第四話 オブリビオン
ユニット、精鋭部隊、諜報活動。これらのキーワードから春一が想像していた場所と実際のオブリビオン本部は大分異なっていた。壁、床、天井、全面を明るい白で統一した開放感のあるラウンジには、現実性世界でいうところのモダン家具が、広い感覚で並べられていた。精鋭部隊の本部というよりは、お洒落なオフィスと言った方がしっくりくるだろう。
春一の正面にはガラステーブルと黒いダイニングチェアが置かれており、横に一人の女性が立っていた。春一は一目見た瞬間にその女性が誰であるかわかった。
祐樹が馴れ馴れしく女性に声をかける。
「エリザ、帰ったぞー!」
佇む女性は、先ほどまでイヤホン越しに会話をしていたエリザだった。祐樹の言った通り、離れた距離からでも美人ということがわかる。
祐樹に続き、春一もエリザの元へ歩いていく。近づけば近づいていくほど、その美しさに春一の鼓動と緊張は高まっていた。
ある程度まで近づくと、エリザは春一に、にこっと笑いかけた。
「こんにちは、春一君。直接会うという意味では"はじめまして"ね」
今までイヤホンから聞こえてきた声は、生で聞くとさらに艶や透明感が増して聞こえる。
目の前のエリザという女性は、誰が見ても息をのむような美貌の持ち主だった。高い鼻にくっきりとした二重の瞳。顔立ちは気品に溢れ、肌は血管が見えてしまいそうなほど白くキメが細かい。絹糸のような白銀の髪は、ショートへアーだが、十分な色香を出している。
「は、はじめまして」
春一は背筋をぴんと伸ばしたどたどしく答えた。女性と接するのが苦手なわけではないが、ここまで美人だとさすがに緊張してしまう。
(な?すっげぇ美人だろ?)
祐樹が春一にしか聞こえないように耳打ちした。
春一はコクリと頷く。
エリザは、どういうわけか祐樹の耳打ちが聞こえたようで、
「ありがとう。祐樹」
わざとらしく、礼を言った。
「…地獄耳だけどな」
祐樹が不満そうに言う。
エリザはクスクスと上品に笑い、春一の方に視線を移した。エメラルドグリーンの透き通った瞳に捉えられ、春一の胸はトクンと大きな鼓動を打った。
「そんなに緊張しないで。どのみち、すぐに慣れてしまうわよ。…さて、緊張と言えばマリー。あなたはいつまでそこに隠れているつもりなの?」
エリザが声をかけると、奥にあった黒皮のソファーの陰から栗色の髪をした少女がひょこっと頭を出した。
春一と目が合う。
「ひゃっ…!」
少女はびくっと驚き、頭を引っ込めてしまった。
エリザがやれやれと首を振る。
「出てきなさい、マリー。しばらくここにいてもらう春一君よ。自己紹介して」
沈黙の後、ソファーの陰から小さな少女が恐る恐る姿を現した。小学校高学年ほどの歳だろうか。少女はフリル着きのごわごわのスカートを揺らしながら、てくてくと春一の前までやってきた。
「………マリー」
少女がうつむきながらか細い子で言う。
「…あ、春一です。よろしく」
春一は顔を覗き込もうとしたが、マリーはまったく目を合わせようとしない。
気まずい空気が流れる二人を見て、祐樹が助け舟を出した。
「マリーはな、こう見えてうちの医療担当なんだ。怪我したら治してもらうといいぜ」
「へぇー。まだ小さいのに、医療なんて凄いね」
春一が褒めると、マリーは顔を真っ赤にしてエリザの後ろに隠れてしまった。
「とっても、恥ずかしがり屋だけど、いい子だから仲良くしてあげてね」
エリザがため息交じりに言った。
「あはは、…はい」
春一は苦笑いで答える。マリーはエリザの陰から顔を半分覗かせたが、春一がそちらに顔を向けるとあわてて引っ込めた。
「メンバーは、これだけなんですか?」
春一が周りを見ながらエリザに尋ねた。ラウンジは広々としているのに、他に人の姿がない。
「まさか。まだ何人かは所属しているけれど、この場所に常駐しているは私たちがほとんどね。他のメンバーについては、春一君が会うたびに随時紹介していくわ。その前に、一番大事な人を紹介していないと」
「一番、大事な人?」
「このユニットのリーダーよ」
「今日はここにいるのか?珍しいな」
祐樹が口を挟んだ。
「えぇ、もうすぐミーティングルームから出てくるはずよ」
エリザがそう言った直後、春一の正面にあったスリガラスの自動ドアが開いた。
「お!うわさをすれば早速ご登場だな」
ドアが開いた先は薄暗く、煙が立ち込めていてよく見えない。
…コツ…コツ……コツ…コツ……
よく響く足音が聞こえ、煙の中に男のシルエットが映し出された。
その独特の雰囲気に春一は生唾をのんだ。
「彼がユニット・オブリビオンのリーダーよ」
