プロローグ
さて――。
運命の道しるべ。
あるのは交差点。
何の変哲もない、どこの界隈にも存在しているただの小さな十字路。路傍には石ころが転がり、生い茂った雑草は根を生やしている。ぐるりと辺りと見渡してみても、コンクリートで塀ブロックが並んでいる平凡な住宅があるだけ。申し訳程度に、観葉植物やら松の木やらがひょっこり顔を覗かせている。ある電信柱には、町集会、6/25、9:30より開始、と書かれた紙が貼ってあった。みんな来るんですからきてくださいよぅ。村おこしの一環で生を吹き込まれた二次元の小人キャラクターたちが紙面で踊る。ここは自動車なんてそう通らない。自転車もあまり通らない。そんな田舎じみた風景が広がる場所の交差点。
しかし。それはともかく――。
空は快晴。一転の曇りもない淡青色の色彩。今は、春に充填されたエネルギーが躍動しはじめる、初夏の季節。
そう、まさにこの瞬間であった。
その場所に差し掛かろうとする少年と少女がいた。
六時の方角からやってきた男の子。彼は未来への希望を抱きながら、上を向いて歩く。時折、一リットルの牛乳パックをごくごくと飲み、大股で自信を持って闊歩する。かたや、九時の方角からやってきた女の子。彼女は地面をきっと睨みつけ、下を向いて歩く。手にしていたバスケットかごの中身は、購入したばかりのりんごでいっぱいだった。二人は足早にそこの地点を過ぎ去ろうしていく。無論、特に立ち止まる理由もないから当然であろう。だけど、やがて衝突してしまうとは知らずに。しかも、それが偶然ではなく必然だというのに。ただ、蒔いた種が根をはり、葉を重ね、実をつけていく過程のための始まりだったのだ。
これは、今ここで二人が出会ってから何年か先の話。もう一度この場所で邂逅を果たしてから一年後に、世界がくるくるとまわりだした物語である。