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夢の王  作者: せいたろう
第二部 六強定例会議編
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第二十八話 最強の能力者 

 オブリビオン一行を乗せた黒塗りの高級車が、世界観層を行き来するリフトによって運ばれていく。運転席にはレイヴン、助手席にはエリザ、後部座席には春一と祐樹が座っている。”定例会議”に向かうべく、四人は夢の開始と共にすぐ出発をした。

 「ねぇ、これから向かう『フォート・アクエリア』ってどんな場所なの?」

 リフト内の黄色いランプが車中を照らす中、春一が聞いた。『フォート・アクエリア』について、春一は”今回の会議が行われる場所”としか聞いていない。

 エリザが椅子の陰から、横顔だけ出して答える。

 「『中心界』と呼ばれる、ユニバースの上下左右から見て中央に位置する階層に、一つだけ存在する水上建築物の事よ。言葉で説明するより、実際に見てみた方がいいわ。ほら」

 エリザが、前に向き直ると同時にリフトは止まり、前方のハッチがゆっくりと開いた。レイヴンがアクセルを踏み、『中心界』と呼ばれる領域に車を発進せる。

 薄暗いリフトから、明るい場所に飛び出た後、春一達の前に現れたのは、白い壁で覆われた巨大な空洞だった。球体の内側のような造りだが、あまりに広い為、はっきりとした全体像は把握できない。その空洞の中心に、ガラス製の水瓶が一つ浮かんでいる。そして、その水瓶に向かって壁面のいたるところから無数の糸のようなものが伸びていた。春一は、初めその糸が何だかわからなかった。だが、自分の車が走っている道路の先が、水瓶へと続いている事に気づき、水瓶がとてつもなく巨大な事と、無数の糸のように見えるもの全てが、そこへつ繋がる道路なのだと分かった。よく見てみると、一番近い隣の道路には春一達のように会議に向かう車両の姿もあった。

 「あの水瓶に張られた水、その中心に浮かぶ建物がフォート・アクエリアよ。ちなみに、あの水は、たとえユニバースにどんな衝撃が加わったとしても、波一つ立たないといわれているわ」

 エリザの説明を、春一は窓に張り付きながら聞いていた。

 「…こんな場所が、ユニバースにあったなんて…」

 思わず呟くと、横でシートに深くもたれかかる祐樹が口を挟んだ。

 「まぁ、この中心界は普段立ち入りが禁止されてるし、普通の世界観層エレベーターじゃ表示すらされないからな」

 それから身を乗り出し、目を輝かせながら、バックミラーに視線を送る。

 「それより、レイヴン!定例会議って事は、もちろん『ジャッジ・ロゥ』が議長をするんだろ?」

 「…あぁ、そうだ」

 レイヴンは前を向いたまま答えた。

 「ジャッジ…ロゥって?」

 春一が聞くと、祐樹からは"信じられない"と言った顔が返ってきた。

 「知らねぇのか!?ジャッジ・ロゥだぞ?ノブレス・オブリージュの!」

 (”ノブレス・オブリージュ”って、確か、六強の組織の一つ…瑛里華さんも、レイヴンと話してるとき、ただならぬ様子で口に出してたけど一体…)

 困惑する春一の様子に気づいたエリザが補足を入れた。

 「前に軽く説明したと思うけど、ノブレス・オブリージュは六強の一組織よ。このユニバースの中で、最も影響力を持たった組織と言っても過言ではないわね。構成員は皆、名だたるイマジン使いばかりと聞いているわ。そして、彼らのトップに立つのが、”ジャッジ”と呼ばれる存在で、それが”ジャッジ・ロゥ”というわけ。しかも、彼は六強の会議で、毎回議長を務めているの。その理由は、彼が人格者であり、全てにおいて平等な目線をもっている事と、もう一つ…」

 「最強の能力者だからだ」

 祐樹が嬉しそうに言い放った。

 「最強の…能力者?」

 春一は眉をひそめる。

 「あぁ!夢の王が不在の今、ジャッジ・ロゥは間違いなく、このDreedamドリーダム中で一番強い男だ!そんな、能力者に会えるなんてワクワクするだろ?」

 春一はそこでやっと、祐樹が浮かれている理由がわかった。しかし、同時に疑問も浮かんだ。神条 あかりや、目の前にいるレイヴン、それから瑛里華やメリッサといった名だたる六強のトップがいる中、”間違いなく”といい切れるほど強い人物がいるなどとは、想像が付かなかったからだ。

