七「ともにあい」後
3
再びボートを出し、ネフスワ達は青葉号のアクァーラとともにナフマンザ帰還の準備を始めた。
さしあたり、いきなり戻ると驚かれてしまうので、通信を入れてみることにした。
「ただいま」
『おかえ、ええーっ!』
ちょっと不鮮明ながら画面が表示されるなり、ひげ面の男性オペレーターが勢い良くのけぞった。
『け、計算ではようやく追い付いた頃のはずなので、驚きました』
オペレーターが目を白黒させて言った。
「計算なら合ってるわ。現地でお合いした、こちらの方に送ってもらったの」
大きなネフスワの影からミーアが現れ「はじめまして」と挨拶した。
『は、はじめまして。随分小さな方ですね』
「こらこら、失礼よ」
「いえいえ、気になさらずに」
『で、とにかく、普通に通信できるあたりまで戻って来たようですが、後どのくらいで着くのです?』
「もう目の前よ。驚かせてごめんね」
『目の前? わっ!』
オペレーターは再びのけぞった。
ネフスワ達を乗せたボートは、勢い良く「宇宙基地」ケッペサ号に近付いたかと思うと、目の前でぴたりと止まったのだ。
「移乗の用意をお願い。あと……」
『長老ですか? まだまだお元気ですよ。地上で待ちわびてます』
「ああよかった」
『お父さんに会うまでは、死ねないそうで』
「そう? じゃあもうしばらくは、元気でいてくれそうね」
『へ?』
「それより、移乗の用意はいかが?」
4
ネフスワ達はいったん基地に立ち寄ると、自前の地上連絡用ボートに乗り換え、ナフマンザの地上へと向かった。
四角い箱のようなボートは、惑星上にある唯一の村に向かって、重力プロペラを回しながらゆっくりと降りて行く。
「ねえ、ネフスワ。なんで、わざわざ乗り換えたの?」
窓から地上を見ながらアクァーラが聞いた。視界は既に丸さが分からないほど惑星でいっぱいだ。
「それはほら、いきなり見なれない船で降りたら、みんな驚くから」
「今降りて行くだけで、十分びっくりしますよ。ほら」
降りて行くに連れて、村の広場に話を聞き付けて沢山のヒトが集まって来ているのが見えて来た。
「そうだよねえ。あらら、ナフラナも出て来てるよ」
同行するミーアと三宅はいっしょに窓から見下ろしてみたが、広場も人々もさっぱり見えてこない。
それから小一時間ほどが経ち、とっぷりと大気圏のそこの方まで降りた頃、ようやくミーア達にも村の様子が見えて来た。
さらに数分後、ボートは着地手前で一旦空中で停止した。そして、集まって来たヒトが場所を開けると、静かに地上に降りた。ゆっくりと回っていた重力プロペラが、停止する。
ほどなく、ボートのゲートが開く。
同時に、広場に集まった人々の中に、大切なヒトの姿を見つけた。
ネフスワは架けられたタラップを全部飛び越えて、二メートル下の地面へ土煙とともに大きな足跡を深々と刻むと、老いた親友ナフラナのもとに駆け寄り、ひょいと抱きかかえた。
「会えてよかった! もう会えないかと思ったのに、わはははは!」
「ちょっと、苦しいわよ。うふふ、喜びすぎ!」
「ごめんごめん」
ネフスワは抱えていたナフラナをそっと降ろし、また「わはは」と豪快に笑った。ナフラナも、それを見上げて笑っている。
そこに、後からタラップを駆け降りたアクァーラが、満面の笑みを浮かべて「おばあちゃん!」と抱きついた。
「あらら、変わってないわね」
「冬眠してたもん」
アクァーラはナフラナを放し、にこやかに言った。
三宅はタラップを降りながらそれを見て「我々なら、号泣しているところです」と、肩をすくめた。
「それでも、あなた方地球系の人に近い反応ですわ」
ミーアはそれに続いて降りながら、地球系の日本語で言った。
「たしかに。手始めに一体化する流体生物や、盛大にどつきあいを始める岩みたいな生物もいますからね。ああ、互いに相手の一部を食べる軟体生物を送ったときは、危うく手を喰われるところでした」
