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Art Ranger  作者: なすとだるま
第弐章 正義の戦い
8/10

第柒話 融合

激アツだぞ、これは。

 新・野望編。

 魔王は痺れを切らしたのだった。つまり「みんな殺すぞ」ということになった。


 なぜか。

 

 全てが思い通りにならなかったからである。合成されているとは言え人間、しかもバグっているともなれば、まともな思考の出来る状態ではない。


 まず彼は近くにあった悪魔に巨大化のコードを打ち込み、これをヒーロー本部に輸送した。時限式巨大化悪魔、初の試みである。ネメジスの裏ルートで届けられたこのプレゼントは魔王直営の秘密部隊“番外隊”によって所定の位置まで届けられた。


 きっかり5時間後、悪魔はロンドンの郊外で30mほどの大きさになる。緊急出動命令が出るとレイナ、キヌガサ、アーシュラがこれに急行。あとからジャックが来る頃にはずたずたの肉雑巾が転がるのみであった。


 あり、たりなかったのか


 コードをすこし組み替えて、貴族体悪魔の一人を呼びつける。作るのには苦労した個体だから、しっかり働いてほしいものだと思う。


   ♦♦♦


 中華人民共和国新疆ウイグル自治区トンファン市高昌区 交河故城。

 出現した悪魔は史上最大の60m。この数字は高さに関する値で、黒々とした身体の全長はは160m、人型の上半身には4本の腕と頭に1本の大きい角。目はない。ムカデのような下半身が大地を這った跡は元の形を保った物は無かった。

 3時間前に出現した超巨大悪魔の放った熱線は大陸全土をなめるように焼き尽くした。出現30分後に中国政府は軍による攻撃を実行したが効果は認められなかった。1時間後、各国政府は次々と非常事態宣言を発令。再び火器による攻撃後、核兵器使用も効果無し。ネメジスに対して全戦力の投入を要請した。


   ♦♦♦

 

 さすがにネメジス所属のヒーローが全員集まるとなると壮観である。全く統一感のない装備に身を包んだ人間達は、しかし誰も彼もが同じように、突如顕現した地獄に息をすることさえ忘れていた。具体的な世界の危機だった。


 目標:超巨大悪魔(以下”超巨悪”と呼称)

 全戦力を持ってこれを撃滅するべし。


 アドに転送されてきた作戦要綱はこれだけで、上層部の投げやりな感じが化け物の呼称からも伝わってくるわけだが、まあもう諦めるしかないのかなという気持ちになるのも分かる。


 わ、こっち向いてるし。光が喉を登ってきている。確実に熱せ


 発光。


 衝撃。


 灼熱。


 数十秒間ビリビリと揺れる大気の中で目をつぶっていた。周りの様子はどうなっているのだろう、ということをずっと考えていて、そして自分が未だに形を保っていることに気がついた。薄く目を開け、最終防衛ラインの最前線を見てみると、攻撃を食い止めている四人の影がある。同じエネルギー量の熱線をぶつけて止めているから、あの人達より向こう側はあの悪魔以外もう何も残ってはいないだろう。そしてどうやらこちら側の最前線、かつ最終防衛線も限界が近いようで、なんとか絞り出しているというような印象だ。


『オペレーター! おい!』


 呆、として眺めていると前線の四人のうちの一人、最近ロンドン支部に入ってきた新入りのジャックくんから通信が入った。


「は、はい。何でしょうか」


『もう僕たち保たないんだけど! 何か作戦』


 熱線相殺担当のアーシュラくんは辛そうな声。かなり辛そうだが……。


「と、言われましても」


 こんなのキャパオーバーだから。などとと言ってられないのは確かであった。このまま待っていてもホントに一瞬で死ぬだけだろうし、それならば悪あがきした方がマシという物だ。それに私はヒーローなのだし。


 まあ、それはさておき、無理なものは無理なのだった。


「あー……耐えてもらうしかないですね」


『まあ、そうでしょうね。仕方ない……もう少し食い止めてみます』


 キヌガサさんも冷静ではあるが難しそうな声だ。しかしここは頑張ってもらうしかない。

とにかく時間が欲しい。


 目標の熱線攻撃は暫く止みそうにない。質量から算出したエネルギー総量は、こちらの5京倍、あと30分はこの熱線を維持することが可能、らしい。


「保って何分でしょうか」


『5分!』


 なるほど?