 エリザが続けた。

 「確かに、ジャッジ・ロゥが議長を務めているのは、その能力において、他の六強のトップたちから一目を置かれているからよ。ただ、勘違いしないでね、春一君。皆、彼の力を恐れているわけではないの。それほどの力を持ちながら、どの組織にも対等に、そして平等に接する彼の姿勢が認められての事なのよ」

 春一は、言葉の節々から、エリザもまた彼を随分と尊敬しているのだと感じた。

 「そうなんだ…すごい人、なんだね…。それだけ強いって事はやっぱり、ジャッジ・ロゥって人もアルケマスターなの?」

 「違うんだな、これが」

 また祐樹が嬉しそうに口を挟む。

 エリザもそこからの言葉には力が入った。

 「ジャッジ・ロゥは、アルケマスターより優れたイマジンを持った、ただ一人の人物…」

 「…『違法の支配者(イリーガル・ルーラー)』」

 それまで沈黙を続けていたレイヴンが急に口を開いた。その一言には、どことなく重みが込められている。

 エリザは一呼吸おいて、続きを説明した。

 「Dreedamドリーダムの”法則”というのは、この世界に住む人々の常識観念を平均したものから定まるのは知っているでしょう?そして、多勢の常識を凌駕するほど、強い想像を出来る人間が、私達のような”イマジン使い”となる。ただ、違法の支配者(イリーガル・ルーラー)の場合はそうではないらしいの。彼は、…ジャッジ・ロゥは、Dreedamドリーダムの”法則”に関係なく、能力を発動できると言われているわ」

 エリザは、断定的な言葉を避け説明をしているようだった。違法の支配者イリーガル・ルーラーがジャッジ・ロウただ一人である以上、確かな事は言えないのだろう。

 「それじゃあ…なんでも出来るって事?」

 春一がそう聞くと、レイヴンはバックミラーに視線を移し、答える。

 「いや…そういうわけでもない…と、本人は言っていたが、誰も奴の全力を見たことがないのでな……ただ、一つだけ、言えることは…」

 レイヴンは、そこで一度言葉を切り、再び前に視線を戻すと、

 「…奴は今、夢の王に最も近い男だ」

 車中に低く響く声で言った。



 一向を乗せた車は、緩やかなカーブを描きながら、上昇する道路を進んでいく。

 しばらく行くと、隣を通っていた一本の道路が合流した。春一達の隣にもう一つ車線が加わった直後、後ろから、馬に乗った侍や武士の軍団が押し寄せて来た。

 「華扇界ね」

 エリザが言った。

 「あ、佐井蔵さんだ…!」

 騎馬隊の先頭に佐井蔵を見つけた春一は、後部の窓を開け、車から顔を出した。それに気づいた佐井蔵が、馬を車の横に着け、並走させる。

 「おぉーー!春一殿!久しぶりでござるな。今日はお主も会議の付き添いでござるか?」

 依然と変わらない浪人姿の男は、束ねた荒い髪をたなびかせ尋ねた。

 春一と祐樹が今回の会議で証言を行うことは公表されていない。そのため、他の組織から見れば、二人はオブリビオンのメンバーとしてここに来たように見えるわけだ。

 「えぇ。まぁ、そんなとこです。それより、瑛里華さんは?」

 「後ろでござるよ」

 さいぞうが、大群の後方を顎で指す。春一が覗いてみると、遥か彼方、数重の騎馬の奥に一台の馬車が走っているのが見えた。

 「すごい数ですね…みなさん、護衛ですか?」

 春一が感心した様子で聞くと、佐井蔵は馬の上で腕を組み、誇らしげに語り始めた。

 「もちろん、姫様の安全を守るのが第一ござる。しかし、定例会議は六強が集う場所。大群を率いて、組織の勢力や威厳を示しつけるのが通例でござるよ」

 「…だってさ、レイヴン?」

 奥で祐樹が茶々を入れた。レイヴンは、気にする様子もなく運転を続けた。



 それからまた、しばらく走ると、一行はようやく水瓶の元までたどり着いた。瓶壁の厚さは、その大きさからして数メートルはあるのだろうが、薄い一枚ガラスのように無職透明で、中に満たされた淡い青色の水に出来る気泡一つ一つまで鮮明に見る事が出来た。不思議な事に、水は瓶底の方から無限に湧き出ているようで、淵から溢れ出しては、ひっきりなしに下に流れで出ている。

