無力
ポツンと佇む墓石に声をかける人が居た、
「…ありがとう、アーネストさん、貴女のお陰で俺は今、ちゃんと生きてます、一年前、貴女に助けて貰った事は一度たりとも忘れる事は有りませんでした…ありがとう」
死んだ恩人に手を合わせ礼を言う、それを続けて一年が経った
「瑛人さ〜ん!」
「はい!今行きます!」
彼女との暮らしにも慣れ、楽しい毎日が続いていた
「すみません〜アレの材料切らしちゃって、買いに行ってもらえますか〜?」
「またですか?はい、任されました!」
今日は卵かけご飯か、不思議な事に全然飽きないんだよなぁ…
そんな事を想い、町へと歩みを進める、もし、彼が町へと行かなければ…あんな事にはならなかったのかも知れない、しかし、一度動けば止まらない、動き始めた物語は、総て脚本家の掌の上、最悪の終わりへと続く物語は始まりを告げる…
「今日は卵かけご飯かい?ちょっと大きめのもの選んどいたからさ、アルマさんと一緒に食べな」
「肉屋のおじさん、ありがとうこざいます、アルマさんも喜びます!」
そう言い残し此処を後にする、気の良い人で卵を買う時にちょっと大きめのを選んでくれるのだ…と、そこで異変に気付く
「なんか…鉄?の臭いか?来た時になかっ……た…」
その刹那…目に映ったのは
「血…?え?な、なんで」
「賊だぁぁぁ!!に
そこで終わる叫び声、喉を潰されたか…或は…
「死…!?」
心臓の鼓動が速くなるのが判る、それに伴い呼吸が速くなる
「はぁ…はぁ…はぁ…逃げ…逃げないと…」
血の色と共に記憶が蘇る
「ぁ………」
自分に迫る人影、逃げないと、そう解っているのに、身体が言うことを聞かない
「やだ…やだ…やだ、やだ、やだ、やだ!やだ!やだ!嫌だァァァァァ!!!」
返り血を浴び真っ赤になった服の男が真っ赤な剣を振り上げるーーー
「うわッ……」
身体が転がる
「逃げろッ!」
「肉屋の…」
見ると…彼の腹からは何かが突き出ていて……まさか…俺を庇って…
「速く…逃げろ…!」
「うわ…うわぁぁぁぁ!!!」
俺は逃げた、賊から、血の臭いから、現実から、そして…
「ぁ…アルマさんッ!」
「瑛人さッ!?ハァ!」
彼女の掌から光が放たれ、寸分違わず俺の背後に居た賊を撃ち抜いた
「ヒッ!?」
人だったモノに空いた穴から止めどなく溢れる赤い血が彼が人だと理解らせる
「瑛人さん!逃げましょう!」
「こんな…なんで…俺ばっかり…こんな目に…!」
その瞬間、俺は気付かなかった、気付けなかった、背後から迫る刃に、しかし…アルマさんは気付いた気付いてしまった
次の瞬間、また押された、そして俺の眼は捉えてしまった、俺を庇ったアルマさんをーーー
ーーアルマさんを切り裂いた賊の刃を
「あぁ…あぁッ…!……なんで…」
辺りに鮮血が飛び散る、俺の身体は更に血塗れになった
「ごめんな…さ……私……貴方を……また…最期まで護れなかっ……」
なんで…俺が…俺のせいでアルマさんがッ!!!
「うわぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァ!!!!」
そういう間に賊は俺へと迫る
「良いよ、殺せよ」
賊は歩みを止めた
「アルマさんにしたようにッ!みんなにしたみたいにィ!俺を殺せぇぇぇぇぇぇぇぇぇッッッッッ!!!!!!」
賊は剣を振り上げーーー
あぁ…死んだ、ごめんなさいアルマさん、アーネストさん…肉屋のおじさん
振り上げたまま硬直した、そして口から噴き出た血が俺の顔を濡らした
「大丈夫か!?全員!此処は私に任せ、賊の掃討を行え!」
あぁ、俺は…助かったのか、助かってしまったのか…
見てくれてありがとうこざいます!
不死って一体何なんでしょうか