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夢の王  作者: せいたろう
第二部 日本エリア編
15/32

第十四話 六強

 「入ります」

 さらし姿、背中には荒れ狂う龍の入れ墨、『いかにも』という出で立ちの男は、ドスの聞いた声でそう言うと、ざるに二つのサイコロを素早く投げ込み、盆ギレの上に伏せた。

 周りには、似たような風貌の男たちがこぞって詰め寄っている。その中心、ざるの前の盆ござに正座しているのは、この状況に全く不似合いな少年、高校生の岡野おかの 春一はるいちだ。

 もちろん、現実世界でこんな事が起こるわけはない。ここは夢、3000万もの人が夢を共有する事によって構築された世界 Dreedamドリーダムの中だ。

 春一は、真剣な眼差しで盆ギレにかぶせられた小さな壺を見つめていた。周りを取り囲むのは強面の男たち、普通なら高校生はおろか、大の大人も平然としていられない状況だが、彼はいたって冷静だった。この世界では、見かけの強さなどは全くもって無意味だからだ。特に春一のような存在に対しては。

 「丁片ないか、ないか。半方ないか、ないか」

 奥に座る出方の男が催促をかける。

 春一の額から一筋の汗が頬を伝った。生唾をごくりと飲み、口をゆっくりと開く。

 「…半!」

 「そろいました」

 出方は一旦、そこで区切ると凄みの聞いた声で後に続けた。

 「勝負!」

 その場にいる全員が息を飲んだ。



 夢の世界Dreedamドリーダム。そこでは、現実世界ではありえない事象が度々起こる。ただ、精鋭部隊オブリビオンに所属し、諜報活動や小戦闘などを繰り返していた春一が、このような状況で賭博をしているのは、かなりな珍妙な事態だ。



 ― 事の発端は、夢時間においての一日前に遡る。



 果てしなく続く赤土の荒野を、一台の蒸気機関車が走っていた。黒煙をまき散らし、蒸気式のエンジンが壊れるかというほどに疾走する。その姿は、今の現実世界ではなかなかお目にかかれないだろう。

 「ねぇ、祐樹?」

 春一が訪ねた。

 「ん、なんだ?」

 金髪に丸メガネの少年、西条さいじょう 祐樹ゆうきは客車の窓の外を眺めながら、あいまいに返事をする。

 春一と祐樹の二人は、諜報組織オブリビオンの任務でDreedamドリーダムの荒野を走る列車に乗り込んでいた。前回の夢が終わる直前に祐樹に引っ張られ列車に乗り込んだため、春一は任務の内容を知らされていない。

 「今回の任務って一体、何なの?」

 春一が向かいの席に座る祐樹に聞く。

 「ん?あぁ、プリズンマンションの定期視察だよ。固定式の奴な」

 「定期視察?なんか…いつもと任務の気質が違うような…」

 春一は疑問に思った。オブリビオンに加入してからおよそ三か月が経過したが、自分に与えられる任務は、能力上の関係からか、ほとんどが小戦闘を想定したものばかりだった。このような、『情報』を取り扱う任務は珍しい。

 「そりゃそうだろうよ。多分、視察ってのはただの口実だろうし…」

 祐樹は不満気にそう言うと、大きなあくびをした。

 「どういう事?」

 「…そのうちわか……!春一、窓の外見ろ!」

 列車の外に何かを見つけた祐樹が大きな声を出した。春一は、慌てて窓を覗き込む。

 二人の乗る列車の先を一台のジープが並走していた。軍用のものだろうか、ボディは砂迷彩に塗装されており、分厚いゴムタイヤが後方に砂煙を巻き上げていた。元々は四人乗りなのだろうが、今は7~8人が無理矢理に乗り込み、落ちまいと必死にしがみついている。

