上がる手軽さにあります。
ニーズがあり対応方法を思いついたら即アイデアを形にして商売を始める、という点が重要です。
独自技術に固執して、何年も研究開発に時間をかけていたら、有り物を組み合わせてさっさと新商売を始めた他社にシェアを取られて競争に負けてしまう。
日本は過去、パソコンでも携帯電話でも独自路線で結局海外勢に押しきれらた経験がありますから、DXに乗り遅れるとまた世界的に主流となる事業に後れを取ってしまうのではないかという懸念から、国としてもDXに力を入れようとしているのだと思います。
日本でDXの推進は上手くいくでしょうか?
私は日本でのDX推進の失敗パターンとして二種類を考えています。
一つは、部分的に電子化して業務を効率化し、仕事のやり方は何も変えないままそれで満足してしまうパターン。ハンコを電子化してデジタル化終わり、みたいな感じです。
下手をすると流行っているから、国が推進しているからという理由で試しに形だけやってみて、ろくに使わずに旧来のやり方に戻ってしまうなんてこともあるかもしれません。
それ、DXじゃなくてただのデジタイゼーションだろう! と突っ込んであげてください。
もう一つは、即利益の出るビジネスばかりを行おうとする場合。とりあえず何かやれと無理やりアイデアを出させて、一年くらい続けて利益がでないから撤退、と終わってしまうパターンです。
スタートアップの成功率は7%程度だそうです。さらに20年後まで生き延びるベンチャー企業は0.3%しかないそうです。
DXへの投資はそのほとんどが失敗する覚悟で行わなければなりません。そして、たとえ成功しても長続きしないものがほとんどです。
これまで消えて行ったGoogleのサービスの数を憶えていますか?
本気でDXを推進するならば、何度失敗しても投資を続ける必要があります。そして、失敗しても何度でも再挑戦できる社会でなければなりません。
DXに挑戦してスタートアップ企業を立ち上げたけど、失敗して倒産。失敗したから新たな投資は得られず、再就職もままならず、後は非正規やフリーターとして細々と生きて行くしかない。
そんな末路が待っているとしたら、誰もDXに挑戦したいとは思わなくなるでしょう。
大企業がDX部門を新設して新しい事業を始めたとしても、一つ二つ失敗して撤退したら同じことです。
特に大企業の場合、仕事の進め方が旧態依然としていたら失敗するでしょう。現場の人間はともかく、事務処理などで手間取っていたら世の中の変化に素早く対応などできません。
身軽に動けるスタートアップ企業やベンチャー企業にガンガン投資して、いつ潰れるか分からない小さな会社でも安心して働けるようにすることが重要です。この辺り、今の日本で上手くいくか不安があります。
DXの先進国であるアメリカではプロジェクト毎に人を集めるようなことも普通に行われ、実力ある技術者は業界を渡り歩くような人材の流動性があります。
一方日本では非正規雇用は賃金も安くいつ切られるか分からない不安定な働き方であり、転職を繰り返してキャリアアップするような人はまだまだ少数です。
今の日本は昔ながらの終身雇用で社員を大切に育てる文化と実力主義が変な具合に混ざって、非正規雇用者を切り捨てて正規社員を守っている状態なのではないかと思います。
この状況を何とかしないと、DXに挑戦して新たなビジネスを立ち上げる能力と気概を持った人は海外に出て行ってしまうのではないでしょうか。
それから、デジタル人材の育成などと言う話もよく聞きますが、これも下手をすれば失敗します。
プログラミング教育とかデータサイエンティストの育成なども重要ではありますが、DXに必要な人材はデジタル技術に詳しい起業家です。
デジタル技術を使って何ができるか? で終わるのではなく、そこからどうやって収益を上げるかが重要になります。
新しいビジネスモデルを構築するのは大変です。そしてちゃんと利益が出ることを投資家に納得させることが第一関門になります。
システム開発のプログラミングなどはどんどん海外に出している昨今、ただ仕様通りのプログラムを作れるプログラマーを育成しても大した需要は無いかも知れません。
最後に、DXビジネスが成功したとして、DXばかり盛んになって果たしてそれで良いのか? という問題もあると思うのです。
もちろんDXのような考え方は必要でしょう。既に世の中にあるものを再び独自開発するのは無駄ですし、せっかく良いアイデアを思いついても日本国内では相手にされず、海外で実用化されて日本に逆輸入とかなったら悔しいでしょう。
日本の企業は前例のない全く新しいビジネスを始めるのが苦手なイメージがあるので、国が後押しするくらいやらなければならないのかもしれません。
しかし、このDXの推進は目先の利益、すぐに成果の出るビジネスに注視して、時間のかかる研究開発や将来のための基礎研究、十年後二十年後を見据えた長期戦略を疎かにすることにはならないでしょうか?