エリザの紹介に合わせたように、煙が立ち込める奥のフロアから、ロングコートの大男が姿を現した。無造作に伸ばされた髪に、するどい眼光、とがった鼻、肩幅が広く背が高いが、筋肉隆々という体つきではなく、手足は細くて長い。全身を黒で包み、鉄底のロングブーツで肩を切って歩く姿は、初対面の春一に強烈なインパクトを与えた。
男は正面を向いたまま歩いてくると、春一の前で止まった。髪の隙間から除く赤鉄の瞳が、ギョロっと春一を見下ろす。
春一は、蛇に睨まれた蛙のように固まった。
男が、頭の奥に響き渡るような低い声を放つ。
「…君が岡野 春一か。私はオブリビオンのリーダー……周りは『レイヴン』と呼ぶ。君も好きに呼ぶといい」
「は、はい…よ、よろしくお願いします」
春一の言葉からはあからさまに緊張がみられる。
レイヴンは淡々とした口調で話を続けた。
「来て早々すまないが…。君にはしばらくに間、ここにいてもらう事になる。この前の情報を証言するまでの間、我々オブリビオンが君を保護をする事になった。…異論はないな?」
「は、…はい」
返事を確認すると、レイヴンは春一から目線をはずし、エリザの方を向いた。
「…所要で少し出る」
「わかったわ。私も一緒に行った方がいいかしら?」
「…いや、必要はない」
そう言い残すと、レイヴンは出口へ向かって歩き出した。
「…あ!レイヴン」
祐樹が声をかけた。レイヴンは立ち止まり、振り返る。
「…なんだ?」
「どうせ、春一はしばらくここにいるんだろ?だったらこの際、オブリビオンに入れちまうってのはどうかな?」
「…!」
春一は目を見開いた。ここまで祐樹に『余計な事を…!』と思ったのは前にも後にもこの時が一番だろう。
レイヴンは前に向き直り、
「我々、オブリビオンは少数精鋭…入りたければ力を示せ」
口調を変えることなく言い終えると、再び背を向けた。コツコツというブーツが床を叩く音がだんだんと小さくなっていき、やがて聞こえなくなる。
「ちぇっ!いい案だと思ったんだけどなぁ…」
祐樹は口を尖らせた。レイヴンの姿が完全に見えなくなり、春一の緊張の糸がほどける。
「…はぁ」
春一は額にかいた汗を拭った。その様子を横で見た祐樹は、鬼の首でもとったかのように、たぁと嫌味な笑みを浮かべる。
「あれー。春一ぃ、まさかビビってたのー?」
「!…うるさい」
春一は頬を赤くして、顔を背ける。
マリーがクスクスと笑った。
エリザはやれやれと言った表情で、
「何を言ってるのよ。祐樹、あなたがレイヴンに一番最初に会った時は腰を抜かしていたじゃない」
「あ!エリザ、それ言っちゃダメだろ!」
春一は軽蔑の目で祐樹を睨む。
マリーはまたクスクスと笑った。
それから、夢の世界での数日が経過した。春一は、オブリビオンでの生活に徐々に慣れていき、Dreedamについての知識も増えた。
Dreedamの1日は12時間で、現実世界と同じように昼夜が存在する。巨大構造物:ユニバース内の、世界観で分割されたエリアは、どれもが外郭の内側に位置している為、中から直接空を見る事は出来ない。しかし、各々が工夫をこらし、頭上に擬似的な"空"を演出する事によって、昼夜を生み出している。例えば、オブリビオン本部のある"未来界"は、内壁に張り巡らされた液晶パネルに、外界の空を投影する事によって、実物と代わり映えのない"空"が都市の上空に広がる。
また、このDreedamという明晰夢は、人々が一斉に目を覚ますところから始まり、巨大な地震と共に、一斉に意識が途絶える事によって終わる。春一の場合、この夢を見る前に決まってあの"水の中に落ちる夢"を見るせいで、他の人よりも多少、目覚めが遅いが、その程度のタイムラグは特に珍しいというわけではないらしい。ただ、Dreedamの前に、他の夢を見ることだけは異様なようで、これについて祐樹の助言を守って誰にも教えてはいない。
そして、今日も夢の世界での1日が始まった。
春一が目覚める場所は、オブリビオン本部、エントランス噴水の傍と決まっている。春一は目覚めた際、必ず体中が水浸しで、開口一番に肺に溜まった水を吐き出さなければいけない。そのため、他の人に迷惑がかからないようにと、夢の終わりには噴水の近くまで移動しておく。これは、吐き出した水を顔面に食らった事のある祐樹が、「どうせ濡れてるんだったら噴水のとこで起きろよ」と出した案だった。
春一は、目を覚ました。すぐさま、噴水の中を覗き込んで水を吐き出す。ちなみに、この噴水は何が溶け込んでも水が汚れないという仕様になっているらしく、水を吐き出す事についてはエリザから許可が下りている。
