表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

ななぐさのホラ話

闇の五つ目

観覧車を題材にしてみました。

ホラー?2作目となります。

一応これで、夏のホラーイベントすべての噂を網羅したと思います。

実力不足で申し訳ございませんが、いろいろ勉強して次につなげたいと思います。

よろしければ、読んでください。

初めは単なるいたずらだった。

よくあるふざけあい。

中学生になって、最初の夏。

僕は友達と4人で、ただ何となく過ごしていた。


宿題などする気もなく、部活もしていない僕たちは、夏休みという時間をどう過ごせばいいのかわからなくなっていた。



「よし、肝試しをしよう」

悟がそう提案してきた。


「やめようよ。怖いよ」

臆病な僕は、その手のことが苦手だった。


「だれが脅かす?」

徹の意地悪そうな顔が一層凄みを増していた。

誇らしげに、その手の傷を見せつける。

大きな傷は、昔大型犬と戦った彼の勲章だった。


そして、それを見せつけるとき、決まってそれは僕を驚かせて楽しむときだった。


「というか、全員で脅かそうぜ!」

俊彦の提案にみんな賛成していた。


そう、僕の意見は無視した形で。


それから色々と作戦が練られていき、ついにその方法が決まっていた。


「よし、じゃあお前声出せ」

徹が僕に指示してきた。


「なんで?」

僕は何でも僕に命令する徹が少し嫌いだった。

少なくとも理由に納得しなければ、協力などするもんか。

明らかな態度は、徹に不快感をもたらしていた。


「だって、お前声変わりしてねーし」


ぐうの音も出なかった。

確かに僕だけが声変わりをしていなかった。

まだ、子供の声のままだ。

早くみんなのように、低い男らしい声が出したかった。


「わかったよ。じゃあ、なんていうんだよ」

僕は、もうやけになっていた。


「そうだな・・・。あまり長い言葉だと、怖さもないし・・・」

悟が考え込んでいた。

いたずらを考えさせれば、悟の右に出る者はいない。

天性のいたずら者だった。


「だして・・・・。だな。これに決めた!小さい声で、切なそうに」

注文が多かった。


「そんなのわかんないよ。どういう感じ?」

僕は具体的な状況が分からず、切ないという感じが理解できなかった。


「例えば、出たくても出れない。でもしなくちゃいけないことがある。目の前にはそれを可能にする人がいる。そんな感じかな?」

俊彦が具体的に教えてくれていた。


「うん、そうそう。そういう感じ」

悟が満足そうに頷いていた。


僕はできるだけ、イメージして、その言葉を出していた。



「出して・・・・・」


自分でも思った以上の効果で、その声は出ていた。


小さいころ、納屋に閉じ込められた記憶。

悪いことをして怒られたとき、泣き叫んでも、助けてくれない。

ただ、頼むしかなかったあの時の気持ちを言葉にのせていた。


「よし、そんなところだな。録音いいか?」

徹が確認していた。


「もうばっちり」

悟が携帯を片手にもって、ドヤ顔でサインを送っていた。


そして、音声を再生した。

「出して・・・・・・」


それは小さな声だった。


「これ、聞こえるの?」

僕は素直に感想を告げていた。


「まあ、周りの音にもよるけど、聞こえるか聞こえないかがいいんだよな。よし、設定完了。かけてみて」

悟が僕に携帯を向けていた。


黙って、悟の携帯を鳴らす。


「出して・・・・・・」

僕の声を着信音にしていた。



「よし、これで行こう」

悟は自信たっぷりに宣言していた。




計画は実行された。


場所は裏野ドリームランド。その中でもカップルでにぎわう観覧車。

その脇にある木の根元に、悟の携帯を置いておく。


