第弐話 魔法の顕現
第1話で爆弾投下してきましたね。次どうしたらいいのさーって感じで書いたのがこちらです。
うふふ
西暦2113年の夏、アメリカとロシアの勢力図を書き換え科学技術最先端の知識と権力を欲しいままにした欧州連合の大都市パリで初めて“魔法”の存在が確認された。人間のDNAは二対が鏡面の様に全く同じ物で構成されているが、長年の研究により人為的に三対のDNAを作り出す細菌“アートパンク”が生み出され、結果理論も原理も存在せぬ謎の不可抗力作用により血に紡がれてきた人智を越える人間の本能が開花されてしまったのだ。剥き出しの本能はこれまで人智の限界たらしめた領域を軽々踏み越え魔の者が使役する則りの如く不可思議な現象を齎し、パンデミックを引き起こしたアートパンクにより世界各地で魔法、例えば炎を手足として行使出来る者、重力を逆流させる者、人間以上の思考力を有する人外といった多くの奇跡を生み出した。
これらの魔法は世界に富と希望をだがそれより多くの暗黒をもたらした。年々衰退の一途だった戦争企業は再び力を取り戻し魔人兵による武力強化に努めたし、一般市民による魔法犯罪も徐々に増加している。
この混乱の元凶である細菌を創り出した張本人は自らを“魔王”と名乗り、永久戦犯ながらも国家が手のつけられぬ程に強固な絶対要塞を日本の京都に築きあげ亡命してしまったのだ。
それ以来あらゆる魔法、超科学による超常現象の全てが彼の手による策略であるとされているが、その真意は未だに謎のままだ……
◇◇◇
西暦2124年8月31日正午、アメリカのテキサス州から来た田舎者ジャック・ウォッカーはヒーローの代名詞“レンジャー”の試験を受けにパリに到着したばかりであった。
「不味いな、遅刻しちまう」
ジャックが試験会場であるネメジス機構第三支部“吟選華”に到着したのはそれから一時間後の午後1時、そして試験の受付は丁度午後1時に締め切られる。やや焦りながら受付嬢に自分の招待状を見せると、彼女は舌打ちをしジャックに向けて指を立ててみせた。
「貴方、最近ルーブル美術館の近くに大型ショッピングモール出来たの知ってる?
――そこで私ね、14時から私の甥と息子を連れてボヘミアンラプソディーの映画、観に行く約束してるのよ。それでね、一旦家に戻って着替えて、息子起こして、ハイヒール履いて、電車乗って、ショッピングモールに行くとするじゃない?そうすると丁度一時間掛かっちゃうのよね」
不機嫌な眉間のシワが二本から三本へと増える。ジャックには何故自分にそんなことを言うのか意味を考えたが、納得のいく答えは出なかった。
「はぁ、それ、何の話して――「察しの悪いガキね」……!?」
遮る様にして眉間の皺は崩さず淡々と彼女は続ける。
「――只今を持って第八回レンジャー試験の受け付けは滞りなく終了したって言ってんのよ、どうしてって聞いても無駄よ、私は、私の用事を先行させる義務がある、何故なら既に時刻は刻限である13時を超えているからよ!――ガキはお家に帰ってママにオムツでも変えて貰いなさいな」
その言葉は非常に不味かった。ジャックはパリに来る途中、試験の為の旅費を丁度帰りの分貯めていた財布ごとスリに遭っていた。このままではママの母乳を啜る前にフランスの大地に自分の血肉を啜られてしまう。
「はあ、だから何の話をしているんですか?何も俺は“時間”なんかにこだわっちゃいませんよ。」
「……!?」
「でもですね、もし時間にこだわるのであればですよ、貴方の着けているそのHarry Winstonの時計ですか?とてもお綺麗ですね、俺に見せて頂いても宜しいですか?」
ジャックは強張りを見せないように優しくかつ強引に受付嬢の腕を手繰り寄せた。
「やっぱり!アベニューDのサンフェイズじゃないですか、時計錬金術の巨匠アリエッタが手掛けた限定作の!良いな〜綺麗だな〜でも高いんだろうな〜、俺に彼女が出来たらこんな時計買ってあげられるかな〜……」
ジャックの興味を振り払い、受付嬢は悲鳴に近い上擦った声をあげて後ろへ引き下がった。
「あら、何よ、『少しは俺も芸術知っているんだぜ』っていう見栄はりのアピールかしら、反吐が出るのよ、貴方の様な都会の怖さも知らない小僧が田舎の良さをひけらかしては周りの人間に嘲笑されている姿を見るのは!――良いこと?これ以上私に近づいて来たら来年の試験でも貴方を出禁にしてやるわよ!」
「お優しいんですね、俺貴方を勘違いしてました。貴方は俺が周りから浮かないように配慮してくださっていたんですね、恥をかかないように――だったら俺も貴方の勘違いを正さなくちゃいけないですよね。だって俺だけ貴方の魅力に気づいてしまうってのはなんと云うか卑怯じゃありませんか?」
