表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/28

八「起床」前

     1

「おお、予想はしていたが、みんなでかいな」

 惑星ナフマンザの集落に、二隻目のボートが扉を開け、男が一人が降りた。

 船を取り囲んだ皆は、彼の基準からするとかなり大柄だ。用意されたタラップも、それに合わせてかなり大きく作られている。

「平均身長、二メートル半くらいかな」

 男はぼそりと言った。

 ほどなくして、その人込みの中からひときわ大きな、三メートル近くありそうなヒトが、のしのしと出迎えに来た。

 男は慌てて翻訳機のスイッチを入れる。

『あーあー、お疲れさまです、ネフスワさん』

「お疲れ、川村艦長。さあ、まもなく会合が始まるので、こちらへ」

 そして、誘われるままに会合の場へと向かう。

『私なんかは場違いな気がするのですが、大型艦の艦長となると、こういったときの義務らや責任やらがありますので、同席させてもらいます』

 川村は照れくさそうに言った。 

「なにをおっしゃいますか。あなた方、我々を助けて下さったんですよ」

『いやはや……』 

 川村は少しきょろきょろしながら、ネフスワについて会合の開かれる建物の一室に案内された。建物は入植当初に立てられたもので、案内された部屋は入植地で一番眺めが良いとされる場所だった。

 眼下には、畑のようなものや集落が見え、所々に大きなキノコのような物が浮かんでいる。少し離れると、そこは岩や砂だらけの荒れ地だ。 

 その部屋で待っていたのは、たったの四人。

 特使のミーアと長老代理のナフラナ、あとは地上基地と宇宙基地の各代表。

 入植が始まって随分経つが、まだまだこの星の住人はわずか三千人ほどしかおらず、代表らしい代表は、これだけなのだ。

「お集まりいただき、ありがとうございます」

 皆がそろった所で、ミーアが言った。

 会場となった見晴らしの良い部屋にはテーブルはなく、背もたれの無い椅子だけが円く並べられ、そこに座っている。その椅子の大きさは同じだが、座っている者のサイズはばらばらだ。

「さあ、始めましょう」

 ナフラナはそう言って、話を切り出した。


       2

 それから、会合はわずか三十分であっけなく終わった。

「早かったね、おばあちゃん。何か決まった?」

 ナフラナ達が部屋から出た所を、アクァーラが出迎えた。

 ひと呼吸置き「ええ」と答えるナフラナ。

「決まったことは、三つだけよ。たしかに、凄いことばかりだけど」

 ナフマンザ単体で連邦に加盟するという仮条約の締結をすること。

 ホンザイルとのコンタクトがとれ次第、ナスカ(地球)所有の超光速船による定期便を就航させること。

 そして、海賊行為からの安全保障。

「凄いわ。でもそれじゃ、連邦さんの負担もたいへんね」

「ところが、どうってこと無いらしいのよ、これくらい」

 ナフラナは、自分で了承したとはいえ少し不思議そうにしている。

「へえ、よくわからないけど、きっと私もホンザイルに行ける、ってことね」

 空を見て、アクァーラは無邪気に喜んだ。

「あれ? 行ったことなかったかしら」

「うん。どんな所かしら、はやく行きたいな」

 アクァーラは、まだ見ぬ自分「たち」の故郷に思いを馳せるが、ナフラナの心は複雑だった。

 ーー私が最後にホンザイルへ行って、それから一世代半くらい時間が経ったけど、あのままだったら、今頃どうなってるかな。結局、このあいだも、ネフスワに様子を聞きそびれたし。

