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壱「新しい扉」 後


      3

 『ナフ三号』は減速が終え、巨大ガス惑星のケッペマンザを周回する軌道にいったん落ち着いた。

「ケッペマンザのうねうねは、川のせせらぎに似ていとをかし……」

 ネフスワはつぶやいた。

 彼女の父タルルカが、ケッペサ号に乗って初めてここに来たときの言葉と聞いている。

 その言葉の通り、惑星ケッペマンザの表面には、色が違うガスによってうねるような不思議な模様が形作られていた。

「何度見ても、不思議な模様ね」

 ネフスワが初めて見たのは、二番目にこの星系にたどり着いた「ケッペサ二号」の中からだった。それは、新たなコロニーに必要な物資を積んだ船だったが、祖父であるナフやその仲間の強い希望により、乗員の一人としてのせられた来たのだった。

 ――おまえの父ちゃんとカンザルに、手紙を届けてくれ。

 病に倒れたナフは、そう言ってネフスワに志を託したのだ。

 それから、何度も二つの星を往復した。

 しかし手紙を託すナフの姿は、惑星ケッペマンザの模様のように、ずっと変わることなくネフスワの脳裏に焼き付いている。

「さて、スニラトゥ航海長。ナフマンザへの軌道を計算して、移動を始めて」

「了解。測量班と航海班は、移動準備をして下さい」

 十五名のクルーのうち、七名ほどがいろいろと道具を持って動き始めた。

 そして、たっぷりとケッペマンザを二周するほどかけて準備をし、ようやく『ナフ三号」は動き出した。

「ナフラナ、今頃待ちかねてるかしら」

 ネフスワはゆっくり動きだした「ナフ三号」のブリッジで、お守りを弄びながら独語した。 


      4

「あ、はじめまして。私はネフスワ。ナフの孫。よろしくね」

 ネフスワは少女らしい素直さで答えた。

 しかし、ナフラナは「あっ」と声を上げたまま、凍ったようになってしまった。

「ナフラナさん、あのう、どうかされましたか?」

「……あなたが、英雄ナフのお孫さんなの? あの船で来たのですね?」

 ナフラナは窓から空を見上げて言った。

「ああ、ナフの孫だ。二番船のケッペサ弐号できてくれたんだよ」

 カンザルがようやく口を開き、ゆっくりと言った。

「本当に?」

 ナフラナは急に堅くなって言った。

「この子の名前はね、ナフから取ったんだよ。なに、俺が許したんだ、文句はないよな? なにせ、この子はこの星最初の子だ」

 カンザルは少し笑った。

「すばらしい! もちろん、光栄なことですわ」

 ネフスワは、その長身の頭を天井にぶつけんばかりに飛び上がって喜んだ。

 ナフラナが横で照れくさそうにしている。

「さ、君たち、改めて自己紹介の儀式をしなさい」

 カンザルが二人を見ながら優しく言った。

「わたし、ネフスワ。タルルカの子で、育ての親はナフ。母は小さい頃に橋を渡ってしまいました。以後、よろしく」

「わたし、ナフラナ。ナグワの子。母はライルヒ。以後、よろしく」

 二人はそう言って、互いに両手を相手の方に乗せた。

 身長差が大きく、見上げ、見下ろす格好になっている。

「よし、このカンザルが二人の出会いを認めた」

 刹那、ゆっくりと傾くケッペザイルの陽光が、ナフザイルのうすい雲を突き抜け、病室の窓から差し込んで三人を包み込んだ。


      5

「船長、つきましたよ」

「ありがとう。ちょっと居眠りしちゃったみたい」

 ネフスワは、スニラトゥに肩を叩かれ我に帰った。

 窓の外には、彼女の祖父の名を持った氷と硫黄の惑星「ナフマンザ」が大きく迫って来ている。

「ちょっと、夢を見たみたい」

「へぇ。どんな?」

「うふふ、むかしむかしの」

「はて? おっと、間もなく、軌道基地ですよ」

 暫くして、がたんという鈍い衝撃が伝わって来た。

 接舷は後ろ向き。ブリッジからは目視できない。

「ただいま、接舷しました。移動用スロープの接続は正常」

 と、スニラトゥ。

 まずネフスワが立ち上がり、「さあ、皆さん挨拶に参りましょう」皆に移動を促した。そして船長であるネフスワを先頭に、クルーたちが移動のためのスロープに向かって歩き出す。

 スロープの途中にいくつか小窓が開いており、ネフスワたちもそこから基地を見ることができた。その巨体の全容を小窓から見ることはできないが、それはネフスワにとって非常に見なれた物体を土台に作られている。

 彼女がここにはじめて渡って来た船、「ケッペサ二号」そのものだ。

 それが今では軌道基地に改造され、一番船の「ケッペサ号」とともにナフマンザ上空を周回している。

 周回しながら大きく広げたソーラーパネルで陽光を受け、電磁波として地上に送っている。また同時に、地上に対する物資の集積基地の役割も担っていた。

 ネフスワが少し懐かしさを感じながらスロープを歩いていると、まもなく基地側のゲートについた。ゲートそのものはただの鉄板で、窓はついていない。

 その横のレバーを引くと、ゆっくりとゲートが開き出した。

 一人分の足が徐々に見えてくる。

 長旅に疲れた船乗りたちの出迎えは、今では必ず長老の役割となっていた。

「父さんにあえるわ」

 現在の長老は、ケッペサ号のもと航海長である彼女の父タルルカのはずだ。

 しかし、ゲートが上がるにつれて、何か違和感を感じた。

「女……?」

 その足は、偉丈夫をほこるタルルカにしては異様に細く小さかった。

 そして、ゲートが全て上がった時、言葉を失った。

「お久しぶり、ネフスワ。とうとうあたしが長老になっちゃったわ」

 年老いた親友、ナフラナの姿がそこにあった。


age2 第壱話 完

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