今日、僕が男の娘になったワケ2
嘘!? 誰かこの事を嘘って言ってくださらないかしら? 私はどうやら見てはいけないものを見てしまったようなの。私には信じれない。いや、信じたくない。私はあまりの衝撃に身を震わせていた。いったい何があったかと言うと…
私は昼下がりに女王陛下に私室に来るように申し付けられたわ。先月、平民から王族に加えられた私にはそんな恐れ多い事は辞退したかったのだけれど、断るなんて事はできないかったのよ。
召使いに案内されて女王の部屋に通されたのだけれど、そこには誰もいなかったわ。きっと、陛下がくるまで、待っていて欲しいのね。そう判断した私は女王陛下が来るまで大人しく待っているつもりだったの。
でも、そんなに大人しくできるわけないわよね? だって、今まで自分が関わった事の無い母親が私室に呼んでくれたのよ。
気になるじゃない。母がどんなモノ部屋に興味があるのか。だから、ついつい私はこの部屋を観察しに歩き回ってしまったの。
歩き回っていたら、いろいろと母の趣味がわかってきたわ。ぬいぐるみや恋愛小説。どれも、この国の人ならば当然持っている本ね。でも、母はちょっとこの国ではマイナーな趣味を持っているようで、男と男の恋愛小説が好きみたい。
私には理解できそうにないわ。と思って母の本棚から執務用の机の上に視線を移したの。そして、私はこれを発見してしまった。そう陛下の日記よ。きっと、わたしは悪魔にでも取り憑かれていたのだわ。
だって、陛下の日記を勝手に見てしまうなんて、普段の私からならそんな恐れ多いことできないもの。だから、ええ、たぶん。本当に魔が差していたのね。
そして、女王陛下の秘密の日記にはこう書かれていたわ。
───どうやら、私は同人乙女ゲーの世界に転生したらしい。聞いた事ある町や人物名、そして数々あるイベント。どれも、昔プレイしたゲームそのものであった。ということは、その内、男の娘が王女として来るわね。彼女を見るのはきっと楽しいでしょうね。だって、主人公なのにハッピーエンドがないのですから…
どうやらって、唐突ですわ。女王陛下! それになんでしょうか。乙女ゲーって? いったい、なんなのでしょう。そんなわからない用語が多い文章ではあったけど、これだけはわかったわ。
もし、陛下が書いた話が本当だったら、私はこの世界では幸せになれないということが…
私は男に襲われて、無惨に殺害されるか。血の繋がった姉達の奴隷になるか。それとも、他国に嫁いで正体を隠し続ける人生の三択しかないのね。
正直に言わせて。はっきり言って、どれもイヤ。
私は女性と…
愛する女性と結婚して幸せになりたいの!! なんで、どれもこれも碌でもない未来しかないの!!
それに陛下の最後の文章を読む度に気が狂いそうになるわ。誰よ。アルバートって!?
───私はセシルちゃんが幸せになれるように頑張ってアルバートをこの国に引き止めて見せるわ。だって、彼はイケメンなんですもの。アルバート × セシルちゃんって最高じゃない? 私はこのカップリングが一番好きなの。
頭が痛いわ。本当にもう。それにしても、女王陛下の中ではすでに私の恋人(男)が決まっているようね。これが女王の妄想であっても、これはとんでもない未来しか見えないわ。なんとかしなくちゃ。
「セシル王女殿下、陛下が参られました」
召使いの人はいつの間に部屋に入ってきたのかしら!? 突然、声をかけないで、ノックをなさってください。早く、椅子に戻らないと。私は慌てて長椅子に戻ったの。
その後に召使いが女王陛下を連れて入ってきたわ。どうやら、私が机の上にあった日記を見ていたのはバレてないみたいね? バレてないわよね? 召使いの人もあそこからだと私がなにを見ていたかまではわからないわよね。きっと…
「良くきてくれたわね。嬉しいわ」
女王がそういって、私に笑いかけてきたわ。あの日記を見ていなかったら、きっと緊張してガタガタ震えていたかもしれないわね。でも、今の私はこの女王に別の意味でガタガタ震えているわ。だって、男との結婚を迫られるなんてごめんよ。
「あの人とのことは残念だったけど。私はあなたが幸せになるように頑張って欲しいの」
わかっていますよ。陛下、あなたの言う私の幸せは男の人と結婚する未来ですね。絶対にお断りです。ついてに姉達の奴隷になる話も回避させて頂きます。
「はい、なくなった父のためにも、幸せになりたいと思います」
私は微笑んだ。絶対にこの母や世界を出し抜いて幸せになってみせると誓う為に…
だって、亡くなった父に言われたんだもの。幸せに生きて欲しい。セシルはわたしの1人だけの息子なのだからと。