 何かから逃げている…?春一がそう思って目を凝らした時、ジープから巻き上げられた砂煙から、それらは姿を表した。

 2~3メートル四方ほどの大きさをした真っ黒な塊が四つ、ジープの後を追いかけていた。細い節足が四つに大きな一つ目をした怪物。

 「ユメクイだ…!」

 春一が叫ぶ。

 「…やっぱりな。俺たちが呼ばれたのは、あれのせいだったってわけだ」

 祐樹は落ち着いた様子で言った。先ほどの会話からするに、彼はあの怪物たちが現れる事を予期していたのだろう。

 「でも、どうして?線路にユメクイは近寄らないんじゃないの…?」

 「そりゃあ、そうなんだけど、今回のは特別なケースで……って先にあいつらを助けるぞ!ちんたら話してると全員食われちまいそうだからな!」

 「う、うん!」

 ジープと怪物たちの距離は徐々に迫っていっていた。定員オーバーで、あきらかにスピードが落ちている。

 祐樹は客車の錆びついた窓をギッ、ギッと二段階に分けて上に開けると、外に宙に浮くスケートボード『ホバーボード』を出現させて飛び乗った。春一も続いて窓から外に出ると、祐樹の後ろに飛び乗る。

 二人の乗ったホバーボードは一気に加速し、追跡劇を繰り広げるジープと怪物たちの方へ近づいて行った。

 「春一!」

 祐樹が作戦を伝えようとしたが、春一は意図を察して先に口を開く。

 「正面から迎え撃つから、奴らと車の間に下して!」 

「了解!」

 祐樹は威勢よく答えると、右手に小ぶりのバスーカ砲を出現させ、引き金を引いた。

 ボォン、という音ともに打ち出された弾頭は、綺麗な放物線を描き、怪物たちの走る数メートル前に落ちて破裂した。辺りに白い煙幕が広がり、怪物たちの行く手を塞く。そのうちにホバーボードはジープの後ろに回り込んだ。

 「行って来い!春一」

 祐樹がホバーボードの速度を少し緩めると、春一は躊躇なく飛び降りた。摩擦で赤土の砂埃を巻き上げながら、怪物たちを包み込んだ白煙の前に降り立った。

 数秒経って煙幕が消えると、血走った四つの目がこちらを睨みつけていた。一つ一つが手のひら大ほどもある臼歯をむき出し、黒い巨体を揺らしている。


 - ユメクイ。この世界にはびこる人を喰らう異形の怪物。中には羽を生やし、空を飛ぶ個体も存在するが、その生態は謎に包まれている。


 十メートルほど先にいる怪物達が今にも襲いかかってきそうだというのに、春一に焦りはなかった。淡い生地のパーカーの袖を右腕だけめくり、両足を肩幅ほどに開く。その出で立ちは、まるでこれから打ち合いを始めようとする西部のガンマンだ。

 怪物達が人の悲鳴に似た奇声をあげた。そして、4本の節足をバラバラに動かし、大口を開きながら春一に襲い掛かる。体をねじ込むようにして突進をする様は、現実のどの猛獣よりも恐ろしく、迫力があるだろう。

 だが、春一は一切たじろがなかった。それどころか、怪物達が五メートルほどの距離まで近づくのを待ち、十分にひきつけてから水撃を放った。砲口となった右手のひらから圧縮して発射された数ミリ四方の流水は、まるでなたを降ったように怪物達を切りかかる。初め2体が身体を上下にスパっと裁断され、すかさずもう一体が縦に真っ二つになった。残った最後の一体が、危機を察して止まったがもう遅い。流水は、怪物が突進の勢いを止めきる前にその大きな一つ目を打ち抜いた。

 四体の怪物が水風船を割ったように破裂し、辺りにドロドロの体液を撒き散らした。石油のような黒い体液は赤土の大地に触れるとまたたく間に薄くなって消えてく。そして、その場には水撃が作り出した水たまりだけが残った。

 春一がホッと一息ついて、腕まくりを戻していると、戦闘の終了を確認した祐樹が戻ってきた。後ろには数台ジープを引き連れている。春一と別れた直後に応援に来た連隊と強力したとの事だった。 「もう終わったのか!さっすが春一!」

