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Art Ranger  作者: なすとだるま
第壱章 始動
4/10

第参話 身の上、口の上

"ホントに気色悪い野郎だわ"

 

 隣の男も軟派野郎だ。脳みそが豆腐みたいに柔らかいから考えていることがスケスケ。どいつもこいつも。世界を救う気はあるんだろうか。


「へえ、君も分かる人だね」

 

 少なくともお前よりはな。と思うが。このえらそうな、芋っぽい若造はいかにもな感じだ。この周りの人間みたいに特別な力、魔法だったっけ。あほらしい。とにかく見せびらかしにヒーローになりに来る。


「俺はジャック。ジャック・ウォーカー。若いね。高校生? アドしてないみたいだけど」


 アド。ああ、その腕輪か。


"142歳"


 わたしはこの阿呆面を晒す男について考えるのをやめ、ピエロをみすえる。10匹の変態がぐるぐると取り巻いていて、気持ち悪いな。わたしの頭はどれからぶん殴ろうか、その順番を考えはじめていた。


「元料理人、第捌の悪魔、ボぉイルデーーーーーぇモォン!」


 ので、ピエロの話なんて聞いちゃいなかった。そこに在るなら勝てる、滅せる。どうせ全部やるわけだし。決めた、まずはデブからやることにした。


「役者は出揃った、試験開始!」


 力を込めた足がバネのように伸び、わたしはまっすぐ加速、そのまま身体をぶつけて変態に穴を開ける。破裂したその身体が金と一緒に舞い散って、ついでに体液が四方八方に飛び散る。焼けるような刺激を感じ、腕をみると少し焦げていた。


"なるほど、一筋縄じゃいかないってわけ"


 体液を浴びた他の2、3体の変態はすでに液化していた。数が正確じゃないのは溶けて混ざっていたからだ。わたしは次の標的を決めて、加速、


「君は合格ね」


 しようとしたところにピエロの制止がかかった。巻き込まれて死ななかったのか。趣味の悪い手袋を外したピエロの手は意外にも綺麗で、だからわたしはそのままわたしに向かってくる様子を見ていたのだけど、胸に触れた瞬間、ぐらりと揺れたような、曲がったような感じがきた。一瞬だったが、慣れない感覚。そのままカチリという音がしたかと思うと、わたしはヤケにぎらっぎらした部屋にいた。


*****


 しばらく部屋をぐるぐる回って調べていたが、二つある扉は紳士用、淑女用のトイレで外に繋がるような扉はなかった。窓もないので外の様子も分からない。仕方が無いので近くの壁に穴を開けてみれば、砂の混じった風が吹き込んできた。案の定砂と空の広がる不毛な景色が広がるだけだったので近くのテーブルでふさいでおいた。大きさが足りなくてふさげなかった。


"つまらん、つまらん"

 

 部屋にあったパンをかじりながら酒をやっていると(パンはとてもやわらかで、豊かな味わいだった)、ようやく人が飛ばされてきた。続々とやって来る人間はこちらを見るとそそくさと距離をとる。わたしの近くに飛ばされてきた男なんて小さく悲鳴を上げて、そして穴の開いた壁をみてもう一度悲鳴を上げると逃げていった。穴の開いた壁の何が怖いの?

 ときどきニヤッとしたり怖い目つきで威嚇したりして腑抜けどもで遊んでいると、話しかけてきたやつがいた。あのおちゃらけた男である。


「や、やあ」


 やあ、じゃないが。あんなに調子の良かった男が若干引いている。


「君、めちゃくちゃ強いね。あの体液モロ浴びしてたけど大丈夫……みたいだな。君の能力は超パワーだと思っていたけど」


 変態の体液による損傷は完治していた。わたしの能力は特にない。ただ生物として物理的にホモ・サピエンスより勝っているだけ。人がわたしを怖がるのは熊を怖がるのと同じで、当然なのだ。


「再生か? でも力も強いし……142歳ってのもマジなのか?」


 だから、変におどおどせずまっすぐ話しかけてくるこの男は珍しく、わたしは少し気を良くした。


"まあ、超パワフルってところかな"


 そう、わたしは人間ではない。”あの人”の生み出した進化人類第一号であり、どちらかと言えばこのヒーロー志望の甘ちゃん達よりあの変態達に近い生き物である。変質を遂げた遺伝子が身体そのものに影響を及ぼし人知を超えた生物に”進化”させたもの、それがあの変態達でありわたし。もちろんあんな下品なものと一緒にされると腹が立つけど。


*****


 幼い頃、死にかけていたわたしを助けてくれたのが"あの人"だった。

 一緒にいた時間は短かったけど、あの数週間でわたしはどれだけ救われただろう。強い身体と優しい心、そして何より大切な命を与えてくれた"あの人"。


 失った声を身体の任意の一部を振動させる発声法により取り戻して、世界各地を巡り"あの人"を探し回った。今では魔王となって世界を壊していると知って、わたしは喜びに震えた。あの時、あの人の与えてくれた全てがわたしのヒーローとしての命となり、そして今、わたしに『救うべき世界』という使命を与えてくれたのだった。

 あまりに大きな愛、容量を超えた感情を受け取り、わたしの強靭なニューロンの散らした火花が網膜に映ってチカチカしていた。


 ニューヨークで少女を犯していた汚物を粉々にした時、警察に捕まった。警官はわたしを怖がっていたのか早く仕事を終わらせたかったらしい。幸い注意と少しの罰金で済んだのでそれ以上死体を増やすことにはならなかったが、どうやら「いいこと」をするためにはそれ相応の資格がいるらしいとわかった。よく見れば、街の広告にはおもしろ人間たちが悪事を派手に潰してはいちいちアピールをしているおままごとが映し出されている。


"こんなのがヒーローだって?"


 しばらく勘違い野郎たちを懲らしめつつネメジスとかいう組織を探ってみると、どうやら"あの人"が関わっているということが分かった。しかし直接運営しているわけではないということを考えると、なるほど、これは真のヒーローを作らんとする思想の元に生まれた真のヒーローのための組織なのだと。


 つまり、そういうことだろうと思った。

 わたしはネメジスヒーローの本場らしいロンドンへ走り、今ここに至るのである。


*****


"生き残ったんだ"


 格の数段違う違う上位の生物を前にして、その圧を感じ取らないのか気にしていないのか、この話しかけてきた男に多少興味が湧いた。


「少し苦戦したよ。まあ、君と比べて、だけどね」


 冗談がまだ固い。緊張しているみたいだった。わたしはパンをすすめると、男はそれを受け取り、「お邪魔かな?」と言いながら、わたしが頷く前に前の席に座った。


「俺が倒したのは第陸の悪魔なんだが—」


"いや、まず誰だったっけ"


 再びキョトンとした阿呆面になる男は、するとなかなか爽やかに笑って「俺はジャック、ジャック・ウォーカーだよ」と名乗った。

 記憶力は良い方だった。目を瞑り、脳内でもう一度その名前を反芻、記憶する。そして開いた目で男をもう一度見てからワイングラスを小さく掲げ話を促す。

 わたしは、クソピエロがやってくるまでこの男、ジャック・ウォーカーの話を聞いてみることにした。


ぶちこわしつつまるっと投げる、リレー小説四十八手の隠された四十九つ目の禁じ手「一応書きはした」。参話目にして使ってしまっただるまに未来はあるか!?

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