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9話



「説明をはじめるね。部隊構成は、母艦と護衛艦二隻からなる調査先遣隊」

「あんたな……」


 一緒になって面白がってた女医は、強引に話をもどそす。

 女子の間を行き来する男ども、イケメンに群がる女子グループ。活動を再開した連中もいるのだが、ミーティングプレイスには、いまだ、騒ぎの余韻がわだかまる。


「ん? 聞かなくてもよかった?」

「ぐ……聞きたいです」


 情報を人質にとられて社交性に乏しいオレに、従うほか道はない。


「うんいい心がけね桜岱 幸連(さくらたい ゆきや)

「……」


「コホン――それでね、乗組員や調査機関、あたしのような医者も含めたのがバックアップスタッフっていうの。メインとなるのはあなたたちで、男女80人ずつの160人ね。ほんの17光年先にある惑星に行って、コミュニティを築いてもらうことになる」

「”ほんの”って17光年が?」

「赤色矮星TRAPPIST-1は40光年だったよ。それよりはずっと近い」


 サイド客席のビッグモニター群には、移住に成功したり実行中の惑星が入れ替わりで映し出されてた。もっとも身近な火星や、木星の衛星ガニメデからはじまり、積年の末、つい20年ほど前に開拓に行き着いたTRAPPIST-1まで。地球から約1400光年離れたケプラー452bへも先遣隊は向かってるが到着は1200年後とあった。生きて着けるのかそれ。


「調査とコミュニティってのは、つまり、いわゆる…………屯田兵?」

「パイオニアチームって言いなよ」


 母親から教えられたんだけどな。『あんたには、この地を開拓した屯田兵のご先祖の血が流れてる』って。

 鍬とシャベルでもって原生林を開拓して耕作域を広げて大地を耕す。昼夜、畑を荒らす鹿やヒグマと闘ってイナゴの襲来に怯える。作物はなかなか育たず、食うや食わずで、撤退と死亡で人の数と精神がすり減っていく。オレの生があるのは、厳しい暮らしを生き残ったご先祖たちがいたおかげってことだ。


 宇宙船で跳んで、惑星開拓の労働部分はロボットに任せる現代(SF)からエラくかけ離れた、土臭い生き方だといえる。

 まぁ感謝は捧げる。だが柔なオレには無理な。


 女医が続けた。


「勉強してもらうこと、やってもらうことはたくさんある。宇宙工学、航宙理論、探査艇操作、艦船メンテナンス、医学、細菌学、地質学、心理学、環境学……」

「マジか? 何年もかかるだろ」


 頭痛してきた。


「どんなに優秀でも短期間じゃ無理な相談ね。だから、頭にチップを埋めて即席専門家を誕生させるってことになるの。知識は利用するものであって、覚えることにエネルギーを費やすのは無駄っていう方針だから、したがってもらうよ」

「うへー。とうとう、脳をいじくるのか」


 頭痛がする。大脳辺縁系の海馬が悲鳴をあげたのは錯覚ではないだろう。


「それと、現実には頭を働かせて身体を使う場面が多いし、艦内や宇宙空間特有のの仕事も覚えてもらうから訓練も実践もきついよ。覚悟しといて」


 宇宙の仕事か。それは雑用でもなんでもいい。望むところだ。


「そして、目下のところ重要となるのはペアリングね」

「ペアリング?」


 2台のデバイスを通信接続設定するってか。音楽ツールとイヤフォンとかの。オレはワイヤレスでなくコード派だが、それと惑星探査がどうつなががる。まさかと思うが、個人個人にアンドロイドをくれて意識回路操作(コントローラー)するってのか。脳をいじられても少しなら許そう。


「異性の相手をみつけて、番になるの」

「つ、ツガイ?」


 銀河標準語かな。これは耳にしたことのないフレーズだ。


「理解してないようね桜岱 幸連(さくらたい ゆきや)。ペアリングも番も、動物用語に近いけど、常識の範疇よ」

「悪かったね」

「分かりやすく言い換えるなら。そうね。夫婦になって後尾するのよ」

「はい?」


 いま、淫らな言葉が発されなかったか。


「後尾よ後尾、こ・う・び」

「こうびひぃ――!?」


 声が大きく裏返る。何人もが振り向いてオレをみる。

 視線がより冷ややかになったのは気のせいではない。


「後尾って、アンドロイドと?」

「人間と。そんなプレイがしたいなら夜の街へいきな。女の子と子供をつくるの」

「子供って、オレが?」

「キミと誰かが。当たり前でしょ。そのために男女同数を募集したんだから。星に降り立つ最初の人類となって、子孫繁栄の礎を築くのね。桜岱 幸連(さくらたい ゆきや)