その後は髪と服の乾かしに入る。体を暖かい風がつつみ、一瞬で全てが乾ききった。この"イメージによる乾燥.脱水法"も通常とは少し変わっているらしい。祐樹は、春一をオブリビオンに入れる為の能力として、この乾燥法をレイヴンに打診したが、もちろんあっさりと却下された。
春一は、防火壁のような本部の扉の前まで行き、脇に設置された小パネルにパスコードを入力した。モーターの振動と共に、扉が開き始める。重厚な扉はゆっくりと開くため、完全に開ききるまでは時間がかかる。
ちょうどその時、周りの空を飛ぶ自動車群の中から、一台のバイクが列を離れ、こちらのバルコニーに向かって来た。こういった空を飛ぶバイクは『エアバイク』と呼ばれている。近づいて来たのは、ピザ屋の出前などで目にする屋根の付きの車体だった。このバイクも、中に乗っている人物も春一は良く知っている。
エアバイクが、噴水のそばに着陸し、ターバンを巻いた中東系の男が降りてきた。男はバイクの後部から小包を取り出し、脇にかかえると春一の隣まで駆け寄ってくる。
「よっ!ハル坊、元気か?」
陽気に声をかけた。
「うん、おはよう。アシム」
― アシム。オブリビオンの一員で主に物品の運搬を行っている。運転系の能力に長け、Dreedam内の乗り物はほとんど乗りこなせる。年は40代前半で、春一が会った中では、ほかのオブリビオンメンバーの誰よりも高齢だった。
アシムは、にぃっと白い歯を見せると、ポケットから牛乳便取出し、春一に渡した。
「ほれ、いつもの」
「ありがとう」
春一がビンを受けとるとアシムはもう一本、ポケットから牛乳ビンを取り出した。彼の来ているつなぎのポケットからはイメージによって無限に牛乳瓶が取り出せるらしい。2人は蓋を開け、中身を一気に飲み干した。
「かぁ~。我ながらうめぇなぁ。んで、どうなのよ?『イメージ』の練習は?」
アシムが尋ねると、春一は口元についた牛乳を拭いてから答えた。
「うーん。慣れてきたけど、まだ難しいよ。今日も今から練習」
「そうか。ま、初めのうちはみんなそうだからな。気にすんな!早くおめぇも『イメージ』をマスターして、レイヴンさんや俺みたいなベラボーにかっこいい男になれよ!」
アシムはどこからどう見ても完全な中東人だと言うのに、江戸っ子のような口調で話す。
ドリーダム内では言語が自動変換される。そのため、春一からしてみれば全員が流暢な日本語を話しているように聞こえ、逆に周りは春一が聞き手の母国語を話しているように聞こえている。たまに、アシムのように方言や特徴のある話し方に変換されるケースがあるが、詳しくは解明されていないらしい。
「はは…頑張るよ」
春一は苦笑いで答えた。
本部の扉が開き切った。2人は空の牛乳ビンをぽいっと投げ捨て中に入る。投げられた牛乳ビンは地面に落ちる事なく、空中でキラキラと光る塵になって消えていった。
アシムは小走りで奥へと向かった。春一はまず、中に入ってすぐのソファーに座っていたマリーに挨拶をした。
「おはよう、マリー」
マリーはソファーに深く腰掛け、何やら小難しそうな本を読んでいる最中だった。春一に声を掛けられると、さっと本に顔を隠し、
「…おはよう」
辛うじて聞こえる声で挨拶を返した。
これでも大分、春一に心を開いてきた方だ。初めのうちは挨拶さえ返してもらえなかった。
ラウンジの中央では、スーツ姿のエリザが待っていた。エリザの洋服は日によって変わるが大体はスーツのような、かっちりとした服が多い。
「おはよう、エリザ」
春一が声をかけると、エリザはにこっと上品に微笑んだ。
「おはよう。春一君。それでは、今日も早速始めましょうか」
「うん」
初めはオブリビオンのメンバーに対して敬語だった春一だが、その必要はないと言われてから全員にフランクに接している。
朝一番、エリザに付き添ってもらい、"イメージ"と呼ばれる能力の練習をするのが最近の春一の日課になっている。
「ではまず、いつものように小物からね。今日はどうしようかしら…そうね、ファーストフード店のハンバーガーなんかはどうかしら?」
「やってみるよ」
春一は目をつぶり、両手で受け皿を作った。それから、いつも食べているハンバーガーを想像する。重さ、包装紙の感触、中のハンバーガーを構成するパテ、レタス、ハンバーグ、トマト、ピクルス、玉葱、ソース、そしてかじりついた時の食感、匂い、味。
どしっという重さが春一の手に伝わった。目を開くと、そこには包装紙に包まれたイメージ通りのハンバーガーが現れていた。
春一の顔が明るくなる。