ちょうど観覧車から人が降りてくるところだ。


楽しかった思いを、一気に怖さで塗り替えてやろう。


悟の計画は、こうだった。


しかし、その計画には致命的な欠点があった。



その木には蝉がよくとまって鳴いていた。

僕の声は蝉には勝てず、悟の計画は計画倒れとなるはずだった。


「邪魔な奴は、排除するのみ!」

そう言って、果敢に蝉に挑んでいくのは、やはり徹だった。

虫かごなんて持っていない徹は、蝉を捕まえては、踏んづけていた。


徹の蝉取りは名人技になっていた。


小学校のころからうまかったが、器用に近づいて、掴み取って行く。

やがてあたりは蝉の踏まれた死骸でいっぱいになっていた。


さっきまでの喧騒がうそのように、静寂がこの場にしきつめられた。


そうして、また僕たちは物陰に隠れる。

一組のカップルが観覧車を下りてきた。


「なに、このセミ。気持ち悪い」

女が徹の残虐なキャンバスを見てそう告げていた。


「出して・・・・・」

悟が絶妙のタイミングで自分の携帯を鳴らしていた。

その口元がわずかにゆがむ。悟のいたずら顔だった。


「なに?」

その場の影響で、周囲に気を配っていたからだろう。女は僕の声を拾っていた。


「いま、小さな女の声で出してって言ってた。聞こえたもん」

必死に男にしがみつく。

男は相手にして無いようだった。


「出して・・・・」

男の笑い声が途切れた瞬間に、再度悟は呼び出していた。


その絶妙のタイミングは、悟だからできたのだろう。

男の耳にもかすかに聞こえたようだった。


「ほら、なんか聞こえたって!ここって変な噂あるじゃん。帰ろうよ。気味が悪い」


裏野ドリームランドの噂。

子供が行方不明になっているという噂は、ネットでも大きく騒がれていた。

そのせいで、小さな子供はこの遊園地には来ることもなく、ここは夜のデートスポットになりつつあった。


足早に遠のくカップルを見ながら、僕たちはハイタッチで勝利を祝していた。


「あの蝉が効果的だったな!」

徹が満足そうに頷いていた。


「また来たよ。あれは、成功させたいな」

俊彦が楽しそうに見つめるその先には、同じ中学の先輩の姿があった。



僕たちは、最初の成功に確信をいだいていた。

そして、先輩の慌てる姿を目の当たりにして、声を殺して笑い転げた。


人が怖がる様子を見るのは滑稽だった。

僕たちはその感覚に酔いしれていった。


次の日から、僕たちはまず、蝉を集めることからはじめていた。

虫かごに蝉を入れて、夕方に裏野ドリームランドに集まる。


「なあ、なんでお前のは羽がないんだ?」

俊彦が不思議そうに徹の籠を見ていた。

徹の籠に入っている蝉は、すべて羽がなかった。


「そりゃおまえ、全部死んでるよりも、一部生きているほうが面白いだろう?羽さえ取っておけば、こいつら逃げれないだろうが」

蝉のばらまく徹の姿は、残忍そのものだった。


そして、僕たちの籠の蝉を順番にあけて、地面にたたきつけていた。


蝉は断末魔の叫びか、小さく鳴いて転がっていた。

俊彦がそれに便乗する。


その姿に、僕は少し罪悪感をおぼえていた。

蝉の入った籠をもち、何となく中の蝉を見ていた。


その大きな二つの目は、僕を見つめているようで、なんだか薄気味悪かった。

そして、真ん中の3つの目は、僕をとらえて離さなかった。


逃がしてやろう。


そう思い、籠のふたを開けようとしたが、徹に邪魔された。


「おい、馬鹿なことすんな。またうるさくなるだろうが」

無理やりとられて、あとは同じ結果となっていた。


なんだか自分でもわからない感情に押しつぶされそうになったが、やはりカップルが怖がって逃げるさまを見て、そんな気持ちはなくなっていた。


毎日繰り返し、僕たちの夏休みは終わりに近づいていった。


