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Art Ranger  作者: なすとだるま
第壱章 始動
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第肆話 襲撃

厨二爆発用意

 とあるビルの屋上、月の照明を背に三人の男がパリの夜景を眺めているが、決して街を照らす色鮮やかなイルミネーションに見惚れている訳ではない。

 彼らは狩人

 ――血の(かわ)きに飢えた獣


 彼らは今日もその背景と溶け込み、姿を眩ます。気配さえ感じさせない、獣の如く……




 ◆ネメジス第三支部吟選華(セイレーン)

 受験者待合室




「命の恩人が宿敵ってことか?ちょっと複雑だな、それ」


「貴方が思っている程こっちは深く考えて無いのよ、本能っていうのかしら、遺伝子がそうさせてるだけ。ただそれだけ、だけど私はそれが良いのよね、何もかも考え過ぎるってのはとても削られてしまうもの、その削りカスが私、削るとこが無いと本当に楽で心地良いわ」


 一次試験を終え雑談を始めた2人のルーキー。一人はただの田舎者で、夢はなく、希望もなく、ただ折角だから自分の恩寵である才能(まほう)を生かそうと、安直な理由でレンジャーを目指す、(こころざ)しの低い無能男ジャックに、

 もう一人は散々正義とは何なのか悩んだ挙句に、その答え探しを放棄し、これまでの時を無為に過ごした、こちらも無能の娘が互いの噛み合わぬ境遇を打ち明けあう。

 そして今、話の方向性は二人の過去へと向いていた。


「貴方の魔法ってどんなのかしら、魔法自体に興味は無いのだけれど、貴方には興味があるの」


 半ば超遠回りの告白ともとれる少女の言葉に赤面し、しどろもどろになるジャック


「いやぁ、俺の能力は時間――」



 ――刹那、轟音を巻き込み、待合室の壁を破壊して何者かが突入してくる。それはピエロであった。


「ふう……困ったものだ、私も。気を抜きすぎていたか……」


 ピエロは服に付着した埃をパンパンと払い退け、話のペースを乱すことなくそのまま話を続けた。


「諸君。たった今、吟選華は、謎の侵入者により襲撃を受けている。私を含め、ここの施設のレンジャー数十名で対処に当たったが――この通り惨敗でね。」


 突如として告げられる事実と困惑する受験者達。だが逃げ出す者は誰一人いなかった。少なくともレンジャーを目指し、一次試験を勝ち残った者としての風格を彼らは備えていた。


「こちらの戦力に対し相手方は()()だ。数字では我々が優位であろう、だが言い換えればたった二人でレンジャー数十人を殲滅しおうせた実力者でもある。この通り私でさえもズタボロさ。」


 裂けた衣服からは流血した肌が露わになっており満身創痍なのは見て明らかであったが、ピエロはそれだけ言い残して早々と戦場へ舞い戻っていった。

 ピエロは受験生達が闘う決意を決める為の猶予を残したようだったが、ピエロが言葉を言い終わる前に、その場にはきっかり二人分の姿だけが無かった――

 ――考え無しに突っ走る無能(フール)共である。



 ◆十分前

 第三支部内戦闘模擬訓練施設(待合室横)

 “マントラ”




 僅かな亀裂から中をこじ開けられ、金属同士が擦れ合いメキメキ音を立てながら剥がれ落ち、生じた空洞の闇から這い出る二人の男。


「目立ちそうな場所に出たな」


「我々の本望であろう」


 例の男二人組みはネメジスが所有する最大の競技場“マントラ”の一端に侵入を成功していた。


 この場所はレンジャー若手の修行場として運用されており魔法の使用や変身装備(アドヴェントスーツ)の着脱可能な施設である。その為、外部に強大な魔法の余波を与えぬよう特に厳重な設計を施されており、外部からの衝撃には戦車を持ってしても傷一つつけられない仕様である。


 ――それを切り裂いて侵入して来ただと!?

