表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

プロローグ

一つ連載を出し放置している、残念な戸崎です。今回の作品には特別な思い入れがあるため、1ヶ月に一回の投稿は最低限しようと思います。私自身、色々な伝奇を読んできましたが、もしかするとどこか似る所があるかもしれません。もしそんなときは、目を見開きこんなとこが似てるよ!と報告をお願いします。あと、文章が稚拙とは思いますが是非読んでください。長い文章失礼。

 子供の頃の記憶などすぐになくなってしまうだろう。

 いや、知らない間に、昔の記憶が新しい記憶に塗りつぶされ忘却するのか。どちらにしろ、もう色々と失ってしまったのだから、関係ないのだが。でも、記憶にはもう一つ存在する。脳には残らないカラダに残る記憶。忘れられるのなら忘れたい記憶。

 しかし、カラダに残ってしまった記憶の欠片はそう簡単に俺を離さない。深く刻まれたそれは、どんな時でも俺を離さず縛りつける。


 全ては6年前のあの日、唐突に俺の運命は決められた。


 日差しが強く身体を照りつけ、気温は30度を超えるそれなりに暑い日。親と姉と一緒に俺は海に来ていた。

 初めて見る濃い青と少し黄ばんだ色の浜辺。テレビで見るより大分違ったが、その頃の俺は初めて体験する海に心が躍りテレビというビジョンと実際に見る海とのギャップなぞ関係なかった。

 波が引いたと同時に思い切り海に向かい走り、波が寄せては海から逃げるように走る。その繰り返しに飽きずに俺はまた海へと駆ける。

 何が楽しくそれをやっていたのかは分らない。それに対する楽しみという記憶をなくしたからかもしれない。それは俺の最後の楽しかったという記憶だったのかもしれない。両親は俺のその不思議な光景を嬉しそうに見つめ、姉は長い髪を撫でながら麦わら帽子が風で飛ばないように押さえつけるのに必死そうだ。


 俺はそんな姉に満面の笑顔で手を振る。


 姉は俺に気づいたように麦わら帽子を押さえていない手を俺に向けて振る。俺はそれを目で確認しまた同じ海との追いかけっこを始める。それを何度か続けた後、空はもう赤く染まり海は満ち始めてきていた。


 両親は手を振りながら俺と姉に帰るようにと呼びかける。俺はダダをこねるも姉に連れられ泣く泣く帰ることとなった。

 帰りの車は体が重く瞼はすぐに閉じようとしていた。俺はそれを必死に堪え離れて行く海を車の小さな窓から眺めていた。

 しかし、波音はだんだんと遠ざかり耳からはそっと音が消え、車から完全に海が見えなくなる前に俺の瞼が閉じ夢の世界へと落ちて行った。




 夢から覚めると既に車は俺の家に着いていた。姉に手を引かれ車を降りる。すると玄関が勝手に開き見知らぬ男の人が出迎えをしてくれた。

 両親はその男の人に深々とお辞儀をする。

 別に不審者という訳ではない。本当かどうかは置いておき。顔を見たことはないが恐らく家の親戚なのだろう。でなければ両親は落ち着ついてもいられず、お辞儀どころではないだろう。

 取り敢えず、俺は姉に手を繋がれたまま帰宅することとなった。

 俺の家は豪邸と呼べるようなところで、敷地面積は100坪をゆうに超し親子4人で暮らすには大き過ぎるのだが、元々この地は先祖からの所有地であり代々この家は引き継がれて来たらしい。つまり、この家が家族の遺産と言ってもいいようなものだ。普段ならすかすかの我が家なのだが今日は先ほどの知らない男性も含め、親族、御狼藉の方が多く家に押しかけており、久ぶりに家の広さは意味を成していた。

 その夜、俺はいつも通り……というと恥ずかしいが、姉と一緒の布団に入り姉の細く白い腕に抱かれながら眠りに着いた。


 次の日、俺が起きた頃には家族のみんなは忙しく、外に幕を張り祭壇を造り何か式の用意をしていた。そのため家の人は子供を除き全員その準備に取り組み、俺は姉に面倒をみてもらうことになった。

 姉は俺より9歳年上で普通なら高校1年生なのだが、あるアルバイトに通っているため高校には行かず帰る日もまちまちだった。親は姉のバイト先を承知のようなのだが、俺が姉のバイト先を訊こうとすると“いつか教える”の返事が毎回返ってくる。その質問の解答がいつ返ってくるのか、姉は何をしているのか?そのすべては両親の口からは語られず黙秘され続け、俺が姉が高校に行かずバイトをしていることを知ったのはつい1か月前のことだった。俺の頭からはそのバイト先の事が気になり離れなかった。

 

 それは幼い心からの好奇心だったのかもしれない。物事には訊くタイミングという暗黙の世の中に流れる秩序がある。ある意味それは自分を護るための壁であり、相手との交わりの境界線でもあり、その一線を超えることは未知の場に一歩足を踏み込むことと等しく、そのタイミングが悪ければ世の中とは隔絶し、自身が隔離され兼ねない。そんなものを含んでいる。

 しかし、幼き俺にそんなことを知る余地もなく、俺は自らに動く本能のまま姉にバイト先の事。そして、そこで何をしているのか、を訊いた。

 姉は少し哀しそうな目で暫し見つめた後、口を開いた。だが、語られた言葉は両親と同じ。

 “いつか教える”と。

 俺はまたかと拗ねようとした時だった。突然姉は俺に抱きつき、何故か涙ぐんだ声で言葉の続きを俺の耳元で伝える。


 “……ゴメン……ネ”


