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3.姉の決意

 長い沈黙。この裁判所から立ち去りたいのだけど、どうやってこの場から立ち去ることができない。証言台の周りに見えない壁がある。この神様はずっと黙ったまま裁判官の席に座っている。ずっと裁判官の高い場所から私を見ている。嫌な神様だ。


「あの、どうしたら良いのですか?」と私は諦めて、神様を見上げる。


「だから言ったじゃない。カトレアとウィリアム王子の恋を成就させるの。王子の花嫁の領地が他国に蹂躙されるなんて、国として体裁が悪いでしょ。だから、二人が結ばれたら、アウンタール子爵は防衛されることになる。そうすれば、カトレアも死なずに済むの。そして、幸せに王子と暮らすのよ。それでめでたし、めでたしよ」


「じゃあ、私がピアニー・シュピルアールさん……となって、死ねばよいのでしょうか?」


「そんな単純な話じゃないわ。あなた、本当に鈍いわね」


「す、すみません……」


「普通に考えてよ。あなたがいなくなったら、王子の次の婚約者はすぐに決まるわよ。次期国王なのよ? そして、辺境の子爵と王子が婚約することになるなんて、自由恋愛しかないじゃない。そして、自由恋愛に必要なものはなに?」


 自由恋愛に必要なもの? 恋愛をした経験のない私には分からない。


「障害よ。二人が乗り越えるべき障害が必要なの。ここまで言えば分かるかしら?」


「私が、二人の恋愛の障害になる? ピアニー・シュピルアールさんが王子様の婚約者だから……」


「あなた、本当に鈍いわね。簡単な話よ。ピアニー・シュピルアールとしてあなたは、カトレア・アウンタールを徹底的に苛めるの。あなたは悪役令嬢になるのよ。残忍で、冷酷で、気高く、男を惑わす、悪女になるの。ピアニー・シュピルアールに夢中な王子の千年の恋が覚めるほど冷酷な仕打ちをカトレアにするの。侯爵令嬢という高貴な身分でも糾弾を免れることができないほどの悪事を」


「そんな……。でも、カトレアは私の妹なのでしょう?」


「安心して。妹さんは前世の記憶を失っているから」


「じゃあ、そのカトレアさんが私の妹だという証拠がないじゃないですか。別々の家なら、血のつながりもない!」


「でも、あなたは、いえ、黒部春子は、一目見ただけで、カトレア・アウンタールが間違いなく自分の妹であった黒部秋子であると分かるわ。神様である私が保証してあげる」


「……」


「どうする? あなたの大切な妹は、このままだと死んでしまうわ。でも、あなたが頑張れば、妹は死なず、幸せに暮らせる。まぁ、そうなったら、あなたは自らの悪事によって裁かれるのだけどね。どうする?」


「私が断ったらどうするつもりですか?」


「何もしないわ。ただ、黒部春子としての記憶を全て忘れてもらうだけ。そして、あなたは貴族の中の貴族、シュピルアール侯爵の一人娘、ピアニーとして幸せに暮らすわ。素敵な王子様とそのまま結婚し、幸せになる。めでたし、めでたし。アウンタール子爵領が滅び、その子爵の娘、黒部秋子……失礼、カトレアが惨殺されたことを知っても、あなたは気にも留めないわ。だって、もう他人なのだから」


秋子と他人となる……。


「それでどうする? 選びなさい。妹を見捨てるか、妹を助けるか」


 そういう言い方って……。酷い。


「どうしたの? 迷っているの? 泣きそうね。でも、私の言い方が悪かったわね。言い直すわ。自分が幸せになるために妹を見殺しにするか、妹のために頑張るか」


「……」


「え? 聞こえないのだけど? はっきりと言いなさいよ」


「妹を助けます!」


「そう……。あなたならそう言うと思っていたわ。それじゃあ、あなたに二つのプレゼントを贈ることにしましょう。1つ目は、半年のモラトリアムをあなたにあげる。妹のことは半年間忘れて、私の世界、|Il Teatro Grecoイル・テアトロ・グレーコを楽しみなさい。不自由のない侯爵令嬢としての日々を満喫してね。

 そして、もう一つのプレゼント……。それは、私の加護。ピアニー・シュピルアール。あなたは世界に愛される。海も山も空も、花も木も小鳥も、獣も人も、全てが貴方を愛するわ! あなたは世界から愛されるでしょう」


「あなたは世界から愛されるでしょう」


「あなたは世界から愛されるでしょう」


「あなたは世界から愛されるでしょう」


 神様の声が何度も頭の中で響いていた。そして、目がつぶれてしまうかと思うくらいの強い光があった。私は意識を失った。


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