 ――まさかな……


 その場に居合わせた多くのレンジャー達がそう心の中で事実を否定しようとした。

 この日、部下の稽古の為に訓練施設を訪れていたベテランレンジャー、ドー・アンダッグも例外ではなかった。


「貴様ら何者だ……防壁を破壊して侵入したのか?許可は得ているのか?……いや、誰が破壊を前提とした侵入を許可するというのだ」


 狼狽が見てとれる。ベテランでさえもが稚拙な思考に陥りざるを得ない状況であるのは明らかだった。

 アンダックは最後の警告を行う。


「ここはレンジャー以外の者が無断で立ち入って良い場所では無いぞ!早々に立ち去れ!」


 男二人はどちらも長髪であったが、無表情で、より鬼気迫る方がアンダックを一瞥し、答える。


「質問が多いな、だが貴様は我々が何者かを知る必要は無い。……知ったとて、貴様らの生涯はここで終わる」


「ほざけ!!我々は貴様らを外敵とみなし排除する、総員!戦闘用意!!」


 その言葉を皮切りにただ突っ立ってるだけであったレンジャーが一斉に動きだし、腕輪を胸の前に掲げた。眩い閃光が空間を駆け巡る。



『『『『『変身(アドヴェント)』』』』』



 次の瞬間腕輪は液体の様にレンジャー達の全身を覆い、一人一人異なる形態へと変化してゆく。

 アンダックは氷の魔法使いであるため、装備(スーツ)は白銀のコート形で、手には巨大な手袋をしており、その中心には排出口型の(ホール)があった。

 アンダックの氷魔法はレンジャーの中でも噂になる程の威力を誇り、直径百メートルを瞬間的に冷凍させてしまうほか、一度凍ってしまった物は永久凍土さながらの持久力を持ち、硬度も申し分なく、これまで数々の悪を氷漬けにして来た。

 弱点があるとすればその威力故に味方を巻き込んでしまうという点であったが、得体の知れない闇の住人を相手に焦りを禁じ得ない今のアンダックには、そこを気にしている余裕は無かった。


「俺の技に巻き込まれるなよ!!回避は自己責任だ!!」


 巨大な手袋の(ホール)を男二人に向けて手のヒラを交差させ、下半身は自身の氷で地面と固定し安定化をはかった。手のヒラの冷気が増幅され一つに集約されてゆく。


氷牢凱旋風(ネーヴェヴォンカルチェ)


 集約された冷気が一気に放出され、閃光の如く目の前の二人を襲った。その冷気は放出を完了した後も行き場をなくし周辺を氷塊に変えてしまう。


「これがアンダックさんの魔法……」

「えげつないなぁ」


 他のレンジャーから感嘆の声が漏れる、だが、冷気が晴れるとそこに長髪男二人の姿は無かった。

 誰よりも早くアンダックがそれに気づき声を荒げて叫ぶ。


「馬鹿!油断するな!奴らはまだ生きている!!」


 次にレンジャー達が目にしたのは、アンダックが肩から腹部にかけて両断され、白銀の衣が紅色に染まり、元々が白ではなく赤だったのではないかと錯覚してしまうほどの残酷な光景であった。




死霊傀儡(ペルソナオペレイジ)

悪魔化(デモンズアルヴェレ)

氷解刃(ヴェーレスパーダ)


 一瞬の沈黙の後、音も無くレンジャー達は皆、氷の刃で心臓を貫かれ、力無く地面に倒れこむ。

 だが、その刃の主は敵の男二人組では無かった。

 その魔法は両断された筈のアンダックの力であった。


「!?…なんで……支部長……」


 隊員達が一様に倒れていく中、カツンカツンと足音を隠さず現れる道化師(ネクロマンサー)

 背後でドー・アンダックの四肢を操作する奇抜な飄々男、もといピエロは侵入者へと語りかける。


「我が根城へようこそ、侵入者諸君。少々手荒い歓迎となってしまうがそれでも構わんだろう?

 なんせ、かの『重渦』と『絶剣』二人相手では私も手を抜いてはいられないからね」


 それと同時に再び魔法を使い、出来立てほやほやのレンジャー供の死体を次々と悪魔へと変換、侵入者へと差し向け、周囲を囲む。


「命に敬意を払えない奴は嫌いだ、『死霊使い(ネクロマンサー)』」


「ならばここで死んでくれ給え。さすれば彼らの命も報われよう」


 ピエロが手を振り降ろした瞬間、悪魔達は人間(レンジャー)であった時よりもより強大で、予備動作のない魔法を一斉に唱え、襲う。


  …… 『大気葬送』……

『上下段戦火』 …… 『雷弾灯』

  …… 『英詩破』

  『顎羽織』……

 

 個々の魔法が『重渦』と『絶剣』と呼ばれた男達に到達する直前、『絶剣』と呼ばれていた方の男が腰に携えていた宝剣を手に取り、腰を低く構えた。

 間合いを測っているのか、目は閉じたままで、合気だけが周囲を走る。隣の男はそれを感じとってか位置を少しばかり移動した。


暁光撃(アルバリュース)


 宝剣から放たれた斬撃は音速を遥かに超えるスピードで周囲の魔法と悪魔諸共(もろとも)全てを切り裂き、遠くから傍観を決めていたピエロにまで刃が届いた。ピエロは咄嗟に残りの悪魔を盾にして攻撃を防ごうとしたが間に合わず、斬撃の衝撃を身に受けてしまい、近くの壁に叩きつけられ、そのままの勢いで貫通してゆく。

 魔法の残骸のせいで周囲には砂誇りが舞い上がり、貫通したその穴から先が見えない。煙りが晴れて数秒後、その穴から真っ先に現れたのはネクロマンサーと呼ばれていた者では無かった。



 若い見た目の男女二人であった。

厨二は正義

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