「前線維持は不可能です。カトル、アベ、ターニャ、タモ、エイプの5名は可能な限り戦闘員を転送、ソロとブック隊8名は前線維持、8分耐えてください立て直します。その後前線の4人は空中に敵攻撃を誘導、退避してください」


 幸いなことに、熱線攻撃の攻撃範囲は直線、上側に逸らしてしまえばとりあえず地上が被害を受けることはない。次はとにかく接近戦まで持ち込み、熱線を打たせないようにする。そしてこちらの最大火力をぶち込んで短期決戦。まあ勝ち筋はこれだけだろう。


 この熱量の攻撃を耐える巨体にダメージを与えられるヒーローは少ない。レイナを筆頭としたあの四人組、あとはビッグバンさんと……巨剜さん。


 アー全然足りないですね、全然。これ下級ひっくり返しても無理なんじゃないの。


『何回分の攻撃で倒せるんだ』


 ジャックさんからの通信が入る。


「特級火力の六人、4375回分です」


『……時間にすると?』


「7年、でしょうか」


『6人で42年……長生きしてるってのを期待するかな』


 それは、いや可能だが、そんなまさか。


「……いいんですか」


『しかたねえだろ、やるぞ』


   ♦♦♦


 避難が完了した。特級火力ヒーローの6人は所定の位置に転移、それぞれの持つ最大火力をぶつける。特異な熱変動の観測された頭部奥に核があると推測、装甲の一番薄い後頭部に攻撃を集中させ一気に砕くというのが今回の作戦。雑。


 もちろん一回の攻撃ではヒビ一つ入らない。しかし、ジャックさんが未来の時間を前借りして、一瞬のうちに4375回分の必殺技を発動させる。しかも6人分。これから42年間、彼は存在しない。


 突破は不可能と思われた超巨悪の装甲は数秒と絶たずに蒸発していく。光と熱と音に私の感覚は塗りつぶされて、その後は何が起きているのか分からなかった。攻撃の景色が終わり、ようやく目が光を捉えられるようになると、超巨悪のうなじの在った辺りに赤色に発光しながら蠢く肉塊が露出してるのが認められた。届かなかったのか? と、一瞬、作戦失敗という文字が頭をよぎったが、核自体は案外脆かったようでレイナがこれを焼いた。


 作戦は終了した。しかし、


「これは」


『オペレーター、次の作戦は』 


「もう無理かな。ジャックさんいけますか」


『クソ、借りられる時間はそんなに残ってねえぞ』

 

 ()()()()()()()()()()()()()


 超巨悪は活動を再開。4本の腕をそこかしこに叩きつけ地形を変えながらこちらに侵攻してくる。作戦は失敗して地球はおしまい。人間最終回です、たくさんのご声援ありがとうございました。


「なに、あれ」


 私と超巨悪の間に、突然巨大な壁が立ちふさがる。


   ♦♦♦


 あの人のプレゼントだというのはすぐに分かったが、もう私の手に負えなかった。あの人は人が嫌いになったのだろうか。私のことも?


 あの人に捨てられた、という事実はプレゼントからも読み取れた。信じたくはないが、それでも私は、いや冷静にならなければ。という思考をグルグル回っている。バターになってしまいそう。


〈バターにはならないよ。〉


 あなたは。バターの精?


