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式紙使い候補生、挑む。  作者: 久々椚
プロローグ
1/26


 曇り空。もうすぐ雨が降る。こんな日の夜に、


 ――人が、消えたって。





「さむっ」


 その声に、友紀は振り返った。学校帰りの駅前広場。友紀の真後ろで、クラスメイトの朋佳が首をすくめて震えている。


「さっむ。あー超寒い」

「そお?」


 朋佳の大袈裟なしぐさがおかしい。友紀は笑いながら、右手のアイスにかぶりつく。

 

「四月だよ? 春だし。今日はあったかいよ」

「いや、あったかいけどさあ、あったかかったけどさあ、やっぱアイス食べたら冷えんじゃん」

「冷えるってババアかよ!」


 声を強めていってみた。すると朋佳ははじけるように笑いだす。やっべえわ、たしかにだわ、うちのおばあちゃんいっつも寒い寒いっつってるもん。

 朋佳があまりに楽しそうで、つられて友紀も吹き出した。広場に笑い声が響く。やべえって制服でこんなバカ笑いしてさあ、うちのガッコ、バカ校だと思われんじゃん。

 

 朋佳とは新学年のクラス替えで知り合ったばかり。ひと月前までは話したこともなかった。なのに、今では一番の友達だ。こんなくだらないことでいっしょに笑いあえるなんて。

 

 いや、いっしょに笑いあえるってわかってるから、くだらないことにでも無性に笑えてしまうんだ。

 

 アイスを食べ終える頃、空は暮れはじめていた。だだっ広い空間に風が吹き抜ける。

「昔はここ、おっきい噴水があったよね」

 友紀が広場を眺めていうと、

「昔って、ババアかよ!」

 反撃された。朋佳はけたけたと笑いながら、だってさうちのおばあちゃんもさいっつも昔々ってさ、でさ、こないだも、あ!

 短く叫んで、朋佳は前掛けにしたリュックをさぐる。なにか思い出したらしい。


「ガッコで渡すの忘れてた。おみやげ」

「なにこれ」

 差し出してきたのは、ぺらんとした封筒だ。中からさらにぺらぺらの紙が出てきた。七夕の短冊くらいの大きさの、白い紙。

「お符札(ふだ)?」

「そう。式紙(しきかみ)っての」

「あー」

 と、納得した風に相槌を打つが、よくは知らない。でもとりあえず、お守り的なやつだ。


 的な、というか、お守りだ。白い紙には墨字で、おまもり、と記してある。


「お参り行ったの? 神社かなにか」

「行ったんだって、神社かなにか。あたしじゃないよ? うちのおばあちゃんが。テラモトのおばあちゃんたちと」

「あー」

 そのテラモトのおばあちゃんというのも誰だか知らないが、やっぱり納得した風に相槌を打っておく。と、

「なんかねえ――」

 朋佳が神妙な顔になって、いった。


 

「――失踪だか誘拐だか、あったらしいじゃん」



「……知ってる」

 どきん、と友紀の胸が大きく弾む。

「それ、ニュースで見た」

 さっき、思い出していたところだ。雨降りの前に起きた、謎の失踪事件。

「でさ、心配してくれちゃっててさ。お友達にもどうぞ、って」

「おばあちゃん優しいね。うれしい。ありがとう」

 いただきます、とダッフルバッグのポケットにしまう。そして

「じゃあまた明日」

 というと、

「明日?」朋佳はにやにやと笑う。「うちらなんか約束してたっけ?」

「あ、そうだ」

 違った。言い直す。

「じゃなくて、来週だ」

「今日が何曜かもわかんない? やっば。友紀、ボケた?」

「ボケたんだよだってさ、うちらって」

「ババアだし!」


 はしゃぎながら、広場から下道への階段を降りる。手を振りあい、道を左右に分かれた。

 

 ここからは、ひとり。


 友紀の家は、F市中央駅から東へ進み、北向きに曲がってほどなくの場所。そのまま行ってもすぐに着くが、裏道を抜ければさらに早い。

 

 ――近道しちゃおう。

 

 夜には行くのをためらう路地裏だが、日が落ちきるにはまだ間がある。友紀は通りを渡り、路地へと入る角を曲がった。

 

 その時、なにかが見えた。

 

 角のビルの上方で、白いものがちらりと目の端をかすめた。見上げると、壁際でぼんやりと白く、揺れている。一瞬のことだった。足を止めずにそのまま進むと、それきり忘れてしまった。

 



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