ある日の生徒会室での出来事。《Another Story》
「昨日頼んでた仕事終わった??」
「えっとね、あと少しで終わるからちょっとだけ待ってもらってもいい?」
「もちろん大丈夫だよ。というか、急に頼んじゃってごめんね。忙しかったよね?」
「ううん、大丈夫。全然忙しくなかったし」
嘘だ。昨日は沢山宿題が出てたらしいし、他の仕事も沢山あったのも知ってるよ。
「でも、陸上は行かなくても大丈夫なの? 生徒会のほうによく来てるけど……」
「うん。今日は短距離の練習は自主練だし。それにこれでも俺、副会長だしね。ある程度は生徒会優先でしますよ」
また嘘をつく。
私知ってるよ。
今度の週末に大会があること。
生徒会を優先するほど思い入れがあるわけじゃないこと。
部活に行って、走っている時の方が楽しんでいることも。
でも、頼まれたら嫌な顔ひとつせずにしてくれることも。
だって君は優しいから。
私は君の優しさにいつも甘えてしまう。
お互い生徒会の仕事が多いはずなのにいつも決まって君は必ず助けてくれた。
私が生徒会長選挙の演説文を考えている時、君はなかなか内容を決められない私のために何時間も付き合ってくれた。
中学の時、ヤンキーに絡まれてた私を見て助けに来てくれた君は、彼らに一方的に殴られていた。
でも、君が彼らより強いこと知ってた。
私が今後彼らに目を付けられないために君は手を出さなかった。
君はいつもわがままな私に優しくてしてくれる。
君のおかげで私は楽しく毎日を過ごしていられる。
君といられる時間が私にとって一番幸せな時間だよ。
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「はい、出来たよ。データ、USBに移しといたから」
「ありがとう!よかった~。これがあれば明日のミーティングをスムーズに進められるよ。本当にありがとう!!」
「どういたしまして。」
「いや~シュウはやっぱすごいね。パソコンとか音響扱うの本当に上手だよね」
「そんなことないよ。ルミだって普通に出来るじゃん」
「そりゃ、少しはできるよ。けどシュウ程じゃないもん。シュウの方が圧倒的に上手だし、丁寧だし、早いもん!」
確かに私でも出来る。でも、君と一緒に仕事をしたいから。君と少しでも一緒にいたいから。
「...ありがとう。でもなんかそれ、牛丼かなんかの売り文句みたいになってる。」
「もー!人がせっかく褒めてるのに!!」
君にこの想いを伝えたい。でもそれだけは出来ない。私には君に想いを伝える権利がない。だって……
「悪かった、悪かったって。というか、そっちこそ時間大丈夫なの? 今日、彼氏と帰る約束してなかったっけ?」
「あっ、忘れてた」
「やっぱり。そろそろ時間でしょ?早く行きなよ。彼氏さん待たせちゃかわいそうだよ」
「そうだよね。じゃあ行くね。今日は本当にありがとう!お疲れ様!!」
そう言って私は生徒会室を出ていった。
私は教室に置いていた荷物を取りに行って、そのまま校門へ向かって行った。そして1人のまま家に向かって歩いた。
「……君以外を好きになれるわけないじゃん」
ボソッ。
私は1人の帰り道で誰にも聞こえない声でそう呟いた。