六「使者」後
4
双方の感覚で「翌日」、雪の結晶のような姿をした宇宙船が一隻、「ナフ三号」の近くに現れた。やや角張っているが、アダムスキー型といえなくもない。
それは、ナフ三号やもっと大きなサク号ほどではないが、結構な大きさのようだ。
青葉号とはまったく似ても似つかぬ姿だが、唯一の共通点として「帆」のようなものが張ってあった。
ネフスワと青葉号艦長の川村は、ナフ三号のブリッジでそれに乗っている「連邦の代表」を待った。
「なんで空気も無いのに、帆を張ってるのかしら」
代表の乗った船を見たネフスワが言った。
『あれは、パ……ちょっと言えないのですが、まぁ、光速超えるための道具みたいな物です』
三宅が、いろいろな決まり事にもどかしさを感じながら答えた。
『それに、あなたの船にも、空気が無いのにプロペラついてるじゃないですか』
「あはは、その通りね。でも、あれは空気じゃなくて……あと、内緒』
『あ~、はいはい』
そんなことを二人が話していると、アクァーラの案内で代表がブリッジに現れた。
扉をくぐって現れたのは、一見ネフスワ達を少し小さくしたような、「ヒト」の女性の姿をしていた。しかしネフスワは、よく分からないがその動きや姿の細かいところで妙な違和感を感じた。
「はじめまして、銀河連邦代表のミーアです」
ミーアと名乗った者の声は、川村達と違い、翻訳装置を使わずに自分の口からその言葉を発して来た。
「はじめまして、この船『ナフ三号』の船長、ネフスワです」
「すばらしい、大きな船ですね」
ミーアは本気なのか社交辞令なのか分からない口調で言った。
「ありがとうございます。我々は、その、銀河なんとかに参加で知るのでしょうか?」
「銀河連邦は、これほどの文明をお持ちの方々の参加を拒む理由を持ちません。もしも、あなた方もしくは、代表の方の同意が得られればすぐにでも」
ミーアはネフスワの問いに、当然のように答えた。
「ではすぐにナフザイルの長老と本星ホンザイルの所に、と言いたいのですが、どう頑張っても何千日もかかる遠いところまでお付き合い願わねばなりません」
「船長、ご心配にはおよびません。我々の船なら、すぐですよ」
ミーアはこともなげに言った。
「すぐって……」
ネフスワは、光速でも年百日もかかると言うのに、と疑問に思った。
「ええ、すぐです。問題が無ければ、さあ、参りましょう」
またもごく当たり前のように答えるミーア。
だが、あまりに途方も無いことに、ネフスワはどうしていいか分からなかった。
「ご心配なさらずに。案内役を一人か二人、付けて下さいませ。席ならいつでもご用意いたします」
「行き先は、お分かりになるのですか」
「はい。ここからまっすぐ戻ったところにある、一番近い星ですよね?」
5
結局、案内は長老ナフラナと縁りのある、ネフスワとアクァーラが同行することになった。ついて行くことにはなった。
同行はしたものの、ネフスワ達は、あまりにも淡々として手早く対応するミーアの向こうに「連邦」という存在をとらえられずにいた。
その「連邦」は、留守の間のことを考え、三隻ほどの護衛艦を呼び寄せてきている。二人がミーアの移動用ボートに移ろうとした時、それらはもう辿り着いた。
あまりに手早く、どこからそれらが現れるのか見当もつかない。
「このあたりって、随分沢山船が往来してるのですね。何もなさそうなのに」
と、ネフスワ。呼ぶと言ってほとんど時間を置かずに護衛官が現れたので、そう思った。
ミーアはその言葉を違った意味に解釈して「そうですね」と答えた。
ボートはゆっくりと移動し、結晶型の船と青葉号へと順に接舷した。万が一の時のため、二人を別々に運ぶためだ。
――生きてるうちに、ナフラナに会えるかもしれない。
二人は共通の思いを持ち、別々の船に乗り込んだ。
ミーアの船も、川村艦長が呼んでからほんの一日で来た。近くに居たのかもしれないが、もしかするとこの船ならほんの何十日かで、遠いナフマンザまで運んでくれるかもしれない。
そんな期待をもちながら、それぞれの船が動き出すのを待つ。
ネフスワが用意された(彼女にとっても十分な大きさをもつ)船室の窓から外を見ると、ある意味ゆっくり、ある意味でもの凄い速さでナフ三号が遠ざかっていた。間もなく、その視界には少し離れたサク号も入って来た。
「ナフラナ、とりあえずタルルカさんは一緒じゃないけど、手がかりは掴めたわ。今度は一緒に帰れると思う。だから、もう少し元気で居てね」
窓に向かって、祈るようにネフスワが言った。
そして、遠ざかるナフ三号が殆ど見えなくなった頃、部屋の片隅にあったスクリーンが明るくなり、ミーアの姿が映った。
『まもなく、本格的に移動をはじめます』
スクリーンの中のミーアが言った。
「大変だわ、どこか捕まるところは無いかしら」
『このニュフラ号の、大事なお客さんに、そんな心配はおかけしませんわ』
「この部屋は、慣性緩和装置付き?」
『そんなところです。そんなに固くなられなくとも、すぐ着きますわ』
「はぁ」
『それでは、短時間ですがごゆるりと』
ミーアがそう言ったところで、スクリーンは消えた。
しばらくして、軽い地響きのような振動が起きたかと思うと、船は魚のような形の、半透明な衣に包まれた。
「宇宙魚? やっぱり、宇宙魚が船を運んでいたんだ」
ネフスワは窓に張り付いて言った。
その直後、窓の外の景色が奇妙に歪み、星空が見えなくなってしまった。
「あれ、あれ。目がおかしいのかな……でも、船内はちゃんと見えるし」
目をふたこすりして、ぱしぱしと頬を叩くネフスワ。
そしてもう一度外を見てみると、星空が戻っていた。
「なんだったのかしら。あれ!? うねうね!」
ネフスワはもう一度目を疑った。
ケッペマンザのうねうねが、すぐ目の前に広がっていたのだ。
だ。
age2 第六話 完