-『イメージ』。Dreedamでは、このように想像によって物を取り出したり、現実ではありえない現象を引き起こす事をそう呼ぶ。このイメージについてだが、単に"何でも出来る"というわけではない。使用者が強く、叉は用意に想像出来る事しか現実にならない。例えば、日用生活品や食品など、普段手にしたり口にする機会が多い物は、イメージによって造り出せる。一方で、使った事がないものや、見たことがないものについては造り出す事が難しい。
「大分早くなったわね。味はどうかしら?」
エリザに促された春一は包装紙を空け、中のハンバーガーを一口かじった。
「おいしい…っていうかいつもの味」
「上出来ね。では、次はもう少し大きな物……椅子でも造りましょうか?」
「りょーかい」
春一は目をつぶった。
「あ、待って。今度は強く想像しないでやってみて」
「え?意識しないで…?」
「えぇ。椅子の造形を思い描くのではなく、ただ無意識に椅子に座ると思って腰を落とすの」
「…やってみる」
春一は大きく深呼吸した。なるべく雑念を消し、頭をニュートラルな状態に切り替えなければいけない。
そして、普段椅子に座るのと同じように腰を下ろした。
ぺたっとした感覚が臀部に伝わり、春一の体はイメージにより生み出された椅子に支えられた。
「…やった!座れた」
「良くできたわね。無意識で『イメージ』が出来るという事は、大分慣れてきた証拠よ」
「ありがとう。エリザが丁寧に教えてくれたおかげだよ」
「いいえ、どういたしまして」
二人が、次の練習に入ろうとした辺りで、スケートボードを抱えた祐樹が近寄ってきた。
「…お!今日もやってるな。どうだ、エリザ?春一の成長具合はさ?」
祐樹は、オブリビオンの任務なのか、私的な用事かはわからないが、よく外を飛び回って忙しいそうにしている。
「なかなか筋がいいわよ。祐樹の時に比べたら、春一君の方が断然、出来のいい生徒ね」
「だから、あの時の俺と春一じゃ、二年の差があるんだって!…そんな事より、イメージに慣れてきたんなら、そろそろ服を変えてもいいんじゃねぇの?ま、椅子とはマッチしてるけど」
祐樹は、春一が創り出した椅子の背もたれをポンポンと叩いて示した。
春一はDreedamに来るようになってからずっと高校の制服姿だった。創り出した椅子も高校で使われている鉄の骨組みに木が張られたお馴染みのものだ。
「そうねぇ」
エリザは人差し指をルージュの口紅が塗られた唇に当てた。
「そろそろ、服装のイメージに入ってもいい頃かしらね…」
衣類は、基本的に無意識によって決まり、それを意識的に変更することは難しい。特に春一のような学生や警察官など、制服という決まった服装を毎日身に着けている人にとってはなおさらだ。
「そうだわ、祐樹!あなた達、リアルでも仲がいいんでしょう?一度、あなたが春一君の私服になってみて見せてあげてくれないかしら?」
「え?俺が…?まぁいいけど…」
祐樹はあまり乗り気ではないようだったが承諾した。目を閉じて、春一の私服を思い出そうとする。
「えっと…確か…春一はいつも…Tシャツの上に、フード付きのシャツを羽織ってて…下は七分のチノパンで…靴はデッキシューズの…」
「よく覚えているわね」
エリザが関心した様子でこぼした。
「祐樹はファッションにうるさいんだ。他人の服はいつもよく見てるみたい」
春一が答える。
「…おし!固まった!」
祐樹はそう言って目を開くと、その場で軽やかに宙返りをした。空中で体が一回転する間に祐樹の来ていた服は変化し、着地の時にはイメージ通りの春一の私服姿へと変貌していた。
春一の私服は、パステルカラーを基調とした全体的に大人しめのものだった。春一自身にはとてもよく似合うのだが、普段派手目の格好をしている祐樹が切ると、少し違和感がある。
「春一の服はいいセンスしてるんだけど、俺には似合わないんだよなぁ」
祐樹が残念そうに言う。
「さぁ、春一君。祐樹を姿を見てイメージもしやすくなっていると思うから、さっそく服を変えてみましょう」
「うん、わかった」
春一は、祐樹が来ている衣服をしっかりと確認した後に目を閉じた。そして、今度は自分がその衣服を着ている姿をイメージする。
少しの間を開けて、春一の来ていたワイシャツの袖とズボンの裾がバタバタと揺れだし、私服へと変わり始めた。変化が服の全域に行き渡ると、春一は隣に立つ祐樹と全く同じ格好になった。
「お、出来たじゃん…よっと!」
祐樹は、今度はその場で前宙をして、服を元に戻した。
「やっぱり、春一君は飲み込みが早いわね」
エリザが微笑んだ。
