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夢の王  作者: せいたろう
第二部 六強定例会議編
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第三十話 ゲリラ

 「ここだ」

 入り組んだ廊下を黙々と進んでいたレイヴンは、いきなり立ち止まると、一部屋を顎で指してそう言った。

 「…ここなの?」

 春一は思わず聞き返す。レイヴンが示したのは、ごく普通の控室扉だったからだ。

 「護衛とかは、いないの?」

 「……奴には必要ない」

 レイヴンはきっぱりと言った。それから、躊躇なくドアをノックする。

 「はい」

 中からすぐに返事が聞こえてきた。ドアが半分ほど開き、青髪の男が隙間から顔を出す。

 「やぁ。レイヴン。君は、いつも唐突にやってきますね…」

 ロゥは、やわらかな笑みを浮かべて言った。

 「…お前は、いつも私が尋ねるを予期しているからな…連絡の必要はないはずだ。…現に今も、ノックする前にドアの前まで来ていた…」

 レイヴンは、いつもの単調な口調で返した。だが、春一には、そのやりとりで、二人が気心のしれた中だという事がわかった。

 ロゥは、わざとらしく眉を上げる。

 「そう言われてしまうと、返す言葉もないですね。僕に用があるのは、春一君でしょう?どうぞ、入ってください」

 レイヴンが道を開けると、ドアがさらに開き、春一は部屋の中へと招かれた。

 「終わるころ、迎えに来る…」

 ドアの閉まり際、レイヴンが外から言った。正直なところ、春一は、このロゥという男と一対一にされるのが不安だったが、自分で言いだした手前、仕方がない。

 「そちらへどうぞ」

 ロゥはそう言うと、中央に置かれた丸椅子を手で示した。正面にはもう一つ同じ椅子があるが、部屋には他に家具などはなく、真っ白な空間に小さな窓が一つ空いている。

 春一が椅子に腰かけると、ロゥは正面に座った。先ほどの会議よりも近い距離で彼を目の前にし、春一の緊張は一気に高まる。ふと、視線を上げると、引き込まれるようにロゥの視線が合った。水晶のような輝きを持つ瞳は、よく見ると、中心に向かって幾重もの光の筋が渦巻いており、まるで小さな銀河のように見ええた。

 「緊張させてしまっているようですね。すみません。私は、普段からこの風体なもので。どうぞ、気にせず話してください。…何か、聞きたい事があるのでしょう?」 

 不思議な事に、ロゥがそう切り出した直後、春一の緊張は嘘のように吹き飛んだ。そして、プリズンマンションの部屋にいた男の事と、夢の前に水に落ちる事を、すらすらと話すことが出来た。まるで、催眠術にでもかけられて操られているかのようだった。あるいは、本当にそうかもしれない。ただ、春一は、悪い気はしなかった。話をしている最中、自宅で叔母を前にしているような安心感を覚えたからだ。

 


 全てを話し終えると、ロゥはコクリと一つ、頷いた。

 「そうでしたか…」

 それから、ゆったりと立ち上がると、春一に背を向け、後ろ手を組んで自身の見解を話し始めた。

 「まず、春一君がプリズンマンションで会った男の事ですが…。僕もレイヴン同様、夢の王である可能性は高いと思います。他人の"認識"に影響を及ぼす高度なイマジンを、彼以外が使えるとは思いません。ただ、気になるのは、何故、プリズンマンション内の君の部屋にその人物がいたかという事ですね。偶然なのか、それとも…」

 ロゥは見解を求めるように視線送ったが、春一は答えに困った。確かに、マンション城事件での出来事を思い出すと、自分と夢の王に何かしら関わりがあるように思えてくる。ただ、今の段階では根拠が曖昧で、はっきりとした事が言えない。

 そんな様子を悟ったようで、ロゥは答えを聞かず続けた。

 「これに関しては、僕の方で極秘裏に調査をしてみましょう。何かわかれば、レイヴンを通して君に伝えます」

 「…ありがとうございます。それに、すみません。自分ではまだ、わからないことが多くて…」

 「いえいえ。貴重な情報を話して頂いたのですから、謝る事はないですよ。むしろ、明確な答えを返せない僕も申し訳なく思います。…ただ、その代わりと言ってはなんですが、君のもう一つの謎、この世界に来る前に見る夢については、検討が付きました」

