四「侵入者たち」後
4
『なぬ! でかい方にいけと?』
「わるい、でかい方のブリッジらしき突起内で、銃撃と爆発の形跡を探知した。どこの船だか基地だか分からんが、アの『汎銀河戦線』のやることだ」
『分かった。援護頼む!』
三宅曹長が乗った突入艇は、青葉号から射出されると、大きな方のシリンダーに向かった。
革命号と呼ばれた母艦から立て続けに砲撃があるが、青葉号が立ちはだかり、突入艇を守る。シールドが火花を散らすが、青葉号は訳もなく耐えた。
「ふん、海賊船とモノホンと巡洋艦を一緒にしちゃ困る」
川村はシールドを調節しながら言った。
「砲術長、一発やってやれ。威嚇射撃で良い。くれぐれも、漂流船に当てないようにな」
「アイアイサー」
強烈な砲撃が青葉号の主砲からぶっ放され、革命号をかすめる。
砲撃を受けた革命号は、分が悪いと感じたのか、攻撃をやめてゆっくりと旋回をはじめた。
そこに、三宅から通信が入った。
『でかい船の、ブリッジみたいな丸い出っ張りを発見。近くに突入可能な場所を探しています』
「よし、どうだ? いけそうか」
『スキャン中です、ちょっとお待ちを。しかしまぁ、でっかいブツですね。全長で軽く二キロ半はありますよ。並んだら、青葉号がボートに見えますわ』
「おお、本当に一千万トン級だな、それは」
『はい……結果出ました。コース確定、突入に向かいます』
「カッツァ、ねえ、もの凄い声が」
階段を降り、一番奥の区画でアクァーラは震えていた。
既に仲間の死を見てしまったカッツァは、何も答えられずに、アクァーラ以上に脅えている。
上にあるさっきまで居たブリッジから、岩でも飛び交っているかのごときがらんがらんという大きな音が響き、獣のような叫び声が聞こえて来た。
入って来た扉はし閉め切って、さらに途中の扉もしっかり閉じて来たと言うのに、この最新部まで音が聞こえてくる。
その咆哮の主は、ネフスワだった。
「おお」との「がぁ」ともつかぬ雄叫びを上げながら、右手でハンマー状の農具を振り回し、二十体をこえる小さな黒い侵入者たちに襲いかかっていった。
そして、バリケードにしていた机を左手でむんずと掴むと、本能に任せて軽々と放り投げた。机は、たまたまそこでに居た「侵入者」に直撃し、その上半身を原形をとどめぬ程に砕いた。
それに留まらず、雄叫びを上げ、光の出る棒を構えた三体ほどの集団に飛びかかり、叩き、捻り潰し、へし折った。悲鳴やうめき声のようなものが出ているが、雄叫びの前にかき消されて行く。
他の侵入者たちが、やや怯みながらも棒から熱い光を出しながら反撃しているが、その殆どは銀色のスーツに弾かれ壁や天井を焦すか、味方を傷つけていた。
しかし一部は、確実にダメージを与えてられているはずなのだが、ネフスワは全く怯む姿を見せず、逆に勢いを増すばかりだった。
農具を振りかざして一体を突進し壁に叩きつけけると、返す手で周りの三体を巻き込みながら隣の一体を叩き飛ばした。
「ぬぐぉおおおおおおっ!」
ネフスワはブリッジのど真ん中に仁王立ちになり、銀河の中心まで届くような咆哮を轟かせた。
通常なら、立ち尽くす相手に集中攻撃を加える好機であるはずだが、侵入者たちはその咆哮に圧倒され、総崩れとなって入って来た扉から逃げ出した。
「ぐぉおおおお!」
再び咆哮を上げ、逃げる侵入者に再び襲いかかろうとしたとき、ブリッジのすぐ近くに何かが衝突し、ブリッジが大揺れに揺れた。
ブリッジごと揺れた衝撃でネフスワは全身を壁に打ちつけ、一瞬意識を失った。
が、すぐに意識を取り戻し、手に持っていた農具を杖にしてゆっくりと起き上がった。
