津波対策に関する一考察
東日本大震災から十年経ちました。
あの震災は多くの教訓を残しました。その一つが、津波の恐ろしさでしょう。
防潮堤を乗り越えて来る想定外の巨大津波に対しては、避難する他に手はありません。防潮堤を過信せずに、津波の恐れがある場合は即座に避難する必要があるとあらためと思い知らせれました。
津波から逃れるために行われるのは、高所避難が基本です。
津波の届かない高台があればその上に。
高台にまで距離がある場合は、津波避難タワーを建築してその上に。
津波避難タワーの数が間に合わないようならば、地震や津波に耐えられる高いビルを開放して、その上の方の階に。
このような感じで、津波被害が予想される地域では、避難場所を確保したり、避難経路を確認したりと対策が進んでいるかと思います。
けれども、ここでふと思ったのです。高所避難の他に方法はないのだろうか?
高い所に避難する代わりに、地下に潜って避難するなんてどうだろうか?
すみません、ほんの出来心です。なんでも逆転の発想をやればよいものではないことくらいわかっています。
しかし、よくよく考えてみると、そこまで悪い案ではないような気がしてきました。
高所避難には共通する弱点があります。それは、高い所まで登らなければならないということです。
津波が発生するのは大きな地震の後なので、自動車が使えない可能性があります。建物の場合は、エレベーターが止まっているでしょう。
だから、高い場所までは自分の足で登って行く必要があります。十メートルの津波が襲ってくるのならば、十メートル以上登る必要があるのです。
体力のある若者ならばともかく、病人、怪我人、足の弱いお年寄にはかなり辛いでしょう。
また、避難場所までの移動距離も問題になる場合があります。
高台までに距離がある場合は津波避難タワーを建築するわけですが、地震や津波に耐えるためにしっかりした物を作らなければなりません。それなりの広さの土地が必要です。
津波避難タワー不足を補うための高くて丈夫な建物も都合よくあるとは限りません。
想定される津波が来るまでの時間で避難が完了できるようにどうにか避難所を整備できても、あまりギリギリの見積だと震災で道路が一本使えなくなっただけで避難が間に合わない人が続出することになりかねません。
さて、ここで地下への避難という方法を考えると、高所避難の問題点がかなり解決します。
まず、避難所まで登る必要が無いので楽です。地下に降るのならばスロープでもつけておけば車椅子でも降りられます。地下深く潜る必要もないので、降りる深さも地下一階分あれば十分でしょう。
地下への入口だけならばそれほど場所を取らないので、数を作ることができます。少なくとも津波避難タワーよりもたくさん作れるでしょう。
数が多ければ、その分多くの人にとって避難場所が近くにできることになります。
もちろん、メリットがあればデメリットもあります。
まず、地下の場合、穴が開いていたら水が入ってきます。地上より低い場所にいるのだから当然です。大量の水が入ってきたら逃げ場がありません。
設計上は浸水しないようになっていても、地震で破損したり歪んで閉まるところがちゃんと閉まらなかったりすると浸水する危険があります。
次に、地下に退避して津波をやり過ごしたとしても、出入口が塞がれてしまうと閉じ込められてしまいます。
津波が去った後にもしばらく水が残る場合や、流されてきた瓦礫や倒壊した建物などに塞がれる可能性があります。
個人用の小型の地下シェルターに避難した場合は、そのまま生き埋めになる危険性が高いです。
しかし、デメリットがあるのならば、そのデメリットを減らす対策をしてやれば、メリットの方が活きて来るのではないでしょうか。
そんなわけで、対策を考えてみました。
まずは浸水対策です。津波対策なのでこれは避けて通れません。
設計上は大きな地震にも耐え、出入口をしっかりと閉めれば完全に浸水を防げる地下避難所もできるでしょう。しかし、有事の際に設計通りに機能するとは限りません。
想定外の事態と言っても、さすがに天井に大穴が開いて水が流れ込んでくる事態までは考えなくてよいでしょう。それは津波避難タワーが地震で倒壊するくらいの異常事態です。
しかし、出入口が完全に閉まらずに水が入って来ることくらいは想定しておくべきでしょう。出入口に異常はなくても、ものが挟まってドアが閉まらないとか、単純に閉め忘れたとかはあり得ます。
対策は単純で、浸水を防ぐ扉を複数用意すればよいのです。
地上の出入口から地下の避難所の間に水を防ぐ扉を複数用意しておき、浸水があったら自動的に閉まるようにしておきます。
水圧や浮力で自動的に扉が閉まる仕組みにしておけば、地震で停電になったとしても動作してくれるでしょう。一箇所でも扉が閉まれば、避難所への浸水は防ぐことができます。
次に、出入口が塞がって閉じ込められる問題ですが、これも出入口を複数用意すればよいのです。
離れた位置に複数の出入口を用意しておけば、全てが塞がって出られなくなるリスクは減ります。可能ならば、津波の影響を受けない高台にまで通路を伸ばして出入口を作っておけば完璧です。
浸水して塞がった通路も、避難場所のさらに下に貯水用の空間を作っておけば、ポンプで汲み上げることなく排水できます。
要するに、個人向けの小さなシェルターでは不安が多いけれど、大規模にして様々な対策を施して行けばリスクは低減できます。
それでも残る問題としては、水が来る前に扉を閉める必要があるため、高所避難に比べて避難のリミットが多少早まることでしょう。入口をたくさん作って避難場所までの距離が縮まることで相殺できると良いのですが。
そして、大きいのはコストの問題でしょう。ものにもよるでしょうが、おそらく津波避難タワーよりも建築費は高くなるでしょう。
そこで考えたのですが、地下を津波の時の避難場所としてだけ使用するのではなく、普段から地下街として使えばよいのではないかということです。
津波発生時の避難先としか使えないのなら高くつくとしても、平時から有効利用できるのならば経済的にも作りやすくなるのではないでしょうか。
もしくは、既にある地下街に耐震防水の改修を行い避難所として使用できるようにするという方法もあるかもしれません。
日常から便利に利用していても、防水扉に物を置いて動かなくするとか、避難通路を塞いで通れなくするようなバカな真似をしなければ問題はないと思います。
店舗などが入っていれば、備蓄した物資以外にも被災者の役に立つものが置かれている状況になるでしょう。
いかがでしょうか、津波対策として地下に避難することが少しは現実的に思えたでしょうか?
実際に作ろうと思うと、技術的な問題や運用上の課題なども色々と出て来るでしょう。浸水を防いだうえで換気をどうするかとか、停電になった時の光源の問題とか、地下で火災が発生すると逃げ場がないのでその対策とか。
ただ、最初は自分でも荒唐無稽な話だと思っていたものが、考えているうちに妙に現実味を帯びて行ったのが面白かったです。
到来する津波が高いほど地下避難のメリットが増します。予測される津波の高さによっては真剣に検討する価値があるのではないでしょうか。
この文章を書いてから調べてみたのですが、高知県で地下に一時退避する津波避難シェルターが既に作られているそうです。地下というより、崖下に掘ったトンネルの入り口を防水扉でふさぐような感じです。
同じようなことを考える人はいたみたいです。
なお、「津波避難シェルター」で検索すると、水に浮かぶ小型の救命ポッドみたいなものがたくさん引っかかるようです。