 「…え!?本当ですか?」

 正直、これには春一も驚いた。レイヴンに聞いても、祐樹が散々調べても分からなかった答えをロゥはあっけなく出そうとしている。

 「えぇ。春一君が見る水に落ちる夢、それは…」

 ロゥが言いかけたその時、突如、二人のいる部屋を大きな揺れが襲った。小刻みに体の芯に響く振動に、春一は、すぐにその規模がこの部屋だけではなく、もっと広い範囲だと気づいた。

 「なんだ…この揺れ!?」

 「地震…ですかね?」

 ロゥは、涼しい顔で答える。

 「でも、ここの水瓶の水は揺れないんじゃ…?」

 春一が咄嗟に口にすると、ロゥは軽く頷いて、人差し指を立てた。

 「良い考察ですね、春一君。その通り。フォートアクエリアの水瓶に張られた水は、外からの振動ではけして揺れません。つまり、この衝撃は内部からのもの…」

 「それって…」

 春一は、嫌な予感がした。その矢先、外の廊下から慌ただしい足音が聞こえてくる。足音は、部屋の前で止まる。それから、一瞬の間を空いたかと思うと、乱暴にドアが蹴破られ、武装した二人の男が中に入って来た。両者、ワーク帽とスカーフで顔を隠し、手にはアサルトライフルを抱えている。

 「動くな!!この建物は我々、"レギオン"が占拠する!」

 片方の男がいきなり叫び、銃口をロゥに向ける。だが、それと同時に、春一は、両手から水泡を発射していた。二筋の流水は、男たちの構えた武器を正確に捉え、そのまま、勢いで体を吹き飛ばした。

 壁に叩き付けられた男たちがぐったりとするのを確認してから、春一は振り返ってロゥの安否を確認した。

 「ロゥさん!…大丈夫で…」

 だが、振り返った先にロゥの姿は無かった。

 「ほうほう…。敵の侵入と同時に即座に二つの水撃を放ち、どちらも見事に命中…しかも、武器を弾き飛ばし、気絶させるように威力も調整してありますね…」

 春一の後方から声がする。驚いて前に向き直ると、ロゥは、ぐったりと倒れた男の一人の顔をのぞき込んでいた。

 「やはり、レイヴンはいつも良い人材を見つけてきますね」

 ロゥは立ち上がると、そう言って春一に微笑みかけた。

 春一は、唖然としていた。確かに、振り向くその時まで、真後ろにいた男が、一瞬で姿を消し、向き直ると、正面に移動していた。イマジンを使った気配すらなかった為、それがロゥの能力なのかさえ分からない。

 「…さて、そろそろ私たちも行きましょう。ゆっくりしていると、次の一派がまた攻め込んできます」

 困惑する春一をよそに、ロゥはそう言って、部屋のドアの方に向かっていった。

 「"次の"…って、ロゥさん!あなたは、何が起きているのか分かっているんですか!?」

 「えぇ。ただ、話は歩きながらにするとしましょう」



 言われるがまま、春一は、ロゥの後に続いて廊下を歩いていた。ロゥの衣服は装飾が多く、どう見ても機能性に欠ける。それだというのに、まるで床を滑っているかのように優雅に進んでいく。

 先ほどから、遠くから発砲音や爆発音が度々聞こえてくる。ロゥは、それにまったく動じることなかったが、何も知らされていない春一は、どんどんと不安が高まっていき、とうとうが我慢できなくってロゥに聞こうとした。

 「やはり、気になりますか…?」

 まるで、春一が声をかけるのがわかっていたかのように、ロゥは先に尋ねた。

 「…さっき襲ってきたのは、レギオンの構成員ですよね?」

 春一は、ロゥの横に並ぶ。

 「えぇ。これは、レギオンのゲリラ攻撃です」

 「ゲリラ…!?」

 「はい。我々、六強が集うこの定例会議を狙って、攻撃を仕掛けてきたようです。彼らにとっては、六教の各リーダーを一網打尽に出来るまたとない好機ですからね」

 ロゥの言葉には、余裕があった。この男の本来持ち合わせた気質、それとは別に、この余裕にはなんらかの理由がある。そう感じた春一は直接、疑問を投げかけて見る。

 「あの…。もしかして、ロゥさん、…いや、六強はこの攻撃を事前に予想していたんじゃないですか…?」

 これにはロゥも驚いたようで、目を丸くした。

 「どうして、そう思うんです?」

 「なんとなくなんですけど、ロゥさんやレイヴンが、"例の件"って言って時間を気にしてるように見えたんです…だから、もしかしたら」 

 歯切れの悪い春一が言い切る前に、ロゥはクスクスと笑いだした。

 「…ロゥさん?」

 「いや、失礼。やはり、君は類まれな考察力と直観力を持っているようですね。フィバナッチがレイヴンにやっかむのもわかる気がします。ご指摘通り、我々六強は、今回のゲリラの情報を掴んでいました。その攻撃時間までもある程度は…」

