彼女を知らない
ムラムラした。
きっかけはただそれだけだった。
正直、彼女が欲しいわけでも、好きな人が欲しいわけでもなかった。
二十歳を迎えようとする童貞にとって、何より欲しいのは経験や肩書きだった。
初体験をしたい。それだけの気持ちで始めてみたのは、いわゆる出会い系サイトだった。
ネットで調べてみたり、人伝に聞いてみたりしていくつかサイトを試してみたが、やはりサクラや業者ばかり。
増えていくのは経験ではなく、サクラや業者をかわすコツばかりなのであった。
だが、何事にもハズレと同じだけの当たりがある。
僕はとうとう出会ったのだ。
良質サイトと。
いや、ゆりという女と。
彼女は出会った当初、とにかく人に飢えていた。
そんな素振りを見せているつもりはなかっただろうが、何となく伝わってくるものがあった。
最初は、SNSを使ってお互いにメッセージのやりとりをしていたが、そのうち電話で声を聴けるようにまでなった。
けれど、どれだけ仲が良くなった様に見えても、彼女は決して会おうとはしなかった。
何度かこちらから誘ってみるものの、毎回仕事だと言われ断られるのだった。
しばらく経ったのだろうか、この頃には、やりたいという気持ちではなく、単に彼女自身に興味を持った自分がいたのだ。
そんなやりとりを続けていたある日。
付き合って欲しいと彼女に言われた。
こうして、顔も知らない向こう側の彼女と僕との付き合いは始まった。
ゆりは、いつも決まって
「今何してるの(^-^)?」というセリフから切り出す。
定型文かの如く、これを使ってくる。
このセリフは僕にとって原動力でもあり、その真逆のものでもあった。
そして、ゆりは電話に出ない。
都合のいい時や、暇な時は話したがって電話をかけてくるくせにこちらからの電話は出たら奇跡だ。
それに、不意に冷静になる。
冷静過ぎてゾッとするほどに。
そんな彼女が僕は本当に怖くなっていった。
信用していいものなのか、自分と同じ立場の男が実は複数人いるのでないかと。
ある日、意を決して彼女に電話をした。
一言、
話があると。
ゆりは、恐る恐る電話に出た。
本当に珍しかった。
また、いつものように都合のいい頃合にメッセージを送ってくるかと思いきや、電話に出たのだ。
偶然というものは面白い。
いや、若しくはこの瞬間、電話に出るのは必然だったのかもしれない。
その電話が終わる頃、
ゆりは僕の彼女ではなくなっていた。
それ以降、ゆりが僕の電話に出ることはなかった。
1年後
大晦日。
ゆりは、電話に出た。
まるで、ずっと今まで連絡を取り合っていたカップルかの様に平然としていた。
今まで通り。
「今何してるの(^-^)?」
彼女は言うのだった。
二人には大きな進展があった。
会えるのだ。
休みがたまたま重なった。
テーマパークに行きたいと言われた。
きっと冗談だったのだろう。
「本当に行こう?」
そういうと、ゆりは今まで聞いたことないくらいに笑い出した。
なにか、騙されていたのかと思うほど笑われた。
ケラケラケラケラ。
「信じらんない。寝れないよ、楽しみで」
そういうと、ゆりは楽しそうに当日のプランを練り始めた。
そんな彼女が愛おしくてたまらなかった。
人は、見ず知らずの女性をこんなにも愛おしいと思えるのかと。
そう思った。
待ちに待った当日、少しお洒落をして彼女の最寄駅で待つ僕。
今日は何故かカップルが多い。
今年は正月に初雪が降った。
待ち合わせた時間へと向かって、ゆっくり秒針が進んでいく。
今何してるの(^-^)?
そんな声が聞こえた気がした。