ジャックは時計を指差し、憮然と変わらぬ普遍の事実を語るように続けた。
「その時計見ている時に気がついたんですけどね、今まだ13時になっていませんよ、まだあと三分は残っている」
「はあぁっーー!?何寝言ほざいてんのよ?私はね、
何度も何度も確認したのよ、映画までの時間をカウントダウンしながらね!それを、間違えているですって?私を騙そうとしたってそうはいかないわよ!」
そう言ってやや興奮気味に袖を捲りあげて時間を確認した彼女は思わず「えっ?」と声をあげてしまう。何故なら、彼女の時計の針は12時57分をキッチリと指し示していたからだ。
「ほらね、偶にはガキの言葉も信用してやった方が良いですよ、でも今だって貴方は俺がその時計に小細工をしたと疑っているんでしょう?それならだ、ほら――」
続いてジャックは受付嬢の背後を指差し言葉を続けた。
「見えますよね、この街を代表する歴史ある建造物、エッフェル塔ですよ、10年前にアリエッタが塔を340億で買い取って以来、展望台には彼作の巨大な時計があるはずでしょう?」
彼女は恐る恐る獣に狙われた身動きが取れない子鹿のように振り向くしかなかった。全ては計算通りそこには12時57分を指し示す時計が一つ只の現実として彼女の目の前に立ち塞がる。
「おやおや、思ったより時間はかかりましたが漸く信じて貰えたみたいですね」
睨みつけるように時計見つめる彼女をよそにパチンパチンとねちっこい拍手をしながらジャックは喜びを称えた。
「念押しにそこの路地を歩いているカップルに聞いてみても良いですけどね、今何時ですかってね、まあ同じ時間言って返されるだけだと思いますけどね」
それはとても晴れ晴れとした声だった。それとは逆に、説得を許してしまった受付嬢は無念の意が全身に満ちながらも既に彼に屈していた。
「もう良いわよ貴方の言う通りよ、私が悪かったわ、受付はそうね、あと3分は続けるわよ、私のこの分針13時を指すまでね。きっとこれ貴方の魔法の仕業なんでしょうけど――どうこう言うのはやめておくわ――私にはそれがどんな魔法なのか検討もつかないから」
さて、彼女は一枚の用紙を取り出しジャックにサインを促した。それはネメジス創始者であるマーク・カーティスが全世界統一の為に創りあげたイデア語学によって記述された盟約書の様なものであったが、勉学には酷評のあるジャックはその内容を理解するには至らなかった。
「変身装備は持って来たかしら?一ヶ月前にはネメジスの近未来科学研究所から発送を終えている筈なんだけど」
「スーツ……ああ、この腕輪のことか、解せないだよなぁ、一見ランジェリーにしか見えないこの金属擬きがスーツだなんてよ」
ジャックがコツコツと叩いてる有機物なのか無機物なのかの判断もつきそうにないその腕輪こそレンジャーだけが使用を許された対魔導スーツであり、ネメジスの独自開発ルートにより付与された科学と魔法を繋ぐ術式が、アートパンクがもたらすDNAの変化により生じた身体能力向上、固有魔法の補助を行うのに加え、装備者の更なる身体強化は勿論、その者の固有魔法に合った変身を行う超変形三相界面記憶魔導スーツである。又の名を変身装備である。
「じゃあ、ちょっくら試験行ってくるっすわ」
そう言い残して受付を去ったジャックが次に目にしたものはネメジス主催の派手な開会式であった。趣味の悪い目元が隠れるギラギラとした仮面、揺れる陽炎のような幻影を伴う白と赤のスーツを纏い、お洒落とは言えない左右で色の異なる二股の帽子を被って登場した、飄々と言う言葉が似合いそうな青年が黄金の紙吹雪が舞うド派手な登場と共に開会を高らかに宣言しこう告げた。
「レディーースェンジェントルメン!!ボーイズェンガールズ!!今宵は我がネメジス主催、第ハ回レンジャー試験に足を運んでくれたこと心より感謝する。ではでは、堅苦しい挨拶は抜きにして早速試験開始といこうじゃあないか」
ピエロは紙吹雪を十枚程を無作為に掴み取ると五百は超えるであろう受験者の目の前で其れを十体の“悪魔”に変換してみせた。理りを無視して発現させる力――魔法である。
「諸君は“悪魔”をご存知かな?レンジャーを志す者であれば一度は聞いたことぐらいあるだろう。仮に魔法を使いこなす人間――これは君達のことだが――を魔人と呼ぶとするならば、その魔法が暴走して自我を失い悪逆の限りを尽くす化け物となった者達の事を我々は何と呼べば良いのかな?