 その時俺は何故ゴメンと姉が謝るのか全く理解できず、その言葉を聞き流し震える姉の背中を幼い両手で抱いた。姉が泣く意味も知らずに。

 結局、姉は何でもないを繰り返し口ずさみながら何度も涙を流し、俺はずっと姉の傍にいて慰めることとなった。姉は約半日の間泣き続け泣き止んだ時にはすでに夜だった。両親は姉が泣いていることを知っていたが、姉には何も声を掛けず俺にだけ何でもないと告げた。俺は両親に何故俺だけに声を掛けたのかと訊くと、両親はあからさまに造り笑いをし姉にも声を掛けたと言う。だが、俺は両親の行動を全て見ていた。姉に声を掛ける余裕があっても声を掛けるそぶりすら見せず俺の様子ばかりを気にしていたようだった。まるで奇妙なものを見るような目で。


 その日の晩は眠ることが出来なかった。姉は横でぐっすり眠っているが、その寝顔に俺は妙に安心した。何故か、などわからない。ただ、その時の俺は信じれる人が近くにいなかったのだろう。俺は大人が嫌いだ。自分のため、私利私欲のために仮面というつくられた顔を張りつけそっけない態度をとる大人の事が、嫌いだ。そんな自分の横で安らかに眠るその姉の顔が、昔から自分の前で何も仮面をつけていない変わらない素顔で横にいることに俺の心は許したのだろう。暫く姉の寝顔を見つめた後、ほんの小さな好奇心から姉の唇に自分の唇を重ね、見たことがあったドラマの真似をして舌を入れる。すると柔らかく暖かい姉の舌が絡み、お互いの唾液の温かさを感じ合った。姉は俺の背中に腕をまわし俺をより引き寄せる。俺が物心ついて初めて唇を重ねた相手は実の姉で、キスの味はほんのりと甘く柔らかく、幼かった俺が言うのも可笑しいが大人の味だった。その後も姉は俺を離す気もなく、勿論俺も姉から離れたくなく、俺は姉とキスをしたまま眠りに落ちていった。


 翌朝、俺は親の言うことを聞き近くの川で水浴びをした後、白い衣に身を包んだ。そして、親戚の叔父に昨日つくられた式場に連れられ、真ん中にある席に着く。連れてきた親戚の叔父はそこから早々と立ち去る。誰もいない式場。ただ俺だけが式場の中にいて他にはいない。よく周りを見渡せばそれほど式場は大きくなく、もともと俺を一人で式場にいさせるつもりだったのだと気がついた。俺に不安はなかったが、何故一人なのかと考えた。幼い子供にとって疑問は不安と直結しやすい。しかし、俺は要領がいいのか、馬鹿なのか、疑問が不安と直結することはなかった……などと、そんなまだ気楽に軽い口をたたいていられたのはほんの一瞬のことだった。




 そう、…………分も秒も経たない、一瞬のことだ。



 身体が異様なまでの息苦しさと、俺の存在自体を喰い潰すような異常な圧迫感が俺を襲う。自身の胸のあたりを押さえながら急なこの事象について考える。深呼吸をしようとし息を吸い込むが身体はそこまでいうことはきかず、途中で諦めすぐ息を吐く。しかし、空気を普通に吸うことに多少難があったが、呼吸が出来ないほどではなく、しばらくして落ち着きを取り戻した。

 その時、目の前の式場を覆う幕は何かに引き裂かれるように破れ落ち、大きな足跡だけつけ何かが俺に迫りつつあった。その何かに対する疑問は脳裏で自動的に恐怖へと転化され、俺は身を震わせ、何も見えない日常の透明な視界をみつめるしかなかった。頭では考えられない何かが近づいていることに只々歯を鳴らし、見えぬ恐怖に心を震わせ気づけば失禁していた。大きな足跡は一歩ずつ大股で近づく。そしてあと一歩のところで俺は反射的に目を瞑ろうとした。その時だった。俺の目の前に巫女服姿の姉が現れ立ちふさがり、巻物を開き何かを口ずさみ始めた。


「我ここに解く。来たりし異界のモノに示さん。冥界の門への道をここに開かん」


 姉の言葉に合わせ巻物は光り輝き鬼の後ろに一つの形を成してゆく。それは大きく立派な鳥居だった。鳥居の中からは光が眩く輝き目の前にいる生物を照らしだす。それを見た瞬間、俺は自分の目を疑った。そこにはお伽話でしか出てこない鬼がいたのだ。鬼の身体は血で赤く染まり爪には肉片がつき、生々しい血が垂れていた。地の肌の色は恐らく黒でありところどころに微かな罅が見られた。姉の呟きは続く。


「門に照らされし魔を冠するものよ。我が胎動とともに呼吸し生き永らえよ。我、生贄とし肉体を授け、魔なるモノを受肉し受胎せん。我が魂は清らかに魔が重複すること許さず永遠に己の内へと戒めん」


 鬼はその呪文ともとれる言葉に悶え苦しみ身体を上下左右に激しく揺らし、鬼の身体は四肢の節々から鬼を浸食するように光となり霧散しつつ姉の身体に吸い込まれていく。そして、最後に鬼の顔の部分が光りとなり霧散しよとした時、雄叫びにも似た断末魔を上げ姉に襲いかかった。しかし、それもあと一歩のところで届かずそのまま空気に溶けていった。

 姉は鬼が完全に消滅したのを見取ると、ゆっくりと俺の顔をみて振り返る。俺は無意識に涙を流していた。身体は分っていたのかもしれない。姉は俺を見るなり健やかに笑い、ゆっくりと鳥居の光りへと吸い込まれ消えていった。俺は何が起こったか理解するのを止め、心の奥から来る哀しみを否定し否定し、……否定し続けた。しかし、既に手に負えない身体の脱力感と喪失感は拭うことは出来ず、その場で俺は泣き崩れそのまま気を失った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