 「じゃあ、なぜ会議を中止しなかったんですか?」

 銃声はかすかにだが、まだ鳴り続けている。ロゥは、的確に戦闘のない道を選び、ゲリラの中心地から遠ざかっているようだが、春一の不安は高まる一方だった。

「…"パフォーマンス"、ですよ」

ロゥは急に気難しい顔をして答えた。

 「定例会議は、ユニバース全土の組織が注目しています。この機会にレギオンの攻撃を打ちはねることが出来れば、六強が彼らに屈しないと言うことをアピール出来るというわけです。もちろん危険が伴うため、私は完全に賛成はしていなかったのですが…」

ロゥ自身も腑に落ちない部分がある。それを知った春一は、言い返す言葉もなく、自分が歩いて来た通路の奥に目をやった。もしかすると、今この瞬間に祐樹やエリザ達が、危険な目にあっているかもしれない。レイヴンがいるかぎり、心配はないだろうが、それでも気にせずにはいられない。

 「しかしですね。春一君」

春一を気遣ったロゥは、諭すように切り出した。

 「確かに、今回の迎撃作戦はリスクを伴います。ただ、その見返りも大きい。これほど大規模なテロはレギオンとしても珍しいですからね。テロリストを捕まえることが出来れば、もしかしたら、彼らのリーダーに関しての情報を掴む事が出来るかもしれません。それに、アピールは何も、六強を支持する人々に対してだけという意味ではありません」

 「…?」

 「レギオンは、リーダーの素性からその構成人数まで、全てが謎に包まれた組織。末端の構成員を捕まえてみも、本人は指示を受けただけだけで組織の内情を知らないケースが殆どです。そのため、未だ我々は彼らの実態を掴むことが出来ていません。しかし、逆に言えば、その分、レギオンは統率がとれていない組織ともいえます。各地に散らばった構成員が、漠然とした指示を元に各々で考え行動している。ですから、今回の一件でレギオンが六強に敵わないという事を知らしめれば、もしかすると、構成員の気力を失わせ、彼らの規模縮小に繋がるかもしれないんです」

 「…確かにそうですね。じゃあ、これから俺は一体どうすれば…?」

 「本来であれば、君はオブリビオンのメンバーと共に行動する予定でした。しかし、実を言うと、作戦では全組織が一か所に集結する事になっているんです。ですから、君は私と一緒にその場所に向かえばいいでしょう。…ただ、ここからは戦闘を避け、"安全に"というわけにはいかないようですが…」

 ロゥが意味深な言葉を添えた直後、春一の背後の廊下の先から数名の足音が聞こえて来た。

 「ロゥさん!後ろから、敵が…!早く行きましょう!」

 春一は急かしたが、ロゥは静かに首を振る。 

 「いえ、そういうわけにも行かないようです。僕たちは挟まれてしまいました」

 まるでロゥの言葉にあわせたかのように、足音がしていた反対側の通路の突当りから、三名のテロリストが現れ、春一達に気づいた。

 「おい!ここにもいるぞ!…!?こいつジャッジ・ロゥだ!」

 一人が、がなり声を上げ、男たちは銃を構えたまま詰め寄って来た。春一が、逃げようと体を翻す。すると、後ろからも、二名の敵が駆けつけ、二人は狭い通路で完全に挟まれてしまった。

 「……くそっ!」

 春一は攻撃をしようと右腕構えた。しかし、ロゥにその手を掴まれ優しく下ろされる。

 「…?ロゥさん?」

 「先ほどは君に助けてもらいましたからね。…今度は僕がやりましょう」

 ロゥはそう言うと、ライフルを構えるテロリストたちの前に一歩、踏み出した。


 ジャッジ・ロゥが動く。


 一瞬にして、その場の雰囲気が変わった。




 

 

 


  

 

 


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