 水面の淵際には、周囲をグルっと囲むような輪状の人口浮島が浮かんでおり、周囲から水瓶へと伸びる道路は全て、その浮島へと続いていた。

 オブリビオン一行の車と華扇界の軍勢は、並走したまま浮島へと入った。正面には、白い塔のようなモニュメントを二つ並べて造られたシンプルなゲートがあり、数名の係員が立っていた。袖口の広がったワンピース形式の真っ白な衣装に、春一は見覚えがある。以前、ユニバースの屋上へ出た際、外へ通じるゲートを守っていた男達だ。

 「…フォート・アクエリアの管理は、ノブレス・オブリージュが行っている」

 珍しく、レイヴンが説明を入れた。それから、車をゲート前に停め、サイドガラスを下すと、近寄って来た白服の守衛係に、

 「…オブリビオンだ」と、一言告げた。

 「はい。お待ちしておりました。定員は、申請されていた通りのようですね?」

 守衛係のノブレス・オブリージュ構成員は、車内を軽くのぞき込みながら、丁寧な口調で返した。

 「あぁ」

 レイヴンは不愛想に答える。

 いつのまにか、運転席とは反対側にもう一人の係員が立っていた。どうやらこちらは、”感知型”の能力者のようだ。レイヴンの前にいる守衛係が目線を送ると、静かにうなずく。

 「スキャンが完了致しました。結構です。お通り下さい」

 守衛はそう言うと、これまた丁寧な所作で、車をゲートへと誘う。

 その時、隣で荒々しい声が上がった。

 「どういうことでござるか!?全員スキャンするまで通れないとは…!?」

 華扇界の軍勢が、こちらの車と同じようにチェックを受けており、先頭の佐井蔵が守衛の一人に詰め寄っていた。

 「で、ですから、全員分のスキャンが終わるまで御通しする事はできないんです」

 守衛は必死にさいぞうを宥めている。

 「全員分やっていたら、姫様が会議に遅れてしまうでござる!」

 「そ、それでも…防衛上の問題でお通しするわけには…」

 レイヴンは、隣の押し問答を冷ややかな目で見ながら、サイドのガラスを上げ、

 「…少数だと良いこともある」と、一言呟いてから車を発進させた。



 ゲートの先には、車両数台が横ならびで走れる幅の広い道路が続いていた。水面に浮かんだ白い道路は、街灯も無ければ、道脇に落下を防ぐものも設けられておらず、真っ直ぐに水瓶の中心部へと伸びている。周囲には、弧型の浮島がいくつも存在し、道路とは桟橋のような道で繋がれていた。浮島や道路は、どれも白色の塗装に接合溝のみ入ったシンプルな形をしていて、それらが水面に浮かんだ光景は、独特の雰囲気を醸し出している。

 車が道路の中央付近まで進むと、周囲の浮島の様子が一変した。どの島にも、数台の装甲車が停められており、後部に積まれたミサイルポッドの発射口が、水瓶の外側へと向いている。付近には、カーキ色の軍服に身を包んだ男たちが控え、合図があれば、すぐにでも戦闘を始められるといった緊迫した様子だった。

 「あひゃー。ありゃ、『シュバルツ軍』のミサイル部隊じゃねぇか!よくまぁ、こんな数連れてきたな」

 春一の隣で窓に頬を押し付けた祐樹が言った。


 ―『シュバルツ軍』は、”現代界”を統治する巨大組織で、六強の一員。


 春一もその程度の事は知っていたが、実際に彼らを見るのは初めてだった。

 「定例会議の外部護衛は、各組織が交代で請け負うことになっているの。それで、今回は見ての通りシュバルツ軍というわけなのだけれど、これは少しやりすぎね」

エリザは、島々に配備された装甲車の大群を眺めながら、呆れ顔で言った。

 「外部ってなんだよ?」

 祐樹が窓から前に向き直って聞く。

 「”あれ”のことよ」

 エリザはフロントガラスを指さす。車は、ついに目的地である水瓶の中心部までたどり着き、前方には周辺の道路が集結する円形の浮島が姿を現した。そして、その浮島の建つ異様な形をした建設物がフォート・アクエリアだった。幾重にも、不均一な壁が重なったその外観は、まるでバラの花のようだ。塗装も周辺同様、光沢とはまた違った輝きを放つ白で統一されている。下層部に設けられた出入口の穴と、花びらのような外壁ある窓がなければ、その物体はモニュメントにしかみえない。しかし、何より目を引いたのは、フォート・アクエリア自体の外観ではなく、建物がある島ごと、その周辺をすっぽりと覆ってしまっている球状のオーラだった。オーラは時折、様々色に移り変わって輝き、その姿を目視できる。エリザが言った”あれ”というは、このオーラの事だ。