「だから、私みたいな種族は、外交に重宝される」
ミーアはそう言うと、右手の形が崩れ、カニ鋏のように変化した。
「見られたら、たぶん怖がられますよ。連邦のヒト達は慣れてますが。
「そうね」とすぐに元の五本指に戻すミーア。
「でも、このヒトたち、見た目だけじゃなくて、言語も第二カテゴリーの第七標準ヒューマノイド的でとても分かり易いわ。どうしても、コミュニケーションし難い種族もいます」
「まぁ、そちらはそちらで専門家がおられますから」
「銀河は広いから……さて、ご挨拶よ。三宅さん、翻訳機を起動して下さい」
そう言われて三宅はスイッチを押しすと、ふとあることに気がついた。
――はて、ここでの正式な挨拶はどうするのだろう。
そう思っているうちに、ナフラナたちが三宅たちのところに歩いてきた。
ここは、突っ立っていても仕方ない。
三宅は、とりあえずいつものように「よろしくお願いします」と深くお辞儀をした。ミーアが合わせて頭を下げる。
そして、頭を上げるとネフスワが「それ、挨拶?」と頭二つほど上から聞いてきた。
ミーアが見上げて、「そうです、丁寧な」と答える。
すると、ナフラナが「私たちも」と、ネフスワと並んでぺこりとお辞儀をした。アクァーラも慌ててそれに倣う。
『どど、どうも』
と三宅が下げられた頭を見上げる。
こうしてみると、ネフスワよりずっと小さいが、ナフラナも三宅達よりはずっと大きく、軽く二メートルはある。体のバランスはしっかりしており、長身というよりは、全体的に大きいのだ。
「じゃあ、こっちの丁寧な挨拶をしませんとね」
頭を戻しながらナフラナは言った。
ネフスワが「そう言えば、まだだったわ」と腰に手を当て、首を傾けた。
そして、両手を前に出そうとして、はたと止まった。
「どちらさんとも、背丈が違いすぎるわ。しゃがむのも失礼だし」
「うふふ、そうね。じゃあ、私とアクァーラで。ネフスワは見届けをよろしく」
そう言われたネフスワは、一歩斜め前に出て、並んだ二人を左から見る位置に立った。
「それでは、出会いの儀式を。ええと、向かい合って、両手を伸ばして、それでお互いの肩に掌を乗せて下さい」
三宅とミーアは、言われたように正面に移動し、それぞれナフラナとアクァーラの両肩に手を乗せた。
そしてひと呼吸置き、ナフラナ達もその外側から肩に手を乗せてきた。
「じゃあ、お客さんから話すしきたりだから、ミーアさんから簡単に自己紹介をして下さい」
ネフスワが手順を説明をした。
「わかりました。私は、銀河連邦特使のミーアです。リューベハで生まれました」
ミーアはそう言うと、「これで良いのかしら」とネフスワの方を見た。
身長差がとても大きく、見上げ、見下ろす格好となっている。
「ええ、結構です。それじゃ、三宅さん。ん? 三宅さん」
三宅は互いに手を乗せたアクァーラと目を合わせて、ぼうっとしていた。ほんのり顔が赤い。
「いや、失礼しました。自分は、銀河連邦軍曹長、三宅であります。地球で産まれました!」
なぜか少し大声の三宅。
「おつかれさま。さて、次はアクァーラ」
「はい。わたし、アクァーラ。長老ナフラナの孫でイトァの子。以後、よろしく」
アクァーラが終わり、最後はナフラナの番だ。
「わたし、ナフラナ。ナグワの子。母はライルヒ。以後、よろしく」
そして、大きくうなずいたネフスワは、最後の言葉を加えた。
「よし、このネフスワが皆の出会いを認めた。……これで終わりです。手を下ろしていいですよ」
ゆっくり手を下ろす四人。
降ろし終わった所で、思い出したようにナフラナが言った。
「ネフスワ、自己紹介だけでもしたら?」
ナフラナに言われ、ネフスワは「そうね」と頷いた。
「わたし、ネフスワ。タルルカの子で、育ての親はナフ。母は小さい頃に橋を渡ってしまいました。以後、よろしく」
age2 第七話 完




