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九「時空震」乙

     3

『でかすぎて、すぐに送るのは無理だそうです。だから……』

「まあ、いいじゃない。みんな無事なんだし、ゆっくりやればいいじゃない」

『それはそうですね』

 ナフラナの落ち着いた言葉に、カッツァは笑った。

 ちょうどその時、別のスクリーンで青葉号と話していたミーアが「そろそろ、終わりにしていいですか」と声を掛けてきた。

『だ、そうです、早く迎えに来れるといいですね』

「うふふ、がんばるわ」

 そこで、通信は切れた。

 それから数時間、公転周期のタイミングが合わなかったのか、途中の惑星に接近することなく、ナフマンザに着いた。

 まずは宇宙基地に青葉号を横着けし、ようやく帰ってきたサク号のクルーたちを下ろす。その間に、反対側のゲートにニュフラ号を着け、ナフラナたちが降りる。

 そして、ケッペサ号時代に食堂だった、外の見える部屋に皆であつまった。

 川村たち、一部の青葉号クルーも来ている。

 そこにひときわ体の大きな長老タルルカが現れ、部屋の中央に立つと、皆が静かに、各々がいくつかのテーブルを囲むように置かれた席に着いた。 

「ここで、挨拶でもあるのかな」

 津田が、多数の大きなヒトたちに囲まれ、ちょっとしたガリバー気分になりながら言った。

 直後、タルルカが「もごわっ!」と大きな声を上げ、自分も席に着いた。

『今、なんて言ったの?』

 三宅が翻訳機を起動して隣に聞いた。相手は、いつの間にかついてきたアクァーラだ。

 その答えは、一言。

「メシ!」

『いきなり、メシですかい』

「こういう時は、まず食べるの!」

 そう言ってる間に、タイヤをつけて天辺が丸くなったビア樽みたいのが、するすると部屋に入ってきた。丸い頭頂部に、取っ手のようなものがある。

 三宅たちの前にも、それが一体止まる。

『なんか、顔が書いてあるな』

「これはね、ナフラナばあちゃんの、そのまたお父さんが書いたの。さて、と」

 アクァーラはその天辺にある取っ手を掴むと、引っ張った。

 ぱかっと、それは外れ、中からてんこ盛りになったモッペドンドの串焼きが出てきた。

『うわ、まさしくメシ!』

「さあ、食べるわよ」

『い、いただきます』

 アクァーラがまず一本それをとり、三宅が続いた。

 そして、三宅は翻訳機をオフにして、小声で川村に声を掛けた。

「醤油、あります?」

「ない。あっても、やらん」

「トホホ。そういや、津田君。子供たちは元気か?」

 三宅は残念そうに話題を変えた。

 津田が「ん~」と照れ臭そうに携帯端末を出し、写真を映す。三歳くらいの男の子と女の子が、並んでいた。

「見てのとおり、わんぱく盛りでして。妻の手を焼かせてます」

 川村ものぞき込んで「ああ、それで休暇の申請を」と言った。

「いやあ、たまには遊んでやらないと、忘れ去られそうです」

「まだ若いのに、いいな。俺も子供が欲しい」

 三宅は口をとがらせてとそっぽを向いた。

「なんだよ、自分で振っておいて。曹長だって、まだ俺より一つ上の二十三じゃないすか」

 それを見ていたアクァーラが「こほもま?」と首を突っ込んできた。

 津田が『え?』と端末の翻訳機を起動する。

「子供? って聞いたの」

『そう、俺の子供です』

「あなた達も、その、男と女がいて、子供を?」

『うわ、ストレートだな。その通りですよ』

 津田がちょっと顔を赤らめる。

「へ~ぇ」

 アクァーラが写真をしげしげと見ながら言った。

 三宅は、相変わらずそっぽを向いていた。



      4

 青葉号は「メシ」が終わってすぐに、ニュフラ号の護衛としてナフザイルを発った。そのニュフラ号にはホンザイルへの使者として長老タルルカとその娘ネフスワが乗っている。ナフラナは、ナフザイルのまとめ役として残った。

 そして、緊急時のために、こちらの設備でもサイズ的に差し支えの無いアクァーラが、青葉号に乗って来ていた。

 さしあたりすることも無いので、艦内の機密でない区画を案内して回っている。

「ところで三宅さん、何かの隊長さんでしょ? ずっとわたしの護衛してていいの?」

 アクァーラはブリッジの一層下にあるデッキから外を見ながら言った。

『いや、その、護衛しろと言う命令がまだ有効ですから』

 たどたどたどしく答える三宅。実のところ、巡洋艦の陸戦隊など訓練以外は暇なだけだった。

 窓の外には、大惑星ケッペマンザがうっすら丸く見えている。

 と、そこにアクァーラには分からない言葉でアナウンスが入った。

「なんて言ったの?」

『パールドライブ開始、複素空間にダイブします。って』

 次の瞬間、青葉号は青っぽい魚のような光に包また。イルカナナとよばれる特殊なフィールドだ。

 それを見たアクァーラが「宇宙魚……」とつぶやき終わる頃、窓から見えていたケッペマンザのうねうねは、別の模様に変わっていた。

「もう、着いたの?」

『着いた。たしか、アクァーラたちの故郷がある星系だよ』

 似ているが模様の違う惑星、それはモッペドンドの故郷、モッペザイルだった。

「早いなぁ。タルルカ長老のときなんか、冬眠薬をたっぷりつかって、まるまる一世代かかったのに」

『いいじゃないか、早くなる分には』

「そうだけど……あれ、なんだろう」

 アクァーラは何かを見つけ、窓に寄って指さした。

「船みたい。でもおかしいわ、動いてないみたい」

『船? おれにゃ見えないな。ブリッジに問い合わせてみるか』

 三宅はそう言って翻訳機を止めると、携帯端末からブリッジにアクセスした。

 すぐに『どうした』と副長の敷島がでた。

「敷島大尉、アクァーラが二時の方向、仰角十五度あたりに船らしき物を見つけました。私の肉眼では見えないのですが、様子がおかしいとのことであります」

『船? 今スキャンしてみる……何かあるな。ちょっと待て』

 いったんアクセスが切れ、その数分後、呼び出しがかかった。

『三宅曹長、何かありそうだ。ちょっと、人員を何人か集めてくれ』

「寄り道して構わないのですか」

『構わない。というか、調べないとまずそうだ。妙な反応が出てる』

「妙とは?」

『生命反応が殆どない。しかし零ではないのだ。だいたい察しがつくだろう』

「わかりました」

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