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参「追跡・追憶」後

      4

「船長、船長。おーい」

 航海長のスニラトゥが覗き込むと、ネフスワは浮かない顔をしてスクリーンを覗き込んでいた。

「ああ、航海長。もうすぐ、到着ね」

 力なく答えるネフスワ。

 スクリーンの中では、彼女以上に力ない姿でナフラナが話していた。

『みんな、元気かな。私も、悪くない……』

 そしてもう一言二言話した所で、メッセージは最初に戻り、繰り返された。

「船長、分かっていたことです。貴方がそれでは、みんな困りますよ」

 そう言ってスニラトゥはブリッジを見渡した。

 減速を前にして続々と乗員たちが集まって来ている。

「ほら、『サク号』は目の前です。仕事、仕事」

「わかったわ。みんなが席に着いたら、回れ右して減速開始です」


 しばらくの後、眠たそうな乗員たちがブリッジに揃う頃、船は反転を終えていつでも減速できる体制にあった。

「皆さんの体が固定出来たら、減速を開始します」

 ネフスワはブリッジを見回して言った。

 皆準備が出来たようだ。

「減速開始。機関長、反応炉出力上昇、減速開始」

「反応炉出力上昇開始」

 いつものようにネフスワが命じ、機関長が復誦した。

 ソーラーパネルが使えない宇宙のまっただ中、動力源は反応炉がたよりだ。十分に減速と再加速ができるように、燃料の重水を大量に積んで来ている。普段は貨物室になっている区画も、今回は重水タンクでいっぱいだ。

 その重水から重水素を取り出し、反応炉に送る。

 燃料を送られた反応炉は息を吹き返し、そのエネルギーが重力子プロペラエンジンを回しはじめた。。

 強烈な加速が乗員たちをシートに押し付ける。

 貴重な燃料を節約するため、電力を大食いする慣性力緩和装置の出力は最小限に押さえられている。いつものように減速の間のんびりするなど許されず、これに耐え続けねばならない。

 頑丈な自分や、ベテランのスニラトゥは余裕を持って絶えられるが、若い連中や

小さなアクァーラは大丈夫だろうか。そんなことがネフスワの頭をよぎる。

 気になって後ろを振り返りブリッジを見渡してみたが、どうやら皆大丈夫のようだ。

 安心して正面に向きなおるネフスワ。

 向きなおった所で、景色は止まったままだわ。広い宇宙の中では、たいした速度が出ているわけじゃない。

 あとは、機械任せ。タイマーが知らせてくるまではね。

 

 タイマーが鳴った。

 急にシートに押し付けられる力がぴたりと止まる。

「ちょっと追い越したみたい」

 ネフスワは探知機の方向を表示した計器を見ながら言った。

 そして、スロットルや操舵機をゆっくりと操作する。

 上下左右に何度か軽く振り回される感覚があった後、ブリッジの前方、すなわち進行方向の反対側に、黒い影と点滅する赤い光のような物が見えて来た。

「見つけたわ。みんな、準備よろしく」

 振り返り、乗員たちに告げるネフスワ。

 「あいよー」「りょうかい」などという声が返ってきた。同時に、ごそごそと動き出す。

 少し疲れているようだが、アクァーラも無事に動きだしたようだ。

 皆が準備を始めた後もネフスワは操舵を続け、ナフ三号を目の前に迫ったサク号にじょじょに寄せて行く。 

 こうして見ると、どちらも本体は回転する円筒形で、形としては似ているが、サク号のほうがふたまわりりほど小さい。

 ネフスワはさらに丁寧に操舵を進め、二隻の船の回転していない部分、円筒の軸どうしを寄せて行き、そしてぴたりと会わせた。 

 まもなく船外スーツを着た者が数名現れ、しばらく作業をした後に、ブリッジから見えるように手を振って来た。どうやら、接舷に成功したようだ。

「さて、私も行ってくる。スニラトゥ、船は頼んだわ」

「はい、船長。お気を付けて」

 ネフスワはそう言って立ち上がり、ブリッジを後にした。



      5

 移乗に向かったのは、機械、医療、通信の各専門家とネフスワの四名。

 接続用のチューブは今の所問題なくつながれているが、全員が念のため船外スーツを着用している。

「カッツァ、開けて」

 ネフスワは機械専門の男、カッツァにゲートを開けるよう命じた。

 が、開かない。

「船長、ロックは外れたんですが、何か引っかかってて」

 カッツァは困ったように言った。

「ちょっと退いて。ふん!」

 ネフスワはゲートの取っ手に手をかけると、こじ開けた。

「開いたわ。本当だ、何か挟まってた。とりあえずゲートとエアロックは無事みたいだから、中に入ってみましょう」

 一行がゲートとエアロックを通って中に入ると、ライトが消えていて真っ暗だった。空気はあり、スーツのバイザーを開けても呼吸にもひとまず問題ないが、なにか淀んでいるようだった。

 各自ライトを点けて周りを照らしながら、その中をゆっくりとブリッジに向かって歩き出した。

「おっと」

 突然、通信士のラグが何かに蹴躓いた。 

「危ないな……なんだこれは」

 アグは自分の足下を照らすと思わず「船長!」と叫んで足を止めた。

「なに、これ。私たちの姿と似てるけど、だいぶ小さい。それに、だいぶ機械っぽいわね。あとで持って帰って、よく調べましょう」

 ネフスワはそれを見て言うと、先に進むことにした。

 しかし、先に進むに連れて通路に横たわる「それ」の数は増えて行った。

 全て姿は似ていたが、大きさは多少違っていた。といってもいずれも小さく、大きな物でも小柄なアクァーラより少し小さいていどのサイズであった。

 暗くて良く分からないのだが、どれもこれも損傷があるようだ。

「……とても、不気味」

 そう思いながらも、ネフスワはまずはブリッジへ向かおうと足を進めた。

 ブリッジに近付くと、逆に「それ」らの数は減りった。

 そして、ブリッジの入り口にある扉の前についた所で、ナフ三号のスニラトゥから通信が入った『船長、船外部隊からの連絡で、船体の数カ所に損傷を確認しました。一部区画で空気がなくなってる可能性があるので、気を付けて下さい』

「了解。気をつける」

 通信はそれだけで消えた。

 念のため、全員がスーツのバイザーを閉じ直す。

「さて、気を取り直して、ブリッジに入りましょう。念のためしらべて」

 カッツァが一歩前に出て、気圧確認用の小窓を開けた。

「開けても大丈夫です」

 そう言ってカッツァが下がると、ネフスワがその扉を開けた 。

 見渡すと、ブリッジというのに中は真っ暗だった。

 ライトで照らしてみるが、誰かがいる気配すらない。

 唯一か所、救難信号が発せられていることを示す赤いランプ以外は。

「どういうこと……?」

 ナフラナがそうつぶやいた時、唐突に通信機が警報を鳴らしはじめた。

『船長、気を付けて! 赤い宇宙魚が!』

「どうした、スニラトゥ?」

 次の瞬間、岩でも落ちて来たような衝撃が彼女らを襲った。



age2 第参話 完 

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