――そう“悪魔”だよ――」
悪魔とはアートパンクによって作り変えられらたDNAが度重なる負荷と魔法的影響を受けて更なる進化を遂げた結果、身体が限界を超えた力に追いつかず容姿すらも悍ましい化け物に変えて恨みも妬みも嫉みも一切無くしてこの世に災いをもたらす害そのものになった悲劇たるモノ達の総称である。
「悪魔でこれは試験なのでね、一応だが悪魔供の紹介をしよう。だが、悪魔でも主役は君達の筈だ、逆転してしまわないよう気をつけ給えよ」
ジャックの位置からはピエロが悪魔をマリオネットのように手足を操りながらケタケタと奇笑しているのが良く分かる。それが甚だ――
「「――気色悪い」わね」
共鳴する声に吊られてふと振り向けば、露出の少ない透き通るような白い肌、ハイスクールに在籍しているであろう齢の、だが儚げが全く感じられない、安穏を嫌う乙小女がそこにはいた。
◆◆◆
第壱の悪魔 タイトデーモン
元柔軟型体操選手の悪魔、彼女の魔法にかけられると身体をぐにゃぐにゃにへし折られるぞ
第弐の悪魔 メルトデーモン
元料理人の悪魔その一、彼の魔法にかけられると全身がバターのように溶けていくぞ、痛い上に中々死ねないぞ
第参の悪魔 エレクトロデーモン
元電気整備士の悪魔、彼女は全身から雷をレーザーのように発射するぞ、内臓が黒こげだぞ
第肆の悪魔 ホーンデーモン
元牛小屋の主人の悪魔、伸縮可能な全身のニードルで攻撃してくるぞ、穴開きだぞ
第伍の悪魔 キャタピラデーモン
元芋虫の飼育が趣味だった人間の悪魔、手のひらから致死性の猛毒を発射するぞ、触れたら苦しいぞ
第陸の悪魔 ウェポンデーモン
元剣闘士の悪魔、あらゆる武器を生成し、千本の手で振るってくるぞ、めちゃ強いぞ
第漆の悪魔 ディスガストデーモン
元教師の悪魔、彼の魔法にかけられると頭に時限式の爆弾を植え付けられるぞ、20秒後に爆破だぞ
第捌の悪魔 ボイルデーモン
元料理人の悪魔その二、大きな鍋で何でも煮てジュレにしてしまうぞ、味見を繰り返すたびに強くなるぞ
第玖の悪魔 マグマデーモン
元処刑人の悪魔、全身にマグマを滾らせて襲ってくるぞ、火も吹いちゃうぞ
第拾の悪魔 アシッドデーモン
元銀行員兼ホストの悪魔、彼の持つ札束で叩かれるとサラサラに溶かされるぞ、後も残らないぞ
◆◆◆
「役者は出揃った――最初の試験は悪魔相手に制限時間を生き残ること……
試験開始!!」
脳内お花畑の僕は魔法から離れて生活は出来ません。
だるま先生、ごめんなさい。
なす