「ありがとう。やっぱり、エリザのおかげだよ」
「俺は?俺は?」
祐樹がせがむように聞いた。
「祐樹も、ありがとう」
春一は子供をあやすように答える。
「さて…」
エリザは仕切り直すように、手を合わせた。
「実技の練習は順調という事で、次は座学に移りましょうか」
「うん」
「げ、まだやんのかよ!」
「今日は祐樹も受けていきなさい。あなた、Dreedamの基礎知識を知らなすぎるんだから」
「えぇ、そんなぁ…来るんじゃなかった」
祐樹はガックシと肩を落とした。
「…では」
エリザはそう言うと両手を後ろで組み、ふぅっと一つ、息を吐いた。それからハイヒールのかかとでラウンジの床をコツンと叩く。すると、春一達の周りにあった家具類がラウンジの床に沈んでいき、変わりに3×3列の整列されたイスが現れた。遠くにいたマリーが一目散に駆け寄って来て一番前の席にちょこんと座った。
「あら、マリーも一緒に勉強する?」
エリザが訪ねるとマリーはこくんと首を縦に振った。春一と祐樹はそれぞれ後ろの席に座る。
「それでは、まずは基本的なところからね」
エリザはそう始めると、三人の周りにDreedamの各場所を切り取ったミニチュアの立体映像を出現させた。草原や大海、高野や鉄道、様々な立体映像が春一達の頭上をゆっくりと回転しながら浮遊していく。エリザの手元には、レコード盤ほどに縮小されたユニバースのミニチュアが浮かんでいた。この巨大都市は、外観からは全く全体像が把握出来ないので、こう小さくしてやっとその造形が理解出来るようになる。
「このDreedamを一言で表現するならば、『多人数によって共有される明記夢内の世界』となるわね。そして、その形状はというと…」
エリザはそこで一旦言葉を切り、パチンと指をならした。すると、周囲を浮遊していたミニチュア映像達が吸い込まれるように前方に集まりだし、サッカーボールほどの天球体へと姿を変えた。
「このように、現実世界の地球と同じような球体であると予測されているの。草原や高野といった自然の地形が永遠と続いているだけなのだけどね」
エリザは、緑や茶色の多い天球体を手なぞってゆっくりと回した。それから左手の上に浮かばせていたユニバースの立体映像を前に示す。、
「そして、私達はその中にあるこのユニバースの中で生活をしている。ここまでは大丈夫ね?」
「はい」
春一が返事をし、マリーは頷いた。
「俺は二年もいるけどDreedamが球体なんて初めて知ったぜ」
祐樹の発言に呆れ顔を見せたエリザだったが、すぐに気を取り直し説明を続けた。
「次にこの世界のルールについてね。最初に言ったように、このDreedamは明晰夢の中の世界であるため、知覚や意識は現実と変わらないわ。そして、最も重要な点は私達を含めた大勢の人々がこの夢を共有しているという事よ。この世界には、現在三千万もの人が存在しているというのに、全員が同じ世界にいる夢を見ている事になるの」
エリザは天球体とユニバースのミニチュア映像を消し、今度は小さな人型のオブジェを無数に出現させた。
「この共有についてのメカニズムは解明されてはいないのだけど有力な説が2つあってね」
話が進むにつれ、人型のオブジェから青いラインが伸びていき、次々に周りと繋がって行った。数秒もしないうちに、人間型のオブジェ同士は無数のラインで結び付き合い、巨大な蜘蛛の巣構造が形成された。
「このように、個々の夢が干渉をしあい、巨大なネットワークを作っているという説が一つ。もう一つは…」
オブジェ同士を結ぶラインがパッと消え、中央に位置していたオブジェの一つが赤く色付いた。そして、その色付いた人型のオブジェに目掛け、他の全てのオブジェから一本のラインが伸びていく。
「一人の夢、つまり『ホスト』が存在していて、そこに全員が接続しているという説ね」
すべてのオブジェから伸びたラインが中央の赤いオブジェに繋がり、今度はウニや栗のような形に出来上がる。
「どちらかといえば、この『ホスト存在説』の方が有力ではあるわ。ただ、『Dreedamの記憶は現実には引き継げない』というルールのおかげで推測の域を出ないのだけれどね」
「はい、はーい」
祐樹がエリザの話を妨げるかのように、ぶんぶんと手を振って質問を投げかけた。
「ん?何かしら、祐樹?」
「ちょっと話がややこしくなってわかんなくなってきたんで、質問いいー?」
「えぇ…良いわよ」
まさか祐樹から質問が出るとは思ってなかったのか、エリザは意表を突かれたようだ。