〈ばか、メルヘンなのか?〉


 思考の表層に突如として出現した人格はマハトマと名乗った。彼は5人目だった。


〈いくよ、合体だ〉


   ♦♦♦


 初めはレイナだった。


 材料はそこにいっぱい在ったので、周りの特殊遺伝子を含んだタンパク質を吸収し大きな赤い立方体になった。赤い立方体は突起物を噴射して仲間の3人、ジャック、アーシュラ、キヌガサに突き刺した。

 3人は、同じようにして黄色、青、桃、緑色の立方体に変形する。赤い立方体は触手のような、根のようなものを伸ばして他の立方体を掴むと、ひとつ呼吸のようにうねり、どうやら完全に接続したようだった。立方体は延びたり展がったりしながら思い思いの形をとり、全長50m程の巨大な人型となって超巨悪と対峙する。


 日朝に伝わりし、伝説の巨神。”筺櫓模(ハコロボ)”。


 青、桃色の両腕は突進してくる超巨悪を易々と受け止め、ねじり、投げ飛ばす。


 巨体が激突した瞬間揺れる地面、超巨悪の起き上がった後にはクレーターがある。


 筺櫓模の各関節の自由度は決して高くは無いと思われるが、ガシン、ガシンと確実な動きで超巨悪を追い詰めている。超巨悪も反撃を試みるが筺櫓模はこれを許さない。肩から腕を振り振り下ろす。回転する腰関節を使いまた殴る。一撃一撃が重い音を発していて、あれほど強固に思われた装甲は見事にひしゃげていたのだった。


「はは……これは勝てちゃうな」


 私は人類が、地球が救われる様子を眺めている。その景色に死体はない。死んでいった者達はああして敵と戦っていて、それはきっとおぞましいことなのだろう。

 敵への憎しみ、その一念で蘇りこうしてただ殺している姿がいかに純粋で美しかろうとも。


   ♦♦♦


〈私は合体因子だよ。君が生き延びた後、その英雄資質に目をつけたあの人が超指向性脳量子波を送ったんだ。それが僕。あの人に対して君は何も警戒していなかったから簡単にインストールしたんだね。ボクにとってはありがたい話だ。こうして敵が巨大化すると箱ロボになるようプログラムされているはずだったんだけど、前のやつは弱すぎて。あの人痺れを切らしちゃってこんなの寄越したみたい。何が目的なのかさっぱり分からないよね。〉


 5人目(マハトマ)が説明する。訳が分かるような分からないような、という顔で他の4人が彼女を見ていた。


「じゃあ何だ。このでっけえ身体が今の俺たちなのか?」


〈そう。だから操縦を手伝ってくれると助かるな。〉


「そうじゅう」


「あなた一人で十分なようにも見えますけど」


〈楽したい。〉


「ああ、はい」


 ジャック、アーシュラ、キヌガサが見よう見まねで身体を動かしている。


「動かないんだが?」


「こうすれば、ほら。毛が動く」


〈何で毛をわざわざ生やしたんだよ。〉


「それ私の触手です」


 わたわたしている4人がおかしくて、わたしはとうとう言ってしまったのだった。


「これ、かなり非効率では?」


   ♦♦♦


 活動が停止した後も筺櫓模は超巨悪の死体をしばらく殴り続けていたが、初めの頃の殺意をぶつけるような暴力性はなく、なんというか、練習しているような印象。必殺技のようなものも試しているようで、その器体からは予想もつかないような素早い動き、平衡移動させて切り払う、をしてみせる。すさまじい風圧で5mほど吹き飛ばされた。


 その後も殴る、蹴る、跳ぶ、回避行動など練習していたら、急に動きが止まった。そろそろ地盤を壊しかねない暴れようだったので、このときばかりは安心したのだが、内側ではなにやら大変なことが起きていたのだということが後に明かされた。


 

 筺櫓模は未だに大地に立ち続けていて、動く気配も見せない。


 4人は3ヶ月経っても戻ってこなかった。


個人的にめちゃくちゃ上手いこといきました。これ爆笑できる人間、気が合うと思います。 


だるま

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