 後尾。後尾。後尾。後尾。カップル。夫婦。子孫繁栄。マウス。ねずみ算。

 目の前で繰り広げられるナンパ大会の謎が解けた。


「じ、実験動物ですか!」

「人口増での発展は基本中の基本。批判はあるけど、そうやって精力、いえ、勢力を拡大してきてるんだから。それにこれはすいぶん人道的なほうなんよ」

「いま、精力っていったよな」


 この会場にいる、年令はオレとそう変わらない新人さんたち。こいつら、みんな、その、子作りするために集められたのか。


 周りを見渡せば、かっこいい男可愛い女には多くの異性が群がってる。大いなる出立前のディスカッションにしては、くだけすぎると思っちゃいた。必死な形相は、優良物件をモノにしようって魂胆の表れだったわけだ。


 たしかに惑星探査は長丁場にちがいない。一生を捧げることもありうるし、途中で命を失う危険とも背中合わせだ。ニュースやTVドキュメントはよくみる。情報ではそのへんの主婦に負けない自信がある。


 それはいいとしても、子供をもうけるってのは、別次元の話だ。AVから得たエロ知識の豊富さに胸を張れるが実体験はないオレだ。恋愛経験もほぼゼロの男には300階マンションから落とされたパック豆腐ほどの衝撃がある。入植ってのは夫婦を募集するものだとばかり思っていたのだ。100歩ゆずってカップルができるとしても自然な流れでの恋愛から生まれるのであって、集団見合いもどきで即席夫婦をつくるのなどとは、誰が思い至る。想像の範疇の外の外だった。


「京極は、力勝負の競争に敗れて怪我したのか?動物のメス争いみたいに?」

「うんにゃ。あれは自業自得ね」

「自業自得?」

「可愛い女子を勝手にランキングしてトップ1から順にアタックしてったんだ。ワースト女子らが腹を立ててね。で、連れて行かれて………」


 あわれだ。


「あの子、頭はいいんだけどね。策を捏ねすぎたんだなぁ」

「策?」

「女子会のSNSにハッキングして、仮名で口コミを投下してたのよ。誰それは、京極くんが好きだってね」

「すげぇな、それ」

「仮名ってのが、ミヤコキワミ」

「ミヤコキワミ……(ミヤコ)(キワミ)。苗字を分解して造った名前か」

「そんな子は、いるわけないからかんたんにバレて」

「……ランキングアタックとあわせて、過激な制裁を受けたと……ん?そこまでわかってて、女子たちにはお咎めなし?」

「ないよ」

「女だから?」

「いんや。怪我くらいすぐに治るし、惑星についたら、自治組織を立ち上げていくの。いまのうちから、うちら外野は傍観者になっておかないとね」

「エスカレートするぞ?」

「大丈夫でしょう。きっと」

「なんか不安だな」

「他人事みたいなこと言ってるけど、キミのことでもあるんだからね桜岱 幸連(さくらたい ゆきや)

「オレが、なに?」


 はあ――――――っと、とんでもなく長いため息を吐いた女医。


「遺伝子の研究を重ねて、ずいぶん前から人間には動物の優れたDNAを取り込んでるってのは、もちろん理解してるよね? 病気になりにくくて怪我の回復も早いし。とくに今回は、強靭といわれる君たちクマ型DNAで統一してる。だから基本、誰とくっつこうが問題はなってことなんだけど」


「それはまあーーーーって、オレも相手を見つけなきゃいけない……と?」

「さっきからそれを言ってるつもりだけど……」

「誰とくっつけというんだ。こんな状況で?」


 外に出ていた人たちも、少しずつ中に入ってきている。名指しでオレを避けた4人組も戻ってきてた。女子はみんな、入り口近くから動いてない女医とオレ、特にオレには近寄ってこない。200人くらいじゃ埋め尽くすに足りないミーティングプレイスだが、オレ周囲だけやけに風通しがよかった。


 脱落したと決め付けてなぐさめの目を向けてくる男ども。

 そして性犯罪者でもみる目つきの女どもがいる。


 こんな、四面楚歌な状況で。


「みつかるかっ」

「まあ……検討を祈るよ」


 優しく頭をたたくんじゃねぇ。



「碧」14歳。さきほど65歳の老婆に転生しました!

も同時投降してます。そっちのほうが人気のようです……


http://ncode.syosetu.com/n1422eg/

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