「ちょっと関係ないんだけど…これ、どちらの説が正しいにしたって俺達ってみんな12時間ぴったりで夢が終わるよな?それおかしくない?みんな12時間も寝てるわけないしさ」
「あら!祐樹にしては素晴らしい質問ね」
「『しては』は余計だろ…」
「それに関しては『時間圧縮』の説が有力よ」
「『時間圧縮』…?」
「つまり、私達がこの世界で感じている12時間という時間は現実世界ではもっと少ないかもしれないという話よ。実際に、夢にはそういった性質がある事が現実でも認知されているから、この説は間違いないでしょうね。圧縮率までは判明していないけれど、もしかしたら一秒や一瞬という時間まで高濃度に圧縮されているかもしれないなんていう仮説もあるぐらいよ」
エリザの雄弁な話説に、マリーはうんうんと頷き、関心を示していた。
「…それでもさ」
後ろで春一が切り出す。
「もし、時間をどんなに圧縮できても、この世界にいる一億人全員が寝ている時間なんてのは有り得ないんじゃないかな?そもそも、エリザやマリーは、俺や祐樹とは国が違って時差があるわけだし…」
春一の問いにエリザは同意するように頷いた。
「流石、春一君。その通りよ。初めは、そこが一番の謎であったのだけれど、最近ではホスト存在説が正しいと仮定した上でこんな見解が出されているわ。ホストが夢を見ている時間、寝ている人はそのままホストの夢に接続し、それ以外の人は『起きながらに夢を見る』…とね」
「起きながらぁ?」
祐樹が眉間にしわを寄せて言った。
「元々、人は起きながらにも夢を見ているのよ。そこでホストに接続してトDreedamに入ることも可能かもしれないわ」
「でも、ちゃんといつも寝たとこから、Dreedamは始まるぞ?みんなもそうだろ?」
意外と祐樹はこの話の内容を理解している。春一は少し驚きを覚えた。
「えぇ、だから眠りについてから、ホストが眠りに入るまでは待ち状態になるの。そしてホストが夢を見だしてから、私たちも夢を見る…それが起きている状態であってもね。その際に、眠った時点の記憶からその日のDreedamが始まるのであれば、この仕組みでも説明は着くわね。現実世界にこの世界の記憶が引き継げないからこそ、このギミックは成立するのよ」
「……じゃあ、私は……今起きてるかも…しれないの?」
マリーが小さな声で尋ねた。
「えぇ、もしかしたらマリーだけではなくて、ここにいる全員が起きているのかもしれないわよ」
エリザが中腰になり、優しい表情でマリーの顔を覗き込みながら答えた。
…きっとそれはない、少なくとも自分は今寝ている。春一は心の中でそうつぶやいた。
春一はこの世界での記憶を現世に引き継いでいる。もし、春一が今起きている状態で夢を見ているのだとすれば、記憶の時系列がぐちゃぐちゃに入り乱れてしまう。そもそも、春一のように記憶を引き継ぐ人物がいた時点で、エリザの言うその仮説は信憑性に欠ける。もしくは、その仮説が正しいとしても…
「じゃあ、記憶を現実に引き継いでるやつがいた場合はどうなんの?」
祐樹が、ぶっきらぼうに質問を飛ばした。春一が驚き、祐樹の方をあわてて向いたが、本人は春一を気にもしない様子でエリザに視線を送っていた。
エリザは困った様子で首を傾げた。
「現実に記憶を…?そんな事例は聞いたことがないけれど、もしそういう人がいるのだとすれば、この仮説は間違いだという事に成りかねないわね…ただ、この説が正しいとするならば…」
エリザは一瞬、目線を上げて考えた後、祐樹に視線を戻した。
「その人物は『ホスト』。もしくは、『ホストと同じ睡眠サイクル』にいるということになるわね」
春一と祐樹は顔を見合わせる。
「……取り込み中、申し訳ないが」
二人の後ろで唸るような低い声がした。春一が肩をびくっと上げ、後ろを向く。そこには、いつの間にかレイヴンが立っていた。
「れ、レイヴン…いつの間に!?」
流石の祐樹もこれには驚いたらしく声が上ずる。
「…先ほどからずっといたが…?」
このレイヴンという男は、足音を響かせ存分に存在感を出して歩くことも出来れば、気配を消し、相手にまったく気づかれずに近づく事も出来る。
「一体どうしたの?」
エリザが尋ねた。
「『例の件』で動きがあった。…悪いが、一緒に来てくれないか?」
レイヴンが冷静にそう告げると、エリザの表情は曇った。
「え…えぇ。わかったわ。みんなごめんね、今日の講義はこれまで」
エリザは笑顔を作り直し、指をパチンと鳴らす。春一たちの頭上に浮かんでいた立体映像のオブジェが散り、光の粒となって霧状に降り注いだ。マリーが、両手を天井に伸ばし、落ちてくる光の粒を掴もうとする。
「…それから、祐樹」
