第五話 飛行魔術(仮)
4歳になった。
あれから毎日午前は剣術の稽古、夕方は治癒魔術の練習をしている。
午後から夕方までは自由時間だ。
私は外に出てみることにした。
せっかく異世界にいるんだから庭ばかりにいるのは勿体ないよな。
「お父さん。外で遊んできてもいい?」
ある日、ジルにそう聞いてみた。
この年の子供は目を放すとすぐにどこかに行ってしまう。
近所とはいえ、黙って出ては親も心配するだろうとの思ったのだ。
「外に遊びに? 庭じゃなくてか?」
「うん」
「あ、ああ。もちろんだ」
あっさり許可が出た。
いいのか?4歳児を一人にして?。
「思えば、シルフィーが外に行くのは初めてだな。
親の勝手で剣術を習わせたが、子供には遊ぶことも必要だな」
まあ、オリジナル魔術の練習に行くだけだけどね。
厳格な教育父親だと思っていたが、わりと柔軟な思考をしているらしい。
私としては有りがたいけどね。
「それにしても、シルフィーが外に、か。
身体の弱い子だと思っていたが、時間が経つのはあっという間だな」
「そうなの?」
初耳だ。
病気なんてしたことないのに……。
「最初のころは、あまりにも無表情で全然泣きもしなかったから心配だった」
「今は大丈夫だよ?丈夫で愛嬌のある子に育ってますよ。」
ほっぺたを潰してピノ〇の変顔をしたらジルは笑ってくれた。
「ハハハ、確かにな」
「外に行くのはいいが森には入るなよ、あそこは危険な魔物が沢山いるからな」
「は~い、いってきます~」
そんな会話の後、さぁ出かけようと思った所で、ふと気づいて私は振り返った。
「そうだ、お父さん。
これからもちょくちょく外出すると思うから、出かける時は家の誰かに言っとくね」
「いってきます」
「あぁ、行ってらっしゃい」
こうして、私は家を出た。
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三十分後
「ここなら人目はないかな」
私は家から離れたところの丘の上にいる。
「さてと、まずは自分の顔を見てみたいな」
私の家には鏡がないからこの世界の自分の顔を私は見たことがない。
うーと、まずは土魔術で浅く穴を掘る、そのあとにその辺の木から枝や葉を持ってきて火の魔術で炭をつくる、その上に水の魔術で水を張って。
「完成、即席鏡?」
うん?鏡でいいよな?自分の姿射ってるし、うん。
正直かなりかわいい、白髪に透き通るような白い肌、真っ赤な瞳、エルフの特徴の長い耳(まぁ、ハーフだけど)私が悪いおじさんなら飴あげるよ、何て言って拐っちゃう、くらいかわいい。
私は満足だ。
「さてと、次はは飛んでみたいな」
まず私は、竜巻を起こしてみることにした。
人が飛ぶぐらいだと、どれぐらいがいいんだろう?。
確か、毎秒200mぐらいがいいんだったか。
毎秒200mってどんなもんだろう。
とりあえず、一回やってみるか。
「武空〇! ってきゃぁ!」
私は木の葉のように上空に巻き上げられた。
ビビった。
気づいたら雲の上にいた。
人の体はここまで軽いものなのか。
そして恐怖した。
本能的に恐怖した。
どんどん落ちていく感覚。
風圧で息苦しくなる感覚。
突き抜ける雲。
「ヒッ」
私は喉の奥の悲鳴を聞いた。
悲鳴が、これが現実だという感覚を助長した。
なんとかしなければ。
なんとかしなければ。
死んでしまう。
死ぬ。
間違いなく死ぬ。
魔力を全開にした。
地面がどんどん近づいてくるのがわかる。
私は風を起こした。
真下から叩きつけるように自分に向かって。
少し速度が落ちたかもしれない。
だが、すぐに元の速度に戻る。
風ではダメだ。
こういう時、どうすればいい。
思いだせ、思い出せ。
こんな時、高い所から落ちるもの。
その衝撃を和らげる。
柔らかいもの。
そうだ。柔らかいもので包むのだ。
しかし、柔らかいってどのぐらい。
どうやって作ればいい?
わからないわからないわからない!
私は半狂乱になりながら、自分に出来る限りの事をした。
水を作り出し、風を作り出し、土を作り出し、火を作り出し。
とにかく落ちない事を、減速することを、地面から遠ざかることを。
出来る限りの事をした。
右手で衝撃波を何発も発生させて落下速度を落とした。
しかし、間に合わない。
反射的に左手で、また竜巻を作って上空に飛んだ。
「え?」
私は今どうやって上に戻った?
そうだよ、最初の竜巻より弱い竜巻を作って徐々に降りればいいんだ。
十一回目だろうかやっと地面まで百メートルの所まで降りてこられた。
最初のころは、これ、もしかして無限フリーフォールじゃねとか無限ループするんじゃね、とか思っていた。
しかし何とかここまで降りてこられた。
あと少し、そこで私は気を抜いてしまった。
竜巻の威力が弱くて地面に叩きつけられた。
奇跡的に全身打撲+骨折+鼻血をダリダラですんだ。
痛む全身にクラクラしつつも、なんとか治癒魔術のヒールを詠唱する。
「ふう、し、死ぬかと思った」
竜巻はダメだ死ねる。
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一時間後
足の裏とかかとと腰と肩に風魔術を展開させて何とかバランスがとれるようになった。
「ふう、今日はここまでにしよ」
「飛ぶのは思ってたより簡単かな?」
まぁ、無詠唱が使えないとまず無理だけど。
「帰ろうかな、魔力もギリギリだし」
目指せ、飛行魔術(仮)の習得