新型コロナウイルスのワクチンが国内で開発されなかった背景には、日本の研究開発力そのものが低下しているためと言われています。この現状を放置していれば、日本の技術力はどんどん低下していきます。
それから、在り物を組み合わせて作られるDXのサービスは、他社のシステムに依存することも多いです。
DXの場合、他のシステムのプログラムコードを流用するだけでなく、他社のシステムと直接連携していることも珍しくありません。
例えば、銀行やクレジットカード会社などのシステムと直接連携して決済するようなことは以前からよく行われています。
DXでは複数の会社のシステムを必要な部分だけ組み合わせてサービスを構築することもあり得ます。サービスの中核部分以外は専門に行っている他社のシステムに任せるという方法です。
しかし、この方法では他社のシステムが停止すると、自社のサービスも影響を受けます。
銀行などのシステムがメンテナンスで停止して、ネットショップの決済ができなかったと言う経験のある人もいるでしょう。
これが複数のシステムと連携していると、どこか一箇所でも他社システムで問題が発生すると自社のサービスにも様々な影響が出ます。
例えばGoogleマップが突然サービスを終了したらどうなるでしょう?
地図を表示するサイトやアプリの多くで地図が表示されなくなって困ることになるでしょう。他の地図サービスに移行するにしても即座にはできません。
さすがにGoogleマップがいきなりサービス停止はないでしょうが、Googleのビジネスモデルは主に広告収入なので利用者が多くてもサービスが終了する可能性はあります。
DXが盛んになって様々なサービスが複雑に相互連携しながら乱立するようになると、一つのサービスが終了しただけで複数のサービスが連鎖的に不具合を起こすような事態にならないかちょっと心配です。
例えば、小さなスタートアップ企業がちょっとしたサービスを開始したとします。
サービスを構成する機能のうち、その企業が自作した部分にちょっと便利なものがあったので、いくつかの別のサービスが連携してその機能を利用しました。
しばらくは順調に利益を上げていましたが、何年かして利益が出なくなり、スタートアップ企業は解散、行われていたサービスはいきなり停止します。
すると、まずサービスを利用していた人が困ります。サービスを終了するくらいだから利用者は少なくなっているでしょうが、最後まで使っていた人は別のサービスを探すなどしなければなりません。
次に、サービスを構成する機能を利用している他のサービスに支障が出ます。DXにおけるシステムの連携はサービス間を行き来するだけでなく、サービスに必要な処理の一部を他システムに丸投げする場合もあります。
つまり、一つのサービスが止まると、影響を受けて別のサービスも停止する可能性があります。場合によっては連鎖的に次々とサービスが止まるかも知れません。
止まったサービスによっては日常生活に支障が出かねません。
例えばGoogleマップが停止→Uberのアプリが使えなくなる→タクシーが撤退した地域では移動に不自由することになる、といった事態が考えられます。
UberのアプリがGoogleマップを使っているかは知りませんが、自前で世界各国の地図を用意しているということはないでしょう。
もちろん、社会的に影響の大きいサービスは簡単に止まらないようにしっかりと配慮されているでしょう。けれども、様々なサービスやビジネスが乱立して複雑怪奇になって行くと、全てのシステムの依存関係を把握することが困難になってきます。
他社のサービスが停止した場合に備えて、別会社の複数のシステムに連携先を切り替えるようにしていたら、全て同じサービスに依存していてまとめて停止したなどと言うことも起こり得ます。
DXをガンガン推進して行って、複雑怪奇な社会システムが出来上がれば、一度くらいは日常生活に支障の出るような大事故が起こるのではないかと思っています。




