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弐「深宇宙へのいざない」後

      3

 ネフスワが耕してる間も整備をしていたおかげで、決定後数日で出発準備が整った。船のことはスニラトゥらに任せて、彼女は地上で航路の作成や物資の調達をすすめ、合間にそこら中を耕していた。

 そして、上空の基地から来た最後のボートが地上に降りて来た。

 この宇宙基地との連絡用ボートは、荷物や乗員を載せる四角い箱があり、その上に四基の重力プロペラ推進機とソーラーパネルがつけられたシンプルな物だった。ごく単純に、基地まで荷物が届けば良い、そんな発想である。

 そのボートの回りに、ナフラナとともに畑仕事をした農夫たちが集まって来た。

「ネフスワさん、もう行っちゃうのかい?」

 農夫の一人が言った。

ネフスワがボートをどんどんと叩きなが「ええ、こっちが本業だからね」と言った。そして、もう一言付け加えた。

「普通は、もっと時間をかけてホンザイルに持って行く物を決めるんだけど、今回は食い物と医療物資くらいだからね。準備も早いの」

 それを聞いた別の農夫が言った。

「あれま、そうかね。本当に、タルルカさん達を探しに行くんだねぇ」

「本当よ。まぁ、居そうな当たりまで行って、いなければすぐ引き返すことになってる。そんなに期待しないで」

「ええわええわ。がんばって行っておいでな。そうだ、我々からのお土産があるので、持って行っておくれ」

「あら、なにかしら」

 農夫は、手に持っていたハンマーのような農具をネフスワに手渡した。

 かれが持つと両手持ちの大きなものだったが、大柄なネフスワには軽々と片手で振り回せる大きさだ。

「ほれ、お守り代わりに持って行って下さいな。使い道もないですが」

「ありがとう、きっとお返しするわ」

「俺がもういなくなってたら、セガレにでも渡しておくれ」

「安心して。ホンザイルまで行くわけじゃないから、そんなにかからない」

 奥の方で「まってるよー」と言う声がした。

「おぅ! 早く帰れるようにがんばるよ。そんで、また畑をほじくりかえさせてもらう!」

 ネフスワは皆に聞こえるよう、大声で言った。

 そして、そこかしこから、農夫・農婦たちの励ます声があがった。

「さてみなさん。私が代表して基地まで送ります。他に何かありませんか?」

「じゃ、これも持って行って下さいな。船のみんなで食べて」

 農婦の一人が、大気な干し肉のような物を渡した。

「モッペドンドのおいしい所を煮て、干した物よ。湿っぽい所に置かなければ、ずうっと保つから、何かの時に食べて」

 受け取ったネフスワは「ありがとう」と一言声をかけ、そして、ボートの扉を開けた。

「じゃ、行ってきます!」

 振り返ったネフスワは再び皆に聞こえるように声を上げ、別れを告げた。

 そして、ナフラナとともにボートの中に消えて行った。

 ほどなく……

 小さな機械音とともに重力子プロペラが回り出し、ボートはゆっくりと空へのぼりはじめた。

 これから、ちょっとだけ時間をかけて「空」のさらに上にある基地に向かう。


      4

 ナフマンザ上空、静止軌道にある「元」ケッペサ号の基地では、出発準備の最終段階になっていた。船長のネフスワも戻り、チェックをすすめている。

 今回は救援任務と言うことで、医療機器の積み込みも行われていた。

 若い医療班の娘が、大きな箱を何個も運んでいる。

 遠心力による疑似重力がわずかにかかっているだけの基地内とはいえ、質量が変わるわけではない。小柄な娘は、重い荷物に手を焼き、よたよたと移動していた。

 荷物の整理をしていたネフスワがたまたまそれを見つけ、「娘さん、ちょっと貸してみな」と声をかけた。

 娘はほとんど箱に埋もれていて、大柄なネフスワからみるとほとんど箱の中から声がしているようなものだった。

「あ~、船長。いいんですか?」

 それを聞いた「まぁ、任せな」と一番大きな箱を取り上げ、さらにもう一つ担ぎ上げた。

 「ナフラナ、先に行くよ」

 ネフスワは何気なくそう言って、すぐにぴたりと立ち止まった。

「あれ?」

 ネフスワは一瞬自分が何を言ったのかわからなかった。

 考えていると、立ち止まったネフスワに勢い余った娘がぶつかって来た。

「あわわわ、船長。急に止まらないでくださいよ~」

 そう言ってよたつく娘と目が合うネフスワ。思わず「あ!」と声を上げた。

 娘は、出会ったばかりの頃のナフラナと瓜二つだったのだ。

「私は、アクァーラ。ナフラナは祖母ですわ」

「ああ、祖母? そう……ごめん、間違えちゃったわ」

 ネフスワは娘の顔をみつめ、ぽかんとしたまま答えた。

「さ、船長、行きましょう。祖母の話は、またあとで」

 身軽になったアクァーラは、小柄な体をするりと翻し、某のように突っ立っているネフスワを追い越してナフ三号の倉庫へと消えて行った。


 全ての準備が終わり、ナフマンザの陰からはじめに恒星ケッペザイルがのぼる頃、中型宇宙船ナフ三号のクルーたちは乗船ゲートの前に集まった。

「さて、出発ですね」

 ナフマンザの開拓者を代表して、ナフラナが挨拶をはじめた。

 ゲート側に立つネフスワの回りにはナフ三号のクルーが、反対側のナフラナの回りには宇宙基地のスタッフたちが並んでいる。

「みなさん、行ってらっしゃい。こちらにいる全員にまたお会いできるか分かりませんが、無事にこの星に戻って来られるように期待しています」

 ナフラナはほぼ型通りに挨拶を返した。

「はい。行ってきます」

 ネフスワも型通りに挨拶を返した。

 だが、その声には力が感じられなかった。

 次にここに戻るとき、はたして老いたナフラナは健在だろうか。そんな思いで頭がいっぱいだった。

 しかし、船長たるもの部下の手前では姿勢をたださなければならない。

 きびすを返し、船へのゲートをくぐる。

 と、その後ろ……

 基地側のナフラナが、隣をつついていた。

「さ、いってらっしゃい。こっそり手続きしておいたから」

「でも……」

「彼女、喜ぶわよ」

 アクァーラは基地のスタッフにぺこりとおじぎをすると、軽やかな動作で閉まりかけのゲートをくぐり、ナフ三号の中に消えていった。


age2 第二話 完

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