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伍「未知種」前

「ねえ、小さなみなさん。貴方たちは、何者?」

      1


 巨人が、なにかもごもごと言った。

 同時に、三宅の手持ちの端末がエラーを表示した。

「おい、翻訳ソフトは、どうした。ハロー、イッヒ・リーベ・ディッヒ、シェイシェイ」

『オイ、ホンヤクソフトハ、ドウシタ。コンニチハ、アイシテル、アリガトウ』

「くそっ、壊れてねえ。こいつは未知言語だ!」

 三宅曹長は、携帯型の翻訳機を小突きながら毒ついた。

 今、目の前で立ち尽くしている者は、一目には優しい目をした壮年の女性だ。

 しかし、身長百九十センチ近い彼が、背伸びして両手を頭の上にのばしても顔に届かないほどの大きな体躯をしている。

「こちら突入隊。そっちも映像が見えると思う。一発あのハンマーを喰らったら、周りの汎銀河の連中と同じ運命だ。翻訳機をなんとかしてくれ」

 三宅はカメラを片手に、外にいる青葉号と通新機の回線をつないだ。

 周囲には、激しく損傷した汎銀河戦線の兵士たちの死体が多数転がっており、目の前の巨人の片手には血塗られたハンマーが握られていた。

『こちら青葉号、シリンダー船の巨人だな。ちょっとまってろ、こっちも取込み中でな』

 一呼吸の後、青葉号のオペレーターから返事があった。

 その音声の背後からは、警報や振動のような音が聞こえてくる。

 このやり取りが気になるのか、様子を見ているのか、巨人はハンマーを杖のようにして仁王立ちになったまま、三宅たちの方をじっと見ている。

 そのまま、二分ほどが経った。

「おい、どうした。早くしてくれよ、たのむよ~」

 三宅の口から思わぬ弱音が。

『よし、今そっちにアップロードする。不完全なソースだが、なんとかなると思う』

 直後、三宅の携帯端末に小さな時計が現れた。

「あーあー。こんにちは、こんにちは」



      2

  

『アー、アー。コンヌツワ、コヌーツワ』

「あれ、今『こんにちは』って言ったような」

 ネフスワは思わずつぶやいた。

 小さな青い侵入者が持った機械が、言葉のような音を発した気がしたのだ。

『……』 

 やや遅れて、今度はその機械がカラカラと別の音を発した。

 それと同時に、侵入者たちの表情が変わった。

『ハジメマステ、大キナの。私ラ、トモダチ、ナリタイノノ』

「は、はじめまして……、青い小人さんたち。友達?」

『……?』

 再び、機械が声を発した。

 今度は反応が早くなり、実際に喋るのと機械が声を出すのがほぼ同時だ。

 そして、それを聞いた小人たちが、上下に首を振っている。肯定的な意味のようだ。

「そう……友達になりたかったんだ。恐かったから、君らの仲間、沢山殺しちゃった。ごめんね」

 ネフスワはそう言ってゆっくりとその場に座り込み、相手と目線をあわせた。

『貴方、ワルクない。アイツラ、危ナイ奴ラ。恐いノ、当たり前だカララ、身を守るのモ当りまえ』

 機械から出てくる声は、今度は言葉として少しまともになった。

「そ、そうなんだ」

 ネフスワは少し驚いて言った。

『それに、アイツラ、仲間ちがーう。安心してくれろろろ』

 また機械が言葉を発した。少しおかしかったが、だいぶ分かり易くなった。

「なかまじゃないの? 貴方たちも、同じ星の中で仲の悪い人いるんだ」

『はぁ、どこの星でぃもそうなんさ』

 話しているうちに、三宅たちはいつの間にかネフスワの、ゆったりとした雰囲気に引き込まれていた。

「しかし、何でさっきのは、襲って来たのかしら」

 その時、奥の区画へ通じる階段の方から、いくつかの足音が聞こえて来た。

「あ、まだ来ちゃだめ。って遅いか」

「船長、静かになったけど、もう、だいじょうぶなの?」

 振り向くと、アクァーラたちがバリケードをかき分けながら上がって来た所だった。

 ちょうどその時、三宅の通信機のランプが光った。

「はい、こちら突入隊、三宅」



      3

「こちら青葉号の川村だ。三宅曹長、状況はどうだ」

『何とかなりそうです。どうかされました?』

「いや、たいしたことない。収容までもうしばらく待ってほしい」

『了解。こちらも、今すぐと言われても困りますので』

「では、頼んだ」

 川村がそう言って回線を切った直後、青葉号の舷側に敵弾が直撃し、乗員たちを軽く揺さぶった。仲間を救うためか、ただ必死なのか、汎銀河戦線の革命号からはしつこく砲撃がくわえられていた。

 シールドの残量を見るが、しかし殆ど減っていない。革命号の武装は、その程度だった。まさしく、たいしたことはない。

「さて、三宅たちは制圧に成功したようなので、こちらも動くとしよう。いつまでも楯になっていては、埒があかん」

 と言いながら、川村はいくつかのスイッチに手を伸ばした。

「エンジン推力ニパーセント、青葉号発進」

 と、川村。航法オペレータが復誦する。

 大きな葉巻に大砲や艦橋等の構造物をつけたような姿をした『青葉号』は、ゆっくりと動き出した。

 今までは三宅たちを守るために、革命号と巨大船と間に立ちふさがっていた。しその間に、シールド発生機を設置したのでようやく動けるようになった所だ。

 三宅は、ゆっくり回頭させると、前方に固定された主砲を真っ黒な革命号に向けた。

 青葉号のスクリーンに映るその姿は、上下にひしゃげた、頭でっかちの涙滴型だ。巨大なシリンダー船と比べれば小さいが、なかなかの大きさである。

「こちら、太陽系所属巡洋艦『青葉号』。そこの海賊船は、停戦せよ」

 川村は照準を合わせつつ音声電文を送った。

『こちら汎銀河戦線<革命号>。海賊ではない。よって停戦しない』

 すぐに音声での返信があった。まったくのなしのつぶて。

「わるかったな。訂正、革命号、停戦せよ。さもなくば、撃沈する」

『当ててみな』

 革命号は唐突に物理法則を無視したような動きをし、射線を外した。

 そして、再び通信回線を開くと、音声を送って来た。

『我々は、貴艦との交戦の意志はない。見ての通り、お互いに決定打にかけている。なお、我々の<漂流船>に対する調査はこれで概ね完了した。もうここで会うことは無いだろう。ではまた、近いうちに。さらば』

「おい、まてよ……」

 川村は話しかけようとしたが、回線は一方的に切られた。

 同時に、革命号は「イルカナナ」と呼ばれる、水色の流線型をした魚のようなフィールドに包まれた。

 そして、ふとかき消されるように姿が見えなくなったかと思うと、軽い衝撃波を残して何処かへ去った。

「おいおい、兵隊を見捨てちまったよ」

「艦長、追いますか?」

 それを見た航法オペレータが訊いた。

「いや、無駄だろう。青葉号のは連邦からの払い下げの『ヘボ』パールだ。どうあがいても、追いつけないさ」

「はぁ。どのみち、連邦の規定により途中でリミッタがかかりますが」

「まあいい、三宅曹長たちを迎えに行くとしよう。しかし、近いうちに、ってなんのことだ?」

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