レイヴンが今度は祐樹に声をかけた。
「『ファンタジー界』の情報屋から、情報を受け取ってきてくれ…本来なら私が行く予定だったが…急用が入ったのでそちらを優先させたい」
「あ、あぁ。わかったよ。『ファンタジー界』の情報屋って、前会った奴だよな?」
「そうだ。…話はすでについている。では…頼んだぞ」
二人のやり取り黙って見ていた春一のもとにエリザが近づいてきた。そして、肩に手を置く。
「春一君は祐樹に付いて行ったどうかしら?」
「え?外に出てもいいの?」
春一が尋ねた。一応、今の春一はオブリビオンの保護下にある為、極力外出は避けるように指示されている。
「基礎的な知識は身についているし、簡単なイメージも出来るようになったのだから、そろそろ外に出てもいい頃でしょう。『ファンタジー界』は比較的に治安がいいエリアであるし、祐樹と一緒なら心配はないわ。ねぇ、どうかしらレイヴン?」
エリザにそう言われると、レイヴンはその鋭い視線を春一へと移した。春一は自分の胃がキュッと縮むのを感じた。どうもこの男は苦手だ。
「…構わない」
一言だけ放つと、レイヴンは背を向けてエントランスへ歩いて行ってしまった。
「それでは決まりね。春一君、社会科見学だと思って楽しんできなさい」
エリザは笑顔で告げると、レイヴンを追った。振り向き様、彼女の泣きぼくろの上の目つきが、険しくなるのを春一は見逃さなかった。
二人がラウンジを出ていくと、マリーは朝座っていたソファーに戻っていき、再び本を読み始めた。
「なんか、緊迫した雰囲気だね…」
春一がそう聞くと、祐樹はあくびをして頭の後ろで手を組んだ。
「ま、あの二人はいつもデカい案件を抱えてるからな。こういうのは、しょっちゅうあんだよ。ところで春一、『ファンタジー界』に一緒に行くのは全然構わないんだけど、その格好は止めてくれよな」
「え?」
春一は自分の服装を確認する。先ほど私服に変えたはずの服たちが、いつの間にか元の学生服に戻っていた。
「なんで…!?さっき確かに…」
「勉強モードになって、服が戻ったんだろうよ」
祐樹がにやにやと笑みを浮かべなじった。
服装を私服に戻した春一は、祐樹の用事について行った。本拠地ビルから空中タクシーで移動し、階層を繋ぐエレベーターを使ってファンタジー界に到着する。
2人が降り立ったエリアは、中世の立派な城を囲むように栄える城下街だった。
祐樹は露店が立ち並ぶ石畳の大通りを慣れた様子で進んでいく。春一は初めて来るファンタジー界の街並みに目移りしながら後に続いた。露店は果物や穀物、薬などを並べる雑貨屋から、剣や盾などを売る装備屋など様々な種類がの店が軒並みを揃えていた。通りを行く人々の中には、ローブに尖り帽子を被った魔法使いや、鎧に身を包んだ剣士などが見受けられる。どうやらこのエリアはロールプレイングゲームの街を再現しているらしい。
真新しいものを一通り見終えると、春一は祐樹に声をかけた。
「ねぇ、祐樹」
「ん?なんだ?」
祐樹が歩きながら応じる。
「あのレイヴンって何者なの?」
オブリビオンに保護されてから数日間で、春一はエリザやマリーなど、よく本部に常駐しているメンバーと大分打ち解けてきた。だが、あのレイヴンという男を前にすると、どうも緊張してしまう。レイヴンは1日に一度ほどしか本部に現れる事がないため、接触する時間自体が少ないせいもあるが、それ以上にあの男の独特の雰囲気、威圧感に怖じ気づいてしまうのが距離を縮められない理由だろう。
「さぁな…」
祐樹はぼやくように返した。
「俺も正直なところよく知らないんだなぁ。ただ、ものすげぇ強い事は確かだよ」
「やっぱり…強いんだ」
「あぁ、あいつはあらゆる武器、重火器を一瞬で創り出せるし、世界中の格闘術や暗殺術をマスターしてて、それを状況に応じて使いわけられる。その上、どんな時でも冷静沈着、頭脳明晰。リアルじゃ傭兵なんじゃないかってもっぱらの噂だ」
「それで…『傭兵』?」
「そ、あんまりにも周りがそう呼ぶもんで、本人は気にしなくなったらしい。俺も前に一度だけレイヴンが戦ってるとこを見た事あるけど、ありゃハンパなかったなぁ」
「そっか」
「ま、あれがリーダーならうちのチームも安泰だな」
あのレイヴンという男に対して、春一は初め「怖い」や「苦手」というイメージしか持っていなかったが、ここ数日で分かった事が一つだけある。それは、オブリビオンのメンバーの誰もがレイヴンを慕っているという事だ。アシムやエリザはもちろん、人見知りのマリーや我の強い祐樹でさえ、レイヴンには一目置いているようだった。
「じゃあさ…」