そして、僕たちは二学期に向けて、たまった宿題を家でする毎日に切り替わっていた。


裏野ドリームランドで行ったいたずらは、あっという間に噂となって広がっていた。


観覧車から聞こえる小さな女の子の声の噂。

「出して」という言葉から推測される物語が、数多く生まれていた。


怪談話というのは、そういう事から生まれるのだと、僕は初めて知ることとなった。


裏野ドリームランドの観覧車の土台には、事故で亡くなった子供が埋められている。

観覧車の中で死んだ子供が、出してほしいといまでも訴えている。

ドリームランドの下には墓場になっており、上で楽しそうにしている人に助けを求めている。


そんな噂が広がっていた。


根も葉もないうわさだったが、来園する人は確実に減り、この夏休みで閉園が決まったようだった。



僕たちは悪いと思うよりも、来年この楽しいいたずらができないことを悲しんでいた。


最後にそんな話をして別れたのが、8月30日。

その後に一気に宿題をして朝方に寝た僕は、俊彦の電話に起こされていた。


「昨日から、徹が帰っていない」

俊彦の声は、若干震えていた。


「だって、あそこから一番近いのアイツの家だよ?なんで?」

僕は疑問に思っていた。

家に帰っていないことなんて考えられなかった。


目と鼻の距離に、徹の家はあったのだ。


「手分けして探そう」

俊彦が真剣に訴えるので、僕は仕方なく承諾した。

ただ、もう少し寝たいからもうちょっと待ってほしいと心の中で付け加えていた。


思いのほか、徹夜は僕の体に負担を強いていた。

結局そのまま夕方まで寝てしまっていた。

俊彦からの着信がひどいことになっていた。


申し訳ないことをしたと思い、俊彦の携帯にかけてみたが、つながらなかった。


充電切れか?

先ずそう思ってみた。

そう言えば、手分けするって言ってたよな。

悟の携帯にも電話してみた。


「おかけになった・・・」

留守のメッセージに切り替わってしまう。


ためしに、徹の携帯にもかけてみた。

幾度かの呼び出し音のあと、つながる音がした。


「おい、徹。お前、家ぐらい帰れよな。俊彦も悟もお前探してるぞ。僕は寝てたけどな」

精一杯の皮肉を言ってみた。

いつもの奴ならこれでぶちぎれる。


しかし、いつまで待ってもその声は聞こえなかった。

代わりに何か騒々しい音がした。


なんだ?この音。


徹の名前を呼びながら、その音に聞き耳を立てる。

どこかで聞いた音。

すぐそこまで出かかっているが、それが何かわからなかった。


そして、通話が切れてしまった。


まあ、無事であることは確かなんだろう。

怒りが激しすぎて、言葉が出なかったか?


僕は明後日の学校が少し怖くなってしまった。

その時。窓の外に何かが浮かんでいる感じがして振り返った。


「なんだ、気のせいか・・・・」

赤い点のようなものが3つ浮かんでいたが、虫か何かだろう。

それよりも、俊彦だ。

もう一度携帯にかけてみた。


今度もかからない。


まあ、俊彦も、悟も徹の携帯にかかることがわかれば、帰るだろう。


僕はそう思い、これ以上はかけないようにした。

まだ宿題は終わっていない。

寝てしまった分、頑張らなければならなかった。



次の日、またも徹夜状態だった僕は、揺り起こされるのを不快に感じていた。

「もう少し寝かせて」

そう繰り返していた。

そんなやり取りも、何度繰り返したかわからないが、その言葉を聞いた時にはすでに夕方になっていた。


「俊彦君が行方不明なんだって」

母親は心配そうに告げていた。


「昨日電話あったよ?午前中だけど」

かろうじてそれだけは言えていた。着信は午後になって途絶えていた。


しかし、俊彦が家に帰らないなんて・・・。そんなことがあるのだろうか?


