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四「侵入者たち」中

      2

『先ほどとは別の大型の未確認飛行体が、漂流船に接触したもよう。遮蔽しつつパールドライブを使用したと見られる』

「なんだと? 対パールセンサーはどうした?」

 驚いた川村は叫んだ。

『欺く方法ならいくつかあります。とにかく、現場に向かってください』

「了解」

 と川村が通信を切ろうとしたとろ、慌てたような声で『待て、追加情報だ』と言われた。

「追加? なんだ」

『先ほど、漂流船へ接近中である物体の推定質量を、一千トンと言ったが訂正する』

「なんだ、百トンか、一万トンか?」

『いや、一千万トンだ』


 ネフスワ達は投げるには重すぎる椅子や机、棚等を何カ所かにわけて積み上げてバリケードを作った。その後ろには、様々な投げるためのブツを用意する。

 家具の大半は金属製で、銀色に鈍く輝いている。

 銀色なのは、惑星ナフマンザの硫黄を処理した時にでる副産物である銀を、塗装に使用しているためだ。処理に、硫黄を「喰って」熱を発生した後に、ほぼ同質量の銀の同位体を残す、ケッペマンザ原産のバクテリアを使っている。

 それでも銀は大量に余るので、さして強度の要求されない器やカゴなどには、その銀をそのまま使っていた。

 その、一見銀だらけのバリケードがおおむね出来上がった頃、ブリッジ入り口の扉をごつごつと叩く音が響いて来た。

 慌てて皆がバリケードに隠れる。

 が、しばらく経ってもごつごつ音がするだけで侵入して来ない。

 ネフスワが「来ないわね」と、首をのばして扉を見た。

「小さくて、工具に当たったくらいで倒れる連中です。しっかり閉めた扉を開けられないのでしょう」

 隣に居たスニラトゥが言った。

「このまま、諦めてくれないかしら」

「だと良いのですが、うわっ」

 突然、扉から『ぼん!』という大きな音がして、隙間から少々の煙が入って来た。よく見ると、扉が歪んでいる。

 その煙が収まると、扉の向こうから再び叩くような音がして来た。

「野蛮な連中だわ。モノを壊すのに火薬を使うなんて」 

 そう言って、ネフスワは用意した工具を投げるために掴んだ。

 手に持った工具を見つつ「私も似たようなものかな」と呟く。

 その刹那、歪んだ扉の隙間から棒のような物が少し現れたかと思うと、鈍い音とともにこじ開けられた。

 同時に、黒い機械人形のような姿の小さな侵入者が三体、ブリッジに飛び込んで来た。それらは、無駄の無い動作で、持っていた棒のような物の先から、光る何かを突き出して来た。

 その光るものは、銀色のバリケードに当たると跳ね返り、天井や壁を焦がした。

「あ、危ないわね!」

 ネフスワは持っていた工具を投げつけ、見事に三体の一つの頭部に直撃させた。その相手は、のけぞるように後ろ向きに一回転したあと、床に叩き付けられ、そのまま動かなくなった。

 そのとき、ブリッジに居た乗員のうち大半は恐怖で動けなくなっていたが、隣のスニラトゥが大きな皿を投げつけ、相手を真っ二つにして倒していた。

 あと一体。

 ワンテンポ後れながらもアクァーラが大きめのネジを投げつけ、脚部に命中させた。たまらず倒れ込むその一体だったが、まだ動けるようであり、「ワァワァ」「カタカタ」という音を発している。

 不気味に感じた別の乗員が皿を投げつけると、すぐにそれは動かなくなった。

 間もなく、嫌な臭いが立ちこめて来た。

「血の臭いがする。誰か、怪我してませんか」

 船医であるアクァーラが叫んだ。

 しかし、乗員全員が無傷のようだ。

 皆が顔を見合わせていると、カッツァの視線が動かなくなった侵入者達のところで止まった。

「あいつら、イキモノだったんだのか?」

 カッツァは声を震わせながら、破壊され、血のような液体の中に沈んでいる侵入者へ釘付けとなっていた。

 ネフスワが恐る恐る自分の倒した一体に近づいて頭部を覗き込む。

「これは……」

 くだけた頭部パーツの中から、血まみれの小さな「頭」が見えていた。

 さらにその「顔」は、不気味なほど自分たちに似通っていた。



      3

 