 色々なことがナフラナ頭をよぎる。

 そして、一つ聞いてみることにした。

「ねえ、アクァーラ。ホンザイルはどんな所だと思ってる?」

「え? そうね……ヒトが沢山いて、いろんな生き物や食べ物がある所」

「まあ、だいたい合ってるわ。明日にでもミーアさん達とホンザイルに行くから、一緒に来る?」

 その問いに、アクァーラは思わず驚き「え」っと言って固まった。

「え、えーと……きっと、あっと言う間に着くわよね」

「それは、貴方とがよくわかるはず。だって、遠いナフ三号から、あっという間だったんでしょ?」

「そう、宇宙魚に運ばれて、あっという間にうねうねのすぐそば」

「じゃあ、決まり。支度しておいてね。どのみち、医者は必要よ」

 ナフラナはしわしわの顔で笑いかけた。

 アクァーラは「支度!」と言ってその場を後にしようとして、ふと振り返った。

「三宅さん達も、来るかしら」

「青葉号も同行するから、きっと一緒よ。でも、なんで」

「なんでもない」

 もう一度振り返り、アクァーラは「支度~」と言いながらその場を去った。

 もっとも、帰ったばかりの彼女に、たいした荷物があるわけでもないのだが。 


     3

 その夜、ナフザイル地上基地では、ささやかな宴が執り行われた。

 ここの主食である浮遊キノコ「モッペドンド」が振る舞われる。

 リスクが高すぎるため、普通なら異星の食物はすぐに食べることはしない。だが、これに関しては地球人もミーアも安全に食べられることが判明した。 

 判明したのは、ナフ三号に居るときだった。

 食事の際、モッペドンドを焼いた物を、三宅が鶏肉だと思い込んで食べてしまったのだ。

 三宅はあわてて青葉号に引っ張って行かれて検査をされたのだが、全く何ともない。ついでに、モッペドンドのサンプルも調べられたが、有害な要素は何一つ無いのだ。

 と、同時にホンザイル系のヒトたちからは、ちょっとした英雄扱いをされた。よく分からないものを初めて喰って見せるのは、とても勇気ある行動だと言うのだ。

「まぁ、やろうと思ってやったなら、勇気があると言えなくも無いが」

 と、検査を受けながら三宅は言ったとか言わないとか。

 で、宴会であるが、日が暮れるとともに、会合のあった建物の外にテーブルや椅子が適当に並べられ、真ん中にガスコンロのような物が数台並べられる。そして、鉄板のような物が乗せられ、その周りにあるカゴに、ぶつ切りにされた大きなキノコが並べられた。

「ほんとうは、たき火で焼くのですが、この星にある燃料は油やガスばかりなもので、こんな形になってしまいます」

『ほぉ、それじゃまるっきり、地球のバーベキューだ』

 ネフスワが言い、川村が翻訳機で答えた。

 二人は並んでベンチに腰掛け、ガスの炎と星空を眺めている。

「バーベックー? あなたがたも、たき火でもてなすのですか」

『ちょっと違うかな。空の下で仲間と楽しむものです』

「どのみち、楽しそう。さて、わたしも焼こうかな」

 ネフスワはそう言って立ち上がったが、一番近いコンロの前には、既にアクァーラと三宅が陣取っていた。

『おっと、こいつに刺して焼くのか。串っていうより、竿だなこれは』

 三宅が、モッペドンドを刺すための、長い棒を片手に喋っている。

「なにしてるの、三宅さん。生では食べれないわよ」

『へいへい、このモッペドンドとやらを刺して焼くんだろ』 

 二人はそう言いながら、カゴからモッペドンドを四切れとり、その竿のような串に刺して、熱々の鉄板に乗せた。じゅっと音を立て、焼けていく。

 そして良い具合に色づいたところで、アクァーラが「はい」と、ネフスワたちのもとに持ってきた。

 三宅も、小さな串に一切れ刺して、くちをもごもごさせながら歩いてきた。

『艦長も、お一つどうぞ』

 小さな串をもう一本出すと、三宅は大きな串の横から刺して、一切れ引き抜いた。さらにもう一つ引き抜き、ネフスワと三宅に渡す。

 川村はそれを受け取ると、手持ちの小さな瓶に入った茶色い液体をそれにかけ、かぶりついた。一口、二口と美味そうにそれをほお張る。

「美味い美味い、鳥肉というか椎茸というか、なんとも不思議な味ですな~」

「それは良かった! ところでいまの、何ですか? すごくいい香りですね」

 ネフスワは串を受け取ると、口に運ぶ前に聞いた。

『醤油です』

「ショーユ? どれどれ」

 川村が大事に持ってきた醤油は、止めるまでもなく取り上げられ、ネフスワのもモッペドンドにぶっかけられた。

 それはすぐに三宅とアクァーラにも手渡され、あっという間に半分になってしまった。

『艦長、ずるいですよ、一人だけ醤油なんて。めちゃめちゃあうじゃないですか』

「うわぁ、美味しい! すてきな味よ!」

 川村は苦笑いしながら「よかったね」と半分になった醤油瓶を眺めた。

「さ、また焼きましょう、三宅さん。ほら、いっしょに!」

『あいよ~』 

 そして、「小柄な」アクァーラは、「大男」三宅をちょっと見下ろすと、手を引いて鉄板のほうに歩いていった。

「なんか、あの二人いい感じね」

『おや、そう思いますか。まったく、別々の星で進化したとは思えぬほど、我々とそっくりですな。感情まで似てる』

「不思議ね。あのまま、子供でも出来たら面白いわ」

『そう巧くいきますかね、わははは』

 川村が笑い、ネフスワもつられて豪快に笑った。

 その目線の先では、三宅とアクァーラが手を取りあって、二本いっぺんに串焼きを作っていた。 

「あの二人、モッペドンドと醤油みたいだな……」

 川村は翻訳機を止めてつぶやき、身の無くなった串と、半分になった醤油瓶を眺めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