「……なんだ、これは」
周りは壊れた侵入者、もとい、侵入者たちの血塗られた「死体」が山のように積み上げられていた。
機械のように見えた黒い外皮は侵入者たちのスーツであり、破壊され、むしり取られたそのスーツの中からは、彼等の本体が姿を露にしていた。中の本体も、決してマトモな状態とはいえなかったが。
「これは、ぜんぶ、私が、やったのか」
ネフスワは、一言ずつゆっくりと言いながら見回した。
その時突然、体じゅうに痛みが走った。
たまらずがくりと膝を落とすネフスワ。農具を両手に掴み、かろうじて転倒を免れる。
もう一度立ち上がろうと体に力を入れた時、扉の外で争うような音がした。
そしてどうにか再度立ち上がった時、別の侵入者たちがゆっくりとブリッジに入って来た。
5
「艦長、突入成功。……ですが、やたら広い通路にでちまいました。クルマが走れそうです」
三宅は、青葉号の艦長との通信をつないだ。
『何かの搬入口か? まあいい、ブリッジに向かえ』
「アイ、サー」
三宅たちは円筒の巨大船に少しだけ穴をあけて、二十人ほどの部下とともに乗り込んだ。そして、その異様に広い通路をブリッジとおぼしき場所に向かった。
行き先から野獣のようなもの凄い声と、争うような音、射撃音、そして人々の悲鳴のようなものが聞こえてくる。
だが、途中でそれは止んだ。
暫くして、ブリッジの方から半狂乱になった男達が走って来た。見た所、反銀河戦線の屈強な兵士たちなのだが、目は血走っており、とても訓練された者とは思えぬ姿だった。
「こいつらを確保しろ」
三宅が部下に命じる。
少々の抵抗は受けたが、兵士とは言えない状態にある彼等は、簡単に捕らえることが出来た。
その一人を捕まえ、三宅が状況を聞くが「怪物だ」などと訳の分からないことを言うだけで、要を得ない。
「しょうがねえ、先に進むぞ」
三宅は部下の一部を見張りに残し、先を急いだ。
そして、再びその無闇に広い通路を進むと、おおよそ予想どおりの場所に、ブリッジの入り口らしき分厚い、大きな扉を見つけた。爆薬で無理矢理こじ開けたのか、その扉は焦げて歪んで、半開きになっている。
その隙間から、汎銀河戦線の兵士の、激しく叩きつけられたような死体が見えていた。
「なんだ、もの凄い戦闘だったのか、本当に怪物でもいたのか」
三宅は警戒しながらゆっくりとその扉をくぐった。
中は、室内野球場のように広く、中は大きな瓦礫のやまで溢れていた。
そのど真ん中で、血塗られた銀色のスーツをまとった壮年の女性が一人、立ち尽くしていた。
続いて四人ほどがともに入り、全員がそれを見つけて立ち止まった。
新たに五体ほどの侵入者が、ネフスワの目に映った。
今度は全身青ずくめである。
「ごめん、沢山殺しちゃった……」
ネフスワは、彼等に顔を向けると静かに言った。
今度は、私が殺される番。そうネフスワは覚悟した。
女性はすぐに三宅たちに気付き、ゆっくりと顔向けて、何かモゴモゴと言葉のような物を発した。
その目には優しさのような、悲しさのような、そんなものを浮かべている。
「やぁ、はじめまして……」
三宅はヘルメットを外し、話しかけた。
しかしそれ等は頭部のパーツを外し、本体の頭をさらけ出すと、カラカラと何か言葉のような物を投げかけて来た。
「え、何。話しかけてるの?」
その女性は三宅の言葉に反応したのか、またモゴモゴと言って来た。
「やれやれ、言葉が通じないか。ところで、俺たち、図体はでかい方だよなあ」
「そのはずです。曹長」
「じゃ、あれは何だ? ある意味、たしかに怪物だな」
優しい目の女性は、あまりに大きかったのだ。