春一は興味本位で聞いてみる。
「あの『神条あかり』と戦ったらどっちが勝つかな?」
神条あかり…。その名前を出した瞬間に、祐樹がしかめっ面になったのを春一は背中越しに感じとった。すこし間を開けてボソッと答えが帰って来た。
「そりゃ…多分レイヴンだろうよ」
目の前で神条あかりの戦いを見た春一にとって、この答えは意外だった。あの極炎をまとう少女より強いという事は想像しにくい。
結局、レイヴンという男に関して春一の謎は深まるばかりだった。
「にしても…なんだ?春一は神条あかりに興味あんのかぁ?」
祐樹がからかうように聞くと、春一は少し恥ずかしそうに首を振った。
「べ、別に無いよ。ただ、あんな戦いを見せられたからどっちが強いのか聞いてみただけ」
無いと言えば嘘になるが、春一のあかりに対しての興味は、ここで祐樹が意図した『女性に対してのもの』とはどこか違っていた。春一自身もよくはわからなかったが、何故かあの少女の事が気になってしまう。
「へー。ま、どっちにしてもあいつに関わるのは止めとけ。命がいくつあっても足りないぞ。それに、あいつの事好きだなんて言ったらおまえまでみんなに嫌われちまう」
「…みんな、なんでそんなにあの子を嫌うの?」
春一がそう質問すると、祐樹は急に黙ってしまった。そしてしばらく、沈黙を保ったまま歩き続けた後、振り向きざまに
「あいつが…人殺しだからだよ」と冷たい目をして言った。
「人殺し?」
「そ、あいつはDreedamの住人を焼き殺したんだ。今まで何人やっちまったか知らねえが、相当な数を消し炭にして来たって噂だぜ」
「う、噂…だろ?」
「あぁ、ただ火のないところに煙は立たねぇ」
祐樹はキッパリと言った。
本当にあの少女はそんな残酷な人物なのだろうか…。春一は困惑した。紛いなりにも神条あかりはあの時、ユメクイの群れから自分と祐樹を助け出した。言動は確かに善人と呼べるものではなかったが、かといって祐樹が言うような残酷な悪人とも思えない。
どこか腑に落ちなかった春一は、それ以上祐樹と話すのを止め、再び街並みを眺めながら歩く事にした。
「あ、春一。ここまがるぞー」
しばらく行くと、祐樹はそう言って、通りの横の裏路地に入った。
「え?ちょっと待ってよ」
少し遅れて後について行っていた春一は慌てて祐樹を追い掛ける。
2人が入った裏路地は緩やかなカーブを描いて奥へ続いており、外と比べると少し薄暗かった。両隣の建物の屋根同士が近接しあい、空を遮ってしまっているせいだ。少し先の頭上に、道を挟んで建物同士つなぎ合うアーチ状の橋があった。その下まで着くと祐樹は、
「悪いな、春一。これから受け取るのはオブリビオンの機密情報だから、一緒には行けないんだ。ここで待っててくれ」と告げ、すぐそばの建物の中に入っていった。
しばらく、春一はそのまま橋の下で祐樹の帰りを待った。裏路地には人通りがなく、とても物静かで外の大通りの賑やかな物音が反響して微かに聞こえてくる。
5分ほどたった頃だろうか。静かだった路地にけたたましい足音が鳴り響き、奥から魔女の格好をした女性が慌てて走って来た。そうとう急を要しているのだろう。ローブの裾をまくし上げ、尖り帽子がずれているのもお構いなしにこちらに向かってくる。
魔女の格好をした女性は春一のそばで来ると、祐樹が入っていったのとは反対側に位置するドアをこれでもかというくらいに強くノックした。
すぐにドアが開き、中から同じような尖り帽子を被った中年の女性が顔を出した。
「…なんだい?そんな血相かいて」
中の女性が迷惑そうに聞く。
走って来た女性は、息絶え絶えに自分の来た方向を指さし口を開いた。
「はぁ…あいつが…来てる……噴水広場に…はぁ…あいつが……『神条あかり』が!」
これには中から顔を出した女性も血相を変え、慌てだした。
「な、なんたってあいつがここに!?くそ!今までこの辺りは平和だったって言うのに…!」
「とにかく、あたしはもう一回様子を見て来る!」
そう言い残すと、魔女の格好をした女性は再び元来た道をかけていった。
「近づき過ぎて焼かれんじゃないわよー!」
走っていく後ろ姿に中の女性が声をかける。それから、周囲をキョロキョロと見回すと勢いよくドアを閉めた。
あの少女が…神条あかりが近くにいる!
一連を見ていた春一は、あかりがいる広場に行ってみたいという衝動にかられた。本当に、彼女が噂通りの人物なのか直線あって確かめたくなったからだろう。
祐樹はしばらく戻って来そうもない。
「…広場…か」
春一はこみ上げる好奇心を抑えきれず、その場を離れ、路地の奥へと進んでいった。