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赤碧玉

三つのランプ

作者: 切咲絢徒

 桜が舞い、すっかり暖かくなった季節。

 僕はいつもの散歩道を歩いていた。

 公園で遊ぶ子供とその友達。それを暖かく見守る彼らのお母さんらしき女性ら。

 僕はその公園を通りすぎて、あるところへ向かう。


 僕には好きな人がいる。けれどもその人と結ばれることはないと思う。

 なぜなら僕は彼女の名前を知らないし、性格もわからない。所謂、一目惚れというものなのだが、彼女は病人なのだ。



 彼女を初めて見たのは冬の寒い日。

 僕はある事情で今の散歩ルートを歩いていた。事情はなんだったか忘れたが、散歩ではないことは確かである。

 すれ違った人とぶつかってしまい、鞄の中身をぶちまけてしまった。

 僕は慌てて、荷物を拾う。ぶつかった人はしかめっ面で僕を見るだけで手伝うことはしなかった。

 そこに僕は反感を得たが、それも仕方ないとして片付けを始めた。

 薄っぺらい紙類を風に飛ばされる前に拾う。しかし、一枚だけ風に飛ばされてしまった。

 荷物をそこに置き去りにしてその紙を追いかける。

 上へ上へと紙が飛ばされる。僕は飛んだり跳ねたりするが、届かなかった。

 そんな中、視線を感じたので、その方を見る。

 真っ白な建物の窓から除く、人影。黒い紙を真っ直ぐに伸ばした20代くらいの女性だった。顔は白く、とても健康的には見えないが、その顔は美しかった。

 僕は彼女に見とれた。置き去りにした荷物も、飛んでいった紙のことも忘れて。

 長い間目があっていた気がするが、それは体感的なもので、客観的には短い時間であるはず。

 彼女は誰かに呼ばれたのか、慌てて視線をずらし、部屋の奥の方に顔を向けてしまった。

 しかし、すぐにこちらに向いて、手を振ってくれた。

 それが嬉しくて、僕はこの道を散歩するようになった。

 また、彼女に会うため。



 ◆ ◆ ◆



 という恋愛小説を読んでいた彼は本を閉じた。タイトルは「白い壁の中に」

 映画化もされ、クラスの読書バカに薦められたので渋々読んだが、何となく展開が読めたので読むのを止めた。

 どうせ、なにかしらハプニングがあって彼女と知り合って、彼女が余命1月とかで、云々というものだろ。

 そんな予想をした島田大誠(しまだたいせい)は椅子にどっしりと凭れた。

「はーあ、最近の小説は同じのばっか。もっと面白いのはないのかねえ。」

 彼の家には誰もいない。大誠は部屋のなかで響くほどの大きさで叫んだ。叫んだというより大声を出したという感じか。

「そうですか。では、こういうのはどうでしょう。私に願い事を言ってくだされば、その願いを叶えて差し上げます。」

「おおそうかい。だったら、その願いを叶えれる回数100回にしてくれ。って、うわ!誰!?」

 部屋の扉の前で白いワンピースを着た女の子が立っていた。10才くらいだろうか。背は大誠より遥かに低いが、顔は可愛い。とはいえ、大誠にはそういう性癖は持ち合わせていないので、恋愛対象からは外れた。

 大誠はすぐにスマホを取りだし、1、1、0の順に画面をタップしようとする。

「待って!私、あの、そういうのじゃないから、警察はやめて!」

 さっきの大人びた口調とは一気に変わり、焦った子供の口調になる。

 大誠は取り敢えず、話を聞こうとした。

「そういうのじゃないってどういうのなんだ?」

「私、天界から来た天使なんです。・・・待って!まだ通報しないで。・・・で、あの、あなたの願い事を叶えに来ました。」

「ふむ、なるほど、つまりは、迷子になった挙げ句、帰れなくなってこの家にあわよくば泊めて貰おうと?」

 少女は違う!と叫んだ。

「ほら、そんなひねくれた事を言わないでさ、願い事を聞かせて?例えば、お金が欲しいとか。」

 大誠はひどく冷静に、他は?と聞いた。

「ほら、あなた、モテなさそうじゃん?だから、彼女が欲しい、とか。」

 他は?

