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式紙使い候補生、挑む。  作者: 久々椚
第一章  御符学
13/26

十一  シンキ と シキシ

 


 昼休みに集まったからといって、放課後の会合が無くなるわけでもないようだ。日課の報告会は、その日も通常通りに行われた。


 終業後のがらんとした教室で、実嶋と瓜篠さんと甲成先生が、晃一の席を取り囲む。

 瓜篠さんは開口一番、


「もう学校には慣れたか?」


 昼にも訊いたのにまた訊くか。


「まあまあだって」


 いつもの返事を、晃一のかわりに実嶋がいった。


「瓜篠、ほんとその質問好きだよね」


 からかい口調で笑いながら、肘で瓜篠の肩を小突く。


 瓜篠さんにこんな調子で接する生徒は珍しい。みんな瓜篠さんにはなぜか、さん付け呼びと敬語になってしまう。生徒を呼び捨てる教師でさえ、瓜篠にだけは「瓜篠くん」だ。


「まあまあ、ですけども……今日また慣れないレベルが上がった気が」

「ああ、新事実、発覚だぁらねー」


 甲成先生がいう。


「ともかくねー、これも慣れてもらうしかないよね。ほんとは、他の生徒とおなじでおいおい気づいてもらえばいいんだけど、でもはやめに言っとかないとで」

「そうですね」


 瓜篠さんが続きを引き取る。


「来月にはシンキもあって、校内も準備で慌ただしくなるだろうし」

「シンキ?」


 また新しい言葉だ。


「あ、知らなかった?」


 実嶋が指を動かした。晃一の胸元が温もる。式紙に字が浮かんだらしく、ぼんやりと紙の字が見える。

 やっぱりはっきりしないので、式紙を取り出した。


 ――神紙式


「あ!」


 知ってる。胸がどきっと跳ね、熱くなる。


「シンキ、って読むのか……」


 神紙式。養成校での、新入生の入学の儀式。毎年五月に行われる。新しく入った生徒たちが、式神を空に放る。護符ジャーナルで読んだ。


「シンシシキ、だと思ってた」


 たしか護符ジャーナルの振り仮名にもそうあったはずだが――。


「それであってる。シンシシキ」


 瓜篠さんがいった。


「ただ習慣的に、シンキ、って短く略してるだけで」

「だって、いいにくいろー、しんしぃき、って」


 甲成先生がいう、が、やっぱり言えてない。


「そうかあ……」


 式紙を見つめ、シンキ、と晃一はつぶやいた。神紙式。


「楽しみです。あこがれだったんですよね」


 護符ジャーナルの記事を読み返しては、想像にひたっていた。それが、現実に――


「うわあ、うれしいです。この目で見られるなんて」

「見られない」


 え?

 瓜篠さんの冷静な声にぶった切られた。

 え? なんで?


「当日の参加者は新一年と教師と代議だけだから」

「え、え? おれは?」

「だって阿久都、三年だもん」


 実嶋がいう。


「シキシも持ってないよね?」


 シキシ? 今度はなんだ?

 瓜篠が右手を動かす。また式神に字が浮かんだ。


 ――式神紙


「シキシンシ。これはシキシって略してる」


「神紙式に使う式紙のこと。あのー、予備科の卒業の時に指導教官から貰って来るんだけど」

「阿久都は外部生だから」

「これ持ってないと神紙式に出てもやることないし」


 ねえ先生、どうしよう、と、実嶋が甲成先生に目を向ける。

 甲成先生は困り顔だ。怪のことといい、晃一の存在はいちいちイレギュラーだ。見るからに困惑した様子で、


「こうゆうケースは……どぉしよう」

「あの……」


 晃一は声を絞り出した。やることがないなら、式に参加できないなら、それでもいいから。


「……せめて、見学だけでも」


 ひと目、見るだけでもいい。


「邪魔にならないような場所で、見させてもらうってわけには」

「それは、ちょっと」

「役がないのに式を囲うのは危ないぞ」

「うん。弾かれちゃうかも」


 ちょっと、意味がわからないが、問題なのだということだけはわかる。


「でも、どうにか」

「うーん、そりゃあ……」


 甲成先生がいった。


「……そうだよね、参加したいよねえ、三年生っても新入生にはかわりないし……」


 腕を組み、考え込んでいる。

 

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