いや、そんなはずはなかった。


電話はかからなかったが、俊彦に限って・・・・。

僕はその事実を受け入れることができなかった。


俊彦は基本的にまじめだった。

いたずらにしても、積極的ではなく、ただ手伝うことが多かった。

しかし、虫が嫌いな彼は、蝉の死骸と羽をもがれた蝉に対しては残忍だった。


嫌いというのは恐ろしい。


僕はそう思っていた。

まだ生きている蝉の尾の部分のみを踏みつけていた。

蝉の頭部分を器用に細い枝で突き刺していた。



普段の彼からは想像もできない行為だった。


しかもそれをしている彼は、とてもうれしそうだった。


嫌いというのは恐ろしい。


僕は何度もそう思っていた。

残忍さは悟も似たようなものだった。

悟は複眼をつぶしていた。


僕はあの行為だけはまねできなかった。

最後に僕の籠の蝉の目を見たからかもしれない。


その目には言い知れない訴えが込められているように感じていた。


「出して・・・」

まさしくそれは、僕が言った言葉と同じ感じだった。


その時、僕の携帯が自らの役目を果たしていた。

悟からの着信。

僕はあわててそれに出ていた。


「もしもし、悟?今どこだよ。徹も俊彦も行方不明だって。お前もどこにいるんだよ。みんな心配しているぞ」

僕はまくし立てるように、そう話していた。


悟は何も話さない。

しかし、その背後の音には効き覚えがあった。


ドリームランドのドリームキャッスルで流れている音楽

僕の記憶がそう告げていた。


「ちょっと出かけてくる」

言い知れない不安に、僕は行き先もろくに告げずに、家を飛び出していた。



ドリームランドについた時には、もう日も落ちかかっていた。

夕日が今日の役目を終えようとしていた。


いつもなら、ドリームランドには明かりがともるが、今日は最後の営業日とあって、人の姿はなくなっていた。


「忘れものしたから、入れて」

寡黙な係の人は何も言わずに僕を中に入れてくれた。


アトラクションもすでに終わり、ところどころ街頭がともっているだけだった。

動いている乗り物はなく、歩く人の姿もなかった。


入り口にいた人以外、誰にも会わずにドリームキャッスルにたどり着いていた。


夕日はその姿を隠し、夜のとばりが下りていた。


雲の間から時折出る月は、すぐに自らの姿を隠すように、自身の周りに雲を集めているようだった。


まだ夏だというのに、冷たい風が僕を追い越して行った。


ゾクッとした感覚に僕は思わず振り返っていた。


しかし、そこには誰もいなかった。


そう、この場所には人が一人もいなかった。


何かがおかしい。閉園するとしても、清掃とかいろいろあるだろう?


しかし、僕の疑問に答えてくれる人は誰もいなかった。


気味の悪い感覚を持ちながらも、僕はドリームキャッスルにたどり着いていた。


あたりはすでに暗くなり、ドリームキャッスルにともる明かりだけが、この場の唯一の光になっていた。


ため息が出ていた。

僕は何故、一人でここに来たのだろう?

別に、いろんな人に話してついてきてもらえばよかったんじゃないか。


いまさら言ってもなんだが、アイツら絶対僕を脅かすつもりなんだ。

最後の最後。僕を驚かせて夏休みを終わるつもりなんだ。


僕はどこかでそう思っていた。


その時。ドリームキャッスルの外壁をよたよたと歩く人影を見つけた。


「なんだ、人いるじゃん」

思わず声を出していた。

そう言わないと不安だったからだが、本能でそう願いたかったのだろう。


その動きは、人のそれではなかった。

不自由に動くあしにつられて、手も動いていた。

鎌のように、前に突き出した手は、何かを探すように、不器用に動いていた。


だんだん近づくそれは、一つではなかった。


気が付けば、僕の周りを取り囲んでいるようだった。

ぎこちない足取りで、どんどん僕に近づいていた。



「なに?おじさんたち、掃除の人?」

後ずさりながらも、必死に問いかけてみた。


その時、僕はみた。

一人の、いや、一体のそれが顔をあげた、その瞬間を。


瞳のない黒い目が本来の位置よりも離れてついていた。

赤い光が真ん中に3つ。僕をとらえているようだった。


「人じゃない!?」

僕は否定したい思いで、反射的にそう叫んでいた。


じりじりと歩み寄るそれは、まるでゾンビ映画のようだった。


逃げないと。でも、どこに?


