第伍話 本能と理性
なかなかいい感じです。
これは戦隊ヒーローの話であるので、主人公には一般に4人の仲間がおり、それはこの話でも例外ではない。3人や9人の戦隊ヒーローがいたり、金銀色などのエクストラヒーローもいたりするわけだが、ここではとりあえず五人組である。
主人公の仲間としてすでにジャック・ウォーカーがおり、残るは3人。1人は女のような男であり、もう1人は男のような茸である。
まずは女のような男の話をしよう。彼は裕福な生まれであったが、両親の構成が特殊であった。この世の理から外れた出自、奇跡の子、まさに生命の神秘といったような存在で、なんと「女と女の間に出来た子」なのである。
金持ちで、そして美しい女達の密会は、未だ性の自由化のなかった閉塞的な街が許すはずもなく、しかし同時に妊娠してしまった2人はこの愛の形に運命を感じずにはいられなかった。
経過も順調であり、そして密かに病院で産み落としたそれは、片方が右半身、もう片方が左半身のみという奇形児で、医師たちはあまりのおぞましさに涙を流していると2つの異体が合体しそれはそれは美しい赤児となった。これが後に主人公の仲間となるアーシュラである。
アーシュラは美しい女性の顔と巨大な男根を持ち、両親の寵愛受け、というより体のいいオモチャにされ近親相姦を強いられた。
「気持ち悪い」
日中は檻の中、夜は女の身体の上、自由のない生活に強く憎しみを覚えながら、それを隠すための笑顔だけが輝きを増していく日々。しかしそんな彼でも2人の母親を真に憎むことはなく、ただ歪な愛に憐れみを抱くのみであった。確かにあの瞬間快楽にあった自分を自覚していたのだろう。
精通を迎えた日の翌日、両の親から再び奇形児が生まれた。全長30cmに満たない小鬼然とした風貌で、不思議な力が使え、そしてとにかく力持ちであった。
アーシュラは小鬼たちに「アー」「ツェット」と名付けると2人を連れてその日のうちに屋敷を出た。11歳であった。
スラム街に住み着いた3人は以前のような裕福な暮らしをすることはできなかったが、魂の尊厳、精神的な自由を欲していたアーシュラにとって未練などあるはずようもなかった。それにスラム街での生活も卓越した性技と2人の小鬼の力があったためさほど苦労することもなく、仲間達にも恵まれ、この穏やかな生活に満足していたのであった。
そしてもう1人の仲間、キヌガサはスラム街でアーシュラと会うことになる。
彼はかの魔王のお膝元、絶対魔境要塞都市国家京都の生まれである。
いまや日本列島全土を支配している京都には"汚濁"と呼ばれる下級市民がおり、働くでもなく日がな画面にかじりつき絵画活劇などを貪っている。
そんな汚濁の1人が狭い部屋の中で孤独死わした。これはこの国では別に珍しいことではなく、後日腐臭に気づいた管理者が燃やしにくることになっていたが、カエンタケの変異種がこの死体に寄生し、偶然にも特異遺伝子を持っていたこの名もなき汚濁と適応、ここに茸人間が爆誕したのである。
意外にも常識的、かつ非凡な頭脳を持っていた彼は自己改造に余念がなかった。汚濁の市民権を駆使して情報や道具を集め、今や世界の数世代先のバイオ技術を持つ京都の研究機関で確固たる地位を得、自身の遺伝子を研究材料に行き着いた先は茸人間の生物としての限界。しかし人間でない彼の生命観は腐らなかった。
ーー他の生物のために生きよう。ーー
(なんかいい感じの音楽)
その達観した行動原理はヒーローというよりむしろ神であった。道ゆく先で悪を滅ぼし、貧困を資金力と科学力で解決していく様はまさに聖人。ネメジス機構より特別ヒーロー資格を与えられることになる。