 「あれは…一体?」

 春一が尋ねると、エリザは珍しく回答に困った様子だった。

 「うーん…エネルギーシールド・魔法障壁・大結界…各組織によって呼び方は様々ね。あのオーラは、六強の全組織がそれぞれの技術を融合して作った強力な防護装置なの。協力して作るとこまでは良かったのだけれど、名前を決める時にもめたらしくてね。名前がないままなのよ。そうでしょ?レイヴン」

 「…あぁ、くだらない話だ」

 それを聞いた春一は、祐樹に耳打ちをした。

 (六強って…あんま仲良くないんだね)

 (そりゃそだろ?花扇のねぇちゃんや、メリッサとかがいるんだぞ?)

 苦笑いのエリザは、フォローに入る。

 「ま、まぁ…名前はないにしろ、その防御力は折り紙つきよ。たとえ、どんな強い能力者であっても、許可なしでこのオーラを超える事はできないのだから」 

 「あのオーラに触れると、どうなるの?」

 春一が聞いた。

 「定例会議前にあらかじめ登録した者は、何も起こらずそのまま通れるわ。ただ、それ以外の者は触れた瞬間…なんていうのかしらね、”消滅”してしまうといった表現が正しいかしら…」

 それを聞いた途端、春一と祐樹の表情は曇った。なぜなら、今まさにそのオーラの中に二人を乗せた車が突っ込もうとしていたからだ。

 「お、おれたちは、ちゃんと、登録されてるよな?」

 震え声の祐樹をしり目に、レイヴンはそのまま車を直進させた。車体がオーラの中に差し掛かった瞬間、二人は肩をギュッと上げたが、何事もなく車は中へと突入した。

 「当たり前でしょ」

 エリザがため息まじりに言った。



 レイヴンは、入り口のすぐ横に車を停めると、降りた三人を引き連れ、フォート・アクエリアの内部へと向かった。”入り口”と言っても、そこにあったのは、二つの柱と彫刻細工で淵を彩られた大きな穴だけであり、扉も無ければ、警備係さえいない。あのオーラが絶対的な防御力を持っている証拠なのだろう、春一はそう思った。

 エントランスは、巨大なホールだった。正面には奥へと続く大階段があり、左右に幾つかの通路が設けられている。やはりここも、全体が白で統一され、柱や二階部分の手すりなどに刻まれた彫刻を覗けば、他に余計なものが一切設置されていない。簡素な造りだが、逆にそれが大きな空間を強調し、見たものを圧倒していた。

 春一がキョロキョロと周りを見回していると、どこからともなく、白衣装に身を包んだノブレス・オブリージュの係員が現われ、春一、祐樹、エリザの三人は控室に、レイヴンは”会議室”へと案内される事となった。



 


 別行動になってからしばらくの時間が経過した。控室は、三人がくつろぐには十分ではあったが、そこまで過剰に広いわけではなかった。そもそも、この部屋に着くまでに歩いてきた通路も、建物の大きさの割には狭く感じた。エリザいわく、この場所は、六強を含めたユニバース全土の大組織が集結する事があり、大量の部屋を用意する為に一つ一つを最低限の広さにしているのだという。