――間もなく予定宙域。パールドライブ出力ダウン……虚数解除。

 機械音声のアナウンスとともに、青葉号の回りに星空が戻った。

 ブリッジに大きく取り付けられたメインスクリーンに、不鮮明ながらも円筒形の漂流船と、それに並んだ一回り以上小さな黒い物体の拡大映像が映される。

「川村艦長、未確認飛行体の正体が分かりました」

 すぐにオペレータが言って来た。

「なんだ」

「『汎銀河戦線』の大型母艦、『革命号』です」

 スクリーンに、目標の位置と資料映像が映されていく。

「革命、ね……ふん、盗賊どもが」

 川村は吐き捨てた。

 数分の後、若く逞しい男がスクリーンに現れた。

『こちらは白兵戦部隊の三宅曹長です。移乗戦並びに、突入艇の準備完了』

「了解。命令を待て」

 巡洋艦青葉号は、対光学・電波遮蔽スクリーンを張り、漂流船に近寄る。肉眼でそれらが見えるようになる頃、質量センサーに別の反応を確認した。

「シリンダー型をしてて、漂流船に似てるが……かなり、でかいぞ。例の一千万トンか?」

 ネフスワ達は、三回にわたり十二体の侵入者を倒していた。

 今だ全員が無事。

 途中、侵入者達の持っていた棒のようなもを拾って試してみると、先から目標を焼くための光が出ていることが分かった。

「船長、青っぽい宇宙魚が」

 たまたま外に目をやったアクァーラが言った。

「え? 本当だ、こんな時に。でも、すぐ消えちゃったわね」

 と、そのとき、入り口の外からがちゃがちゃという音が聞こえて来た。

「また来たわ。いったい、どれだけいるの?」

 今度は、今までになく数が多い。

「みんな、奥の区画への階段近くまで下がって!」

 危機感を持ったネフスワは、指示を出した。

 各自、バリケードの一部や投げるもの等を持ち、階段の近くに集まる。

 そして、体力と気力の弱ったものから順に下がらせた。

 残ったのはネフスワやスニラトゥをはじめとする五名。

「あなた、結構タフね」

 残った者の中に、まだアクァーラがいた。

「若いから」

「そういう問題? さて、間もなく来るわ。みな、一斉に……」

 侵入者達が入るタイミングを見計らって、一斉に振りかぶった瞬間、扉の影から小さな黒い固まりが転がり込んで来た。

「いけない、伏せて!」

 嫌な予感がしたネフスワは、叫ぶなり隣のアクァーラを引っ掴んで自分もバリケードの陰に伏せた。

 直後、どすんと腹に響くような震動とともに、体の上を火のように熱いものが駆け抜けて行く。直後、がらがらとバリケードの一部が吹き飛ばされて崩れる音が聞こえた。

 ひと呼吸置き、低い姿勢のままゆっくりと頭を上げるネフスワ。

 すぐ横で、アクァーラが腕を押さえて顔をしかめている。

「だ、大丈夫。痛くない?」

「痛いけど、大丈夫……。船長の船外スーツのおかげで、かすり傷だけよ」

 たしかに、スーツは丈夫に出来ている。外皮に沢山小傷が出来ただけで、深い損傷は無かった。

「でも無理しないで、下がって」

 自分は無事だが、アクァーラは負傷した。促されて、腕を押さえたまま下がって行く。

 さらにネフスワはバリケードの陰にかがんだまま首を廻し、他の者の安否を確認しようとした。

 しかし、バリケードに隠れているのか、誰も見当たらない。

 そこに、後ろからスニラトゥがもたれかかって来た。

「わっ、スニラトゥ。びっくりするじゃない……スニラトゥ?」

 返事が無い。

「どうしたの……嘘で、しょう」

 倒れて来たスニラトゥの肩から上が無くなっていた。

 視野が暗転して色を失い、ネフスワの中で失っていた何かが息を吹き返した。


「嘘、嘘だわ……ああああ!」


 自己の要石が溶け、燃えたぎる溶岩に。

 そして、眠っていた古の遺伝子が目を覚ました。  


 ネフスワは無意識にハンマー状の農具を掴み、立ち上がった。 

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