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ファイモティックフリート ~ほーけークマだって宇宙に行きたい~  作者: 北佳凡人
1章

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2話


 バスがターミナルに到着した。


 千歳港は、支笏洞爺国定公園に続こうかという、切れ目が不明な森林の外れ側にある。かつての演習地に建設された広大としかいえないどでかい施設だ。地上の陸地を結ぶ航空機用空港とはモノレールで繋がっていて、娯楽施設も併設される。写真を撮って良し、デート良し、買い物良しの、人気観光スポットでもある。


 ステップを降りて、コンクリート歩道の地面に足をつける。風が気持ちいい。新鮮な空気をたっぷりと吸い込む。人気ボカロの声が出発ゲートのアナウンスを告げてる。頭より高い位置のエアスクリーンに投影された3Dキャラが、出発順の便名チャートパネルをかわいく指さす。オレの目指すゲートを上から3番目にみつけ、時間が差し迫ってることに気づかされる。


 ビジネスマンや家族連れ。思い思いに歩く人ごみを避けながら、小走りで進む。ゲートが並ぶ巨大吹き抜けのフロアまで20分ほどかかった。バイトの面接先に指定されたのがここ。指定された場所のどこかで面接の人が待ち構えてる。


「初めてだなぁ。ゲートで面接ってのは。バイト内容は清掃か販売ってところか。説明はなかったけど時給高いんだよな」


 ジャンパーの内ポケットに指をいれ、なくさないように仕舞っていた封筒を取りだす。【航宙清掃販売企画】とプリントしてある封の口を広げて中にあるチケットを確かめる。手に取った白く長細いプラスチックの入場チケットには、今日の日付けと時間、【GATE12】の文字が刻印されていた。


「えっと、8、9、10……あそこか」


 入り口がチケットと同じ【12】であることを確かめる。アーチ型の検査門には、警備係が配置されていた。危険物を不法所持していないか。指名手配犯ではないか。そんなのを調べるセンサーのついた門構え(もんがまえ)みたいな機械。さらに不行届き者を見逃さないよう目つきの悪い警備員。厳重すぎる入り口に、順番を待つ人たちが行儀良く並んでいた。ゲート12にできた列の一番うしろに加わわった。


「おう、ニイちゃん見ない顔だな?」

「はい?」


 前にいた男が肩を怒(いか)らせアゴを突き出す。因縁か。だけど威嚇してる風ではないからこれがこの人の自然体なのだろう。どう見ても”その道の人”。このタイプの人種との接近遭遇は生まれて始めてのこと。

 見ない顔? 常連とかいう意味か。

 ゲートというのはそんなことが起こりうる場所なのか?


 どう答えようか迷ってると、列にいた他の人々集まってくる。取り囲まれてから分ったのだが、みんながみんな同タイプのイカツイ人種。うへ、あの人なんか顔に向う傷ある。オレ、ここにいていいのかな。


 だが、退路はもうない。


「てめぇバカか。新人募集の面接があるとか、大将がいってたろうが」

「んだと? てめぇ、オレのどこがバカだ」


 理解が及ばない理由から言い合いが始まる。血の気の多い連中だ。掴み合いのケンカもおこりそうだ。おっ、警備の人が気づいてやってくる。争いを納めてくれそうだ。助かった。


「おめえら、カタギ衆に迷惑かけてんじゃねえ!」

「す、すんません!」

「すんませんアニキ!」


 警備の人の一喝で、イカツイ二人がしゅんとなる。頭を掻きながら深く下げて何度も何度も謝ってる。


「わかってくれたか」

「へぃっ!」

「なら列にもどれ」

「へい」

「すまんかったな若い人。あんたもそのうち馴染むさ」


 ぽんと肩をたたかれた。

 背中に変な汗が流れて鼓動が早まる。オレ、このゲートの先で面接受けるんだよな。どんな会社だ。大丈夫なのか。引き返したほうがいいとオレの野生が警鐘を鳴らす。獣は、走る獲物を追いかける習性があるっていうからな。刺激してはならない。慌てず歩いて急いで逃げろ。