 祐樹が親指を立てて賞賛を送ると、春一は軽く微笑んで返した。

 2人はそのままジープの一台に乗り込み、近くにあるプリズンマンション周辺に作られた駐屯地へと向かう事になった。




 「いやぁ、お二人に来ていただいて本当に助かりました。まさかイマジン保持者の方々が調査に来ていただけるとは、しかもお一人はアルケマスターだなんて!」

 春一と祐樹を後部に乗せたジープを運転する連隊長は、ねぎらいの言葉をかけた。

 「よく言うぜ。元々ユメクイ退治をさせる為に俺たちを呼んだくせに」

 両手を後ろに組んだ祐樹は嫌みったらしく言う。

 「…なんの事です?」

 連隊長からは自然な反応が帰ってきた。

 「ん?そっちも知らねえのか?……って事はレイヴンの差し金だな。ったく、それなら一言、言ってくれたっていいのに…!」

 悪態をつく祐樹を春一が宥めに入った。

 「まぁまぁ、いつもの事だし仕方ないよ。それにしても、なんで線路のそばにユメクイがいたの?」

 「それは、ここの地理が関係してるんですよ」

 連隊長が答えた。

 「地理…?」

 春一が首を傾げると、祐樹がウィンドブレイカーのポケットから半透明の立方体を取り出した。かなり小ぶりだが立方体は一つの面が9つに裁断されており、ルービックキューブに造形がよく似ている。

 「ほいよ、これ、エリザから貰った地図。ここまで離れると通信によるサポートが出来なくなるからって渡されてたんだよ」

 そう言って祐樹が一面を押すと立方体はたちまち直方形の薄いモニターへと姿を変え、春一の前に広がった。

 「赤く光ってるのが、今回俺たちが向かうプリズンマンションで、緑が現在位置な」

 モニターに映った地図の中央には赤い点があった。そこから少し離れた位置に緑の点があり、少しずつ赤い点に近づいてる。周りには鉄道の線路を表した白いラインが引かれていた。ラインは地図内に三本引かれており、それらが作り出す三角形が赤と緑の点を取り囲んでいた。

 春一が地形を確認したのを確認すると連隊長が説明を始めた。

 「ご覧の通り、我々が駐屯地を構えるプリズンマンションの周りは鉄道線で囲われておりまして。その為、本来ならばユメクイが入ってこれないエリアになっているんですよ。」

 「へぇ。だから、ドリーダムの大地に駐屯地なんかが作れるわけですね」

 春一は感心した様子で言った。現在の所、人類は巨大集合都市ユニバース外の大地に永住を成功させていない。全てはあの人ぐらいの怪物ユメクイのせいだ。

 「ちなみに言えば、ユニバースにユメクイが近寄らないのも同じ理由だぜ」

 祐樹が付け足した。

 「あれは鉄道線が密集した場所を前にして浮いてるからな。後ろは海だけど、その先はまた鉄道線が走ってるらしいし」

 「知らなった…でも今回は三角の中にユメクイがいたよ?」

 春一がそう言うと連隊長は渋い顔をする。

 「その理由は私たちにもわからないんですよ…」

 「ま、理由はわからないとして。中に入ったユメクイ達はピンボールみたいにはじかれて三角の中でぐるぐる回る事になったわけだ。線路の近くに出てきたのもそのせい」

 「そうだったんだ…何より、助けられたからよかったよ」

 「本当に助かりました」

 連隊長は再び、強い感謝の気持ちを込めて礼を言った。



 しばらくすると、ジープ群はプリズンマンションを囲うように設立された駐屯地へと到着した。駐屯地は3メートルほどのコンクリートの壁に覆われており、中には仮説建築用のテントが軒並みを揃えていた。奥には十数回建てのプリズンマンションがそびえる。

 ジープを降りた春一と祐樹は、プリズンマンション視察の手続きが済むまでの間、連隊長室テントへと案内された。中には折り畳み式の長机が二つ、くっつけて置かれており、周りにはパイプ椅子が幾つか並んでいた。2人は向かいあって座る。

