第三話 レイラ・ヨウクスの悩み事
私はレイラ・ヨウクス、ここマグノリア王国のドーラー領で5年前からブリュケッド家でメイドをしています。
勤めて一年目に奥様が子供を生みました。
ただその赤ん坊は産声もあげないまま死んでしまいました。
死産でした。
それから3年後にまた子供が生まれました。
何も問題無くスムーズにいった。
なのに、生まれた赤ちゃんはまた泣きませんでした。
私は焦りました。
また死産なのか、そう思うほど赤ちゃんは無表情でした。
触ってみると、暖かく脈打っていた。
息もしている。
しかし、泣かない。
生まれてすぐに泣かない赤子は、異常を抱えている事が多い。
でも生きている。
私は様子を観るよう奥様方に進言しました。
翌日、奥様方が見守るなか赤ちゃんは目を覚ましました。
「ジル!見て起きたよ」
「ああ、起きたな、相変わらず無表情だが」
私は子供が死産ではなかったことをもう一人のメイドに報告しに行った
「良かった、また死産だったらどうしようかと思った」
「あの時のサラ様は目も当てられないくらい落ち込んでいましたからね」
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子供はシルフィーと名付けられた。
正直気味の悪い子供だった。
一切泣かないし、騒がない。
私としては手間がかからなくていい。
などと、思っていられた。
シルフィーはハイハイが出来るようになると、家中のどこにでも移動した。
調理場や物置、掃除道具入れ、書斎、暖炉の中、風呂場……などなど。
どうやって登ったのか、二階に居たこともあった。
眼を離すと、すぐにいなくなった。
だが、必ず家の中で見つかった。
シルフィーは、決して家の外に出ることはなかった。
ある時からシルフィーは一階の片隅にある書斎に篭るようになった。
書斎といっても、6冊本があるだけの小さなな部屋だ。
シルフィーは、そこに篭って出てこない。
覗いてみると、本を眺めて文字をなぞっている。
その行動がまるで文字を読んでいるように見えるのだ。
文字なんてもちろんまだ教えていない。
だから 赤ん坊が本を見て、適当になぞってるだけだ。
そうでなければおかしい。
だけど、私には、
シルフィーが本の内容を理解しているように見えて仕方がなかった。
恐ろしい……。
ドアの隙間からシルフィーを見ながら、私はそう思っていた。
サラ様も同じ事を感じたらしい。
放っておいたほうがいいのでは、と相談された。
正直異常な提案だと思った。
生まれて半年の赤ん坊を放っておくなど、親としてあるまじき行為だ。
しかし、ここ最近のシルフィーには知性の色が見えるようになった。
数ヶ月前までは恐怖しか感じられなかったのにだ。
どうすればいいのか。
経験の薄い私には、判断が難しい。
子育てに正解などないと聞いたことがある。
少なくとも今は余り怖くはない。
ならば、私は邪魔しないように見守ろう。
私はそう判断した。
読んでくれてありがとうございます。