 逃走計画が悟られないよう平然を装いつつ、相手の顔色から撤退のタイミングを測ってると、ぽん。背後から肩に手がおかれた。汗量が2倍、WARNING度数が4倍に跳ね上がる。遅かったか。思いっきり息を吸って肺に酸素をたくわえる。

走り出す準備に軽く膝を緩めたとき、耳障りな音声がオレの名前を呼んだ。


「桜岱 幸連 (さくらたい ゆきや)くん、じゃないかあ? 」


 そこにいたのは背の高い男。元同級生の小黒部 夕一(おぐろべ ゆういち)、別名【沈黙の洗剤】だった。ほっとしたものの、1秒後には嫌悪感が膨れ始めた。


 小黒部 夕一(おぐろべ ゆういち)。ハイスクール在籍中、最も会いたくない男だとつぶやいたところ、おれもわたしもと【イイネ】で溢れかえった評判のメガネだ。あれがオレの唯一のモテ期だとは言うまい。こいつが現れると、誰であっても、おしゃべりがストップして自然解散する流れとなる。その能力はここでも発揮されており、イカツイ軍団さんたちの口元がへの字に閉じらてる。


「君がどうしてここに? ぼくはねぇ、あれに乗るんだよ。そう、ロケットさ。銀河をでてね、他星系に見つかったばかりの地球型惑星を探索する任務に選ばれたのさ。クマ型DNAを持つぼくにね。ああ、君もクマ型だったね。だけどハイスクールを落第……失敬。エリートにしかできないことだからねえ。優秀だってのもつらいよねぇ」

「あっち、行けよ」


 無表情に答えたつもりだったが、高まっていたアドレナリンのせいで声が震えた。

 いましがたの強面の方々のやり取りを見てなかったのか。警備員のアニキがにらんでるのですが、キレイに無視してる。ある意味すげぇ男だ。


「惑星の名前を知りたいかい? ファイモットて言うんだ。可笑しいだろ?」


 指に挟んだチケットをひらひらさせる。オレと同じ入場券だ。どこかのゲート番号が書いてあるのだろう。ロケット出発の。


「聞いてねぇし。夢の水に現物か」

「馬の耳に念仏って、言いたいのかな? 用法も違うし相変わらずだね桜岱 幸連 (さくらたい ゆきや)くんは」

「うるさいわっ」


 コイツのおしゃれ感覚は目を引くものがある。その代表が、コンマ1の視力を補うのに愛用してる片眼鏡(モノクル)だ。辞書やらネット検索もできる拡張機能付きらしいが、レンズは趣味の悪いゴールドで、肩のフックへ繋いだ鎖は海賊モチーフのホネ模様。片眼鏡(モノクル)は、彫りの深い西洋人だから似合うのだ。平たい顔の東洋人顔には無理がある。悲しい努力の痕としてまぶたと頬にアザできてた。


 小黒部 夕一(おぐろべ ゆういち)が、目元にかぶった前髪をきざっぽくかき上げた。


「それ、ジャマならカットしろよ」

「ふふん。僕のヘアスタイルにケチをつける気かな」


 スポーツも勉強も得意な文武両党の好男子である。内面を知らなければ。自身評価が高くてうぬぼれが強すぎるから生徒からの評判は悪い。顔立ちと素行が良いから、教師の受けはすこぶるよかった。おそらくだが、ミスも挫折も知らないのだろう。もっとも、思い通りにならないことがあっても絶対に認めない性格かもしれないと分析してる。


 オレのことを宿敵と決めてるらしい。理由は不明だが、コトあるごとに絡んでくる迷惑なやつだ。


 ダブりで学年差ができたときは、やっと開放されると喜んだものだ。二年に上がったとたん先輩風を吹かせだし、ウザさがレベルアップしたのにはがっくりきた。クラスに存在するだけで落ち着かなかったのに、一年の教室に二年生が押しかけてくる居心地の悪さはない。生産的なアドバイスならともかくムダ話しかしないのだ。


 曰く、天北咲来(あまきた さくる)と同じ宇宙パイオニア学を学んでる。

 曰く、本日の2年3年合同授業はの後ろに座った。

 曰く、彼女はいい匂いがする。

 曰く、彼女の家には3匹の犬がいる。


 三つ編みで眼鏡の天北咲来(あまきた さくる)は、お隣のお姉さんだ。執着するなら勝手にすればいい。自由に接近すればいいのに、なぜ、こっちにフってくる。オレと彼女はなんの関係もない。何度も言ってやったものだが、そういうときのこいつは、ジッと見つめてくるだけだった。