「あ…このマーク」

 春一はテントの側壁に掲げられた、旗を見つけ呟いた。

 「あれ?春一は見るの初めてだっけ?」

 祐樹は、ボロボロのスニーカーをはいた足を前のテーブルに投げ出していた。靴底はすり減って溝がなくなっている。

 黒ずんだテント側壁の旗、そこには均一に並べられた六本の長方形が描かれている。長方形は数学の図形に出てくるようなシンプルなもので、彩色なども一切されていない。デザイン自体は誰にでもかけそうな至ってシンプルなものだというのに、なぜかそのマークは重厚な雰囲気を漂わせていた。

 「いや、前に訓練で行った射撃場で見たことがあるよ。そん時はレイヴンも一緒にいて…確か、ユニバースの中央政府を表すマークだって言ってたかな…」

 「そ、こいつはユニバースの統治…『六強ろっきょう』を表すもんだ」

 「…『六強』?」

 「ユニバースの政治が、各世界感層の有力組織によって民主的に行われているのは知ってんだろ?その中心になってのは主に6つの組織で、それらを総じて「六強」と呼ぶんだ。所属しているのはどれもその世界感層を統治してる団体で、リーダーは全員強力なイマジンを持つ能力者なんだぜ」

 「ふーん。じゃあ、俺達の本部がある『未来界』の代表はどんな組織なの?」

 春一が尋ねると、祐樹ぽかんとした様子で、

 「何言ってんだ…!?俺らオブリビオンも六強の一組織だぞ?」と、当たり前といった様子で言った。

 「えぇ!?そうだったの?」

 春一が声を上げる。

 祐樹はしまったと、頭を抱えた。

 「そっかぁ。当たり前の事だから知ってる思ったけど、春一はこの世界に来た時に基礎講習を受けてないのか」

 「Dreedamドリーダムに目覚めた人がみんな受けるやつ?…うん、俺の場合はすぐに保護されてそのままオブリビオン入りしちゃったからね」

 「エリザがいろいろ教えてたみたいだけど、まだまだ知らないことはたくさんあるか…こりゃ帰ってから、また勉強だな」

 「そうだね」

 二人がリラックスした雰囲気で話していと、先ほどの連隊長がテントの中へと入って来た。

 「お二人共、視察の準備が整いました。こちらへどうぞ」

 春一と祐樹は連隊長に連れられ、駐屯地内のプリズンマンションへと向かった。

 軒並みを連ねるテントは、ユメクイの脅威がなくなった事で、何やら浮足立っていた。中には、二人を見ようとテントから顔を覗かせる者までいたほどだ。

 注目を浴びることが苦手な春一は、ソワソワとしていたが、その前を行く祐樹はむしろ気持ち良さ気な様子で闊歩していく。

 途中、春一たちは駐屯地の隊員に連れられた一般人の集団とすれ違った。何気なく、春一がその一向を眺めていると。気を利かせた連隊長が説明をした。

 「最近目覚めた覚醒者の一行ですよ。ユメクイの危険がなくなったので今からユニバースへと向かうんです」


 - 覚醒者かくせいしゃDreedamドリーダムに初めて介入した人々はそう呼ばれ、皆決まってプリズンマンションの一室で目を覚ます。



 「覚醒者って、意外と結構いるんだねぇ」

 春一が言った。

 「ここは、目覚めたらすぐに保護されてユニバースへ直行できるからな。特に多いんだよ」

 祐樹が感慨深げに答える。

 「他のプリズンマンションは?」

 「うーん。立地条件によるな。駅や鉄道線から近いとこにある奴は頻繁に偵察が行くから

保護されやすいんだけど、それ以外はな…人より先にユメクイと会っちまうケースが多い」

 「そっか…」

 春一はなんとも言えない気持ちになった。そして、マンションから出た瞬間に祐樹と合流した自分がいかに幸運だったかを思い知った。

 少し行くと、三人はプリズンマンションの前まで到着した。目の前のその建物は、春一が見てきた他のマンションとこれといって相違はなかった。廃墟感を醸し出す、打ちっぱなしのコンクリートの外壁、各階層には鉄製のドアがすらりと並んでいる。