「え、エッチなことしたいとか。」

 少女はかなり赤面してボソボソと言った。

「え?なに、僕がモテなさそうって?あ、そう。初対面の人間にそれは、ないんじゃないの?」

 大誠はスマホを取った。

「待って!わかった、訂正します。だから、通報は。」

 少し泣きそうな少女の顔を見た大誠は、新たな性癖に目覚めそうになったので、すぐさま気を取り戻す。

「願いを叶えるって本当?変なセールスとかじゃなくて?」

 少女はまた、赤面したが今度のは怒っている顔だ。

「だから、本当だってば、仕方ないなあ、大サービスで一つ、叶えてあげる。ホントは3つまでなんだけど。」

 大誠は少し悩んで、こう言った。

「君が全裸で町内を一周してくる姿を見たい。」

 少女は火山の噴火のようにすぐに赤面した。

「そ、それは・・・」

「どうした?出来るんじゃないのか?」

「・・・」

 少女は泣き出しそうになっている。

 その顔を見て大誠は申し訳なくなって、

「冗談だよ。」

「良かった、如何わしいことをさせられるのならまだ良かったけれど、さすがに全裸で町内一周は無理だな。」

 なるほど、あわよくば、ではなく、確定で一発?ってことになっていたのか。あーあ僕にそういう性癖があったらな。

 大誠は後悔した。

 というか、このロリっ子は一体何者なんだ?このくらいの子がこんなに過激発言をするというのは。もしや本当に天使なのか?いや、待て、天使は清楚なはずだ。うん。こいつは天使を騙る悪魔だな。

「わかった、じゃあ、願い事は、ここに3万円を用意しろ。」

 大誠はかなり低めの金額を敢えて言った。

「はーい。」

 少女は指を鳴らした。

 すると、万札が三枚パラパラと降ってきた。

「マジかよ。」

 大誠は目を疑った。

 透かしを見る。テレビで知った、本物を見分ける方法もやってみたが、本物と証明された。

 いや、でも三万円くらいならどうにかできるか。

 じゃあどうしよう。

「あと何回俺は願いを叶えられる?」

「3回だよ。」

 3回か。

 大誠は悩んだ。

「有効期限は?」

「今日中。」

 今日中って、あと10時間程度しかないぞ。

 大誠はやはり悩んだ。

「叶えられる願い事の量を100個にするってのは無理か?」

「サービスできるのは1回だけ。」

 無理かあ。

 どうしようか。うーん。

「何でもできるの?」

「願い事の回数を増やす。願い事の有効期限を伸ばすのはできないけれど、他ならできるよ。」

「死人の復活は?」

「望むなら。」

 うーん。


 1時間が経った。

 少女は大誠の部屋の中をウロウロしている。

 じっとしてろよなあ。

「じっとしてくれ。」

「それが願い?」

 あぁクソ。

「なあ、巷で噂の異世界転生とかもできるのか?」

「すでに原作が確立されているなら。」

 オリジナルのは、無理か。

 じゃあ、異世界ルートは無しだな。

 金をもらうのもがめついし。

「最近の小説で、一風変わった作品とかある?」

「平成の中で?」

「そう。」

「カウント1」

 少女は指を鳴らした。

 すると、一冊の文庫本が落ちてきた。

 もっと他の叶えかたはないのか。

 タイトルは「鮭でも食え。」

 なんだよこれ。タイトルが一風変わってもなあ。

 この作品はとある小説家の短編集のようだ。

「これは後で読むよ。」

 さて、次だ。


 大誠は特に大きな事件、事故に遭ってもいない。

 故にトラウマもないし、後悔もそんなにない。

 だから、誰それを生き返らせて欲しいとか、あの日に戻りたいとかは一切ない。

 ということで、これから世界中の人間の生き死にに関わるようなことがないならば、大したことは願わないのだが。

「ねえ、彼女いるの?」

 少女はなんの前触れもなくとんでもないことを聞いてきた。なんだよこいつ。

「いーまーせん!」

「じゃあ、私がなってあげるよ。」

 ん?10才くらいの女の子と中学3年が付き合うぅ?学校でなんて言われるのかしら。せめて、あと4年ははやく生まれてほしかった。

「生憎僕にはそういう性癖はないんでね。」

「えー、つまんないー。」

 ますますなんなんだこいつは。

 あー。

「願い事が決まらないのだが。」

「10時間以内に叶えられないと、ヤバいから。」

 ヤバいってなにが起きるんだ?

