七「ともにあい」前
1
「なによ、どうするつもり? ネフスワさんの乗った船、消えちゃったじゃないの!」
青葉号の居住区では、『小柄な』アクァーラが『大男の』三宅を見下ろして、掴みかかろうとしていた。
津田が『まあまあ』と手持ちの翻訳機を介して言葉をかけながら、間に入る。
『あわてないで、すぐ追い付きますよ』
三宅は見上げながら、あたふたと答えた。
「ほんとに~?」
ずい、と顔を近付けるアクァーラ。
『は、はい、すぐです』
思わず三宅は散歩ばかりあとじさった。現場では引きさがったことなど無いのに。
と、そのとき、青葉号全体がグオオと鈍く震えた。
『さ、間もなくです。外を御覧になってください』
三宅が窓をさして言った。
「宇宙魚? 中から見ると、こんなだったんだ」
ネフスワが窓に目を向けると、いつの間にか青葉号は魚のような形に光るフィールドに包まれていた。
そして、もっとよく見ようと窓に近寄ったところで、「宇宙魚」は消えてしまった。が、かわりによく見なれたモノが目の前に広がっていた。
「なんだったのかしら。あれ!? うねうね!」
久々にケッペマンザを見たアクァーラは、少し遅れてネフスワと同じ言葉を口にしていた。
「あ、雪型の船、見つけた」
アクァーラは少しキョロキョロした後、右上の方を見上げた。
『え、どこだ?』
三宅は窓に張り付いて探してみたが、星しか見えない。
「あれよ、あれ。三つ並んだ星の、左下!」
アクァーラは三宅の頭をぐいと掴んで、向きをかえさせた。
『いてて……ああ、三つ並んだ星は分かる』
「どんどん近付いてくるよ、ほら、あれだってば」
『んあ? ああ、見えて来た』
だんだんと、三宅にも白い点が見えて来た。
『よく見えるな』
「今まで分からなかったの? 目がおかしいかもしれないから、診察してあげるわ。ちょっとこっち向いて!」
『わっ、いててて』
三宅は再び頭を掴まれ、回された。腕力としては十分抵抗できる範囲内なのでが、どうにも逆らえない。
「た、大変」
『どうかしたのか?』
「貴方たちの目、わたしたちとそっくり。ちょっと小さいけど」
『あはは……』
「だったら、なんでさっきの見えなかったのかしら。あっ!」
『今度は何だ』
「あっちの窓で、ネフスワさんが手を振ってるよ。お~い」
窓に向かって手を振り返すアクァーラ。
しかし、三宅の目にはさっぱり相手は見えなかった。
2
「おーい、アクァーラ。おーい」
ネフスワは雪の結晶型の船『ニュフラ号』の船室にある窓から、しきりに手を振っていた。
そこに「失礼します」とミーアが現れた。相変わらず翻訳機なしで。ネフスワ達の言葉を話している。そして、無表情。
「手を振っても、相手には分からないと思いますが。さて、間もなく目的地です」
「へえ、本当にあっという間でしたね」
「ええ。この船にとってはたいした距離じゃありませんから」
「はぁ、わたしの船にはえらい距離ですよ。ところでですね」
「はい?」
「わたしの姿は、ちゃんと相手に見えてますよ。ホラ、向こうも振ってる」
それを聞いて窓を見たミーアは、無表情のまま首を少し傾けた。
そして、地球の単位で言う十分ほどをかけ青葉号と合流すると、二隻は(彼等のペースとしては)ゆっくりと内惑星系に向かって移動をはじめた。
「すごい速さで岩や氷が通り過ぎて行くわ。あ、でもさっきの速さと比べたら、止まってるみたいなものね」
ネフスワは窓の外をみながら、目を白黒させた。
「でも、なんでさっきみたいに宇宙魚になって『さっ』といかないのかしら?」
聞かれたミーアは、少し考えて「規則がありますので」とだけ答えた。
「規則ねえ……。そのへん、どこでもたいへんね。とりあえず、この辺は岩が多いから前をよく見て操縦してもらってください」
「この船なら、大丈夫です」
「うーん、信じるしか無いようですね。あなた方、わたしたちのことをあまり聞かないかわりに、自分達のことも全然話さないから、どうにもね」
「それも規則なんです」
しばしぽかんとした後、「あはは」と苦笑いするネフスワ。どうしたものかと少し困った。
「すみません、代表者の方と会って話をするうちに、疑問は解けると思います」
「そう願うわ」
そのとき、どこにあるか分からないスピーカーから、ボートの用意が出来たので下船の用意をするように連絡が入った。
「間もなく着きます。ネフスワさんも、降りる準備を」