 「さぁて、とっとと中見て終わりにしようぜ!」

 両手をポケットいれた祐樹がそう言って中に入ろうとした時、辺りに何かのアラーム音が成り響いた。三人が音の行方を捜す。どうやら音は祐樹のウィンドブレーカーのポケットからのようだ。

 「なってるの、祐樹からじゃない?」

 「は?俺?」

 祐樹がポケットから、任務の前にエリザからもらったというあの立方体を取り出した。アラームを発しているのはこれだった。適当にボタンを押すと音は止み、一面にマイクのマークが現れる。

 『二人とも、聞こえているかしら?』

 立方体から流れてきたのは、アナウンサーや鶯嬢も顔負けの美しい女性の声。エリザからのメッセージだ。

 『これが再生されているという事は、無事に駐屯地に到着したようね。すでに聞いているか、もしかしたらもう接敵済みかもしれないけれど、近頃その周辺に数体のユメクイが侵入したの。悪いけど、二人はまずその殲滅にあたって頂戴』

 「ほーら、言ったとおりだろ?」

 祐樹が唇を尖らせて言う。

 『それから、殲滅に成功したら春一君は至急こちらに戻ってきて。視察は祐樹に任せれば大丈夫だから。それでは、また後でね』

 メッセージが終わると、立方体に映ったマイクのマークは消えた。

 「…だってさ。どうする?」

 少し間を開けて春一が聞いた。

 祐樹はぷうっと頬を膨らませ、不機嫌をアピールする。、

 「ったく、行くしかねーだろ?視察は俺がやっとくからとっとと戻れよ」

 とげのある言い方だ。

 「…なんか、ごめんね」

 春一は苦笑いで謝った。

 「それでしたら、近くにリニアモーターカー線の駅があるので、そこまで遅らせましょう」

 話を聞いていた連隊長が提案した。

 春一はエリザからの通達に従ってユニバースに帰還する為、その場を後にした。去り際、後処理を任されて明らか不機嫌な祐樹が気がかりであったが、仕方がなくそのままおいていった。



 駐屯地のジープで近くのリニア線の駅まで送って貰った春一は、間際に到着したユニバース行きの列車に乗り込んだ。

 流線型の車体をしたリニアモーターカーは地面スレスレの高さで浮かび、大地に引かれた電磁レールと車体生じる磁力により、時速500キロ以上の速度で疾走する。それだけの速さが出ているというのに列車内は、まったく振動がなく、ジャンボジェット機のファーストクラスのようなゆったりとし

た座席に座っていると、外が高野だという事をすっかりと忘れてしまう。 圧倒的な走行速度の差から、リニアモーターカーは行きの半分ほどの時間でユニバース付近に到着した。

 路線がゴツゴツとした大岩地帯を抜けると、その巨大構造物は姿を表した。全形はまるでUFOのような楕円形の円盤、中には様々な世界観の都市、街、村などがひしめき、三千万もの人々が生活するコミュニティーを作り上げている。その大きさ故、数十キロ離れた場所からでもは確認する事ができ、誰もが近づけば近づくほどに驚愕の表情を見せるほどだ。それだというのに、このユニバースという構造物は、大地が終わり崖なった先に広がる海の上空に微動だにせず浮かんでいる。浮力源になりそうなものはないというのに、その空間にピン留めされたかのようにと存在する姿は、SFやファンタジー好きに絞らなくとも見たものは思わず目を奪われてしまうだろう。

 実際に、任務で何度かユニバースを出入りしている春一でさえ、今は客車の窓越しにぼんやりと眺めてしまっているほどだ。

 リニアモーターが崖先からかかる桟橋を抜け、ユニバース内へ続く電磁シールド制のゲートに入っていった。


 春一の新たな任務が始まろうとしていた。


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