「例えばなにが起こるの?」

「知らない。」

 どうやら本当にわからないらしいから僕は「鮭でも食え。」を読むことにした。


 ひとつ目の短編「鮭の骨って取りづらくね?」はタイトルとは大きく違って感動する話だった。タイトルも独り歩きしておらず、なぜ、こんなタイトルなのかがわかる。

 思わず涙してしまった。

「そんなに?」

 少女は問う。

「こんなに。」

 時計は4時を指していた。

 あと8時間。

「君の願い事はなんなの?」

 僕は少女に聞いた。

「うーんと、あ、なんだろう。」

「ね?すぐに願い事なんか出てこないんだよ。」

 しかし、少女は

「守りたい人が欲しい?とか?」

 なんて奴だ。ちょっとへヴィーだ。

 もう、これについては触れないようにしよう。

「あー。じゃあ、決めた。超能力が欲しい。」

「どんな?」

「透視とか?」

 少女は見ないでよ、というような表彰でこちらを見た。

「見ないよ。というか、その気ならもっとスレンダーな人を観るよ。」

「む、私のスタイルが悪いって言うの?」

「個人的には興味がないってことだよ。ま、取り敢えず、超能力頂戴。空を飛ぶとかはなくていいから、制御可能な読心と、透視と、念動力が欲しい。」

「二つに絞って。」

 えー。

「じゃあ、制御可能な読心。」

「オッケー。」

 少女は例のごとく指を鳴らした。

 が、特に変化はなかった。

「もう、読心できるの?」

「たぶんね。ただ、気をつけてね。心が読めなければ良かった、って言ってた人も居たし、その人は結局能力消すことを願ってきたし。」

 確かに、ババ抜きとかは出禁になりそうだな。

 皮肉なことに心を読むことで信用を失うのか。まあ、でも頻繁に読まなければ大丈夫か。

「で、最後の願いは?」

「その前に質問いいか?あ、これは願い事のカウントに入る?」

 少女は入らないと言った。

「なんで、僕の願いを叶えに来た?」

「私が、叶えさせてあげようと思ったから。」

 えー。気まぐれかよ。

「ほんと?」

「ホントだよ、なんでそんな嘘をつかなきゃならないの?」

 まあ、確かに。

 少女は、はやく三つ目を。と急かしてくる。

「やっぱりさ、あんなことや、こんなこととかしたいんじゃないの?望むなら相手も希望できるよ。」

 うわ、完全にデリヘルじゃないか。

 とはいえ、そういうのをしてみたいというのはあるが、いざ、できるとなるとやる気が失せる。少子化の原因はこれか。

 ていうか本当に気まぐれか?よし、心の中を覗いてやれ。

 大誠は少女の心を覗き始めた。


 結論は見なければ良かった。

 なんてことはないが、後悔はあった。

 少女はなにも考えてないのだ。

 大誠は人の心を読む経験はこれが初めてだが、それにしてもこれほど何もないのは失敗でなければ、なにも考えていない、しかない。

 あとは、無断で人の心に立ち入ったことへの罪悪感だ。

「ごめん、勝手に心読んだ。」

 大誠は謝るべきと判断した。

 少女は気にしてない風に

「いいよー。空っぽだったでしょ?」

 と言った。

 なんというかこの少女は何か、重いものを持っているのかも知れない。

 なにも考えてないというのは、笑うことに意味を持っていない。つまり、無理やり笑わされている?