僕は囲まれた状態で、どうすればいいのか迷っていた。

その時、その中の1体がいきなり前に倒れていた。

両手を鎌のようにしていたが、器用に着地していた。


それに感心する暇もなく、携帯を投げつけ、僕は城へと逃げ込んだ。


信じられない速さで、それは僕の方に進んできた。


鎌のようにした腕は器用に地面をつかんでいた。

そして、さっきまでぎこちなかった足は、それが本来の動きであるかのように器用に地面を蹴っていた。


わき目も振らず城にはいり、荒い息のまま扉を閉めていた。


何かおかしい。

あの人たちは絶対何か変だ。


今までどこに隠れていたのかわからないほどの人が僕を追って扉に押し寄せていた。


「何か、つっかえになるもの・・・」

僕は必死にあたりを探す。

ちょうど受付の机が目の前にあった。

重そうなそれは、幸運なことにキャスター付だった。

急いで動かし、ロックをかける。


「ふう」

一息入れた瞬間、どこかでガラスの割れる音がした。


「窓ガラス!?」

中にやってくる。

僕はそう確信していた。


どこか、逃げる場所。

僕は自然と地下室に向かっていた。

関係者以外立ち入り禁止の看板は、もはや何の役目もない。


くらい階段をどのくらい下りたのかわからない。

ただ、降りるだけでなく、通路にもなっていた。


この城の地下は何階なのだろうか。

そう疑問がわいくるころ、目の前に扉が一つ現れていた。


暗闇に映し出されたその扉は、シンプルながらも、その役目をしっかりと持っているようだった。

あたかもそれは、僕を迎え入れるように、優しい光を漏れ出していた。


その光に吸い寄せられるように、僕はそれに手をかける。


そして、そのままそこに足を踏み入れた。


いままで、薄暗い中を歩いていた僕は、この部屋のまぶしさに一瞬視界を奪われた。


そして何かが僕の足に当たっていた。

なんだかわからないが、僕の足に危害はなさそうだった。

片手で目を覆って、足元だけを見る。

目を細めて、やっと見えたそれは、どうやら人の足のようだった。


ゆっくりと、その人物を確かめるため、僕は足先から順番に視界を上げていった。


「ひっ」

思わずあげた悲鳴は、僕に理性を強いていた。

目の前には、腰の部分が何かで踏みつけられた人が横たわっていた。

無残な姿はそれが死体だと僕に教えていた。


頭には、棒が突き刺さっていた。


僕は何故か確かめるように、その顔を見に行っていた。


「俊彦・・・・・・・」

変わり果てた友人の姿をみて、僕の理性はどこかに旅立っていた。


逃げないと。


そう思うが、体が動かない。

いつの間にか、僕は地面に座り込んでいた。


それでも、必死に俊彦から遠ざかる。なぜか視界は俊彦をとらえて離さなかった。


そして、僕の手は何かにあたっていた。

壁でもない、柱でもない。ものでもない。その何かを確かめるように、僕はゆっくりと振り返っていた。


振り返った時には、それが何かわからなかった。

頭では理解できない現象が、僕の理解を超えていた。


例えようのない悲鳴を上げて、僕はその場から一刻も早く立ち去りたかった。

悟の顔があった。

悟の顔だとわかったのは、その特徴的な鼻と口元とほくろのおかげだろう。


その顔には目がなかった。

えぐり取られたように、目の部分には真っ黒な闇が広がっていた。


思うように動かない手足を必死に動かして、僕はこの場所から離れるように入ってきた扉を目指していた。


しかし、体が前に進まない。

振り返ってはいけないとおもいつつ、僕はその感覚につられて振り返ってしまった。


悟のてが、僕をつかんでいた。

口元がにやけている。

悟がいつも悪戯するときの顔だった。


もう片方の足で、必死にその手を振り払い、僕は逃げるのに必死になっていた。


扉がやけに遠く感じる。


なんだか、床も滑っていた。

慌てた手足は、ぎこちなく、僕の体を動かすも、なぜか僕はバランスを崩していた。


虚空をつかむ手は、何でもいいから支えとなるものを欲していた。


その願いも脱無しく、僕は再び床に体を押し付けていた。


さっきつかみ損ねた手は、新しい何かを見つけたようで、僕の意志に反してそれを僕に示していた。


引き寄せられたそれは、大きな傷のある手だった。

滴り落ちる血が、今もあたりにしみこんでいた。

ところどころに何かがある。

血の中に、いろいろな何かが浮かんでいた。


もう言葉と呼べる悲鳴は、僕の中からは出なかった。

なにかを叫び、その手を投げつけ、僕は扉を開けていた。


逃げれる。


僕は扉に手をかけた瞬間、そう思っていた。


そして、そのまま僕たちは暗闇の中に落ちていった。





一体どのくらいたったのだろう。

暗闇の中で、僕は膝を抱えていた。友達は皆、それぞれの姿で横たわっている。それだけが見て取れた。


時折暗い目と赤い光が僕を見る。


「出して・・・・・」

希望もなく、反射的にその目に訴えつづけるが、それは何も答えない。


僕の目の前で笑う悟の目から、蝉の幼虫が這い出ていた。







裏野ドリームランドには数多くの噂があった。

廃園して20年たった今でもなお、2つの噂がささやかれていた。

あの遊園地で中学生がいなくなったという噂。

そして、観覧車付近を通ると聞こえるという。

「出して・・・・」という声の噂。



ホラー作品を読みなれている方には、大変申し訳なく思います。

あきのななぐさ。

今はこれが精一杯です。

次につなげるようなご意見をいただけると、ありがたいです。

これでも作者は、投稿する恐怖を十分に味あわせていただきました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