 盗撮合成したツーショット写真まで持ち出して、ストーカーの自己申告としかいえない言動。クラスの端まで響き渡る声。(年下の)同級生たちは眉をひそめて、オレを共犯者扱いしてくる始末だ。やむを得ず、こいつを避けるため休み時間ごと学校中を転々とする羽目となった。


 こいつが卒業してから平穏は言い尽くせないほど幸せな時間だった。金(ゴールド)片眼鏡(モノクル)は、忘れていた嫌なことばかり思い出させる。


「最新鋭の宇宙船に乗り込んで、亜光速で銀河を渡るんだ。一生地上から離れなれない君には無縁の仕事さ。もちろんだが、僕一人ではないんだよ」


 自分でいうのもなんだが、オレはけっこう温厚な性格をしてる。たいていのことは、笑って受け流すし、時間がたってから気に病むことも少ない。だが今朝に限ってはオレはずっとナーバス君。バイト面接に神経をとがらせてるときに、エリート自慢は許せまじ。しかも、よりによって憧れのロケットで宇宙の仕事ときたもんだ。


 夕一(ゆういち)効果のおかげで、いつの間にかイカツイお兄さん連中が気にならなくなっていた。というより完全に忘れていた。世界で一番嫌いな人間も役にたつことがあるようだ。兄さんの興味も、夕一(ゆういち)に集中してる。これを利用しない手はない。


 あだ名の多いヤツである。朝市、イマイチ、言うイチ、たぁー、たいち……。嫌われ要素が充実してるうえ、【夕一】という名はもじりやすいのだ。


「それはよかったな。ぜひとも偉業を成し遂げてくれよ。闇市(ブラまけ)くん」


 【夕闇の一(市)】の闇市を英訳すればブラックマーケット、略して”ブラまけ”。名前と生徒向けの暗い【闇】部分の顔とネガティブな【負け】をコラボした、詠み人知らずの見事なキャッチコピーだ。最も毛嫌いするあだ名を言い放った効果は劇的だった。真っ赤になって目を見開き『かんかんに怒る』を動画変換したような顔に豹変。片眼鏡(モノクル)が外れて、胸ポケットにスッと落とすという芸の細かさも披露してくれた。


「おみごとっ!」


 拍手してやった。列を崩して事態を見守っている常連たちも釣られてパチパチ手を叩く。写メする兄さんもいる。ブラボーな反響に、闇市(ブラマ)の怒りのボルテージがみるみる上がっていく。想定以上の反応でオレはうれしいよ。髪の毛が怒りで逆毛立つのって、映画やアニメでの感情表現の演出だとばかり思ってたが、実際に起こることが実証されたわけだ。シャメする兄さんの手が歓喜に震えてる。これならば不自然にならずに立ち去れそうだ。


「きさまぁ。ダブりのくせにエリートを馬鹿にするかぁ!」


 顔から余裕のイヤミ笑みが消えた夕一は、罵りながらも無駄のない優雅な右手で襟つかもうとしてくる。半歩ひねって避けたが、合わせるように踏み込んできて今度は反対の手で殴ろうとする。最初のはフェイクか。スポーツ万能が伊達でないのはわかるが、怒ったときくらいは無骨のがカッコいいぞと思う。朝の母親に次いで二度目。厄日か。本日は暴力が花盛りらしい。


「その程度の攻撃」


 とり立てて運動をしてないオレだが、家庭の事情のせいで蹴る殴るへの反応は敏感だ。軽く身をひねり、闇市の腕をつかんで投げる……っていう脳内イメージが瞬時に完成。光よりも高速なシプナスの命令が、大脳から小脳へ送り出される。


「軽く身をひねり……ングァ!!」


 腹に、いきなり痛みが走った。これは、母親にやられたダメージの残滓。朝のやりとりはこの瞬間の伏線だったかっ。


 身のかわしに失敗したオレの顔に、ヤツの左ストレートが決まったらしい。

 そこで意識が無くなった。




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