 なんて、可愛そうなんだ。

 たった、2、3時間前にあった少女にこんな決めつけはもしかすると妄想かもしれない。

 大誠はもう一度少女の心を覗いた。

 相変わらず、なにもなかった。時刻は4時30分。

 大誠は少女を部屋に待機させた。

 自転車に跨がり、商店街に向かう。

 商店街には人がいる。


 到着した。時刻は5時。通りすがる、人の心を覗く。主婦のようだ。

『今日の夕御飯は何にしよう。カレーにしようかしら。いや、肉じゃがもいいわね。あれ?タイムセール?あ、お肉じゃない。決めた、今日は肉じゃがね。』

 心は読めた、次はスーツ姿の男性だ。

『今日は、課長に怒られた。最悪だ。だいたい、なんであれくらいで起こるんだ?』

 他にも読心を試みたが全て成功。

 つまり、少女はなにも考えていないのだ。

 再び大誠は自転車に跨がり、商店街を出た。 

 

 家に着いた大誠は決めた。

 自分の部屋で座っている少女を見下ろして、

「三万円は返す。だから、はじめのサービスをチャラにしてくれ。」

「え?金額を増やすの?それは、マナー違反だよ。」

 少女は少し笑った。

 その笑顔に大誠は痛みを感じた。

「違う。お前を俺の家族にする。」

 少女はえ?という顔をした。

「そういう性癖はないんじゃないの?」

 軽くあしらわれそうになったが大誠は負けなかった。

「お前さ、なんかあるだろ。」

 少女は黙った。

 少女は次に笑った。

「あるよ。そして、悲しいよ。でも、笑ってないとやってられないから。」

 違う。

 大誠は否定した。

 そんな聞こえのいい理由じゃないはずだ。もっと残酷で、鋭利なものだ。

 若いながらも大誠は自信を持った。

 天使とは天の使い。

 則ち、遣わせている天は残酷な宿命を持たせているのだ。

「笑ってないとやってられないから。なんて理由じゃない。笑うしかないからだ。そうだろ?」

 人間は喜怒哀楽あってこそ、人間らしい。しかし、この少女は喜怒哀楽のどれもがない。

 大誠は本能的に察知したのだ。

「全ての俺の願いを取り消せ。」

 少女は、マナー違反だよ。と再び笑った。

 もうその笑顔を見たくなくて、大誠は顔を伏せた。

 少女は指を鳴らした。

「これで、4つだな?」

 大誠は少女に確認する。

「もう、マナー違反だよ。だから二度と同じ願い事は頼めないからね。」

 構わない。誤魔化しで行う作り笑いより酷い作り笑いなんか見れなければ。


「一つ目、お前に感情を表す能力を与えること。」

 あくまで願うのは大誠であるから自分の願い事であるように言わなければならない。

 少女は黙って指を鳴らした。

「二つ目、この子が自分らしく生きる権利を与えること。」

 パチン。

 指が鳴った。

「三つ目、この子が俺の家族になること。但しそこに不自然は要らない。」

 指が鳴った。

「四つ目、この子が天使でなくなること。」

 指を鳴らす前に少女は泣いた。

 静かにはらはらと涙が流れる。

「ありがとう、お兄ちゃん。・・・私に気づいてくれて。私、笑うことしか許されてなかったから。だから、泣きたくても、顔が、無理やり笑っちゃうんだ。こんな願い事、ずるいよ。」

 大誠は、そうだなと笑った。

「何だかんだで6つも叶えてもらってるもんな。」

 少女は指を鳴らした。



 ◆ ◆ ◆



 朝だ。

 昨日の記憶が無い。

 ないことはないが、ほぼ覚えてない。

 昼寝しすぎたかな?

 僕は1階のリビングに向かう。そこには10才の妹が座っていた。

「お早う、お兄ちゃん。」

 僕はお早う、と返した。

 母さんはキッチンで、朝御飯を作っている。

 父さんはスーツを着ている。テーブルには一人分の料理があったであろう皿や茶碗があった。

「父さんは今日、早いの?」

「まあな、今日はちょっと早いんだ。でも帰ってくるのも早いぞ。」

 父さんはガハハと笑った。なにが面白いのかわからなかったけれど、僕も笑った。妹も笑った。母さんは笑ってはないが、微笑んでいた。

 そのなかで、一番きれいに笑っていたのは、妹だ。

 昨日やって来た妹の心から笑う姿は昨日のとは全く違うものだった。

 少し、都合のいいこともありますけれど、どうでしたか?

 こういう類いのものは初めて書くので、上手くかけているか自信がありません。

 よろしければ、感想を御願いします。

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