アーシュラとキヌガサ、本能と理性という相反する2つの概念の子。ところが2人は欠けたパーツを補うかのように気が合った。意味存在座標が互いを俯瞰できる位置にあったのか、2人はそれぞれの本質を理解していた。そのシンクロナイズドされた救世術は芸術の域であったと、アーシュラと仲の良かった盲目の浮浪者(63)は言う。
「ありゃ天上のソレだよ。この目、見えてねぇんだけどよ、あの時の神々しさにやられちまっただ。ガハハ!」
アーシュラがこの住み慣れた街を離れることを決意するのに時間は必要なかった。アーシュラの本能はキヌガサのいる人生を求めていたし、キヌガサの目的も彼を欲していた。こうして女のような男と、男のような茸という異色のコンビが結成した。
キヌガサとアーシュラが特別ヒーロー資格を受け取るため、ネメジス機構第三支部“吟選華”に立ち寄った時である。
何かの崩壊する音、そして激しい戦いの気配を感じ取った2人は轟音の方へ急いだ。壁には大きな穴が空いており、そして足元にはピエロが転がっている。
「このピエロさん、なかなかの使い手だったと思うんだが」
「知り合いなの?妬けちゃうなぁ」
「アー、ツェットを出して。気をつけなさい」
アーシュラのマントの下から2人の小鬼が出てくる。アーとツェット。始まりと終わりの使者。
侵入者と思しき2人は、さすが戦い慣れているという感じで、臨戦態勢を崩さない。能力者とのバトルをよく知っている。見た目で判断してはいけないというのは大鉄則である。
「『重渦』『絶剣』か。アーシュラ、君の力なら」
「まかせて」
宝剣を構えた男が一閃、重い光の斬撃を飛ばしてくる。
「暁光撃」
光速で飛んでくるそれを、しかし透明な壁が阻む。極めて大きい屈折率を持つその液体はキヌガサの分泌した光学バリアとなり敵の斬撃速度をいくらか下げ、かつ屈折で所定の位置へ誘導する。
その隙さえあればアーシュラには事足りた。まずアーが、ついでツェットが光の刃に触れると跡形もなく消滅した。
「終わりは始まりってね」
アーは『絶剣』の構えを取る。まさか、そんなはずはないと敵は狼狽えつつも警戒の構えは崩さない。
「暁光撃・D.C.!」
光より速いものはない。高屈折率のバリアは既に消えており、およそ毎秒30万kmの速さで『絶剣』の片腕と『重渦』の両腕をもぎ取った。その程度で済んだのは、彼らが防御の構えを崩さなかったこと、そして、
「『重渦』か。厄介だね」
「茸野郎……腐った聖人ヅラなどもう見たくもなかったが。その新しいオモチャ、お前も人間らしさがあったってことかな」
下卑た笑いをアーシュラに向ける。そうした視線にアーシュラは敏感であった。
「殺すよ」
小鬼が両の腕に取り付き変形、鬼のモチーフをあしらった籠手になった。アーシュラの変身体である。
「ッ!?」
凄まじい殺気。純粋な本能を湛えた獣を前にした侵入者達はそれぞれの能力を全開放、その全てを逃げるための脚にまわす。
逃げに徹した能力者には追いつけない。
獣以外では。
純然たる野生、本能の発露を見せ、あれほど殺意に満ちていたアーシュラが、しかしそれでも2人を追わなかったのは傷を負った体に菌糸が見えたからで、それを追跡できるキヌガサへの信頼が強かったということである。
「おわないの(あとでころす)」
「巣に案内してもらおうね」
「ころすね(ころす)」
昂ぶった心をなだめる独特の呼吸音が血に染まった廊下に響く。キヌガサは彼が平静を取り戻すのをじっと見守っているが、側から見れば観察のようでもある。
そして、このアーシュラの垂れ流す殺意が次の舞台の幕引きとなった。
「侵入者ってのは、お前らか?」
頭の軽そうな声。キヌガサとアーシュラが振り返ると、いかにもお上りさんという風な少年と、神秘的な雰囲気の美少女がいた。
"お姉さんに話を聞かせてくれるかな"
主人公と仲間3人、そのファーストコンタクトである。
とか言いつつも厨二バトルシーン難しすぎてだるまには辛いです……