九「時空震」甲
1
ニュフラ号と青葉号が惑星昭和を発って約○・五日。
ちょうどパールドライブを行って、瞬時にガス惑星ケッペマンザに着いたところで、ニュフラ号に一本の通信が入った。
ミーアはそれを確認すると、寝ているであろうネフスワ達を起こしに向かった。
「すみません、寝てる所を……あら、おきてらっしゃいましたか」
ドアモニター越しに声をかけたところ、すぐにネフスワが「あはは、行きで寝すぎました。で、どうされました?」と出てきた。
「ナフ三号のカッツァさんから通信が入ってます。出られますか?」
「ええ、喜んで。おーい、カッツァさんの顔が見れるぞ」
ネフスワは同行したタルルカとナフラナを呼ぶと、屈みながら狭い廊下を通って通信機のあるブリッジに向かった。
大きなネフスワともっと大きなタルルカの後から着いて行くと、老いたナフラナはとても小さく見える。そのナフラナも少し屈んで歩いていた。
その先のブリッジは少し天井が高く、どうにか全員普通に立てた。
正面に大きなスクリーンがあり、男の顔がでかでかと映っている。船の修理と点検を任せたカッツァだ。まわりには、集まってきたナフ三号のクルー達が見え隠れしていた。
その正面にネフスワ達が回ると、どやどやとざわめきがおこった。
『お久しぶりです!』
そして、すぐに画面の中でカッツァが手を振った。
あまりにタイミングが良かったので、ネフスワ達は驚いてミーアの方をみた。
「録画じゃありませんよ。ちょっと鈍いけど、普通に喋れます」
「そうなんだ。じゃあ、改めて」
ネフスワがそう言うと、他の二人もあわせてぎこちなくスクリーンに手を振った。すぐにカッツァも振替してきたが、よく見ると確かにぎこちない。どうみても、通信状態のせいだ。
『タルルカ長老、ナフラナ長老代理、お二人ともお元気そうで何よりです』
スクリーンのカッツァは少し顔をほころばせて言った。
タルルカが「おう、元気だ」と、体調が改善したのか、太く大きな声で言った。
横では、ネフスワが顔をしわくちゃにして微笑んでいる。
『しかしまぁ、何があったんですか。片付けてて分かったんですが、随分荒らされましたね』
それを聞いたタルルカは「荒らされたのは後から聞いた」と、ため息まじりに答えた。
「ネフスワとナフラナにはもう話したが……ナフマンザを出て、加速が八割がた済んだ所で、何かにぶつかったんだ。そこで船体に穴があいたり、推進機がおかしくなったのだ。こいつは危ないと思って、クルー達を避難用のキャビンに移して、緊急用の冬眠薬を配った。最後に、救難信号を出して、俺も眠りについたのだ」
『そして気がついたら……』
「見知らぬ部屋に居た。まぁ、知ってる者が起こしにきたから良いが、あんな見知らぬ所で自然に目覚めたらと思うと、ぞっとする」
『船から運び出してくれたのは、やはり銀河連邦の方で?』
「ああ、地球と言う星で生まれたヒト達らしい。まぁ、こいつも聞いた話だが、船が荒らされてすぐ、荒らした連中を追ってきた船で運び出されたそうだ。大切に扱ってくれて助かったよ。相手によってはそのまま死体と間違われて捨てられてた、とさ」
『それは恐ろしい。ところで、サク号とナフ三号のことなんですがね……』
2
ニュフラ号とほぼ同時に、護衛を任された青葉号はケッペマンザ近くでフェードし、通常空間に現れた。
それとほぼ同時に、ほんの半光年ほど離れた所に集められた艦隊から、艦長の川村宛に暗号文が届いた。
『こちら、銀河連邦第五五辺境警備隊、旗艦ヌ・ヘレ。同型戦艦フク・ヘレと、護衛艦四隻を配備した。必要とあらば呼ぶべし。呼び出しコードは……』
同時に、データベースが配置された艦や部隊の情報が引き出される。
「ギアマン=ノア級戦艦と、そいつと同世代の巡洋艦か。やれやれ」
川村はスクリーンが曇りそうなほどため息をついた。
三十代後半の男が「浮かない顔で」と声をかける。
「見てくれ敷島君。でっかいボロ船が集まった」
副長の敷島大尉だ。
「うーむ、旧いのばかりですね。でもまあ、ノアといってもロット八か九辺りでだから、そうボロって程ではないですよ。これで十分じゃないでしょうか、機動力なら今でもトップクラスですし。だいいち、この青葉号も、連邦のお下がりを改造したものですよ」
「そうは言っても、えらく旧いブツだなあ。こういつまでも、田舎の小僧扱いじゃ、ちょっと寂しいな」
川村はそう言ってもう一度ため息をついた。
今の所、地球連合が極超光速を実現するパールドライブが出来る艦船を入手するには、銀河連邦の払い下げをもらうしか無いのだ。ついでに、増援は骨董品部隊。川村が嘆きたくなるのも無理は無い。
「さて、愚痴を言っても仕方ない。敷島君、さしあたり、パッシブセンサーの反応はどうかな」
「それがですね、亜空間から重力反転してきた痕跡が何個か、星系内にあるのですよ。あと、パールドライブの形跡らしきものも」
「らしき?」
「アクティブスキャンしてよければ、特定できるのですが、やりますか?」
そう言われた川村は、十秒ほど考え「やめとこう」と答えた。
「そもかく、ニュフラ号に伝えておくとしよう。警戒が必要だ」
「しかし、連中はどうやってパールエレメントと転換炉を入手したんでしょうね」
「さあ……あとな、あの声、何処かで聴いたことあるんだがよなあ」
「革命号からの通信ですか、お知り合いでありますか」
「うむぅ、誰だっけ」