 控室の中で春一は、証言の内容を小声で復唱していた。祐樹はソファに寝転がっており、エリザはイマジンで出した半透明のタッチパッドでオブリビオンの仕事を行っている。

 しばらくすると、暇を持て余した祐樹が、ムクッと体を起こした。

 「なぁ、エリザ。定例会議って、いつも何話てんの?」

 明らかに退屈しのぎの為に聞いている。エリザもそれがわかったようで、呆れ顔で祐樹の方を向いた。

 「…話してもいいけれど、祐樹。あなた、証言の方は大丈夫なの?春一君を見習いなさい。さっきから、ずっと練習しているわよ。ねぇ、春一君?」

 「え?あ、…うん。でも、俺も会議については興味あるかな…」

 春一がそう答えると、エリザは表情を明るくし、

 「そう?じゃあ、説明するわね」と、タッチパッドをふっと消した。

 「おい!なんだよ?春一と俺じゃ態度がまるで違うぞ!?」

 祐樹がかみついたが、エリザは完全に無視をして話を始めた。

 「定例会議で挙がる議題は、今回のような探索隊に関して事。それから、その時期に起こった政治的問題、またはユニバース全体に影響を及ぼすような問題などね。最近で言うと、レギオンの件が毎回、議論されているわね。ただ、会議の真の目的は、これらではなく、”外界進出”について、ユニバースの方針を決定することよ」

 「”外界”ってのは、ユニバースの外の事だよね?それなら、探索隊を派遣したり、拠点を立てたりしてるじゃ…」

 春一がそう聞くと、エリザは一つ頷いてから話を続けた。

 「えぇ。ただ、ここで言う”外界進出”とは、”永住”を意味するの。つまり、ユニバース内の人間が活動の場を外へ広げるという事ね。…以前のように。もちろん、その為には、外界にはびこる怪物・ユメクイの駆逐しなければならないわ。つまり、大規模な掃討作戦を展開しなければならない。…まぁ、こう言ってしまうと、やる事もわかっていて簡単に思えるのだけれど、ユニバース全域の組織が参加する掃討作戦の実行には、色々と”しがらみ”があってね。”外界進出”に関しては、様々な意見があるのが現状よ。そこで、六強で議論し、ユニバースとしての方針を固めているわけ」

 エリザの言う“しがらみ”について、春一はなんとなく心当たりがあった。ちょうど昨日、祐樹が言っていた事もまさにその一つだろう。掃討作戦を行えば、多からずも犠牲が出る。どの組織も、その犠牲によって自らの勢力が弱体化する事を恐れているのだ。

 「ちなみに、定例会議が開かれるようになって以来、毎回、2:4で”反対”が多数をとっているわ。”賛成”に票を入れているのは、さっき表にいた『シュバルツ軍』と、現代界のもう一つの組織、首領・フィバナッチ率いる『パブロ・カルテル』の二つね」

 「え?…じゃあ、オブリビオンは”反対”にいれてるってこと?どうして…なの?前にレイヴンに聞いたけど、オブリビオンの目的って、まさに”外界進出”だよね…?」

 春一の質問にエリザは少しバツ悪そうな顔をする。

 「確かにそうね。でも、定例会議で毎回決を取るのは、あくまで”今すぐに進出をするか、どうか”なのよ。オブリビオンの最終目標が”外界進出”である事は間違いないのだけれど、レイヴンは、その過程の”夢の王”を探し出す”というプロセスに重点をおいているわ。私達だけではなく、他の組織もそうね。基本、どこも”外界進出”自体には賛成なのよ。その中で、今すぐに行動を起そうとする”推進派”と、さっき言った”しがらみ”などから、まだ踏み切るには早いとする”保留派”に分かれているの。極端な事を言ってしまえば、あのレギオンでさえ、”推進派”の一つと考えられるわ。彼らは、自らが夢の王となり、すぐにでも外界の大地を取り戻そうとしているのだから」

 エリザの話を聞いた祐樹は、何やら納得したように人差し指を立てた。

 「それで、『シュバルツ軍』と『パブロ・カルテル』にはレギオンのメンバーがいるんじゃないかって噂が多いのか…!同じ”推進派”だから」

 「そうね。それに、彼らは武力行使や強行的な手段に頼りがちなところがあるから、偏見の目を向けられるのも仕方ない気がするわね…」

 「…みんな目的は同じなのに、そう簡単に協力は出来ないんだね…」

 春一が、虚しげにこぼす。

 「それが、政治というものよ」

 エリザは、苦い表情で言った。


 - コン、コン。


 落ち着いたノックの後にドアが開き、ノブレス・オブリージュの係員が、春一と祐樹を迎えに入って来た。

 「時間となりました。証言をなさるお二人は私について来てください」

 春一と祐樹が顔を見合す。

 「さぁ、二人とも。頑張っていってらっしゃい」

 エリザは、二人の背中を優しく押して、送りだした。

 



 


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